百六十二話
シュバルツが寝ている間にシュタイナーは積極的に動いていた。
過去の記憶を頼りに術者の痕跡を洗い直す。
すると、封鎖されていたはずの場所にミイラのようになった人の遺体が発見された。
教会の関係者も呼びだされて、詳細な調査をする。
結論としては魔術的な儀式が行われていた可能性だ。
どういった儀式かはわからないが、人をこのような姿にするとはろくなことではないだろう。
教会の関係者は優秀で、魔力の流れを辿りはじめた。
迷宮都市アリスの地図を用意し、儀式が行われたと思われる地点に印をつけていく。
「ふむ。五芒星か・・・。魔術的に考えればよくあるパターンだが・・・」
「公爵様。恐らく、本命は中心部。つまり城かと思われます」
「急ぎ戻るぞ」
シュタイナー達は急いで城へと戻った。
が、調査は暗礁に乗り上げた。
どれだけ調べても何の痕跡もでてこなかったのである。
「シュバルツ。具合はどうだ?」
「父様・・・。ご心配をおかけしました」
そう言ってシュバルツは健在ぶりをアピールする。
「調査の方はどうですか?」
「これを見てくれ」
シュタイナーは迷宮都市アリスの地図を取り出して見せてくれる。
「ふむ・・・。本命はこの城ですかね?」
「私達もそう思って、調べてみたがさっぱりだ」
「少し待ってくださいね」
シュバルツは念話でクロに話しかける。
『ちょっと、知恵を借りたいんだけどいいかな?』
『にゃんにゃ?』
『ある物をないように見せる方法とかないかな?』
『あるにはあるにゃ。限定的にゃ、異空間とかにゃ』
『なるほど・・・。参考になったよ』
「お待たせしました」
「何かわかったのか?」
「少し試してみたいことがあります」
「ふむ。頼む」
シュバルツは精霊の目で城全体を見る。
すると違和感のある場所を発見した。
それは城の地下である。
「ここになりかありますね」
「私にはさっぱりだ」
シュバルツは全力で魔力をその異空間に流し込む。
すると空間が裂け、黒い瘴気が溢れてくる。
「ぬ・・・。これは・・・」
シュバルツは落ち着いて聖属性の魔力をぶつけていく。
それでも瘴気は次か次へと溢れてくる。
「父様。ここは押さえますから教会関係者を」
正直、シュバルツ1人ではいつまで持つかわからない。
応援が必要だ。
「わかった。だが、無茶だけはしないでくれよ」
シュタイナーはそう言ってかけていった。
シュバルツは集中する。
気を抜けばこの城がこの正体不明の瘴気に飲みこまれる。
そんな確信があった。