百四十七話
クランメンバーの生活は何とかなったが、あらたな問題が勃発した。
元々、迷宮都市アリスで活動してた低ランク冒険者達だ。
彼等も、生活はぎりぎりだ。
新しく来た、新人たちが稼げているのを見て衝突するのに時間はかからなかった。
そんなわけで、シュバルツは組合長のマーセルに再び呼び出されていた。
「すまんな・・・」
「いえ、僕も軽率でした」
問題はマジックポーチだった。
運搬量というのは冒険者の稼ぎに直結する。
マジックポーチをぽんぽん与えるわけにもいかない。
だが、放置すればまた、揉め事になるだろう。
「う~ん・・・。代金は僕が出すので、手押し車の貸し出しとかしませんか?」
「なるほど・・・。手押し車か。それならたいして額になるわけでもない」
収入が増えるとしてもカツカツの生活をしている彼等には自前で揃える余裕などない。
そして、保管場所の問題もある。
幸い、冒険者組合はそこそこの広さがあるので数台、置くぐらいならなんとかなるだろう。
「だが、借りられなかった奴が、文句を言ってこないか?」
「そこは予約制とかにするしかないんじゃないですか?」
「まぁ・・・。手間ではあるがそうするか」
シュバルツ発案による手押し車の貸し出しがスタートした。
あっという間に人気となり、予約が殺到した。
問題を起こせば貸し出さないとあって、今のところは不満は出ていない。
元々、迷宮都市アリスに家がある者の中には自分で手押し車を購入して運用をはじめる者も出始めた。
運搬量が上がったことにより、冒険者ランクを上げることに成功した者が森に行くパターンも増えてきた。
実力不足で、怪我人が続出したりもしたが、自己責任だ。
とはいえ、放置すれば冒険者組合の売り上げも下がる。
そこで、再びシュバルツは組合長のマーセルから相談を受けた。
「初心者講習会のようなものを開きましょう」
知識として知っているのと知らないのとでは対応力に違いが出てくる。
シュバルツは講習会で特に、防具の重要性を説明した。
露出部位が少なければ不意打ちされても被害が小さくなる。
武器なんかは最悪、棍棒なんかでもなんとかなるのだ。
保険として回復薬も勧めておいた。
手痛い出費とはなるが命あっての物種だ。
生きていれば再起もできる。
出来ることはしたので後は、各自で経験を積んでいくしかない。
シュバルツの尽力もあり、迷宮都市アリスの冒険者の質は少しずつ上がっていった。