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三十四 シンラとミカゲ

 「久しぶりの再会なのにいきなり殺しあうんですか?」

 美影はシンラが剣を顕現させたことに不服を申し立てる。美影も自分の武器であるゴッドサイズを顕現させればいいのだがそうしない。美影にとってシンラと戦う理由がないのだ。

 「ええ。私の計画にあなたは邪魔なの。分かるかしら。」

 「それはそうですね。けど、少し話しませんか?これは私のためではなく、あなたのために言っている要るんですよ。今のあなたが私に勝てますか?」

 「・・・いいでしょう。私もあなたに聞きたいことがいくつかありますので。」

 シンラは武器をしまい、美影に戦いの意思が無くなったことをアピールする。

 「賢明な判断ですね。いいですよ、質問してもらって。私はあなたと違って何でも答えちゃいます。」

 美影は小悪魔的な笑みを浮かべる。

 「まずあなたは何故この学校にいるのかしら?調べたところ、あなたは転入ではなく、入学試験を首席で合格しているわね。つまり、ライトのように事情があってこの学校に転入にしたのではなく、初めからこの学校に入学するつもりだった。何か理由があるのよね。」

 「もちろん。この学校に来た理由は涼平さんがこの学校に入学すると知ったからですよ。」

 「どうやってあなたは涼平さんがこの学校を受験することを知ったのでしょうか?盗み聞きでもしましたか?」

 「そんな無粋な真似しなくても心を読めばすぐ分かりますよ。」

 「心を読むってまさか!!」

 心を読む。それは人間にとっては超能力の一種であるが、神様にとってはそうではない。自分の力で生み出した神いわば子どもに対しては、心の内を読むことが可能なのだ。つまり、涼平は美影の子どもだと美影は言っているのだ。

 「シンラの思っている通りですよ。そもそも変だとは思わなかったのですか?涼平さんの出自。没落貴族の家系からあそこまで強くなる理由は?」

悪魔の強さにはその悪魔がどれだけ魔力を持っているかが大きく影響する。魔力が多ければ多いほど強い悪魔になると言っても過言ではない。そして、その魔力は親からの遺伝によって決まる。魔力量が多い親からは、魔力量の多い子どもか、魔力量の少ない子どもの二パターンの子どもが生まれる。それに対して魔力量の少ない親からは魔力量の少ない子どもしか生まれない。涼平の親は後者だが、涼平自身は魔力量が多い。悪魔の遺伝子学的にはあり得ない現象なのだ。

 「それは突然変異といいますか、隔世遺伝といいますか、特に不信に思ったことはなかったわ。出自はともかく、ゼルアも涼平さんと同程度の強さだったから可能性はあると思っただけよ。」

 シンラは涼平の出自については何の疑問も感じなかった。シンラは神の視点から長い歴史を見てきたので、前例がない事案をいくつもみてきた。シンラは涼平が初めての事例だったに過ぎないと考えていた。それに、涼平の強さは悪魔の枠組みを超えていない。ゼルアが涼平と同程度の実力を持っているので、シンラの中で涼平の強さは悪魔の最上級にとどまっており、強さに疑問を感じたことはなかった。

 「じゃあ、魔剣ラグナロクを扱える理由は?」

 「?それが今の話と何か関係があるのかしら?」

 魔剣ラグナロクの質問。シンラが初めて美影の質問の意味が分からなかった。魔剣ラグナロクを涼平が持てる理由。それが涼平の心を読めることと何か関係があるのだろうか?

 「あらその顔。本気で今が分かっていないようね。魔剣ラグナロク、正式名は邪神剣ラグナロク。あの剣は私のマスターの愛剣なのは知ってますよね。」

 「もちろん覚えているわ。」 

 シンラはあの時の邪神の戦いは今でも鮮明に思い出せるほど、脳裏に刻まれている。美影の主である邪神がラグナロクを使ってシンラの仲間を大勢殺したことを。

 「神剣っていうのはね、神の力を持った者にしか扱えないのよ。」

 「そっそうなの!!」

 シンラは驚く。確かにシンラがの記憶の中であの剣に触れたことがあるのは、自分・守護者になった後のゼルア・涼平・ライト・フレアの五人。涼平が美影の子どもなら全員神の力を持っていることになる。シンラも魔剣ラグナロクはアーサー王の聖剣のように選ばれた者にしか触れないと思っていた。ゼルアが触れることから、悪魔でも触れると勝手に誤認していたわけだ。

 「そうですよ。涼平さんは私の邪神の力の一部を持った悪魔。一から邪神を作っちゃうと私が生きていることがバレかねないし、シンラがライトさんの恋人相手として涼平さんを選ばないでしょ。だから、私の力を少し混ぜた悪魔の子どもを作るために、涼平さんのお母さんの身体を借りたわけ。そうすれば邪神の力を持った悪魔が完成する。あなたも知っていると思うけど、神力は魔力とは比べ物にならない力を秘めている。それが少量でも魔界で一番になれるくらいの強さにはなりますよね。」

 「・・・。」

 シンラは絶句する。涼平が美影の子どもなら、美影は涼平の心の中を読むなんて朝飯前だ。つまり、こちらの作戦は涼平を通して邪神サイドに筒抜け状態だったわけだ。それ以前に、美影が涼平をライトの恋人相手に仕立てようとしていた時点で作戦はバレバレだったわけだが。

 (うかつだったわ。)

 シンラは自分のしたミスを悔やむ。美影は生きていないと判断していたから、邪神は封印している美影のマスターのみ。封印状態だと何も聞こえないし何も見えない。だから、計画を秘密裏に行う必要がなかった。大々的にやったとしても誰も分からないのだから。そこを美影に突かれたわけだ。

 「それでまんまと私の思惑通りあなたは涼平さんをライトさんの恋人相手に選んだ。まさか人間界で恋愛させるとは思わなかったけど。後は、ライトさんが涼平さんと出会うのを待てばいいだけ。」

 「・・・あなたはどうしてライトを殺さなかったの?あの時のライトなら一瞬で勝負がつくでしょう。」

 シンラの計画を知っているなら、ライトが計画の鍵であることなんて一目瞭然だ。美影の実力なら恋をする前のライトは簡単に殺せる。シンラの計画を阻止する一番手っ取り早い方法だったはずだ。

 「それだと面白くないじゃないですか。弱いものいじめは好きじゃないんです。だから、別の方法で計画を潰したかった。涼平さんには恋人になれるようアプローチをしましたし、ライトさんには良い親友となれるように振舞いました。結果はまずまずといったところでしょうか。」

 ライトよりも先に美影が涼平と恋人関係になれば計画は潰せる。涼平の心の中を読める美影にとって恋人になることは造作もないことだと思ったが、実際は上手くいかなかった。色々アプローチをしたり、涼平が好きなシチュエーションを用意してみたが、涼平が自分のことを好きにならなかった。一方、ライトの親友になるという作戦は概ね成功したと思われる。なぜ、ライトの親友になることが作戦の一つかと言うと答えは神力にある。神力は想いの強さによって変動する。その想いというのは心が発生源だ。親友が敵だったとなればライトに与える精神的ダメージは大きいだろう。そうなれば、ライトの力を少しでも弱めることに繋がる。

 「そう。あなたにとって私の計画はどうでもよかったのかしら?」

 シンラは美影にいいようにされていることに腹が立つ。自分が念入りに立てた計画がコケにされているのだから。

 「そうですね。私の目的はマスターの封印が解けること。時間さえ経てば達成されることですから、あなたの計画を潰すのはただの暇つぶしなだけです。」

 「もうあなたと話すことはないわ。」

 シンラは再び神剣を顕現させる。美影が何をしてきたにしろここで殺せば問題ない。

 「もういいんですか。・・・仕方ありませんね。」

 美影の自分の武器ゴッドサイズを顕現させる。余り乗り気はしないが、殺意を持っているシンラを止めるには応戦するしかない。

 シンラと美影の戦いが始まる。シンラは美影に絶え間なく攻撃を仕掛けるが、美影はそれをことごとく防ぐ。美影は反撃はあえてせず、シンラの動きをうかがっている。

 「どうしたんですかシンラ。その程度の攻撃では私は殺せませんよ。」

 美影はシンラを挑発する。

 「そっちこそ反撃してこないけど、攻撃を防ぐので精一杯じゃないのかしら。」

 シンラも負けじと言い返すが、これはシンラのハッタリだ。今のシンラでは防御に徹した美影を突破することは厳しい。だから、美影の攻撃を誘って防御から攻撃に転換する一瞬を狙おうという考えだ。

 「別に私にあなたを殺す気はありませんから。けど、シンラは私に攻撃して欲しいそうな顔してますね。ふふふっ。シンラを痛めつけるのも面白いかも。お望み通り攻撃してあげます。」

 美影は先ほどと打って変わって攻撃重視になる。美影の攻撃の一発一発が重い。シンラは受け止めるのが精一杯で、美影の隙を狙って攻撃なんてできない。

 「お望み通り攻撃してますよ。このまま防御だけでいいんですか。」

 美影は再び挑発する。美影はシンラが攻撃に移れないことは知っている。そもそも、美影はシンラが自分よりも弱いことは分かっていた。だから、美影はシンラに戦わない方向に促したのだ。

 「もう終わりにしよっか。」

 美影の攻撃速度がさらに上がる。もうシンラに防ぐ手立てはなかった。

 「ぐはっ。」

 シンラは美影の激しい攻撃によって屋上にある柵に打ち付けられる。

 「話になりませんね。」

 美影は柵のすぐ傍で倒れているシンラを見る。美影もシンラがここまで弱いとは正直思っていなかった。かつての強敵がここまで落ちぶれたことを残念に思う。

 「じゃあ、痛めつけますか。」

 美影は倒れているシンラが今後反攻できなようにしておく。両腕・両足の骨を自分の武器を用いて折る。シンラは四肢が折られる度に悲鳴を上げていたが、美影は一切気に留めることなく続けた。

 「これでもう抵抗できませんね。」

 美影はシンラの四肢を全て折り終えた。これでシンラは身動きがとれなくなる。

 「流石に可哀想ですね。それに痛みを感じているままでは。会話もままならないでしょう。」

 美影はシンラに痛み止めの神法をかける。神様は丈夫なので四肢全て骨折した程度ではショック死なんてしない。ただ、痛みは人並みに感じてしまうので、神様の丈夫な身体と相性が悪い。

 「これで大丈夫ですよね。話の続きをしましょうか。今度はこっちが質問の番です。全部話してもらいますからね。」

 美影はシンラの足をぐりぐりと踏みつける。正直に話さないともっと酷い目にあわすという脅迫的意味も込めて。

 「・・・。」

 シンラは返事をしない。四肢骨折の痛みで喋れないのではなく、美影に対して抵抗しているのだ。

 「その程度の強さでよく私を倒せると思いましたね。ライトさんはともかく、マイさんを連れてきた方が勝率は上がったでしょうに。彼女の親友を目の前で殺したのは私ですから、私に対して怒りという強い感情を持っているでしょうに。」

 神様が強くなるには想いの強さが大切だという話は何度もしてきた。その中でも怒りや悲しみといった負の感情は、喜びや楽しさといった正の感情よりも強い想いを抱きやすい。過去の辛い想いと言うのは、トラウマになったり、ちょっとしたことでフラッシュバックするように、心の奥底に根強く植え付けられている。

 「だからよ。マイがあなたと戦えば自分を見失いかねない。それは避けたいし、仮にあなたとマイが戦うことがあってもそれは今じゃないわ。」

 マイが美影を恨んでいることはシンラも知っている。確かにマイなら美影に勝てる可能性もなくはない。けど、ここでマイに戦わせるには色々とリスクが大きすぎる。確実に勝てる勝負でもないのにマイを戦わせてマイが死んでしまったら、ライトは二人の邪神を相手しなければならない。美影のマスターは美影よりも強く、ライトが苦戦を強いらるのは間違いない。かと言ってここでライトを連れてくるわけもいかない。自分の親友は殺さなければならない敵だった。そんなことをいくら自分が言ったとしても、ライトが信じて戦ってくれるかと言われれば怪しい。ライトに戦わなければならない状態を無理矢理作らない限りは。それくらいライトの中で美影と言う存在が大きいのだ。だから、消去法でシンラが戦うという選択しかないのだ。

 「ふーん。でも、あなたが死んでも状況は良くないですよね。あなたが死んだら私のマスターはどうなるんですか?まさか一緒に死ぬわけじゃありませんよね?」

 「さあ?どうかしら?」

 シンラは美影のマスターを封印という手段を用いて動きを止めている。ではどこに封印したのかというとシンラ自身の身体の中だ。強大な力を持った美影のマスターを封印するには、当然強大な力が必要だ。生半可な封印では自力で解かれてしまう可能性がある。アニメや漫画のように封印する媒介をお札に壺とか剣とかではダメなのだ。封印する媒介に容量以上の負荷をかけてしまうと媒介が壊れてしまう。例えば、剣を媒介にして封印しようとしたとすると、強い封印を施すために強い力を加えると剣が強い力に耐えられずに壊れてしまうわけだ。だから、強力な力を持つ自分の中に封印しようと考えたのだ。それに自分の身体の中に封印すれば、封印を解こうと暴れても自分の力で押さえつけることができる。

 「正直に答えてください。」

 美影は倒れているシンラの腹を蹴る。

 「ぐはっ。・・・どんな拷問を受けても答えないわよ。」

 美影に痛み止めの神法を解かれてシンラに激痛が走る。でも、この質問には答えるわけにはいかない。美影がシンラを殺せない理由がここにあるからだ。

 「本当に殺しますよ。殺しても問題ないことは分かっているのですから。」

 美影は何度も何度もシンラを踏みつける。シンラにはその度に激痛が走るが答えるわけにはいかない。

 「もしあなたが死んでマスターも死ぬなら、自殺してしまえばいいだけですからね。」

 美影はシンラを痛めつけることを止めない。美影の言う通り、シンラが自殺を選択することでシンラの身体の中で封印されている美影のマスターも死ぬならシンラが自殺をすることが最適解だ。わざわざ、何千年もかけて殺す計画を立てる必要はない。

 「ほら、早く言わないと部位切断しちゃいますよ。」

 美影は持っているゴッドサイズをでシンラの左腕に浅い切り傷をつける。部位切断程度では神様は死なないし、一番苦痛を与えることができる。

 「言わないわよ。そんなに私を殺したいなら殺してみなさい。」

 シンラはここで強気に出る。シンラには美影がここで自分を殺せないことが分かっていた。美影の仮説は正しい。シンラ自身が死んでも封印している美影のマスターは死なない。それどころか、封印の媒介である自分が死ねば封印が即刻解けてしまう。

 しかし、美影はシンラを殺せない。仮説は仮説に過ぎないからだ。それがたとえ正解でも確証が得れていない状態では美影は踏み切れない。美影がシンラを殺してしまうことで自分のマスターが死ぬことは絶対にあってはならない。美影は戸惑う。

 (まさか本当に殺してはいけないのでしょうか。)

 美影はシンラを痛めつけながら考える。自分でも言ったが、シンラがわざわざ前線に出る必要はない。シンラが美影を殺したければ、多少のリスクは背負ってもほぼ確実に勝てるライトを連れてくるべきだ。でも、シンラはそうしなかった。それに美影に攻撃をするように促したり、殺してみなさいと挑発まがいの発言もしている。

 (私に殺されることを狙っている?)

 シンラは自分に勝てないことは分かっているはずだ。それでもあえて戦う方向にことを進めている。それに、美影自身にはシンラを殺そうとかそういう気概はなかったが、シンラがどう思っていたか分からない。シンラのイメージでは美影は快楽殺人者と思われている可能性もある。それだけ過去に殺してきたのだから。それを考慮すると、シンラが自分と二人きりになった瞬間殺されることだってある。

 「一体何が目的なんです?答えてください。」

 美影は現状が不可解な故に何もできない。自分の仮説(シンラを殺せばマスターの封印が解ける)とシンラの行動が一致しないからだ。美影が思考すればするだけ答えの出せない沼にはまる。

 「自分で考えたらどうかしら。あなたは頭がいいはずよね。学校のテストではいつも一番なんでしょ。」

 シンラは強気の姿勢を崩さない。四肢は全部骨折しているし、美影がかけてくれた痛み止めの神法も今はかかっていないので、シンラの身体には今もなお激痛が走っている。それでも、シンラは強気な姿勢を続けるのは美影を混乱させるためだ。絶対絶命な状況の自分が弱音を吐かずに強気な姿勢でいる。それにより、美影に何か策があるのではと思わせることができる。

 (後少しかしらね。)

 シンラは意図的にこの状況を作っている。シンラが自身が美影にボコボコにやられているところをある人物に見てもらうために。シンラが言葉や行動で美影を惑わしているのは、その人物が屋上に来るまでの時間稼ぎに過ぎない。

 (良かったわ。ミカゲが私の思うような人で。)

 シンラの作戦には自分が美影に殺されることで封印が解けてしまうという最悪のリスクがある。だから、美影に殺されないように立ち回らなければいけない。美影は自分と対面しても即座に自分を殺さないと踏んでいた。美影はライトを神様と知っていても殺さずに本心はともかく、表向きは仲良く振舞っている。自分のマスターが封印されていることへの憎しみから神を殺すような人物ではないと認識した。

 それに美影は短絡的に物事を考える人物ではない。だから、確固たる理由もなくシンラを殺すということはしないと考えていた。美影を混乱させるような言葉や行動があれば、彼女は迷い動かなくなるという算段だ。

 「どうすればいいのでしょうか。」

 美影はゴッドサイズでシンラの身体に傷をつけながら考える。頑なにシンラは情報をはかないので、これ以上痛めつけても効果が無いだろう。しかし、今この状況はシンラから情報を引きだすことのできる絶好の場面だ。今までシンラはゼルアや他の神と行動することが多く一人になる機会が少なかった。それに、一人でいる時に襲ったとしても扉を使って逃げることができる。シンラが美影よりも弱くても、扉を作るまではやられることはない。扉を使って逃げれば美影も容易に追いかけるのは難しい。今回のように逃げずに拷問に耐えているなんて最初で最後だろう。

 ガチャ 

 美影が思考していると屋上の扉が開く音がした。

 「誰。」

 美影は扉の方を見る。屋上に入ってきたのはライトと涼平だった。

 「これが狙いだったのですか。」

 ここで美影はシンラの狙いに気づく。ライトと涼平、何も知らない二人がこの状況を見たら、美影がシンラを殺そうとしている敵と捉えるのが自然だ。つまり、シンラの目的は美影を自分たちの敵であると認識させることだったというわけだ。

 「ええ。そうよ。」

 美影の発言にシンラは答える。シンラにとって難関だったのはライトに美影は殺さないといけない敵だと刷り込む必要がある。シンラがライトの心の中を読むと、ライトにとって美影の存在は親友であり完全に信頼している状態だった。そんなライトに美影は敵だと伝えても半信半疑だろう。そんな状態で最終決戦を迎えてしまううと、美影が敵だと伝えていても少なからずショックを受けるだろう。そうなると、心にダメージを受けて全力を出せない。それならばいっそのこと美影が敵だとライトに確信を持たせた方がよい。その場でショックを受けるが、ライトなら最終決戦までには立て直してくれるとシンラは信じている。それに、あわよくばこの状況を利用してライトが美影を殺すことができれば僥倖だ。

 「美影。それにシンラ様。どういう状況なの。」

 ライトは目の前の光景が非現実すぎて戸惑っていた。そしてそれは涼平も同じだった。ライト程動揺はしていないが。

 (美影がシンラを殺そうとしている?それに美影の持っている鎌は。)

 涼平は慌てずに状況を分析する。美影とシンラが戦っていた。シンラの敵といえば邪神しかいない。そして美影が持っている鎌、あれは神話に出てくる邪神の一人が愛用している武器。つまり、美影は邪神の一人ということか。

 「これはうかつでした。」

 美影は涼平とライトの二人が屋上に向かっていたことに気がつかなかった。美影は涼平の心の声を聞くことができるが、常に絶え間なく聞こえるわけではない。美影が涼平の心を聞こうと意識しなければ聞こえないのだ。美影は屋上でシンラの企みについて考えるばかりで、涼平たちのことは蚊帳の外だった。

 「どうしましょうか。」

 美影はここでライトと戦うわけにはいかない。ライトがどれくらい強いかははっきりと分からないが、美影よりも強いのは間違いないだろう。シンラが美影のマスターを殺すために用意した最終兵器なのだ。マスターよりも劣る自分が勝てる道理はない。ここは逃げるのが最善の手。ただ、ライト相手に逃げ切ることができるかが問題だ。

 「仕方ありません。」

 美影はライトに攻撃を仕掛ける。ライトは今動揺していてすぐに応戦できる状態じゃない。今の美影でもライトにダメージを与えることができる。ダメージを与えさえすれば美影を追うのは困難になると考えた。

 「させるか。」

 美影の攻撃を涼平が神剣デモンスレイヤーを顕現して受け止める。凄まじく重い一撃。攻撃の衝撃で手首を痛める。二撃目を防ぐことは今の涼平には不可能だ。

 「ライト。ボーっとするな。美影は倒すべき敵だ。」

 「えっうん。」

 涼平の叫びでライトに反応して武器を顕現させる。

 「これはまずいですね。」

 美影は一旦後方に下がる。ライトとまともにやりあえば負けることは確実だ。ライトが困惑している今ならチャンスはあるが、分が悪いことは間違いない。触らぬ神に祟りなしというわけだ。

 「ライト。ミカゲを殺しなさい。」

 シンラはライトに叫び指示を伝える。

 「でっでも・・・。」

 ライトは涼平の声と美影が攻撃してきたことから武器を顕現したが、未だにこの状況を呑み込めていない。それにシンラの命令とは言え、親友である美影を殺す決心がつかない。

 「どうやら逃げれそうですね。では、涼平さん、ライトさん、また明日学校で。」

 美影はライトの様子を見てライトに戦意が無いと判断する。ここでさらに美影がライトを攻撃してしまったら、ライトも対応せざる負えない。ここは何もせずに撤退するのは最善だ。美影は屋上の柵から飛び降りて逃げる

 「シンラ様。」

 ライトは未だに状況は掴めていなかったが、シンラが大けがをしている事実は判断できた。ライトはシンラに駆け寄る。

 「私のことはいいからミカゲを。」

 「もう逃げられたみたいだぜ。」

 涼平が柵から下を眺めたが美影の姿はなかった。

 「それより怪我を治さないと。ひどい、全身の骨が折れてるこれは治すのに時間がかかっちゃうよ。」

 ライトはシンラを神法で治療しながらつぶやく。

 「フレアを連れてきたらいいんじゃないか。二人でやれば早く終わるだろ。」

 涼平はスマホでフレアに連絡して学校の屋上に扉を使ってくるよう指示した。

 「これはまたすごい怪我ですね。」

 フレアも治療に取り掛かりながらつぶやく。

 「それにしてもシンラさんにこんな怪我を負わせるなんて、よっぽど強い相手と戦ったの?」

 フレアと一緒に同行してきたラナが聞く。

 「ああ。ところでシンラは後で詳しく話してくれるんだろうな。」

 「もちろんよ。ここまで来たら包み隠さず話すわ。」

 涼平に計画の内容を話してしまえば美影に筒抜けになってしまう。でも、もうバレても問題ない。後はシンラ自身が美影に殺されなければ、美影が計画を知ったとこで止めることができないからだ。

 ライトとフレアの二人で治療をしたおかげでスムーズに終わった。まだ若干の痛みは残るがほとんど完治したに等しい。改めて神力は凄いものだと感心する。

 涼平たちはシンラから話を聞くために、屋上から涼平の自宅へと移動した。


 

 

 

 

 

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