三十 ライトVSマイ
「えっ私がマイさんと戦うんですか?」
「ええ、そうよ。ここには訓練場もあるし、アランちゃんに頼んだら使わせてもらえるはずよ。」
マイは部屋に備え付けられている固定電話の所まで行き、内戦でアランに連絡する。
「あっもしもし、アランちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど。」
マイがアランに説明する。
「アランちゃん、この部屋に来るみたい。」
マイはそう言いながら元の席に座る。
「じゃあ、待ってるか。」
アランはこの三人がに勝手に動き回って欲しくないのだろう。それに、場所だけ確保して案内しないのも失礼ではある。マイたちは気にしないとは思うが。何であれ、アランが大変なことに変わりない。
「失礼します。」
マイが電話してから数分後アランが部屋まで来た。
「場所は用意しましたので案内します。」
アランはホテルの案内人のように部屋中の人が出るまで扉を開けたままにしていた。
「こちらです。」
アランは地下にある闘技場?みたいなところに案内した。戦う場所(ボクシングリングのような感じ)と見学する観客席みたいものがある。
「じゃあ、準備運動から始めましょっか。」
「はい。」
ライトとマイは軽く運動を始める。
「なあ、アラン。議会の方はどうだ?休戦もしくは終戦できそうか?」
ライトたちが準備運動をしている間暇だったので、アランに状況を聞きたかった。
「恐らくな。まあ、二週間、長くても三週間以内は終戦で可決されるだろう。」
「そんなに即決でいいのか?」
戦争が終わると言うことはこの魔界が色々な意味で大きく動くことになる。ゼルアも言っていたが戦争の有無で経済が大きく変わる。戦争が終われば、兵士や武器の需要というのが大きく減るのは間違いない。そうなると、失職者が出てしまうのは必然だろう。他に新たな需要を掘り起こさなければ経済は停滞してしまう。この国は昔から休戦の申し出をしていたくらいだから、経済停滞についての対策をある程度考えてはいるはずだ。それでも、戦争を終戦する決断が早いと涼平は思った。
「お前が言いたいことは分かる。けど、戦争を終わらせることが今は大事だ。お前が思っている以上に、貴族の連中だって戦争に参加するのは嫌なのだ。それに、戦争が終った後のことは色々と考えている。戦争が終わった後の方が上手くいく可能性だってある。とりあえず、やってみないと分からないからな。」
「そうか。」
アランの言うことも一理ある。何事もやってみなければならない。それに、多くの悪魔が命を取り合う戦争なんて望んでいないのも確かだろう。この国が強い悪魔、高貴な身分を重視する風潮がある。だから、社会という歯車に従っていた部分もあるのは間違いない。戦争が無くなれば、この国も涼平にとって住みやすくなる可能性だって考えれる。
「準備運動はこれくらいで十分ね。」
「はい。」
ライトとマイはフィールドの真ん中で互いに向き合った状態で立つ。いよいよ、戦いが始まるわけだ。
「ライトちゃん、武器を取り出して。」
マイはライトにそう言いながら自分も剣を顕現させる。
「本気で戦わなきゃダメですよね。」
ライトも神剣ゴッドスレイヤーを顕現させる。
「もちろんよ。安心しなさい。私だって簡単にやられるほど弱くはないから。」
マイは武器を構え戦闘態勢に入る。
「・・・いきます。」
ライトが先制攻撃を仕掛ける。ライトの速度は速い。一瞬で間合いを詰め、マイの胸元目掛けて剣を振るう。マイはそれを防ぎ反撃に打って出る。ライトはそれを躱し、互いに戦闘の主導権を譲らない攻防が始まる。
「あれが神とやらの実力か。」
アランはライトたちの戦いを見て自分たち悪魔とは格が違うことを実感する。そして、マイたちマクア王国とは友好関係を築こうと考える。敵に回したら勝ち目はないからだ。
「そうだな。俺たち悪魔とは強さの次元が違う。」
もう涼平は神との力の差に一喜一憂することはなくなった。ライト付き合うようになって、涼平も見方が変わったというか、強さに固執する必要もなくなったわけだ。魔界でも戦争が無くなろうとしている今、もう戦闘力なんて必要ないかもしれない。
「それがライトちゃんの本気?相手が私だからって手加減してない?」
ライトとマイの攻防はひと段落つき互いに間合いを取る。
「マイさんが強いだけですよ。」
先ほどの攻防、ライトがどちらと言えば優勢だった。しかし、主導権を握るには決めてが欠けていることも事実だ。それはマイが強いからにほかならない。
「じゃあ、二ラウンド目行くわよ。」
今度はマイの先制攻撃。ライトはそれを何食わぬ顔で受け止める。当然、マイがライトが攻撃を防ぐことは予測していた。だから、マイの先制攻撃はフェイントのような軽い攻撃だった。そして、一撃目から二撃目まで流れるようにスムーズに攻撃に移行する。さらに、二撃目から三撃目も滑らかに進む。ライトはマイの洗練された連続攻撃に反撃の隙を見出すことだできず、防戦一方になる。
「マイは戦いなれているな。」
マイが言う二ラウンド目になってからマイの動きが変わる。一ラウンド目、つまり先ほどの攻防はマイにとって様子見だったというわけだ。まあ、マイは影ながら魔界の戦争にも参加していたと一っていたし、経験値はライトと比べて段違いなのだろう。
「ああ。だが、一方的な試合というわけではないぞ。」
アランの言う通り、ライトが一方的に攻められるという展開には変化が起こっていた。ライトはマイの攻撃の合間に反撃することができていた。
「ライトが自分の力に慣れてきたということか。」
ライトは神力を扱えるようになってからというもののまともに戦闘をしてこなかった。マネキンに修学旅行の悪魔、ライトにとって取るに足らない相手だった。だから、力任せに一撃、もしくは二撃もあれば十分だった。しかし、今は違う。ライトとマイの力関係はまだ分からないが、少なくともライトが今まで戦ってきた相手とは比べ物にならない強さだ。ライトにとっては初めての実戦と言っても過言ではない。ライトは戦闘の中で着実に自分の力の感覚を掴んでいる。
(これが目的だったわけだ。)
ライトがマイと戦っている理由、ライトが自分の力をものにするためだ。いきなり強力な力を得たからっといって、すぐに自由自在に操れるわけがない。訓練をすることで馴らしていく。ライトは元々剣の技術は高かった。その剣の技術にライトの今の強さが加わればライトの向かうところ敵なしだ。
戦闘時間が経つにつれてライトの動きが良くなっていく。そうなると、戦況が一気に変わる。ライトが自分の持てる力を出すと同じ神様であるマイすらも圧倒する。次第にライトの攻撃回数が増え、マイが防戦一方になっていく。
(流石にこれ以上は無理ね。)
マイはライトの攻撃の速度について行くのがやっとだった。これ以上続けても自分に勝ち目はないし、ライトと手合わせをする目的自体は達成した。これらのことからマイはこの戦闘を切り上げることにした。
マイは後退してライトと距離をとる。
「ここまでにしましょう。ライトちゃんの強さは十分に分かったわ。」
「はい。」
ライトは追撃するのを止め全身の力を抜く。
戦闘が終わった後また元の部屋に戻った。マイの要望でアランに魔界で美味しいスイーツを持ってくるように手配してもらった。
「どうだったライトちゃん。自分に力上手く扱えた?」
マイはスイーツを食べながらライトに聞いた。
「はい。今回はある程度長い時間力を使ったので、今までにない経験が出来ました。マイさんが手合わせしてくれたおかげです。」
ライトは素直にお礼を述べる。
「でも、やっぱりライトちゃん強かったね。涼平ちゃんへの想いの強さ所以よね。」
「そっそんなことないよ。マイさんが手加減してくれたからだよ。」
「私、手加減なんてしてないわよ。」
「またまた~。謙遜しなくても。」
ライトとマイは先ほどの戦闘について振り返った。
(マイの言っていることは本当だろうな。)
涼平は2人の会話を聞いてそう思った。そもそも、ライトとマイの強さがほとんど変わらないなら、シンラの計画の鍵をライトにする必要がない。ライトとマイの強さに明確に差があることは間違いない。今回の戦闘でマイが全力で戦ったかは涼平には判断できないが、ライトを鍛える以上全力の方が効果的だから、全力だという言葉も嘘ではないだろう。そのマイの全力をライトは手加減していると感じた。それはつまり、ライトにとってマイの強さは大したことなかったわけだ。ライトの強さは計り知れない。補足しておくと、決してマイが弱いとかそういうわけではない。マイも十分強い。涼平の2,3倍の強さはある。
「あっそうそう。これからしばらくの間、今日みたいにライトちゃんは私と戦ってもらうから。もちろん、涼平ちゃんとのデートか優先してもらっていいから。ライトちゃんが空いている時に来てもらって、十分くらいしかかからないから。」
「分かりました。」
ライトはマイの提案を承諾する。ライトの様子を見ていると、神様の上下関係って結構シビアなのかもしれない。今のライトだって、一切考えることなく了承している。おそらく逆らえないのだろう。
「今日はもう帰っても大丈夫だよ。」
ティータイムが終わりマイが言った。
「マイさんはしばらく魔界にいるんですか?」
「ええ、そうよ。戦争が休戦・終戦になるのか、はたまた続行するのか、それが分かるまではここにいるつもり。」
マイの言葉から考えるに一か月ほどといったところだろう。アランの心労が大変なことになりそうだが、涼平は気にしないことにした。
マイたちに別れの言葉を告げて涼平たちは人間界に帰った。
その後、涼平たちはマイとの訓練のために基本毎日魔界に足を運んだ。涼平はせっかくの機会だからと、ライトとマイが戦闘している間に、ゼルアとクロの二人の先輩守護者から話を聞くことにした。不老になったわけだから、生活が一変したはずだ。何かいいアドバイスがもらえるかもしれない。
まずはゼルアだ。
「ゼルアさん、今時間いいですか?」
「おう、いいぜ。」
「ゼルアさんは不老になって辛いと感じた事とかありますか?」
この質問は外せない。不老になると、有限だった時間が無限に等しくなる。全てがいい方向にあるわけではない。辛い気持ちをどれだけ、良い気持ちが上回ることができるかが問題だ。
「不老になって辛いのは最初だけだったな。知人には死が訪れるのに、自分には訪れないんだもんな。そこが辛かった。けど、そんなのも百年も過ぎると何も感じくなったな。」
「そんなものですか。」
ゼルアは不老なことに大して気にならないようだ。千年以上生きていると、百年なんて一瞬に感じるのかもしれない。
「まあな。ただ、目的とかなく無気力なまま生きているとしんどいぞ。俺はシンラの計画を手伝うって目的があるから、毎日それなりにやることがあるから退屈しないが。」
「そうですね。」
ゼルアの言う通りだ。目的もなくただ日々が過ぎていくだけの生活に自分は耐えられるのだろうか。ニートをするのも才能だとか言う人もいるけど、案外的外れではないかもしれない。
「けど、そこまで深く考えることはないと思うぜ。最愛な神とはずっと一緒に居られるし、神様の仕事手伝ってたら、意外に一日過ぎるの早いと思うぞ。まあ、交友関係が神様くらいしかないってのは難点だがな。」
不老になったことで、新しく交流しようとしても、どうせ先に死んでしまうことが分かっている。交友関係が良くなっては死んでみたいなことを繰り返すのはしんどいとゼルアは語る。
「それは何とかなると思います。」
もともと涼平は交友関係が広くない。悪魔の仲間と人間界の友達を足しても十人もいないのだ。だからというか、涼平は進んで誰かと関わりたいとかそういう考えには基本至っていない。孤独というのは寂しいが、ライトとフレア二人も話し相手がいれば困らないというわけだ。
「まあ、不安なのは最初だけだ。慣れてしまえば問題ないぞ。」
ゼルアは涼平の背中をポンッと叩いた。
「そうですね。」
涼平はゼルアと会話して少し安心する。ゼルアは不老になって後悔はしていなさそうだ。涼平とゼルアの性格や人間性は違うので一概には言えないが、自分も不老になったとしても問題ないだろうと思えた。
次はクロだ。
「クロさん、少し時間いいですか?」
「問題ない。」
涼平はクロから了承を得たので隣に座る。
「ゼルアさんから話は聞いた。不老について意見を聞きたいのだな?
「そうです。」
涼平が不老についてゼルアに聞いたことはクロも知っているようだ。ゼルアがクロと話した時にでも話題にしたのだろう。
「別に敬語じゃなくていい。名前も呼び捨てでいい。」
「そうか。分かった。」
「不老の事だな。僕もそこまで気になったことはない。僕は元々孤児院にいて特に親しい奴はいなかった。だから、マイ姉が初めて親しくなったと言っても過言ではない。マイ姉がいれば僕は幸せだ。」
クロにとってはマイが全てなのだろう。涼平はクロ程交友関係がないとは言えないが、状況的にはクロに似ている所がある。ライトといれば幸せ、そう思えば今後の生活も明るいのかもしれない。
「クロはマイさんとは上手くいっているのか?恋愛的な意味で?」
クロとマイは千年以上付き合っている。千年、そんなとてつもない長い期間あれば、倦怠期だとか浮気だとか何かしらトラブルが起こっていてもおかしくはない。
「僕たちは上手くいっていると思うよ。僕はマイ姉以外の女性に興味ないし、マイ姉も僕みたいな童顔で小柄な男の子にしか興味ないから、今まで浮気とかは一切なかった。まあ、僕たちは常に一緒に行動しているからってもあると思うけど。」
「そっか。」
マイはショタコンみたいだ。マイとクロでおねショタの同人誌が書けそうだが、今はそんなことを考えている時ではない。クロの話だと二人の間には特に問題はなかったようだ。
「当たり前のことだが、浮気はしない方がいい。実際に試したわけではないが、神様に愛されなくなったら、守護者じゃなくなる可能性が高い。そうなると、肉体はあっという間に老化して死ぬ。まあ、涼平はまだ寿命上に生きていないから、そんなことにはならないと思うけど。」
クロの話によると、神力によって肉体が老いることを防止しているらしい。だから、神力がなくってしまうと、当然肉体は老いていく。しかも、長生きしている分だけ肉体の老いる速度は速いみたいだ。
「浮気なんかしない。不老になったから、これ以上関係を増やしても悲しくなるだけだ。それに、ライト以上に魅力のある女性なんかいないしな。」
浮気をしてライトにバレたら、守護者じゃなくなり死が待っている。バレなかったとしても、浮気相手が先に死んでしまう。いいことなんてないのだ。
「そうだな。今まで僕はシンラ様とマイ姉以外の神様に会ったことが無かったけど、ライトさんとフレアさんを見ると、神様って全員美少女なんだろうな。」
「ああ。今度会ってみるといいよ。」
クロは他の神様に会ったことがないようだ。けど、クロが他の神様と会ってしまったら、マイに彼氏がいることがバレてしまう。そうなると、なぜ彼氏がいるのかと疑問に思い計画に支障が出る可能性も無きにしも非ずだ。しかし、今はもう違う。クロが他の神様と会ったとしても計画に影響はないはずだ。
「そうだな。」
クロと話したことでライトとの関係は問題なさそうだと思った。対人関係だから絶対と言うことはないが、涼平自身もクロみたいに恋人への気持ちに揺らぎはない。この気持ちがあれば、今後のライトとの生活も明るいものとなるだろう。
ある日涼平はマイと2人で話す機会ができた。ライトとフレアはラナに連れられて魔界での観光に行ってしまった。クロとゼルアは2人でチェスをしていて邪魔してはいけない雰囲気になっていた。
「涼平ちゃん、夏休みは満喫してる?」
「それなりには。」
もう夏休みも半分は過ぎた。ライトとデートする日以外は基本毎日魔界に来ている。ライトとのデートも週に1回程度なのでほんとに毎日。魔界での平均滞在時間は2時間程度。涼平は魔界に滞在の際は、ライトとマイの手合わせの観戦と、ティータイムに付き合うことに時間を費やしている。魔界にいる時は自分の時間がないというわけだ。要するに何が言いたいかというと、全然夏休みを満喫できていないのである。涼平の夏休みの計画は積みゲー消化とライトとデート、この二つを中心に構成されていた。ライトとのデートは問題ないが、積みゲーの消化に時間を費やせていない。夏休みの宿題も終わらせなければいけないのでさらに時間が圧迫される。だから、魔界で過ごす2時間が涼平にとってもどかしいのだ。
「あんまりって感じね。理由は言わなくても分かるわ。けど、ライトのために我慢してくれたら嬉しい。頭の良いあなたのことだから、文句も言わずに魔界に来てくれているのよね。」
ライトの強さの要因は涼平なのだ。だから、ライトが毎日魔界に行くことに対して、涼平がとやかく言ってはならない。もし涼平が苦言を呈したら、ライトは自分の姉神であるマイと最愛の人である涼平のどちらかを選ばなければならない。それはライトの心に大きくダメージを与えてしまう。想いの強さが動力源なライトにとって心の傷というのは致命的だ。
「色々考えた結果だ。ライトがちゃんと戦えないと計画が上手くいかないんだろ。ラスボスがどんな奴かは知らないが、ライトが負けると世界の終りまであるんじゃないのか?」
「人間界や魔界が滅びるかは分からないわ。ただ一つだけ言えるのは、ライトが負けたら神様は全員殺されるってこと。」
「神様に恨みがあるやつなのか?」
「恨みはあるかもね。そこは正直分からないわ?」
「その敵は今どうしているんだ?ここまで影すら見たことがないが。」
よくよく考えると、神様を殺そうとする敵が今の今までアクションを起こしていないことが不自然だ。ライトが強くなったのなんてここ最近のことだから、それ以前に遭遇していたら殺された可能性が高い。マイの言葉からも、今のライトですら負ける可能性がある相手。そんな奴が四月とか五月に現れていたら、ライトは戦えない時だったし、涼平では手も足も出ない。ライトが死んでしまえばシンラの計画はパアになる。敵からしたら一番確実な方法だと思う。
「それは・・・。まあ、これくらいならいいか。ライトが戦う相手は封印されているのよ。だから、今は動くことはできないの。」
「封印!!」
涼平は封印という言葉に驚く。ゲームや漫画で封印がある場面と言えば、その敵が強すぎて倒せないからだ。ライトはそんな相手と戦わなければならないことになる。
「そう。その相手はシンラ様よりも強かった。だから、シンラ様は封印という選択をとったの。それで、その封印がもうすぐ解ける。ライトには頑張ってもらう必要があるわ。」
「その敵と戦った時のシンラと今のライト、どちらの方が強いんだ?」
少なくとも今のライトが当時のシンラより強くなければ負けは確定する。今のシンラより強かった場合でも勝てるとは限らない。涼平の見立てではシンラよりライトの方が強そうではあるが、こればかりはマイに聞いてみないことには分からない。
「今のライトの方が断然強いわよ。」
「そっか。」
涼平はマイの言葉を聞いて一安心する。とりあえず、勝負の土台には立てるわけだ。
「あの時はね、神力を活かしきれなかったのよ。神力は想いが強ければ強いほど効果を発揮するわ。逆に言えば強い想いが無ければ、ただの不老効果しかない飾りなの。シンラ様には強い想いが無かった。だから負けたの。」
「その時のシンラには強い想いはなかったのか?」
「ええ。あなたはライトが史書を書く仕事やってること知ってる?」
「ああ。」
ライトは毎晩、その日人間界や魔界で起きた出来事をまとめて本にするという仕事を行っている。
「昔はね、あれはシンラ様がやってたの。シンラ様の仕事はあれだけ。想像してみて。あの仕事をしているだけとしたら、どんな強い想いがあると思う?」
「それは・・・。」
涼平には答えが浮かばなかった。史書の作成。ライトから聞いた話によると、その日の出来事の内、史書に記載する価値があるかどうかを吟味する。そして、必要だと判断した出来事のみを本に記す。学校の授業で例えるなら文章の要約が近いだろう。そんな作業じみた生活で強い想いなんてあるはずがない。
「そう。だから、シンラ様は力を思うように使えなかった。」
「それだったら、シンラは封印する前に殺されるんじゃないのか?」
シンラは力があったが思うように使えなかった。それは以前までのライトと似たような状態である。ライトも涼平への想いを力に変えるまでは、あの凄まじい力もないに等しかった。
「ええ、そうよ。けど、シンラ様は力を発揮できる機会があったの。」
「その機会って?」
「仲間の死よ。今は七人の神様しかいないけど、当時はね百人は優に超えていたわ。その仲間が私以外みんな死んだの。その怒りが強い力に変換された。けど、怒りなんて時間が経てば経つほど弱まっていく。それに当時のシンラ様は戦闘経験なんてほとんどなかったから、強くなっても技術が足りなかった。これらの事から、倒せないと判断して封印という選択をとったわけ。」
「なるほどな。」
「今話せるのはこれくらいかな。他に聞きたいことある?」
「その封印はいつ解けるんだ?」
「具体的には言えないけど、もうすぐね。半年以内。」
「そんなに早いのか。」
涼平は驚いた。ライトが力を使えるようになってから、そんなに間がない。千年以上かけた計画にしては、余裕がないというか。もし、ライトが涼平のことを好きにならなければ、ライトは力を発揮することができない。そしたら、他の恋人候補を探しているうちに封印が解除されそうだが。
「涼平ちゃんの言いたいことは分かるわ。けど、ライトに恋人ができるのは比較的後の方が良かったの。」
「どうしてなんだ?失敗した時のリスクがでかすぎると思うが。」
遅らせるというリスクをとったということは、何かしらリスクに見合うリターンがあるはずだ。しかし、涼平はそのリターンについて何も思い浮かばない。
「ライトの力を最大限発揮できるようにするためよ。何度も言うけど、神力は想い強ければ強いほど効果を発揮する。恋愛って言うのは、恋人になってすぐくらいが一番楽しいのよ。長期になると好きって想いは変わらなくても、付き合った当初ほどではない。ちなみにこれは私の経験談よ。」
「確かにそうだな。」
涼平もマイの意見には納得だ。付き合いたてが一番楽しいのは間違いないのは確かだろう。
「ちょっと話過ぎちゃったかな。シンラ様に怒られないと良いけど。」
マイがこのタイミングで少しとはいえ過去の話をしていまったことでシンラに怒られるのではと懸念する。
「大丈夫じゃないか。マイさんの話で全て分からないし。」
マイは色々と話してくれた。核心に迫るような内容もあったが、真実に至るにはまだピースが足りない。
「そうね。気にしないことにしましょ。それより、ライトちゃんとはどこまでいったの。」
その後、ライトたちが観光から帰ってくるまで、マイにライトとのことを聞かれまくった。
こうして涼平の夏休みは終わった。言い忘れていたが大事なことが一つ。モーデン帝国がマクア王国と終戦協定を結び、魔界で長年続いた戦争は幕を閉じたのだ。




