二十六 修学旅行 二日目 ②
涼平はホテルの外を歩いてた。修学旅行のしおりには自由時間中、ホテルの外に出ることは禁止されている。しかし、ホテルの出入り口に見張りの先生がいなかったので、難なく外に出ることができた。生徒は外出禁止と言うこともあり、ホテルの外を歩いているのは涼平だけだった。涼平はなるべくホテルから離れた位置まで歩く。ホテルの窓から外出していることが見つからないためだ。
「丁度いいな。」
涼平は「この先崖のため立ち入り禁止」と書かれた看板を見つける。立ち入り禁止と言うことは、この先に誰もいないことは間違いない。涼平は誰にも邪魔されず一人でいるには最適だと考えた。涼平からしたら崖なんて怖くない。身体強化魔法をかければ崖から落ちても大して問題ないからだ。
涼平は崖まで続く上り坂を上がっていく。
「やっと着いた。」
崖までの道のりは思ったよりは長かった。ただ、これだけ歩いたなら誰にも見つかることはないだろう。現に、ここまで誰一人とも遭遇していないのだから。
涼平は崖端の方まで歩く。崖下を見ると森だろうか?とりあえず、木々が生い茂っていた。崖下が海とかだったら、刑事ドラマとかのラストに使われそうな崖だった。
「はあ。」
涼平はその場に座る。涼平はこれからライトのことを考えることが憂鬱で仕方がなかった。ここ数日ずっと同じことを考えていた。しかし、それでも答えを出すことはできなかった。それが今考えて答えができるはずがないのだ。何かきっかけとかそういうのが無いと無理だろう。そもそも、ライトが涼平に告白したのだって、シンラの特訓というきっかけがあったからだ。あれが無かったら、ライトは涼平に告白なんてしていないだろう。
「ここから飛び降りてみようかな。」
涼平は再び崖下を見る。高さは数十メートルはあるだろう。身体強化魔法をかけずに飛び降りたら確実に死が訪れる。もちろん、そんなことはしない。もし、涼平が自殺なんてしたらライトが余計に思い詰めるだけだ。自分のせいで涼平が自殺したと。ただ、涼平の暗い気持ちから、そういう考えが頭をよぎっただけだ。
「こんなところで一人で考え事ですか?」
涼平が考え事をしていると後方から声が聞こえた。涼平はすぐさま立ち上がり後方を向く。立ち入り禁止の場所にくる人物。ただの一般人とは考えにくい。
「何者だ。」
涼平は警戒しながら声の人物に尋ねる。身長は2メートルは超えるであろうガタイの良い男だ。よく男を注視すると尻尾があることが確認できた。男が悪魔であることは間違いない。
「私はシンラ様の命令で、昨日シャドーウルフを放った者と言えば分かりやすいでしょうか?」
「なるほどな。」
男はシンラの協力者のようだ。そもそも、人間界に悪魔がいる時点で神様の協力が不可欠なので、男が嘘をついている可能性は低いだろう。
「それで何の用だ?」
シンラの協力者と言うことは、シンラの計画を遂行するためにここに来たのだろう。問題はその計画の中身だ。
「ライト様をここに呼び出してはいただけませんか?用があるのは彼女の方です。」
男は涼平には一切興味がないといった感じだ。涼平はそれが癪に障った。
「ライトに何の用だ。」
涼平としてはライトを呼び出す気なんてサラサラなかった。涼平が今悩んでいる理由は全てシンラの計画が原因である。腹いせに計画は邪魔してやろうと考えた。
「彼女と戦うためですよ。彼女に実戦経験を積ませるためにね。」
「そうか。」
ライトは神力のおかげで強くなった。あれだけの強さがあれば、戦闘経験なんてなくてもごり押しで全ての相手を殺せそうだ。わざわざ戦闘経験を積ませるということは、シンラの計画の最終目的が見えてきた気がする。ライトと同程度の戦闘能力を持つ者を殺すことかもしれない。そんな相手いるのだろうか?悪魔じゃ無理だし、同じ神様くらいしか検討がつかないが。まあ、このことは今考えることではない。
「残念だけど、ライトに連絡はできない。なぜなら、お前はここで俺に倒されるからな。」
涼平は神剣デモンスレイヤーを顕現する。相手は悪魔だ。ライトやシンラみたいに圧倒的な強さは持っていないだろう。なら、勝てる見込みは十分にある。涼平の憂さ晴らしには最適だ。
「まあ、良いでしょう。力づくで言うことを聞かせればいいだけです。」
男も武器を取り出し戦闘が始まる。
一方、ライトは自由時間を自室で過ごしていた。
「ねえ、ライトちゃん。大丈夫?」
聖来はライトの事を心配していた。海での自由行動の後、ライトに元気がなく目が真っ赤になっていた。バスの中や食事中は、他の人に会話を聞かれる可能性があるため、聖来はライトに話を聞けずじまいだった。しかし、今は自由時間で部屋には美影を含め3人しかいない。聖来は今なら話を聞けると考えた。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」
ライトの声は言葉とは裏腹に余り元気がなかった。
「私も心配です。その目、泣いた痕ですよね。ライトさんが泣くなんてよっぽどのことだと思いますが。」
「ほんとに大丈夫だよ。」
「私たち友達でしょ。悩みごとがあるなら聞くよ。」
「そうですよ。それに誰かに相談する方が解決に繋がるかもしれません。」
聖来と美影の熱意に負け、ライトは何があったのかを話すことを決めた。
「実は私、涼平に振られちゃって。」
ライトは涼平に告白したことを話した。シンラの計画等、神様に関わることを伏せるために、海の自由時間に告白したことにした。
「えっそうなの。」
「・・・そうですか。」
聖来は驚く。聖来は涼平はライトのことが好きだと思っていた。むしろ、涼平の方が修学旅行の間に告白してもおかしくないとまで考えていた。
「それで泣いてただけ。だから、二人に相談することなんてないよ。」
ライトは2人に心配かけたことに感謝する。
「ちなみに、理由聞いた?他に好きな人がいるとか、なんとか。」
「聞いてない。振られた時にその場から逃げちゃったから。」
「そっか。」
聖来は理由が聞ければ対策ができると考えていた。他に好きな人がいるならあきらめるしかないが、欠点を指摘されたら直せばいいだけだ。
「ライトさんは振られた今でも涼平さんのことが好きですか?」
「うん。大好きだよ。」
ライトの涼平に対する恋心はとても強いものである。あれくらいの出来事で折れはしない。
「なら、もう一度告白してみてはどうですか?」
「結果は変わらないと思うけど。」
「それでもです。ライトさんは涼平さんと同居してますよね。今の状態のままだと同居生活にも支障が出るのでは?少なくとも涼平さんと話し合って、わだかまりはなくしておいた方が良いでしょう。」
「そうだよね。このままだと他のことにも影響が出そうだし。」
ライトが告白して以降、涼平とライトはまともに会話をしていない。こんな状態が今後もずっと続くことは嫌だ。振られたとしても、告白する前のように一緒にゲームをしていた生活を送りたい。そのためには、一度涼平とじっくり話す必要があるだろう。
「二人ともありがとう。私、涼平と話してくる。」
ライトは2人にお礼を言うと部屋を出ていった。
「美影は良かったの?あなたも黒井君のことが好きなんでしょ。」
ライトを見送った後、聖来が質問する。
「しょうがないですよ。涼平さんが誰を好きかなんて見たら分かりますし。それに・・・。」
「それに?」
「いえ、何でもありません。」
「何よ。気になるじゃない。」
「秘密です。」
「まあ、そのうち教えなさいよ。」
聖来はこれ以上追及することは止める。
(それにライトさんと涼平さんが付き合った方が今後の展開的に面白そうです。)
美影は笑みを浮かべる。
「はあ・・・。はあ・・・。なんで攻撃が通らないんだ。」
涼平は悪魔の男との戦いで疲弊していた。相手の男は確かに強いことは間違いない。しかし、涼平より強いかと問われたらそうではない。人間の身体のせいで魔力という観点では相手に比べて劣っている。だが、スピードとパワーでは勝っているのだ。魔力という点も長期戦には不利なだけで、短期戦や瞬間火力では涼平の方が上なのだ。それなのに一切攻撃が当たらないのだ。
「それはあなたの攻撃が単調だからです。確かにあなたは強い。シンラ様が認めるだけの強さはある。ただ、いくら強くても雑に剣を振っているだけでは私に勝てませんよ。」
「俺の攻撃が単調だと。」
「ええ。あなたは戦いの最中でも他のことに気を取られていて、戦いに集中できていませんよ。」
「・・・。」
涼平は自分の戦いを振り返る。確かに戦闘中もライトの事が頭にちらついていた。それで戦闘に集中できなかったわけか。相手は昨日のシャドーウルフとは違う。実力差はそこまでない。涼平の方が微有利くらいだ。そんな相手に単調な攻撃など当たらなくても当然だ。相手がシンラ側の悪魔だから、涼平は殺されずに済んでいるが、これが戦争ならもう涼平は死んでいただろう。
「今度はさっきのような真似はしない。」
涼平は再び攻撃をしかける。相手はそれを軽々防ぐ。涼平の二撃目、三撃目と追撃をするが、それも防がれてしまう。
(どうして。どうして当たらないんだ。)
涼平は苦悩する。ライトが戦ったら、三回も攻撃をすればあの程度の悪魔は難なく倒せるだろう。涼平は無意識にライトと自分を比較してしまう。
そもそも、実力がある程度均衡している相手を三度の攻撃で倒すことは難しい。しかも、今回のように面と面が向かいあった一対一の場合は特に。なぜなら、相手が攻撃してくることが分かっているからだ。実力が近い者を三度の攻撃で倒すには、不意打ちを決めたり、乱戦の中でどさくさに紛れて攻撃する等、方法が限られる。
今の涼平にはそんな単純な事すら頭から抜けていたのだ。
「これではさっきと変わりませんね。」
男はこれ以上涼平と戦闘する時間は無駄だと考え反撃することに決めた。涼平の動きを奪うために足を狙う。今の涼平に攻撃を与えることは男にとって容易だった。
「ぐはぁ。」
涼平は左ひざにダメージを受けその場にひざまずく。
「もう十分でしょう。ライト様を呼んでください。」
「まだだ。まだ終わってない。」
涼平は左ひざの痛みをこらえて立ち上がり、三度攻撃を仕掛ける。
「諦めないことも大切ですが、戦況を考えてください。」
男はガッカリする。シンラの事前情報では涼平は歴代最高峰の悪魔の一人だと言っていた。それは戦闘能力だけでなく、分析能力だったり、判断能力だったり、総合的な強さという話だった。しかし、今の涼平にはその片鱗が見えなかった。
男は涼平の攻撃手段を減らすために、涼平の利き腕に一撃を与える。涼平はダメージを受け、手にしていた神剣デモンスレイヤーをその場に落とす。これで涼平が戦えなくなったと言っても過言ではない。
「さあ、ライト様に連絡してください。」
「・・・。」
涼平は男の言うことを聞かない。
「はあ~。仕方ありません。少し話をしましょう。」
男はシンラからある程度の情報を聞かされている。涼平が頑なにライトに連絡をしない理由にも見当がついている。
「・・・。」
涼平は一旦その場で楽な姿勢をとる。
「あなたがライト様に連絡しない理由はプライドが原因でしょう。それ故に告白の返事も渋っている。シンラ様の予想では、あなたがライト様の告白に返事をしないのは、自分とライト様では釣り合わないと考えているからだと聞きました。」
「!!!」
シンラの予想はズバリ的中していた。
「その様子だと図星のようですね。流石はシンラ様。長年の経験から、人を見る目は本当に素晴らしい。でも、あなたがライト様と釣り合わないから付き合わないと考えているのはおかしな話ですね。」
「・・・何がおかしい?」
涼平は男の言っている意味が分からなかった。付き合う上で、相手のスペックを気にすることはそんなに変だろうか。
「私は別に異性を選ぶときにスペックを重視する考えを否定しているわけではありません。悪魔だって、戦闘能力が高い貴族同士の結婚が基本ですし。ただ、あなたがその考えをしているのが滑稽でして。」
「・・・何が言いたい。」
涼平は男の発言に苛立ちを覚える。
「だって、あなたは幼少期に身分不相応の強さを持っていたことから、周囲に否定されて孤独でいましたよね。没落貴族なのに上位貴族以上の強さを持っているという、人の外面的な要素で。ライト様と釣り合わないという理由は、ライト様の外面的な部分しか見ていないのでは。それでは、あなたが忌み嫌っている上位貴族と同じだと思うのですが。」
「そっそれは・・・。」
男の発言に涼平は衝撃を受ける。涼平はライトの見た目や学力、戦闘能力といった外面的な部分ばかりに気を取られていた。確かにそれは男の言う通り、自分が意味嫌っている上位貴族と同じ考えをしていたかもしれない。
涼平は自分の幼少期の嫌な記憶を思い出す。学校では友達はできないのはもちろんとして、話すらしてくれなかった。軍に入った後も誰にも相手にされなかった。アランに出会うまでは。
(そんな奴らと俺が一緒?)
涼平は吐き気がする。程度の問題はあれ、ライトが昔の自分と同じ境遇であると考えたら。
「どうやら、私の言いたいことは伝わったようですね。もう、良いでしょう。ライト様を呼んでください。」
「待て。もう少し、整理したい。」
「分かりました。少しだけ待ちましょう。」
(俺がライトを好きになった理由を思い出せ。もちろん、顔が可愛いとか、胸が大きいとかそういった理由がないわけではない。けど、俺がライトに惚れたのは、優しさや一緒にいて楽しかったこと等、内面的な部分だ。それにライトが俺の好きなところを色々言ってた時に、外面的な部分よりも内面的な部分の方が多かった。)
涼平は今更ながら気づいた。本当に大切なことに。
「整理できたみたいですね。」
男は暗かった涼平の顔が明るくなったことから判断した。
「ああ。おかげさまでな。約束通りライトを呼ぼう。」
涼平は男の言う通りライトを呼ぶことにする。男に従うのは癪だが、涼平自身も早くライトに会いたい。今の涼平は足を負傷していて、ホテルに帰るのは容易ではない。自分でライトに会いに行くより、ライトを呼んだ方が早いと考えた。男の指示に従ってライトを呼ぶのは、ライトに来てもらうという利害が一致したに過ぎない。
「良かった。涼平、なんでこんなところにいたの?」
涼平がポケットから携帯を取り出そうとした時、後方から愛しのライトの声が聞こえた。
時間はライトが涼平の場所にたどり着く前に遡る。
ライトは修学旅行のしおりを見て、涼平が割り振られた部屋に行った。部屋をノックすると大樹がドアを開けた。涼平のがいるか尋ねると大樹は出ていったと答えた。大樹は涼平の行き先に心当たりがないみたいだった。
「涼平どこ行ったんだろ?」
ライトは涼平を探すために一旦ホテルの一階に行った。
「さてと、涼平の場所を探しますか。」
ライトは涼平に会いたいと願う。すると、地面に一筋の光が出現する。厳密には涼平が通った道筋が光りだした。この光を辿れば涼平のもとにたどり着けるというわけだ。神様の力はこんなことにも役に立つ。ちなみに、一番最初つまりライトが校門で涼平を待ち伏せした時にも同じ方法を使った。あの時は、さっきぶつかった男の子にもう一度会いたいと願った。
ライトは光を辿って歩き始める。ここで、ライトが扉を使って涼平のところに行くことはしなかった。涼平が一人でいるとは限らないからだ。扉を作成した場合、涼平のすぐそばに繋がれる。少し離れた場所とか、人がいない場所に作成するとか融通が利くような作成はできない。諸々を考慮すると、歩いて行く方が確実だ。ちなみに、道を照らす光は神力によるものでライトにしか見えない。
「結構遠い所にいるのね。」
ホテルからそれなり離れた距離まで歩いたが、未だに涼平の姿はなく、光の道筋もまだ先に続いている。さらに歩くと、「この先崖のため立ち入り禁止」と書かれた看板を目にする。
「まっまさかね。」
ライトは光が看板の奥に続いていることに不安を感じる。涼平に限ってそんなことはないと考えたいが、ライトの脳裏に自殺という二文字が浮かぶ。ライトは安心するために急いで走り始めた。
そして今に至る。
ライトはとりあえず涼平の姿を確認できて安心する。
「ライト。どうしてこんなところに?」
涼平はライトがこの場にいることに驚く。現在地はホテルから大分距離が離れており、適当にプラプラ歩いているだけではたどり着けないからだ。
「それは涼平を探しててって何その怪我?どうしたの?」
ライトは涼平の傍まで歩くと、涼平の左ひざが出血していることに気づく。
「これはこれは。手間が省けて幸いです。」
「誰?」
ライトは声の主の方を向く。ここは崖付近で辺りに街灯等の明かりはなく、ライトは声が聞こえるまで男の存在には気づいていなかった。
「名乗るほどの者ではありませんよ。ただ、あなた方二人を殺すために参っただけですから。」
「あなたが涼平にこんな酷いことをしたのね。」
男は剣を持っていたことと、この場にはライトが来るまで涼平と男しかいなかったことから推察する。
「ええ。丁度止めを刺そうとした時にあなたが来たわけです。」
男は別に涼平を殺すつもりは一切ないが、こう言った方がライトの怒りを買い、ライトとの戦闘までスムーズにいけると考えた。
「涼平。少し待っててね。今すぐあの男を片付けるから。」
ライトは神剣ゴッドスレイヤーを顕現する。相手の強さは分からないが、ライトには負ける気がしなかった。
男が先制攻撃を仕掛ける。ライトはそれを剣でいなして反撃する。男は避けようと試みるが、ライトの攻撃が速すぎて直撃する。それでも、ライトが狙っていた心臓への直撃は防ぐことができた。男の身体からは大量に血があふれ出る。
「終わりよ。」
ライトの追撃が炸裂する。ライトの一撃目で即死まではいかなくとも、大ダメージを受けていた男には追撃を避ける余裕はなかった。
「これで・・・もく・・てきは・・・たっせ・・・。」
男はやり遂げたような顔をしたまま息を引き取った。
「すごいな。」
涼平は男の指摘通り本調子で戦えなかったとはいえ、ダメージを一切与えることのできなかった相手をライトはたったの二撃で倒したのだ。なんだか、ライトに劣等感を抱いていた自分が馬鹿馬鹿しくなった。
「涼平。すぐ手当してあげるからね。」
ライトは戦闘が終わってすぐさま涼平のもとに駆け寄る。そして、涼平に回復魔法をかける。いや、魔力ではなく神力を使っているので、回復神法といった方が正しいか。
ライトのおかげで涼平の傷はみるみる癒えていく。そこまで大きな怪我ではなかったことと、神力は魔力よりも効果が強いことから、涼平の傷はすぐに治った。
「ありがとな。」
涼平は立ち上がり、軽く身体を動かして怪我の治り具合を確認する。もう問題はなさそうだ。
「涼平。その・・・話したいことがあるんだけど。」
ライトは涼平の怪我がもう大丈夫なことを確認し話しかける。
「・・・ライトの話の前に俺からいいか。」
涼平は男としての覚悟を決める時が来たのだ。
「うっうん。分かった。」
ライトは涼平のいつにもない真剣な表情に圧倒される。
「スーハー。」
涼平は一度ライトから背を向けて深呼吸する。緊張が原因だろうか。涼平の心臓がバクバクとなっている。少しでも落ち着かせる必要があった。呼吸を整えた涼平はライトの方を向き彼女の顔を見つめる。
「ライト。俺もライトのことが好きだ。全ての世界の誰よりも愛してる。」
涼平はライトへの想いを口にする。余計なことは言わなくていい。ただシンプルにライトに想いが伝わればいい。だから、簡潔に伝えた。
「・・・ほんとに?嘘じゃない?」
ライトは驚きのあまりかまだ信じきれていない様子だった。当然と言えば当然だ。好きなら好きとすぐに伝えればよかったのだから。海でもライトは似たようなことを言っていたし。今さら好きと言われて嬉しいものの、少し不安が残っているのだろう。
「嘘じゃない。待たせて悪かったな。」
涼平はライトを抱きしめる。根拠はないが、今のライトに一番必要なことだと考えた。ライトの肌の温もりを感じる。ライトも涼平の肌の温もりを感じているだろう。それが二人の心を通じ合わせる懸け橋になった。そんな気がする。
「涼平。付き合った証にキス・・・して欲しい。」
ライトは少し照れながら言う。
「あっああ。分かった。」
涼平はライトを抱きしめるのを止め少し離れる。
ライトは目を瞑り唇を差し出す。準備は万端みたいだ。涼平はライトの唇に自分の唇を近づけ、そして合わせる。
「これで良かったか?」
涼平はどれくらいの時間キスをしていればいいのか分からず、キスをしていた時間は1秒あるかないか、ともかく短かった。
「うん。ありがとう。」
ライトは顔を赤らめつつも、先ほどまでは会った少しの不安は消え、満足そうな笑みを浮かべる。
「じゃっじゃあホテルに戻ろうぜ。せっかくだし、手でも繋ぐか?」
「うん。」
ライトは涼平の差し伸べた手を握る。ホテルまでの道のりの間、二人はとりとめのない話をしながら歩いた。話自体は普段からしているが、恋人同士になった今、そんな話すらいつもより楽しく感じた。
ホテルの入り口にたどり着いた。ライトは握っていた手を放して、涼平の正面に向かって立つ。
「涼平。大好きだよ。これからもずっと一緒にいようね。」
ライトは満面の笑みを浮かべる。
「そうだな。」
涼平はこの日のライトの笑顔を一生忘れることはなかった。




