二十四 修学旅行 一日目
修学旅行初日の朝。天気は快晴だった。旅行先でもある沖縄の同じく快晴と天気予報で報じられていた。絶好の修学旅行日和というわけだ。集合場所は学校ではなく、羽田空港。集合時間は午前7時とかなり早い時間だ。しかし、それは仕方がないことである。乗る予定の飛行機の出発時間が8時なので、余裕をもって一時間前集合なのだ。
涼平の家から羽田空港までの所要時間は40分程度。早めに到着するために6時には家を出る予定だ。
ライトは最後に自分の部屋で忘れ物がないか確認する。
「えーっと、パジャマに替えの制服に、水着に・・・。」
ライトは修学旅行のしおりに記載されている持ち物一覧と、自分の荷物が違わないか照らし合わせる。
「大丈夫だね。」
ライトは確認をし終え荷物を持って一階に降りる。
「ライト様、一人で大丈夫ですか?」
フレアはライトが一人で空港までたどり着けるか心配した様子だ。
「涼平は来るんだよね?」
ライトはここにいない意中の人のことを聞く。お茶会があった翌日、ライトは涼平が魔界に行ったことをフレアから知らされた。涼平にも思うところがあるだろうし、考える時間が必要だとライトは思った。だから、ライトは扉を使って涼平の所に行くことはしなかった。フレアの話では修学旅行には参加するという話だったので、ライトは一緒に空港まで行けると考えていた。しかし、早朝にフレアが魔界に行ったところ、集合場所には涼平の姿はなかった。
「はい。そのはずです。最悪、集合時間に間に合わなければ、私が扉を使って沖縄まで連れていきますので心配する必要はありません。」
「そうだね。・・・行ってくるね。」
「はい。行ってらっしゃいませ。」
ライトは自宅を出て集合場所に向かった。
「さてと、私も行きますか。」
フレアは扉を開いて魔界に行った。
ライトはスマホでの検索を駆使することで迷わずに羽田空港に着くことができた。空港内の集合場所には既に多くの生徒が集まっていた。クラスごとに列になっていたので、ライトは3組の列まで足を進める。
「ライトさん。こっちです。」
美影が手を振ってライトを呼ぶ。
「おはよう。みんな。」
ライトは美影の方に行き挨拶をする。すでに班員は涼平以外揃っていた。
「おはよう。ライトちゃん。黒井君とは一緒じゃないの?」
「うん。涼平は準備に時間かかってたから、もう少し遅くなると思う。」
ライトは一番無難な嘘をついて誤魔化す。
「まっそのうち来るだろ。」
「そうだね。それより、トランプ持ってきてから、飛行機の中で遊ぼうよ。」
大樹と翔は気楽な返事をする。
「うん。そうだね。」
ライトは頷く。
集合時間の7時まで、ライトたちは修学旅行について話しながら時間を待った。
「点呼をとります。」
時刻は7時を回り、学年主任の先生が声をあげる。その声を聴いて、各クラスの担任の先生が自分のクラスの生徒の出欠を確認する。
「1班は全員そろってるわね。2班も大丈夫ね。3班も・・・。」
3組の担任の先生が班ごとに確認していく。
「5班は・・・黒井君がまだいないわね。連絡は何もなかったけど、神谷さん何か知ってる?」
先生は涼平のことを同居しているライトに聞く。
「涼平は準備に手間取って・・・。」
「すみません。遅れました。」
ライトの考えた言い訳を遮り、涼平が遅刻してきたことを謝罪する。
「黒井君。修学旅行での遅刻は感心しませんよ。まあ、これで5班も全員出席と。」
先生は次の班の出欠確認のため移動する。
「涼平遅かったな。」
「ああ。ちょっと準備に手間取ってな。」
涼平は先ほどのライトの言い訳を採用した。
「間に合って良かったです。涼平さんに何かあったか心配しました。」
「大げさだって。」
涼平たちが会話をしている間に点呼が終わったみたいだ。
「それでは、今から1組から順番に荷物を預けますので先生についてきてください。」
先生の案内に従って飛行機に乗るための手続きを済ませていく。
「ようやく飛行機に乗れたぜ。」
大樹は飛行機の座席に座って愚痴をこぼす。荷物を預けたり、持ち物検査を一般のお客様の邪魔にならないように行われた。その結果、40分近くかかったのだ。
「しょうがないよ。学生多いんだし。」
翔はそう言いながら大樹の隣に座る。
「大樹。窓側の席変わってくれ。」
涼平は大樹に頼む。3人の席位置は左端の3席で、窓側が大樹、真ん中が翔、通路側が涼平となっていた。飛行機のチケットは担任の先生から搭乗前に一人一人配られたのだ。だから、席順を選べなかったのだ。
「まあ、良いけど。」
「ありがとう。」
大樹は承諾してくれたので座席を交換する。周りを見るに他の生徒の間でもやっている事なので特に問題はないだろう。
ちなみに、女子の席位置は席を交代した大樹の隣を通路を挟んで、美影、聖来、ライトの順となっている。
飛行機が出発するアナウンスが流れる。
「シートベルトしてくださいね。」
先生が生徒たちに呼びかける。
シートベルトをしてしばらくすると飛行機が動き始めた。滑走路を走った後に離陸する。しばらくして安定飛行に入る。
「トランプやろっか。」
翔は自分のリュックからトランプを取り出す。
「最初は王道にババ抜きにしようぜ。」
「悪い。俺はパス。」
「どうした涼平?飛行機で酔ったのか。?」
「そうかもしれない。一回寝るわ。」
涼平は別に酔ったわけではないが、酔っていることにしておく方が都合が良さそうだったので話を合わせる。
「じゃあ、仕方ねぇな。涼平抜きの5人でやるか。」
大樹たちはトランプで遊び始める。
涼平は目を瞑る。涼平は魔界で疲れたのだ。涼平は魔界での二日間をひたすら戦闘に費やしていたからだ。涼平は魔界に着くなり、帝国内にある洞窟や山等でかったぱしに魔獣を狩り続けた。主な理由は戦闘をすることで少しでも強くなろうとした。もちろん、涼平は一日二日修行したところで強くならないことは知っている。それに、どんなに修行したところでライトの強さに届くことが無いことも知っていた。けど、涼平はじっとしていられなかったのだ。
「涼平・・・。」
ライトは眠る涼平の姿を見ながらつぶやいた。飛行機までの搭乗するまでの間、涼平と話す機会がなかった。ライトとしては、涼平とゆっくり二人で話したいところだった。ただ、修学旅行は班行動が多い。話せても夜になるだろう。ライトは夜が待ち遠しかった。
羽田空港から那覇空港までのフライト時間は約3時間。涼平はその3時間ぐっすりと眠ることができた。逆に眠りすぎて着陸するまで涼平は起きることはなかった。隣にいた翔に起こされるまでは。
飛行機から降りた後、生徒たちは預けた自分たちの荷物を回収し空港の外で集合した。
「それでは先ほど回収した荷物をバスに入れますので、各クラス指定されたバスの前に移動してください。」
学年主任の先生は生徒たちに指示をだす。
沖縄での移動では観光バスを利用する。一クラスずつに一つのバスが与えられており、バスの席順は既に決まっている。涼平は窓側の席で隣は大樹である。
涼平たちは自分の荷物をバスの乗務員に渡して、自分の指定された席につく。
「ふあ~あ。」
涼平は席につくなり欠伸をする。飛行機で3時間程度寝たとはいえ、ほぼ二日寝てなかったのでまだ眠い。
「なんだよ涼平。まだ眠いのか。」
「大丈夫だ。もう寝ない。」
涼平もさすがに修学旅行の移動中ずっと寝てるのも良くないと考えていた。だから、眠いのを我慢して起きることにした。
担任の先生が生徒たち全員の乗車を確認して運転手に出発の指示を出す。
これからの予定は昼食として沖縄そばを食べる。そのために学校が押さえている飲食店へと向かう。バスの移動中、生徒たちはわいわいと話していた。日ごろは物静かな生徒もはっちゃけているところを見ると、修学旅行が楽しみなことが伝わってくる。
「盛り上がってんな。」
大樹はクラスメイトの様子をみて呟く。
「そうだな。」
涼平は頷く。寝不足が原因で少し頭痛がする涼平からしたら、生徒たちの声が頭に響いて辛い。飛行機では、一般客がいたから騒ぐことができなった。しかし、バスには一般客のような妨げる障害はなかった。つまり、はしゃぐというわけだ。
「涼平は修学旅行の中で一番の楽しみはなんだ?」
「俺は水族館かな。落ち着けるし、ゆっくりできそうだ。」
水族館は一般客がいるから生徒たちは騒がない。それに、水族館は魚に配慮して暗い場所が多い。深海魚のコーナーとかはさらに暗いことだろう。今の涼平が心を落ち着けるには最適な場所だ。
「そっか。」
その後も大樹と話しているとバスは目的地にたどり着いた。生徒たちは先生の指示に従い、順々に店内に入っていく。店内に入ると既に各席に料理が用意されている。生徒数が多いので、全員が同一メニューで事前に作ってもらうように学校がお願いしていた。
生徒たちが全員着席していよいよ食事の時間だ。
「おいしい。」
涼平がそばを食べた感想だった。ありきたりな感想だが、食レポでもないのでこれ以上の言葉はいらなかった。
「そうだな。」
「そうだね。」
大樹と翔が同調してくれる。
料理がおいしいので箸が止まらない。ただ、欠点があるとしたら量だ。そばのサイズは一人前。つまり、並サイズであり、牛丼とかうどんでもそうだが、男子高校生が腹いっぱいになる量ではない。涼平は一瞬でそばを平らげてしまう。
「ごちそさん。」
「ごちそうさま。」
隣で大樹と翔も完食する。
「この後は沖縄での戦争について学ぶんだよね。」
翔が修学旅行のしおりを見ながら次の予定について話す。
「ああ。それが終われば、肝試しがあるわけだ。」
「気合い入ってんな。」
涼平は大樹を羨ましく思う。大樹は自分の好きな人にしっかり想いを伝える覚悟ができているみたいだ。それに対して自分は・・・。
「おう。そりゃあ、俺にとって最大のイベントだからな。」
その後も、修学旅行の話で盛り上がる。(涼平は形だけだが。)
30分もすれば生徒全員が食事を終えていた。食後の休憩を含めて店の滞在時間は約40分程度だった。生徒たちは再びバスに乗り次の目的地に向かう。ここからはクラスによって目的地が違う。涼平たち3クラスはひめゆりの塔、轟壕、平和祈念館の順に回った。
修学旅行なので、ただ楽しむだけでなく、こういった何かしらの学習は必要だ。当然、それを面白く思わない生徒は大勢いた。
しかし、涼平は違った。涼平は魔界の戦争ではあるが、戦争経験者である。人間界の戦争と魔界の戦争を比べて色々と学びがあった。人間界と魔界の戦争での一番の違いは犠牲者だ。人間界での戦争では、地上戦や空襲によって兵士ではない一般人にも被害が及んでいる。それに対して、魔界の戦争の犠牲者は基本は兵士のみだ。もちろん、一般人の被害がゼロではないが、魔界では意図して一般人を巻き込むことはない。被害ある時は、あくまで不慮の事故の結果だ。
戦争について学習した後、生徒たちは2泊お世話になるホテルに到着した。部屋割りは既に決まっている。各部屋3人ずつで、班の同性がメンバーとなっている。涼平の場合は大樹と翔である。3人の中で一人が部屋長として、部屋の鍵を管理する役目が与えられる。涼平の班の場合は翔だ。理由は班員の中で一番真面目だからだ。翔は担任の先生から部屋の鍵を受け取る。
「じゃあ、部屋に行こっか。」
涼平たちは階段を使って部屋のある階まで登る。生徒はエレベーターを使ってはいけないというルールがあるからだ。
部屋の前までたどり着く。翔は先生からもらった鍵を使い扉を開ける。部屋に入り、奥に進むとシングルベッドが3つとテレビが一つあった。
「思ったりより広いな。」
大樹は部屋の一番奥のシングルベッドに座り話す。どうやら、一番奥が大樹のベッドに決定したようだ。
「そうだね。」
翔は部屋の一番手前のベッドに座る。
「ああ。」
涼平のベッドは残った真ん中になった。
「次の予定は夕食だね。18時20分には集合って書いているけど、時間が中途半端だね。」
「そうだな。」
涼平はスマホの時計を見る。現在は18時7分だ。今から行くには早いし、かと言って何かするには時間が足りない。
「ここにいてもしゃーないし、ホテルを見回りながら行こうぜ。」
涼平と翔は大樹の提案に乗り早めに部屋を出ることにした。
ホテルには大浴場があるほかに、売店やゲームコーナーがあった。修学旅行のしおりによると、売店は利用可能だが、ゲームコーナーは利用禁止だそうだ。ホテルを軽く回った後に集合場所に行った。そこには既に多くの生徒が集まっていた。みんな部屋でやることが無かったのだろう。
「こっちだよ。こっち。」
涼平たちを見つけた聖来が手招きする。食事は二班合同で一つのテーブルで食べることになる。食事前の点呼は班で確認するので、予め班で集まっておく方が便利だ。
「何だお前ら。もう来てたのか。」
「部屋にいてもやることがなかったからね。」
大樹と聖来が話している様子を見るに大樹の告白は成功しそうだと涼平は思った。
「それでは、時間になりましたので、班ごと部屋に入ってください。」
先生の声が聞こえ、生徒たちがまとまって部屋に入っていく。部屋には10人から15人が食べられるテーブルがいくつも用意されていた。テーブルには既に料理が置かれていて、テーブルの真ん中には1組1班2班と書かれた札があり、自分たちのテーブルが指定されていた。涼平たちは自分たちの指定されたテーブルを見つける。涼平たち3組5班は3組6班と同席だ。席は指定されていないので、適当に座る。
「うまそうだな。」
大樹はテーブルに並べられた料理を見る。
「そうだな。」
昼飯で大して腹が膨れなかったので、涼平も夕食が楽しみだ。
少しして6班の生徒たちもテーブルに来た。6班の生徒は空いている席に次々と座る。
「おう田中。1日目は楽しめたか?」
「ぼちぼちかな。楽しみなのはこれからだろ。」
大樹は6班の一人である田中という生徒に話しかける。
(田中か。)
涼平は大樹、翔以外のクラスメイトとは仲が良いわけではない。大樹と翔以外のクラスメイトとは、話をする時もあるが一緒に昼飯を食べるとか、移動教室の際に一緒に行動するとかはしない。本当に単なるクラスメイト、友達といえるかすら怪しい。
「全員の点呼が取れました。各班食事を始めて結構です。」
先生から食べていい許可が出た。各テーブルから「いただきます。」という声が聞こえてきた。涼平たちも食事を食べ始める。味はいいのだが、ホテルの料理は沖縄らしさがなく、東京のホテルでも似たようなメニューが出るだろう。
涼平のテーブルでは、男子は男子、女子は女子で別々の会話をしていた。男子の方は大樹と田中を中心として話していて、涼平は話に相槌を打つくらいで余り会話に参加しなかった。
夕食の時間が終わり、いよいよ肝試しの時間となった。生徒たちは全員ホテルの外に集合する。肝試しのルートは6つあり、各クラス一つといった感じだ。この肝試しには何か生徒を驚かせるような仕掛けはない。ただ暗がりの道を二人で歩く。それだけだ。では何でそんな肝試しをするのか。その理由は、1日目の日程が移動と戦争について学習しただけで、生徒にとって楽しいイベントが無かったからだ。学習の方は学びはあるだろうが、戦争の話等を聞いても楽しい気持ちにはならないだろう。
涼平たちは3組が歩くルートの入り口に集合する。先生はクラスの生徒が全員いるか確認する。
「はい。点呼が終わりましたので、二人組を作った人たちから順々に行ってください。」
先生の言葉の後、予め二人組を決めていたペアが次つぎに肝試しを開始する。
「さて、俺たちも二人組を作らないとな。」
「そうだね。せっかくの修学旅行だし、男女で組んでみる?」
大樹と翔は予定通りの言葉を発する。
「いいんじゃない。」
聖来は2人に賛同する。
「修学旅行ですし、良いと思いますよ。」
美影も乗り気のようだ。
「じゃあ、どうやって班決めしようか?」
翔は予定通り大樹に話を振る。
「実はくじ引きを用意しているんだ。」
大樹はポケットの中から割り箸を6本取り出す。その割り箸には1,2,3の番号が2つづつ書かれてあり、同じ番号の割り箸を引いた者同士が同じ班になるというわけだ。そして、この割り箸にはどの箸が何番か分かるように細工をしていた。狙い通りの班分けをするために。
「ちょっとその割り箸見せてください。」
美影は大樹から割り箸を貸してもらう。美影は割り箸をじっと見つめる。
「おかしいですねこの箸。」
「何がおかしいんだ?」
美影の一言に大樹はヒヤリとする。
「1番の番号が書かれた2つの箸は、傷一つない綺麗な物です。2番の番号が書かれた2つの箸の同じ個所に同じ傷があります。3番の番号が書かれた2つの箸も2番と同様です。傷の形が2番と少し違いますが。つまり、男子たちは私たちに先にくじを引かせた後に引いて、思い通りのペアを作ろうとしたというわけです。」
「いや・・・それは。」
美影に作戦が全てばれてしまった。
「男子はダメですね。組みたい人がいるなら、こんな姑息な手を使うのではなく、名指しで指名すればいいのでは。」
「・・・。」
美影の言葉に大樹は押し黙る。
「・・・聖来さん。一緒に行きましょう。」
「えっそうだね。男子は不正しようと企んでみたいだし。」
美影の行為は大樹をたきつけるためにやっているのだろう。美影は聖来の手を取り入り口に向かおうとする。
「まっ待て。」
「何でしょうか。」
大樹が美影たちを呼び止める。
「聖来。俺と一緒に行こう。」
大樹は聖来に向けて手を差し伸べる。
「・・・初めからそう言えばいいのに。」
聖来は大樹の差し伸べた手を握る。そして、そのまま二人で肝試しのコースに向かっていた。
「さて、この後どうしますか?さっきの茶番はあの二人を一緒にするための作戦だったのでしょう。男女でペアを組みますか?」
美影には何から何までお見通しだったようだ。確かに計画とは違うが、本来の目的は果たすことができた。もう男女でペアを組む必要はない。涼平としては女子と組むよりも、翔と二人で肝試しに行った方が良いと考えていた。早い話、ライトとペアを組みたくないからだ。
「そうだね。八神さん僕と一緒に行こうか。」
涼平が言葉を発する前に翔に先手を打たれた。
「いいですよ。」
美影があっさりと了承をしてしまい、涼平がライトとペアを組むことが決定してしまった。
「よろしくね涼平。」
「あっああ。」
涼平は生返事をする。
(最悪だ。)
涼平は頭を抱える。ライトが涼平に告白した後、涼平とライトは2人きりになることはなかった。修学旅行の時でも、常に涼平は大樹か翔の傍にいてライトと2人きりになることを避けていた。肝試しでも、計画通りならくじ引きでペアを決めるつもりだった。大樹と聖来がペアになることは確定として、涼平は美影とペアになるようにくじを引くつもりだった。くじで決まったのなら、ライトは涼平が自分のことを避けたとは感じないと思っていたからだ。
「そろそろ行こっか。いつの間にかスタート地点にいるの僕たちだけみたいだし。」
翔の一言で周りを見渡す。スタート地点には涼平たちと担任の先生以外はいなかった。涼平たちがペア決めでひと悶着あった間に全員肝試しを始めたみたいだ。
「じゃあ、俺たちが先に行っていいか?」
「いいよ。」
涼平は翔の了承を得たので、とっとと肝試しのコースを歩き始める。理由は分かると思うが、肝試しをパッパッと終わらせて、ライトと2人きりの時間を少しでも減らしたかったからだ。
「待ってよ。」
ライトが涼平を追いかけていく。
「ねえ、涼平。」
ライトが話しかけてくる。
(どうするべきだ。)
涼平はライトへの対応を考える。涼平として最悪なパターンは、ライトに自分のことをどう思っているか問い詰められることだ。涼平はそうならないように対処する必要がある。方法としては2つ。一つはライトと話はするが、恋愛話にならないように涼平がずっと会話の主導権を握ることだ。もう一つはライトと会話しないことだ。前者は難しいだろう。会話の主導権をずっと握れるほど、今のライトと話せる内容がない。それに、ライトが強引に話題を変えてくる可能性だってある。後者の方が簡単かつ一番作戦成功率が高い。ただ、ライトの機嫌を損ねるだろうが。涼平は後者を選んだ。
「涼平。」
「・・・。」
「ねえ涼平ってば。」
「・・・。」
涼平はライトの話を完全に無視してスタスタと歩いて行く。その後もライトが何度も呼びかける声が聞こえる。涼平は心苦しかったが、無視するという選択を続ける。女の子に対する態度としては最低だ。涼平はライトに嫌われてもいいと思っていた。むしろ、嫌われていた方が楽とまで考えていた。
「涼平。」
ライトはしびれを切らしたのか、涼平の腕を掴み動き涼平の足を止めることに成功する。
(これ以上は無理か。)
涼平は無視することを諦める。気持ちを聞かれたとしても、嘘をつけばそれで終わりだ。ライトはそれ以上問い詰めることはできなくなるだろう。
「何だ。」
「えっと、肝試しのコースから外れてるよ。」
「えっ。」
涼平は辺りを見渡す。辺りは真っ暗で森の中のように木々が生い茂っていた。肝試しのコースは、生徒の安全も考慮して、コースを案内する明かりが用意されいるはずだ。ゲームで例えると、次の目的地までのルートが地図に記載されていることと同義だ。
「どうやらそうみたいだな。」
涼平はライトの事を無視することに頭がいっぱいで周りが見えていなかった。全然コースを外れていることに気がつかなかった。
「悪いライト。」
「いいよ。涼平が私のことを無視する理由は分かるし、私はそんなことで涼平を責めたりしないよ。」
ライトは大海のように心が広いようだ。
「しおり持ってるから、元の道まで戻れるよ。」
ライトは丸めてポケットに入れていたしおりを取り出す。
「待っててね。今、地図のページを開くから。」
ライトがしおりをパラパラとめくる。その時だった。
ワオーン
犬の遠吠えのような声が聞こえる。涼平が辺りを見渡すと、いつの間にか犬みたいな動物に周囲を囲まれていた。
「これって肝試しの仕掛けじゃないよね。」
ライトは手に持っていたしおりをしまい周囲を警戒する。
「ああ。仕掛けはないってしおりに記載してあるしな。それにこの動物、よく見ると魔界に生息するシャドーウルフだ。たぶん狙いは俺だ。こいつらの食料は魔力を帯びた肉だからだ。」
「私も戦うよ。もう守られるだけの女の子じゃないんだから。」
ライトは涼平の後方に立つ。いわゆる背中合わせというやつだ。これで、涼平とライト二人の眼で死角がなくなる。
「・・・。」
涼平は神剣デモンスレイヤーを顕現する。ライトも神剣ゴッドスレイヤーを顕現する。
シャドーウルフは一斉に涼平とライトに襲い掛かる。シャドーウルフの猛攻を躱し、一匹ずつシャドーウルフを殺していく。シャドーウルフの数は全部で30匹といったところか。大した数ではないし、一匹一匹はそこまで強くない。すぐに片づけることができるだろう。
一匹、また一匹。涼平はバッサバッサとシャドーウルフを切り殺していく。涼平が10匹殺したところで、シャドーウルフの群れは全滅した。残りの20匹余りはライトが倒したということだ。
「終わったね。それにしてもどうして魔界の魔獣が襲ってきたんだろうね。」
「これもシンラの計画じゃないか?魔獣を人間界に送れるのは神様だけだしな。」
「それもそうだね。だったら気にすることはないかな。それより、早く肝試し終わらせよ。」
ライトはそう言って歩き始める。ライトとしては涼平とこの肝試しの時に色々と話したが、涼平が自分と会話する気が無いことは目に見えて分かった。それなら、早く肝試しを終わらせて部屋で聖来たちと話している方が有意義だと考えたからだ。
「そうだな。」
涼平は歩き始めるライトを見つめていた。涼平が10匹倒している間に、ライトは20匹倒していた。分かってはいた。分かってはいた。ライトが自分よりも強いことは。けど、こうやって比較できる材料があると、余計に心を痛める。
「・・・。」
涼平はライトの後ろを歩いて行った。
時は少しさかのぼって、涼平とライトが肝試しのコースを歩き始めた少し後。
「さて、ライトさんたちがスタートしてから、数分は経っていますし、私たちもスタートしますか。」
「そうだね。」
美影と翔も肝試しのコースを歩き始める。
「大樹君上手くいってるかな?」
「大樹さんはこの肝試しの際して、聖来さんに告白するつもりですか?」
「予定ではそうなってるけど、大樹君の勇気次第かな。」
「そうですね。告白は大変みたいですから。」
翔と美影が大樹たちの話をしていると「ワオーン。」と動物の鳴き声が聞こえた。
「なんだろうね。」
翔は鳴き声を不審に思い辺りを見渡す。この肝試しには生徒を脅かす仕掛けはないからだ。すると、翔と美影の周りには20匹程度の動物が周囲を囲む。
「何かの動物が僕たちの周りを囲んでるけど、これって肝試しの仕掛けじゃないよね?」
「ええ違います。」
美影は翔の質問に返答する。
(これはまずいことになりましたね。この動物はおそらくシャドーウルフ。第六感によって魔力を感知して食料を求める魔獣。私の力は魔力と少し違いますが、第六感とは恐ろしいものですね。)
「八神さんどうしよっか。僕たちを襲いにきたように見えるんだけど。」
「おそらくそうでしょうね。」
(さて、どうしましょうか。この程度の数なら、すぐに殺すことはできますが、私が力を使うとおそらくシンラに私のことがバレてしまうでしょう。かといって、シャドーウルフから人間の翔さんが逃げられると思えません。肝試し中に生徒が死亡する。それは大きな問題となるでしょう。かみ殺されたとなると、涼平さんやライトが疑問に思うことは確実です。そうなると、シンラ以外にも私を疑われてしまう。それは避けたいですね。)
美影はじっくりと考える。シンラにバレたとしても、ライトたちに自分たちの存在を知らせるとは限らない。彼女にとって自分の存在がイレギュラーであることは間違いない。
(どっちにしても、同級生を殺させるわけにはいきませんね。)
「翔さん。あれなんでしょうか。」
「えっ何?」
翔の気をそらす。その隙に美影は翔の後頭部を殴り気絶させる。
「さてと、これで気兼ねなく殺せますね。ゴッドサイズ出番ですよ。」
美影は大きな鎌を顕現させる。そして美影はその鎌でシャドーウルフを薙ぎ払う。瞬殺だった。
「さて、これでおそらくシンラに正体がバレたけど、この先どうなるのでしょうか?楽しみですね。」
美影は武器をしまい、気絶する翔を担いで肝試しのコースを歩き始める。
美影の予想通りシンラは肝試しのコースを監視していたのだ。
シンラは自分の計画が終盤に差し掛かり、計画がうまくいくことを確認するために涼平たちが宿泊するホテルの屋上に移動していた。シャドーウルフをライトたちに襲わせたのは涼平の予想通りシンラだった。シンラはライトが生き物の命を奪えるか確認したかったのだ。どんだけ強くなっても、命を奪うことができなければシンラの作戦を遂行することはできない。そのために、まずは人や悪魔の形をした二足歩行の生物の生物ではなく、四足歩行の動物を殺させることから始めたのだ。ここで躓いたら、シンラの計画は失敗してしまう。そんなシンラの考えは杞憂に終わった。ライトは何のためらいもなく、自分に降りかかる火の粉を払うことができたのだ。
「良かった。」
シンラは一安心した。そして、ライトたちが襲ったシャドーウルフが予定していた数よりも少なかったこと疑問を感じた。その疑問を払拭するためにシンラは肝試しコースを見渡した。すると、シャドーウルフがとある男女を取り囲んでいる場所を発見した。
「あれは確かライトと同級生の翔さんに美影さんでしたか。」
シンラはなぜ二人がシャドーウルフに囲まれているのか疑問に思う。シャドーウルフは魔力を持つ者しか襲わないから、涼平しか襲わないとシンラは考えていた。だが、シンラの疑問はすぐに払拭される。美影が大きな鎌を顕現させて一瞬でシャドーウルフを殺したからである。
「まさか彼女が生きていたなんて。」
シンラは予想外の出来事に困惑する。




