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 二 3つの世界

 「えーっと、ライトは神様なんだ。」

 涼平はライトの言葉にあっけにとられた。

 「ちょっと涼平信じてくれないの。」

 ライトは涼平の返答が自分の想定した内容と違った。ライトは涼平が「神様なんだ。スゲー!!」くらいビックリすると思っていたのだ。

 「神様がいることは俺も信じてる。ただ、ライトが神様とはちょっと・・・。」

 「後で私の神の力を見せるから今は信じて。」

 ライトが懇願する。

 「・・・分かった。信じるよ。」

 涼平はライトが神様だと信じないことには、話が先に進まないと感じ半ば強引にライトを神様だと信じた。

 「まず、この地球には三つの世界が存在するの。一つはここ人間界、一つは私たち神様が住んでいる神界、最後に悪魔たちが住んでいる魔界があるの。」

 「そうか。」

 「ちょっと涼平。私が神様だって信じなかったのに、どうして悪魔が住んでいる魔界の存在はすんなり信じるの?」

 ライトは涼平の反応が気に食わなかったのだ。先ほど自分が神様だと言った時には、呆れた表情をしていたのに、今回は呆れた表情どころか眉一つ動かさなかった。

 「えっ。・・・ああ、ライトを神様だって信じたら、他の話も本当だと信じないと、ライトが嘘を言っていることになるだろ。」

 「そうね。」

 ライトは納得した。

 「じゃあ、続きを話すよ。さっきの三つの世界の話だけど、正三角形を想像してもらえばいいわ。正三角形の底辺の両端の二点を人間界と魔界とすれば、残りの点が神界になるよね。三つの世界の位置関係は、神界が底辺の二点に位置する人間界と魔界を監視する位置にあるの。」

 「なるほど。」

 「私たち神様は人間界と魔界に実際に行って人間や悪魔の状況を事細かに記録するの。簡単に言えば歴史の授業みたいに、人類史と悪魔史を記録するの。」

 「じゃあ、ライトは今までに色々な時代の人間界や魔界を見てきたのか?」

 「ううん。私はね、さっきの授業の例で言うと教科書を作る人なの。他の神様が人間界や魔界の情報を記載した紙を毎日送ってくるから、私はその紙を見て重要な部分を切り取って神様用の史書を作るの。だから、私は人間界にも魔界にも行ったことが無いの。」

 「だから、ハンバーグかスパゲッティで迷ってたのか。」

 「そうだね。私は人間界に降りたことがないし、神様は食事をしなくても生きていけるから、神界では基本食事はしないわ。ただ、数百年に一度、神様が全員集合する時があるの。その時には、紅茶と茶菓子が出るから、それを口にしたことがあるだけ。」

 「そうか。」

 もし、自分が何千年も神界で史書を作成してるだけと考えると、言葉にならないくらい退屈だろうと考えた。けど、ライトの言葉からはそのような感情が見られなかった。

 「まあ、食事の話は置いておいて、ここからが本題よ。私に魔界にある大国の国宝を盗んで来いと指令が渡されたの。それで、予定通りに国宝を盗んだのだけど、脱出する際にトラブルがあったみたいで、なぜか人間界に来てしまったの。」

 「脱出方法は何だったんだ?魔界から人間界にそう簡単に行き来できるものなのか?」

 涼平はライトの説明に疑問を持ち質問をした。

 「そうだったね、涼平にはまだ3つの世界の移動方法を教えてなかったね。3つの世界を行き来することができるのは神様のみで、神様は3つの世界を行き来することができる扉を作ることができるの。さっき3つの世界の関係を正三角形を例にしたけど、三角形は三つの頂点とその頂点を繋ぐ三つの辺があるよね。神様はその辺を扉という形で作ることができるの。正確には扉はもう少し便利なんだけど、今は3つの世界を繋ぐものくらいに考えて大丈夫よ。」

 「じゃあ、ライトが人間界から神界を繋ぐ扉を作って帰ればいいだろ。」

 涼平は思ったことを言った。先ほどまでのライトの話的に、人間界に来たことが問題であると涼平は悟ったのだ。

 「そうなんだけど、実は私神様の中で唯一扉を作ることができないの。だから、私の力で神界に帰ることはできないの。」

 「えっそうなのか。」

 涼平は驚いた。

 「そうなの。扉の作成の仕方は、シンラ様っていう私たち神様の中で一番偉い神様から教えてもらうのだけれど、私には教えてくれなかったの。」

 「何か理由があるんだろ。例えば、ライトには扉を作成するだけの力が無いとか。」

 涼平はライト一人だけに扉の作成の仕方を教えないことに不自然さを感じた。

 「私もそうなのかなと思って、一回シンラ様に聞いてみたことがあったの。そしたらシンラ様は「ライトは史書を作ることが仕事なんだから、扉を作成する必要なんてないでしょ。」って言われたの。」

 「・・・そうか。ところで、神界と連絡は取れないのか?ライト以外の神様が扉を作成できるなら、他の神様に頼んだらいいだろ。」

 涼平はライトの話を頭で整理しつつ解決策を提案する。

 「実はもう試したの。けど、誰一人応答してくれなくて。」

 ライトはため息をつく。

 「・・・ライト、恐らくライトに出された指令は、ライトを人間界に閉じ込めるために出されたんだ。」

 涼平はこれまでの話を聞いた上で自分の考えをまとめる。

 「そんなことシンラ様がするわけがないよ。」

 ライトは声を荒げる。ライトにとってシンラという存在が大きいから、涼平の話を信じることができないのだろう。

 「ライトの気持ちは分かる。仲間に裏切られたみたいな言い方をしたからな。けど、俺の推察は正しいと思うぜ。仮に、国宝を盗むことが本命だったしよう。そしたら、ライトがシンラ様の立場だったら、扉を作成できないライトを指名するか?しないだろ。そもそも、一回も魔界に行ったことがないライトにいきなり魔界での指令を与えるのが不自然だ。俺がシンラ様だったら、魔界に何度も行ったことがあり、扉を作成できる神様を選ぶ。その方が不慮の事故が起きても対処しやすいからだ。」

 涼平はライトに、彼女が出された指令の不可解な点を伝える。

 「・・・。涼平の考えも一理あると思ったわ。でも、そしたらシンラ様は何が目的なの。私が魔界で国宝を盗んだ意味は無かったの?」

 ライトは冷静さを取り戻し、涼平に質問する。

 「恐らくだが、国宝を盗んだこと自体には意味があると思うぜ。ライトを人間界に閉じ込めることだけが目的なら、ライトに人間界の調査とかの指令を出して人間界に連れていけばおしまいだからな。ただ、なぜライトを人間界に閉じ込める必要があるのかは分からない。」

 涼平はライトの質問に自分が思ったことを言った。

 「そうだよね。けど、今はそのことを気にしてもしょうがないね。涼平の話が事実にしろ、私が人間界に来たことがたまたまにしろ、私が神界に戻れなくて人間界に留まるしかない事実は変わらないからね。」

 「そうだな。ところで、今までの話を聞いて俺に用ができるような話はなかったと思うけど。」

 ライトの話はライトが今に至る経緯を説明しただけで、神界に戻れないという問題はあるものの、それは涼平がどうにかできる問題ではない。涼平は自分への用件が何なのか疑問に思う。

 「私が神界に戻ることができないから、しばらくの間人間界で過ごすしかないでしょ。けど、私は人間界で使えるお金を持ってないから、宿に泊まることができないの。正直に言って、初めて来た人間界で一人で野宿するのは心細いの。それに、私が涼平の学校に向かっている時や、校門の前で待っている時に何故かたくさんの男の人に話しかけられたの。恐らく、私が神様だから目立つのだと思うの。そんな私が野宿したら警察のお世話になることは避けられないし、そうなったら私は身元を証明するものもないし、面倒な事になると思うの。」

 「確かに。」

 涼平は納得した。

 (まあ、ライトが男に声をかけられる理由は違うがな。)

 涼平は改めてライトの容姿を見る。さすが神様と言うべきか、ライトの容姿は千年に一度の美少女よりも、かわいいだろう。そんな美少女が町を歩いていたら、男は話かけたくなることは必然だ。

 「そうでしょ。そこで、提案なのだけど、私を涼平の家にしばらくの間泊めてくれない。」

 ライトはいきなりとんでもない発言をした。

 「えっ。ライトを俺の家に泊める?無理無理無理。」

 涼平はライトのお願いを拒否した。

 「どうして?涼平の両親は私の力で家にいてもおかしくないように細工するし、お金なら後で私が使用した分は返還してもらうようにシンラ様に頼むから、たぶん涼平に迷惑はかからないと思うけど。」

 ライトは涼平が否定する理由になるであろう障害を推定し、その解決策を提案する。

 「俺は一人暮らしだし、お金もライトが一人増えても大丈夫なくらいはある。」

 涼平はライトの解決策は無意味だと伝え、ライトに遠回しにその二つが涼平がライトの提案を拒否する理由じゃないことを伝える。

 「えっ・・・。それじゃあ、逆に何が理由でダメなの?」

 ライトは涼平の返答に疑問を持った。ライトには先ほど自分が挙げた障害以外に涼平が拒否する理由に心当たりがなかったからである。

 「世間体だよ。高校生の一人暮らしに、いきなりライトみたいな女子が一緒に暮らすようになったら、色々噂されるだろ。」

 ライトの実年齢は何千、何万年と生きているだろうが、見た目は高校生、大学生くらいだ。そんな男女が同じ屋根の下で暮らしていたら、根も葉もない噂がたつのは時間の問題だろう。ましては、同級生にばれでもしたら次の日から白い目で見られるのは確実だろう。

 「何の事?私と涼平が一緒に住んだら何かおかしいの?」

 ライト涼平の言ったことが本当に分からないのだろう。頭の上に?マークが浮き出てきそうなくらい理解していないみたいだ。

 涼平はライトは実際が実際に人間界で生活をしたことがないから分からないのだと考えた。噂という言葉、辞書的な意味を知っていてもその恐ろしさは体験しないと分からない。料理で例えると、ハンバーグに必要な材料やハンバーグの作り方は知っているが、実際にどんな味がするのかを知らないこと同じだ。食べてみないと美味しいのかまずいのかも分からない。

 だから涼平は噂を理由にライトを説得することが難しいと考え、別の切り口から攻めることにした。

 「逆にライトに聞くが、どうして俺に頼むんだ。初対面だし、別に俺である必要はないだろ。」

 「確かに涼平とは初対面だけど、私は涼平しかいないと思ったよ。だって、私と涼平の出会いって一歩間違えれば事故になるような出会いだったじゃない。」

 「まあ、確かにそうだけど。もしかしてライト、出会った時に迷惑をかけたから、もう一つくらい迷惑をかけてもいいなんて思ってないだろうな。」

 涼平はライトの出会いの中で、お願いをしようとなる理由が見つからず、涼平の中でありそうな理由を考えたのだ。

 「違うよ。空から私が落ちてきて、涼平はその下敷きになったでしょ。涼平が怪我をしなかったからかもしれないけど、私を責めたりせずに、私の心配を真っ先にしてくれたでしょ。普通の人なら、まず自分の心配をして、その後私を責め立てると思うの。けど、涼平はそうじゃなかった。だから、私は涼平は優しい人だと思ってあなたに頼んだのよ。」

 「・・・。」

 涼平はライトが自分を選んだ理由がとってつけたような内容ではなかったので、返答に苦しんだ。涼平は今までの中でライトがとても嘘をつくような人間(神様なのだが)には見えなかったので、おそらく本心で言っているのだと考えた。涼平はライトに優しいと言われて、正直なところとてもうれしかった。そして、涼平の中にライトの期待を裏切ることができないという考えが芽生えた。

 「分かった。ライトが神界に帰るまで、俺の家にいていいぞ。」

 涼平はライトを家に置くことにした。

 「ほんとに。ありがとー。」

 ライトはおもちゃを買ってもらった子どものように喜んだ。

 「話もまとまったし店を出るか。」

 涼平は言った。

 「そうだね。早く涼平の家に行きたい。」

 ライトも同意してくれたのでお会計を済ませて店を後にした。

 涼平とライトは涼平の家までの道のりの間、とりとめのない話をした。途中、涼平がライトに自分が神様であることを証明して欲しいと頼んだら、ライトが「欲しいものとか何かある?あんまり高いものはダメだよ。」と言われたので、「じゃあ、ソフトクリーム。」と言った。食後のデザートを食べていなかったので、歩きながら食べられる物をお願いすることにした。「分かったわ。」そう言うとライトは手を叩いた。すると、涼平の目の前にソフトクリームが出現した。涼平は恐る恐るそのソフトクリームを手に取り、味を確認する。普通のソフトクリームだった。涼平はすごいと感心しつつ、どうやったのかと聞くと、「秘密よ。」とライトに言われたのであきらめることにした。ともかかく、ライトが本物の神様であることが証明された。

 話をしていると歩いている時間が苦にならず、気づけば涼平の家に着いていた。

 「ここが涼平の家なのね。一人暮らしなのに、大きな家ね。」

 ライトは涼平の家の外観を見て思ったことを率直に述べた。

 「そうだな。使ってない部屋もたくさんある。」

 涼平はそう言いながら家の鍵を開ける。

 涼平はリビングで学校の荷物を置くとライトに家の間取りを説明することにした。

 涼平の家は二階建ての一軒家である。一階にはリビングとダイニング、トイレにお風呂がある。二階には4つの部屋があり、1つは涼平の自室として使用しているが、残りの3部屋は空き部屋である。

 「ライトにはこの部屋を使ってもらう。ベッドがあるしな。」

 涼平の部屋が階段から一番近い部屋で、ライトにはその隣を使ってもらうことにした。

 「ありがとー。」

 ライトは部屋の中に入って部屋の中を確認する。

 「ねえ、涼平。この部屋、前に誰か使ってたの?」

ライトは本棚にある本や、クローゼットの中にある服が女性向けであることから、涼平以外に誰かいたことが容易に推察できた。

 「ああ。俺が一人暮らしになれるまで、一緒に住んでくれていたんだ。その人が使っていた部屋だ。嫌だったか?」

 「嫌じゃないよ。ちょっと気になっただけ。」

 「そうか。他にこの家で何か気になったこととかあるか?」

 「特にはないよ。それより、涼平の部屋にたくさんゲームとか漫画とか置いてあったよね。」

 「まあな。一人で家にいるとゲームしたり、漫画読むくらいしかやることないしな。」

 「それでね、私ゲームや漫画にすごい興味があるの。やっていいかな?」

 「もちろん、いいぞ。」

 涼平はライトを自分の部屋に連れていき、ライトがやりたいゲームの遊び方を軽く教えた。

 「ところでライトは家事はできるのか?」

 涼平はたぶんできないだろうと思いつつも、一縷の望みにかけて聞いてみた。

 「できないよ。」

 ライトはゲームに夢中になりつつも、しっかりと返答してくれた。

 「そうだよな。」

 予想通りの返答だった。

 「でも、私もこの家のお世話になるわけだから、家事できるようにならないとダメだよね。」

 「いや別にしなくていいよ。ただ、洗濯だけはライトにできるようになってもらいたい。さすがに俺がライトの服を洗濯することは忍びないというか・・・。」

 涼平も男の子であるので、ライトからしたら自分の衣服を男の人に触られるのは嫌だろうと涼平は考えた。

 「私は気にしないけど、分かったわ。けど、洗濯だけでいいの?料理はさすがに不安だけど、掃除くらいならするよ。」

 ライトはできる範囲でこの家のために働こうという意思を示した。

 「他の家事をする必要はないよ。せっかく人間界に来たんだから楽しいことをたくさん経験することに時間を使った方がいいよ。」

 涼平は洗濯の件に関して、ライトが気にしないなら少し惜しいことをしたかもしれないが、ライトに人間界で楽しんでほしいことは本心である。だから涼平はライトに家事をしてもらう必要はないと考えた。

 「じゃあ、俺は明日の実力テストに向けてリビングで勉強してるから、何かあったら呼んでくれ。」

 涼平はそう言って一階に降りて勉強を始めた。


 時刻は午後7時を回り、世間では夕食の時間帯となった。涼平の家でも夕食の時間であった。涼平は普段から夕食は自分で作っている。今日はライトも家にいるわけだし、いつもは1人分でよいところを、これからは2人分作らなければならない。今日はライトが来て初日ということもあり、張り切って料理を作ったのだ。

 「すごーい。涼平は料理できるんだ。」

 ライトはダイニングテーブルに並べられた料理を見て感心する。

 「まあ、一人暮らししてるし、自分で料理を作れるようにならないとダメだからな。」

 涼平は言った。涼平は一人暮らしをしている中で、料理を作ることに楽しみを見出したのだ。

 「美味しいね。」

 ライトはメインの一品であるビーフシチューを食べた感想を言った。

 「よかった。」

 涼平はライトに満足してもらえて安堵した。

 涼平も料理を食べ始めた。

 「なあライト。明日、学校は実力テストで半日で終わるから、午後に近くのショッピングモールに行って、ライトの日用品を買おうと思ってるんだけど、明日は空いてるか?」

 「空いてるよ。神界と連絡が取る以外にやることないから。それより、私のためにそこまでしてもらっていいの?」

 ライトは涼平の優しさに申し訳ない気持ちになった。

 「気にするな。ファミレスでも言ったが、お金に困っているわけではない。ライトがもしかしたら1か月くらいいることになるかもしれないし。日用品以外にも欲しいものがあったら言ってくれればいいから。」

 「ありがとね。」

 涼平の善意を無下にすることはできない。だから、ライトはお言葉に甘えることにした。

 「決まりだな。俺は学校から一回戻ってくるから、ライトは家で待っててくれ。」

 「分かったわ。」

 涼平とライトが明日ショッピングモールに行くことが決まった。


 食事を終えた後、特にこれといったこともなく、涼平とライトの出会いの日は終わった。


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