十九 期末テスト
黒井涼平、人間界の生活の中で最大のピンチを迎えていた。
魔界での戦争を無事に乗り切ることができ、二週間ぶりに学校に通ったのだ。二週間という長期間、学校を欠席した理由は、ライトの力ででっち上げた。神様の力すげーって実感しつつ、授業を受けていた。そこで、とあることに気づく。期末テストの一週間前で、テスト期間に入っていることにだ。私立神命学園は、二年生が七月の上旬に修学旅行に行く関係から、期末テストは全学年六月の最後の週に実施することになっているのだ。そして、今は六月の三週目。もうテストまでの時間がないのだ。
一般的な学生ならテスト一週間前までは、部活動やアルバイト等に勤しんでおり、テストのことなどは頭の中にはないだろう。涼平自身もテスト前まではそれほど勉強をしているわけではない。では、何が問題なのか?それは涼平が二週間の間、学校の授業を一切受けていないことだ。涼平は塾や予備校に通っていないので、新しい単元、知らない内容は全て学校の授業で補完する必要がある。教科書を見れば解決できるのでは?と思う人がいるかもしれないが、涼平の場合は難しいのだ。暗記科目や語学は時間させかければどうにかなるが、問題は理数系の科目だ。数学はまだできないことはない。魔界でも人間界と少し違うが使われていた。しかし、物理基礎・化学基礎はそうではない。物理基礎、そもそも魔界では魔法があるので、人間界の物理法則と根本的に違う。化学基礎、人間界と魔界で存在する元素の種類は違う。涼平は普通の人間なら持っているはずの常識が欠けている部分がある。
一回くらい赤点を取ったからったといって、高校を卒業できなくなるわけではない。だから、赤点をとることが問題かというとそうではない。だが、期末テストで赤点を取った科目の数だけ、夏休みに補習を受けなけらばならない。しかも、二週間の間毎日。それだけは絶対に避けなければならない。赤点に該当する点数は、40点以下と少し厳しめになっている。
だから、涼平は躍起になる。家に帰って少し休憩したら勉強開始。夕食、風呂の時間はゆっくりと休憩し、それ以外の時間はひたすら勉強。まずは暗記科目を重点的にする。勉強内容を脳に定着させるには、毎日の復習が大切だからだ。後は、苦手な理数系の科目は勉強したくないという心理的な理由もある。
涼平が勉強を開始してから三日が経った。
「まずいな。」
涼平は自分の置かれている状況について分析する。今のままでは、赤点を回避できるのは現代文、古典、英語(文法)、英語(長文)の四つだけだ。ちなみに、期末テストの科目数は、先ほどの四つの他に、世界史、数学Ⅱ、数学B、物理基礎、化学基礎、保健体育だ。世界史と保健体育は暗記科目なので、残りの期間が詰めればたぶん回避できる。
「どうしよっかな。」
正直言って手詰まりだ。何も打つ手がないので、がむしゃらに勉強するしか選択肢がない。
涼平が悩んでいると、
コンコンコン
涼平の部屋の扉がノックされる。
「どうぞ。」
ガチャ
扉が開いてライトが部屋に入ってくる。
「どうしたんだ?」
ライトが涼平の部屋まで訪ねてくるのは珍しかった。ゲームで一緒に遊ぼうと誘いのきたのだろうか?人間界に帰って来てから、テスト勉強で手一杯でライトとゲームする時間を一切とれていなかったのだ。
「最近、涼平が勉強で困ってるみたいだったから、私に手伝えることないかなって思って。私、どんな教科でも教えることできるよ。」
「いいのか?ライトにも色々やることがあるだろ。」
涼平としてはライトに教えてもらえるならありがたい限りだ。ライトは神様であり長年生きてきたことから、豊富な知識があり、前回の中間テストは全教科満点だった。もちろん、頭が良いからと言って教えることが上手とは限らない。しかし、涼平の今の状況を変えれるチャンスかもしれない。ただ、ライトも決して暇ではない。ライトには史書を作成するという仕事がある。聞く話によると、数時間はかかるらしい。涼平の勉強に付き合っていたら、作業時間が圧迫されることは確実だ。
「私は大丈夫だよ。それより、涼平の方が心配だよ。赤点をとったら夏休み補習でしょ。そしたら、私と夏休み遊べなくなっちゃうじゃない。だから、これは私のためでもあるんだよ。」
ライトは夏休みを楽しみにしている。それを補習なんか邪魔されたくないのだ。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。」
ライトが問題ないなら、涼平はこれ以上とやかく言う必要はない。自分の利益になる最適な選択をするだけだ。
「うん。それじゃあ、自分の部屋から椅子持ってくるから、少し待っててね。」
ライトは一度部屋を出て椅子を取りに行った。
ライトの部屋は涼平の部屋の隣なので、部屋を出て数十秒で戻ってくる。ライトは椅子を涼平の座っている椅子の隣に置いて、その椅子に座る。
「どこかが分からないのかな?」
ライトは涼平の方に身を寄せる。
(ちっ近いな。)
涼平の勉強机は一人用なので、そこまで大きくない。だから、涼平とライトの二人が机に収まろうとすると、身を寄せるしかないのだ。
(それに何かいい匂いがするな。)
涼平はライトの方をチラリと見る。ライトはパジャマ姿なので、おそらく風呂上りなのだろう。この匂いはライトの使っているシャンプーの匂いだと推測する。
「ねぇ涼平、聞いてる?」
ライトは返事のない涼平にもう一度声をかける。
「ああ、とりあえず、物理基礎を教えて欲しい。」
涼平は鞄から物理基礎の教科書を取り出す。
ライトの物理基礎の授業が始まる。ライトの授業は、予想通りと言うか、予想外と言うか、すごく分かりやすかった。ライトの授業方法は、教科書の例題を丁寧に説明してくれて、練習問題を涼平が解くといった感じだ。涼平が練習問題で詰まった時は、横からヒントをくれた。
ライトの授業は効率的というか、目的が赤点回避なので、テスト範囲の重要な部分を重点的に勉強し、高得点を取るための応用問題の解き方はスルーした。それのおかげで、テスト範囲の全内容を3時間程度で終わった。
「これでテスト範囲は一通り終わったね。後は、演習問題で馴らせば大丈夫だと思うよ。」
ライトは椅子から立ち上がり身体を伸ばす。
「ありがとう、ライト。」
涼平はライトにお礼を言う。時計を見ると11時を過ぎていたので、ライトに長い時間付き合わせてしまったことを申し訳なく思う。
「私、部屋に戻って史書作ってるから、まだ勉強するなら分からないところ質問しに来ていいよ。」
ライトはそう言い残し部屋を出ていった。
「もう少し頑張るか。」
涼平は物理基礎の問題集を開き、テスト範囲に該当する問題を解いていく。
それからテストの当日までライトはテスト勉強を手伝ってくれた。化学基礎、数学Ⅱ、数学Bと理系科目を中心に、英語や国語の不安の部分も教えてもらった。テストまでの間に、土日を一回挟んだ。その時は、ライトに半日勉強に付き合ってもらい、涼平は自分の学力が向上していることを実感する。
いよいよ、テスト当日。
初日は数学Bと化学基礎の2科目だった。初日から、文系クラスを泣かせにきている。涼平はライトに教えてもらった成果を発揮する。苦手な理数科目で確かな手ごたえを感じた。
テストの日は半日で帰宅することができるので、またライトに勉強を手伝ってもらった。そして、二日目、三日目、四日目とテストを受けていく。涼平の中では赤点になるような点数はとってないと信じている。
そして、最終日。教科は古典と物理基礎。涼平の天敵である物理基礎がある。ちなみに、涼平の中間テストの物理基礎の点数は47点で、赤点回避ギリギリの点数だった。しかし、今回は違う。ライトとの勉強で涼平の物理基礎のレベルは引き上げられた。涼平は万全の状態で物理基礎に臨んだ。
全教科のテストが終了した。鬼門だった物理基礎は過去最高の出来だと涼平は感じていた。これで、夏休みを満喫することができるだろう。
「テストどうだった?赤点は回避できそう?」
ライトが心配そうな顔をしている。
「大丈夫だ。ライト先生のおかげで何とかなりそうだ。」
涼平はグーサインをする。
「そっか。良かった。」
ライトは安堵する。
「ライトさん、テストはどうでしたか?」
美影がライトの傍まで来て質問する。
「うーん、ぼちぼちかな。今回は涼平の勉強みてたから、自分の勉強は余りできなかったよ。」
ライトは美影に返事をする。ライトの言っていることは事実なのだが、傍から聞けば謙遜しているようにみえるだろう。
「そうですか。」
美影はおそらくライトに探りを入れたのだろう。美影は去年までは、テストで全教科満点をとり、他の追随を許さない圧倒的一位だった。しかし、今年に入ってライトという全教科満点をとるライバルが現れたのだ。美影はライトのテストの出来が気になるのは当然と言えば当然だろう。
キンコンカンコーン
チャイムが鳴り次の授業が始まる。テスト明けの授業は、修学旅行での自由行動の内容を決めるためにあてられた。期末テストを乗り切った後に通常授業は、生徒のやる気を削ぐだろうから、これは先生の配慮なのだろう。
修学旅行はの行先は沖縄で二泊三日の旅となる。(普通科の場合)。ちなみに、特進クラスは東京、音楽科はドイツに修学旅行となる。その中で、三日目に約八時間の自由時間があるのだ。その自由時間は事前に決められた班での行動となる。その班決めは、涼平たちが魔界にいる間に行われていた。欠席者はクラスメイトの話し合いで勝手に割り振られた。とは言っても、班決めが行われる前から、クラス内で一緒の班になろうと内々でグループが作られていた。涼平たちはいつものメンバーである、大樹・翔・聖来・美影の四人を含めた六人班であった。
生徒たちは班ごとに一か所に固まって、自由行動の行き先について話し合い始めた。
「とりあえず、皆が行きたいところ言ってて。」
聖来が場を仕切る。こういう話し合いの場では、誰かが先陣をきってくれるとありがたいのだ。
「私、買い物したいから国際通りに行きたい。」
ライトが発言する。ライトは以前からこの修学旅行が楽しみで色々と調べていたのだ。
「私は首里城ですかね。世界遺産にもなっていますし、一度は見てみたいです。」
美影も発言する。頭の良い美影らしいというか、修学旅行でも学びを得ようとしているんだな。
「男子たちはどう?」
聖来は涼平たちの方を見る。
「俺は特にないかな。」
涼平はそう発言する。話し合いにおいて最悪な返しだが、涼平はそう答えるしかなかった。涼平は魔界での戦争や期末テストで忙しくて、下調べを十分にできていなかった。唯一行きたい場所であった水族館は、二日目の日程に組み込まれているので、自由行動でわざわざ行く必要がないのだ。
「俺もねーな。」
大樹は興味なさげに答える。
「僕はみんなが行きたいところでいいよ。」
翔は主体性のない返事をする。
「ちょっと、やる気あるの?そんな態度だったら女子で勝手に決めちゃうよ。」
聖来は男子たちの発言に呆れる。
「じゃあ、俺たちは行きたいところ調べてくるから、女子でとりあえず決めといてくれ。」
大樹はそう言って立ち上がる。大樹は涼平と翔に目で「行くぞ。」と合図を送り教室を出る。涼平と翔はそれを受け取り、大樹の後に続いて教室を出ていった。
この自由行動を決める授業の間、生徒たちが調べものができるように、パソコン室と図書室が自由に使えるようになっているのだ。
「それで、パソコン室と図書室どっちに行くんだ?」
涼平は質問する。
「そんなとこ行くわけないだろ。今から、外の中庭でゆっくりさぼるんだよ。」
「えっ!!!・・・いや、それでもいっか。」
涼平は驚いたが、よくよく考えるといいかもしれないと感じた。特段行きたいところがあるわけでもないし、皆で行けばどこでも楽しいだろう。それに、涼平は期末テストの勉強で疲れていたので、ゆっくり休みたかったのだ。
涼平たちは中庭に移動した。涼平たちは中庭のなかで、教室から見えない位置に陣取った。聖来たちにさぼっていることがバレないためだ。
「中庭に来たのはいいけど、これから何するんだ。昼寝でもするか?」
「いや、実は大事な話があってな、わざと教室を抜けれる状況を作ったんだ。」
「「大事な話?」」
大樹の真剣な表情に涼平と翔は疑問に思う。何か重大なことあったけ?
「ああ。実は俺、修学旅行で聖来に告ろうと考えてる。」
大樹は少し顔を赤くしながら言う。
「そっそうなのか!!」
涼平は驚いた。確かに、修学旅行と言えば学生の告白イベントの最高峰だが、まさか大樹が告白を考えているなんてな。まあ、二人は幼馴染だし、恋愛感情を抱いていても不思議ではない。
「やっと重い腰をあげたんだね。」
翔はどうやら大樹の気持ちに気づいていたようだ。
「それで、告白するのはどのタイミングでするのがいいのか相談したいんだ。」
大樹は制服のポケットに丸めて入れていた修学旅行のしおりを取り出す。クラスごとに日程が組まれており、クラスによって行動する順番が違う。
一日目 11時 那覇空港着
12時 昼食(沖縄そば)
14時 平和記念資料館、ひめゆりの塔 轟壕 見学
1,2組 平和記念資料館、ひめゆりの塔、轟壕の順
3,4組 ひめゆりの塔、轟壕、平和記念資料館の順
5,6組 轟壕、平和記念資料館、ひめゆりの塔の順
18時 ホテル到着
18時30分 ホテルでのディナー
20時 レクリエーション(肝試し)
21時 大浴場への入浴と自由時間 1~3組 入浴時間 21時から21時30分の間
4~6組 入浴時間 21時30分から22時の間
22時30分 消灯
二日目 6時30分 起床 準備
7時 朝食 バイキング 1~3組 7時から7時30分の間
4~6組 7時30分から8時の間
8時30分 ホテル出発
9時30分 水族館到着 館内自由行動
11時30分 水族館出口集合
12時 昼食 (沖縄郷土料理)
14時 海で自由行動
16時 海 出発
17時 ホテル到着
18時 ホテルでディナー
19時 自由行動
21時 入浴 時間帯は一日目と同じ
22時30分 消灯
三日目 6時30分 起床
7時 朝食 バイキング 時間帯は二日目と同じ
8時30分 ホテル入口集合 先生の説明ののち自由行動
16時 那覇空港集合
修学旅行の日程はこうなっている。
「こん中のどこがベストかって話だな。」
大樹は日程を見て考える。
「夜の自由行動の時間が無難でいいんじゃないか?」
涼平は日程の中から、一番いいと思ったところを提案する。
「まって。自由行動には制限があるよ。」
翔はしおりの注意事項のページを開く。
ホテルでの自由行動の注意
・男子生徒は女子生徒の部屋を訪れてはならない(逆は問題なし。)
・ホテルの外に出てもいいが、ホテルの敷地から出ることは禁止とする
・ホテルの敷地内にあるプールの使用は禁止とする。
「自由行動時間内だと、告白する場所がホテルの敷地内に限定されるみたいだ。海とかで告白する方がムード的にいいんじゃない?」
翔はムードという切り口から提案する。
「ムードっていう意味じゃ、夜という時間帯も良いかもな。」
大樹はムードを重視する考えのようだ。
「それだったら、肝試しの時が最適じゃないか。」
涼平は一日目の夜に行わるレクリエーションに着目する。
「肝試し、それはありだね。」
翔はしおりの肝試しについて記載されたページを開き、注目して欲しい箇所に分かれて指をさす。
・肝試しは二人一組で行われる。その組み合わせは、班の中で完結するように。
そう記載されていた。
「つまり、俺と聖来の二人で回って、機会をうかがうわけだな。」
大樹は翔の意図を汲み取る。
「なるほどな。班のメンバーは男子三人、女子三人だから、必然的に男子一人、女子一人の組み合わせができる。それを大樹たちにしようってわけだな。」
涼平も納得する。
「そうだね。だけど、残りの組み合わせも男女にするのはありだと思うな。涼平君だって、神谷さんと一緒に回りたいでしょ?」
「何言ってるんだ、翔。俺は別にライトと一緒じゃなくていいぞ。」
「おっそれはいいな。俺だけ告白するのもあれだし、涼平もライトちゃんに告白しろ。」
「なっ何で、そんな流れになるんだ?」
大樹の告白について話し合っていたはずなのに、いつの間にか涼平がライトに告白する話になっていた。
「いや、だって・・・」
「なぁ。」
翔と大樹はニヤニヤしながら涼平の方を見る。
「ちっちがうからな。」
涼平は二人の邪推を否定する。二人の邪推は間違いないのだが、ここで認めるわけにはいかない。ここで認めてしまえば、俺まで告白させられることになる。それは絶対に避けなければならない。もし、告白して振られたら、今後の同居生活が気まずくなることは確実だ。もし、付き合うことになったら、なったで問題だ。ライトは神様で俺は悪魔だ。前、美影に言い寄られた時にも考えたことだが、種族の違う者同士の恋愛は難しいと思う。価値観は悪魔と神で違うが、今までのライトの生活の中で特段困ったことがない。ライトが適応してくれているのだ。問題は寿命だ。ライトに寿命はない。永遠に生き続けるのだ。涼平は年をとって老いていくが、ライトが年老いていくことはない。一生可愛いライトを見れることはいいことなんだけど、逆にそれが怖い。自分だけが年老いていって死が迫る恐怖、涼平はそんな思いはしたくないのだ。もちろん、付き合ったからって死ぬまで一緒にいるとは限らないが。
「まあ、涼平のことは一旦置いておくか。」
「そうだね。」
大樹と翔は涼平をからかうことを止めて本題に戻る。
「でも、肝試しの時にどうやって告白するんだ。」
肝試しは暗がりの中だし、他の生徒も近くにいる。告白する機会があるのかが疑問だ。
「大樹君。馬鹿真面目に肝試しに参加することはないよ。二人でこっそり抜け出して、告白に最適な場所で実行すればいいだけだよ。肝試しに参加しなくてもバレないんだから。」
肝試しの要項みると、時間内に指定されたルートを回るだけ。よくあるルートの最奥に墓みたいなのがあって、そこあらかじめ置いてある札をとるみたいなことはない。あくまで、雰囲気を楽しむイベントとなっている。だから、途中で抜け出してもバレないということだ。
「なるほどな。それはいい考えだ。」
「それに、一日目に告白して上手くいったら、二日目、三日目も二人で楽しめるよ。」
翔はそう一言付け加える。
確かに一日目に告白に成功すれば、二日目の水族館、海は自由行動なので、二人で回ることができる。三日目の自由行動も、那覇空港集合の時点で班全員がそろっていればいいので、集合までの間は2人で回ることができる。
「でも、逆に振られたらきつくねーか。それ。」
大樹が珍しく弱気な発言をする。
「大丈夫だよ。きっと成功するって。それに失敗しても、僕と涼平君と三人で回ればいいし。」
「そうだぞ。失敗を恐れたらダメだ。」
翔と涼平の二人で大樹を後押しする。
「よし、気合入った。絶対成功させてやる。」
大樹は闘志がみなぎっていた。
話し合いもひと段落し、授業時間も残りわずかになったので教室に戻る。
「遅い。私たちでほとんど決めちゃったんだけど。」
聖来は帰りの遅い男子たちに物申す。
「いや、わりぃ。行きたいところがなさすぎて、時間いっぱい考えた。けど、特に思いつかなかったから、そっちの案を採用してくれてかまわない。」
大樹が男子を代表して詫びを入れる。
「じゃあ、これで先生に提出するから。」
聖来が先生に自由行動の計画を提出して授業は終了する。
放課後になり、ライトと二人で下校する。下校している最中、ライトは修学旅行の話を楽しそうに話していた。
帰宅すると、今まではテスト勉強で遊べなかった分、たくさん遊んだ。ライトとフレア、それにラナも含めて、四人で協力プレイができるようになったので、ゲームの面白さが余計に増した。
ライトが史書を書く時間になり、ゲームで遊ぶことは終わった。涼平は自室に行き美影に電話をかけることにした。
「もしもし。こんな夜遅くに何の用ですか?もしかして、夜這いのお誘いですか?」
「いや、そうじゃない。」
美影の言葉が冗談なのかそうではないのかが分からない。以前のカラオケ店でのことを考えると、夜這いしたいって言ったら普通に了承してくれそうだ。
「では、何の用ですか?」
「実は明日買い物に付き合ってほしくてな。」
涼平は要件を伝える。
「いいですよ。それで、何を買うのですか?」
「ライトにテスト勉強手伝ってもらったお礼に何かプレゼントしたくて。」
「・・・いいですけど、涼平さん酷いですね。私の気持ち知ってるのに、自分ではない女性のプレゼント選びに付き合わせるなんて。」
「いや、その、頼める相手が美影くらいしかいなくて。」
涼平は電話越しに頭を下げる。確かに美影にこんな頼みをするのは違う。涼平は美影から直接好きと言われたわけではないが、カラオケ店での一件を考えると美影が俺に好意を持っているのは間違いない。さすがに、好きでもない人に下着姿になって誘惑はしないだろう。
しかし、涼平は美影に頼むしか選択肢がなかったのだ。ライトにプレゼントをあげる予定なので、同性の意見を参考にしたかった。涼平が誘える女性がそもそも少なかった。フレア、ラナ、美影、頑張って誘えば聖来の四人だ。フレアは神様で、人間界のプレゼントに詳しいか分からない。ラナも同じ理由。魔界からきたばかりだし、知らないことだらけだろう。それにこの二人に相談したら、からかわれるのは目に見えている。聖来は大樹のこともあるし誘いにくい。それに、聖来と二人きりになったことがないので、会話ができるかが不安だ。美影は他の三人に挙げられる不安点がないからだ。
「冗談ですよ。それより、場所と集合時間について話しましょう。」
その後、美影と行く場所と時間を決めた。普段行っているショッピングモールに朝10時集合となった。
「お休みなさい。明日、楽しみにしてますよ。」
美影はそう言って電話を切った。
「・・・俺も寝るか。」
涼平は部屋の電気を消して眠りにつく。