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十五 涼平の過去Ⅲ

 リィトが目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。

 (生きているのか?)

 リィトは気を失う前の記憶を呼び起こす。リィトは少女の戦いの最中、少女の一撃で気を失ったのだ。戦場で気を失う=死だ。リィトは自分が生きていることに疑問しか生じなかった。

 とりあえず、今は現状を確認するしかない。リィトは身体を起こす。どうやら自分はベッドの上で寝ていたようだ。リィトの身体は動けない程怪我をしていたわけじゃなかった。右手首の痛み(少女の攻撃を受けきれなかった時のダメージ)しか怪我がなかった。リィトはベッドを降りて、ドアを開け部屋を出る。廊下に出ると下に降りる階段と、先ほど出てきた部屋を含め4つの部屋があるだけだった。ここから、2階建ての家だと推測できる。リィトは他の3部屋を順に見て回る。誰もいなくて、部屋も使用している感じではなかった。階段を下りて1階に行く。

 「あら、目が覚めたのね。」

 リィトを気絶させた少女が椅子に座って本を読んでいた。

 「お前は。」

 リィトは少女の顔を見てすぐに警戒する。自分が負けた敵に介抱される。何ともおかしな話だ。

 「そう警戒しなくてもいいでしょう。警戒したところで、私には勝てないのだから。」

 「確かにそうだな。」

 少女の言っている通りだった。リィトがいくら警戒しても、武器も何もない今、勝つどころか、逃げることすらできないだろう。

 「何で俺が生きているんだ?」

 リィトは一番疑問に思ったことを聞いた。

 「あなたは殺すには惜しい存在だと思っただけ。」

 「それは俺が欲しい答えじゃない。あんたは俺に何をさせたい?」

 リィトは少女が何かの目的をもって自分を生かしているに違いないと確信していた。

 「特にないわよ。強いて言うなら、あなたにはここで戦わずに生きて欲しいかしら?」

 「戦わずに生きる?それで、あんたは何のメリットがあるんだ?」

 リィトは彼女の発言の意図が分からなかった。リィトが戦わない最大のメリットは、帝国軍の戦力を削ぐことができる点だ。しかし、彼女にはリィト以上の力があるし、そもそも戦力を削ぐことが目的なら、殺しておくことが一番手っ取り早い。

 「あなたにこの世界の良さを知ってほしいことかしら。」

 「この世界の良さ?」

 リィトは十数年魔界で過ごしてきたが、良い所なんて全くなかった。今更、こんな世界に何があるのやら。リィトは少女の言葉を信じていなかった。

 「言葉で説明するより見た方が早いわ。ついてきて。」

 「分かった。」

 リィトは少女に逆らうだけ無駄なので、とりあえずついて行くことにする。少女は玄関の扉を開けて外に出る。

「ここは・・・。」

 リィトは外の景色を見て驚く。外はリィトの知っている風景ではなかった。

 「ここはどこなんだ?」

 リィトは少女に尋ねる。

 「歩きながら話しましょう。」

 少女は歩き始めた。リィトは後ろをついて行く。

 少女はリィトに人間界のことを懇切丁寧に話し始めた。リィトは話を聞きながらも、魔界とはあまりにも違う世界に困惑していた。リィトは歩きながら、街並みや通行人の服装、謎の鉄の塊が走り回っている光景を見て、リィトは自分が本当に別世界に来たことを理解する。

 少女は人間界と魔界の違いを中心に、人間界について話す。特に人間界は争いはあるものの、魔界に比べれば平和であることを伝えた。リィトも平和な世界を実感する。殺伐とした空気はなく、明るい顔の人間が多い。それだけで魔界とは違う。

 少女としばらく歩いた後、さっきまでリィトたちがいた家に戻った。

 「これでこの世界のことが少しは分かったかしら?」

 少女は椅子に座る。

 「ああ。」

 リィトはこの世界のことを大まかに理解した。正直に言って、別世界があったことに対する衝撃が強すぎて、まだ信じ切れていないところもある。

 「じゃあ、早速この世界の言語を学びましょうか。」

 「はっ?」

 リィトは少女の急な話題転換に驚く。

 「さっき、あなたにはこの世界で生きてもらうって言ったでしょう。この世界の言葉を話せないと生きていけないわよ。」

 少女が強引にリィトを席につかせ、言語の勉強を始める。

リィトは幼少期から、親の影響もあり英才教育を積んできた。だから、リィトは頭が良く、勉強することも苦にならなかった。

 少女との人間界での生活が始まった。人間界での生活はリィトにとって新鮮で楽しいものとなった。魔界よりも娯楽も充実しており、学んで遊ぶ、子どものような経験をもう一度しているような感覚だった。リィトにとって少女は母親のような存在となった。ちなみに、リィトが少女に名前を尋ねたところ、少女はミカと答えたので、リィトは少女のことをミカと呼ぶことにした。

 一か月が経つ頃には日本語をある程度覚えることに成功した。さらに、料理や洗濯といった家事スキルも並行して覚えた。

 二か月が経ち、リィトは人間界の文化や歴史も大まかに理解することができた。そして、義務教育で習う程度の学力を身に付け始めた。

 三か月が経ち、リィトは中学校に通うことになった。リィトは中学校に通う年齢ではないのだが、学校生活を経験することは大切とミカは言ったので従うことにした。中学校に通うようにはなったが、1年生からではなく、3年生からの編入という形になった。ミカが学校に通うから、リィトには人間らしくなる必要があると言い、リィトの姿を人間に変え、黒井涼平という名前を付けた。

 四か月が経ち、涼平は学校生活に慣れてきた。クラスメイトとも仲良くすることができ、学校の成績もかなり良かった。涼平が人間界での生活を順調に送っている中、ミカは家を空けることが多くなった。涼平は独りで過ごすことが多くなり、心細い気持ちになっていた。

 それから月日が流れ、涼平は高校受験を無事突破して、第一志望の高校に合格できた。合格発表当日は、ミカと二人で盛大に祝った。涼平にとってとても楽しい一日になった。しかし、その日がミカと過ごした最後の時間だった。

 涼平は高校でも友達ができ、勉強面でも問題なく一年を過ごすことができた。

 そして、ライトと出会うことになる。


 「まあ、こんなところだな。あんまり楽しい話じゃなかっただろ。」

 涼平がライトに過去の話をしたくなかった理由は、単純につらい過去を思い出したくなかったからだ。

 「ぐす・・・。ぐす・・・。」

 「ライト?」

 涼平は後方を振り返るとライトが泣いていた。

 「涼平は魔界での生活は辛かったんだね。」

 「そうだけど、泣くほどのことでもないだろ。」

 「そんなことないよ。話を聞いていて、涼平の幼少期が辛かったことが、十分伝わってきた。」

ライトは涙をぬぐいながら話す。

 「そうか。」

 涼平は口にしないが、ライトが自分のことでこれだけ悲しんでくれることが嬉しかった。

 「大丈夫だよ、涼平。これからは私がいるから。どんなことがあっても私は涼平の味方だから。」

 ライトは泣いた後で目を真っ赤にしながらも、真っすぐな瞳で涼平を見つめる。

 「ライト・・・。」

 涼平はライトの言葉に心を打たれる。

 (そうか。やっと分かった。)

 涼平は自分の心の中の気持ちに気づいた。

 どうしてライトを自分の家に住まわせることにしたのか。もちろん、自分の利益のためというのもあるが、ライトが自分のことを優しい人だと言ってくれたことが大きかった。ライトは自分の内面を見てくれたことが嬉しかったのだ。

 初めて悪魔と対峙した時、どうしてライトを助けたのか。ライトと過ごした日々が楽しくて、まだまだ続けたいと思ったからだ。

 ライトが神界に帰った後、どうしてライトに会いたくなったのか。ライトがいなくなって、独りで静まり返った家で過ごすことに寂しさを感じたからだ。

 今までは、人間界で独り寂しく過ごしていたからだと思っていた。いや、本当は気づいていたが、知らないふりをしていただけかもしれない。

 けど、今は違う。ライトに対する気持ちがようやく分かった。

 (俺はライトのことが好きなんだ。たぶん、どうしようもないくらい。)

 涼平は改めてライトの顔を見る。いつも通り可愛いのだが、今は余計に可愛く見えた。

 「どうしたの涼平?顔が真っ赤だけど。」

 ライトは涼平を心配する。

 「だっ大丈夫だ。風呂に長く入り過ぎていたせいだ。」

 涼平は適当に誤魔化す。実際、涼平の過去話は1時間程度あり、湯船に浸かっていないとはいえ、長時間風呂の熱気にあてられていたのは事実だ。

 「そうだね。もうでよっか。」

 ライトは風呂の扉を開ける。

 「先に出ていいぞ。」

 「涼平が先でいいよ。顔赤いし、涼んだ方がいいよ。」

 「いや、ライトが先でいい。俺はもう少しゆっくりしたいから。」

 「分かったわ。」

 ライトは涼平に言われた通り先に風呂場から去る。涼平は再び湯舟に浸かりこの火照った気持ちを落ち着かせる。

 涼平はライトへの気持ちに気づいた。しかし、それをライトに伝えることはないだろう。涼平の中で、神様であるライトと自分は釣り合わないと考えているからだ。

 (それより、明日以降のことが大事だ。)

 涼平は戦争でアランが言う強敵を倒さなければならない。明日以降できる限り、勝てる対策をする必要が出てくるだろう。

 「涼平、私は着替えたよ。」

 涼平が考えていると、ライトの声が聞こえた。

 「分かった。」

 涼平は湯船から出て、風呂場を出る。身体を拭きパジャマに着替えてベットの方へ行く。

 「風呂上りに何か飲む?」

 「いや、もう寝るからいらないよ。」

 涼平は明日以降に備えて早めに寝ることにした。

 「そうだね。」

 ライトは椅子に座る。

 「ライトはどこで寝てたんだ?」

 涼平はライトに聞く。ライトは昨日からずっと自分に付き添っていてくれていたらしい。しかし、この部屋には、広めのベッドが一つしかなく、それは涼平が使っている。ライトには寝る場所がない。

 「私はこの椅子で寝るよ。昨日もそうしたし。」

 「ダメだ。ライトはずっと俺に付ききっきりで疲れてるだろ。俺はもう大丈夫だから、ゆっくり休んだ方がいい。アランに部屋を用意するように頼むから。」

 涼平はライトが疲れていると確信していた。誰かの看病をする、それだけで体力を消耗する。さらに、ライトは涼平に対する罪悪感も持っていたので、精神的にも疲れているはずだ。(罪悪感はお風呂での一件で一応解決はしたが。)その疲れを椅子で座って寝ることで回復できるとは思えない。それに、自分が好きになった人に椅子で寝させたくなかったのだ。

 「ダメだよ。涼平は今日までは絶対安静だから、今日は涼平の傍から離れないから。」

 ライトは涼平のことが心配なのだ。涼平の言うように、怪我は治っているのかもしれない。しかし、容態が急変するかもしれない。ライトが涼平から目を離して、その間に涼平の身に何かあったら、一生後悔すると考えていた。

 「でもなぁ・・・。」

 涼平は考える。ライトの顔を見るに、もう何を言っても無駄だと思わせるくらい、真剣な顔をしていた。少なくとも、この部屋から出ていくつもりはないだろう。そうなると、代替案を考えるしかない。

 「じゃあ、電気消すね。」

 ライトは壁側にある照明のスイッチがあるところに歩き始める。

 (まずいな。)

 ライトが電気を消してしまうと、もう話し合いはできない。今、動くしかない。

 「ライト。」

 「どうしたの?」

 ライトは涼平の声で立ち止まり、涼平の方を向いた。

 「俺はライトに椅子で寝て欲しくない。だっだから、その・・・俺のとなりで寝るか?ほっほら、このベッド広いし。」

 「えっ・・・。」

 ライトは驚き固まる。

 チク、タク、チク、タク

 時計の秒針の音が聞こえる。今日一日はずっとライトと会話していたので、時計の音なんて気にならなかった。しかし、今は沈黙している、時計の病身の音が聞こえるくらいに。

 涼平はこの沈黙を打破するために、何か言葉を発しようかと考えた。しかし、しなかった。いや、できなかったと言った方が正しい。たださえ、恥ずかしいセリフを発したのに、今何か喋ったらさっきのセリフを誤魔化すみたいで余計に恥ずかしい。涼平はライトの返事を待つしかなかった。

 さらに沈黙が続く。時間にすれば、数分程度だろうか。たぶん、余り時間は経っていない。けど、涼平にとっては何十時間もの長い時に感じた。

 「・・・いいよ。」

 ライトは少し顔を赤らめながら言った。

 「えっ。」

 涼平はライトの予想外の返事に驚く。涼平はライトが沈黙していた理由をはき違えていた。てっきりライトは、涼平が傷つかずに断るセリフを考えているのだと思っていたのだ。だから、ライトが何を迷っていたのか涼平には分からない。椅子で寝るのと、涼平の隣でもいいからベッドで寝るという、二択で迷っていたのだろうか。涼平がライトの真意を知ることはない。

 「じゃあ、電気消すね。」

 「あっうん。」

 涼平は考え事をしていたので、生返事しかできなかった。

 ライトは電気を消してベッドの隣にくる。

 「・・・となりで寝るね。」

 ライトは涼平に一言言ってベッドの中に入る。

 ベッドが大きいので、涼平とライトの二人で寝ても、肌が触れるとかそういうことはない。いつもい通り一人で寝ることと大して差はない。

 (まぁアニメやゲームみたいな展開はないよな。)

 涼平はライトと同じベッドで寝るので、少しはムフフな展開を期待してしまった。男の子だからしょうがないのである。

 スースースー

 涼平がくだらないことを考えていると、ライトの寝息が聞こえてきた。

 (やっぱり疲れていたんだな。)

 涼平はライトの方をチラリと見る。ライトはベッドに入って直ぐに寝たのだ。ベッドに入り、気が緩んで疲れが一気にきたのだろう。

 (ライトには感謝しないとな。)

 怪我のせいで一日中ベッドにいた涼平が退屈しなかったのは、ライトがずっと会話をしてくれたおかげだ。それに、ご飯も食べさせてもらったし、お風呂でもお世話になった。ライトの優しさに今日一日甘えっぱなしだった。

 (ところで、俺はどうやって寝ようか?)

 涼平はライトが隣で寝ていることにドキドキして寝付けなかった。別に肌が触れ合っているわけではないし、目と鼻の先にライトが寝ているだけだ。このドキドキをどうにかすれば寝れるだろう。

 (しょうがないオ〇るか。)

 気持ちよくなって、落ち着いたら寝られるだろうと涼平は考えた。幸い、先ほどのお風呂場でライトの裸を見たので、おかずには困ることはない。

(いや、待てよ。今はライトが隣で寝ている。ちょっとくらいなら、胸とか触ってもばれないんじゃないかな。)

 涼平はライトの方を見る。ぐっすり眠っている。ベッドに入ってすぐ寝たし、そう簡単には起きないだろう。

 (けど、寝ているライトに変なことをするのは気が引ける。)

 ライトには今日一日看病してもらった恩がある。寝ているライトを襲うことには、すごく罪悪感がある。

 (流石に止めとくか。)

 涼平は諦める。ギリギリのところで、自分の良心が性欲に勝ったのだ。涼平はライトをおかずに一人で気持ちよくなり始めた。涼平の良心の中で、ライトをおかずにすること自体はオッケーみたいだった。涼平は気持ちよくなって、心が落ち着いて無事に眠りにつくことができた。

 

 次の日、涼平は目覚めの良い朝を迎えた。身体を起こし、周囲を見る。

 「おはよう涼平。」

 「おはようございます。」

 「お兄ちゃん、おはよう。」

 ライト、フレア、ラナの三人が朝食の準備をしていた。

 「おはよう。」

 涼平は三人に挨拶を返して立ち上がる。そして、身体を少し動かす。 

 (問題ないな。)

 昨日は少し感じた身体の痛みも今は感じない。怪我は完治したと言って問題ないだろう。涼平は魔界の回復魔法の効果を久々に実感する。人間界の医療では、こんなにすぐに完治することはないからだ。

 「もう大丈夫そうだね。」

 「ああ。おかげさまでな。」

 ライトは涼平の様子を見て安心する。

 「ねぇねぇ、二人とも昨日何かあった?二人の様子が変わったように見えるんだけど。」

 ラナは涼平とライトの様子を見て、何かおかしいと疑問に思った。

 「別に何もないぞ。」

 涼平は返事をする。何もないというのは、完全に嘘である。だが、ラナにそれがバレればからかわれることは間違いない。

 「そうだね。二人でお互いに言えなかったことを言っただけだもんね。そのおかげで、涼平のこといっぱい知れたけどね。」

 「えー何それ。私すごい気になるんだけど。」

 ラナは目を輝かせながら、涼平のお尻をパンパン叩く。詳細を教えろと言う合図だ。

 「本当に何もないぞ。ちょっと俺の悪魔時代の話をしただけだ。」

 涼平は本当のことを言った。変に誤魔化すよりは本当のことを言った方が、この場を凌げると考えたからだ。ただ、涼平が悪魔時代の話をする原因になったライトとのいざこざは話さない。それがバレると非常に面倒だからだ。

 「ふーん、そうなんだ。」

 朝食を食べながら、昨日のことを色々聞かれた。お風呂での一件や、一緒に寝たことは知られずにすんだ。

 朝食を食べ終えると、アランに呼び出されたので、アランの仕事用の部屋に向かった。

 「入るぞ。」

 涼平はドアを開け部屋に入る。ライト、フレア、ラナも続けて入る。

 「身体はもう大丈夫か?」

 アランは涼平に尋ねる。

 「ああ、問題ない。」

 「そうか。それは良かった。では、本題に入ろう。とりあえず、これを見てくれ。リィトが倒すべき相手の映像が記録されている。」

 アランは映写機に魔力を入れて起動させる。

 映像には標的と思われる一人の悪魔が写っていた。その悪魔が戦場で敵兵をバッタバッタと倒していく。映像は数分程度で終了した。戦場という危険な場所なので、数分しか記録できなかったのだろう。仕方がないことだ。

 「どうだ?勝てそうか?」

 アランはリィトに映像を見た感想を求める。

 「そうだなー。まともに戦えば勝率は三割ってとこかな。」

 涼平は映像を見た感想を言う。標的は戦士系の悪魔だと涼平は考えた。映像を見る感じ、攻撃魔法を一切使用せずに、物理攻撃のみを主体としていた。さらに、標的は持ち前のパワーとスピードを主体に力任せの攻撃をしていて、剣技みたいなのは一切なかった。ゲームで例えるなら、基礎ステータスはとても高いが、特技を一切覚えていないみたいな感じ。基礎ステータスが高いから、通常攻撃で敵を倒せるし、敵からダメージを受けることがない。涼平が付け入るとしたらそこだ。技術タイプじゃないので、魔法を駆使して相手の隙を作り、そこに最大打点を当てるしかない。幸い、今の涼平でも相手の猛攻を凌げるくらいの力はあるので、一撃を与えることができれば十分に勝機がある。その一撃を与えることができる確率を涼平は三割だと考えている。

 「そうか。・・・期待しているぞ。他に何か聞きたいことはあるか?」

 「特にないな。」

 「ではこれでお開きだな。」

 涼平たちはアランの部屋から出て廊下を歩く。

 「ねぇ、涼平は勝てるの?勝率三割って負けにいくようなものじゃないのかな?」

 ライトは先ほどの話を聞いて心配した。

 「心配するな。三割っていうのは、正面から殴り合って勝てる確率だ。作戦を考えて対策をすれば、勝率は五割くらいには上がるんじゃないか?」

 涼平は頭の中で軽く目算をたてた。

 「それでも五割なんだ・・・」

 涼平の言葉ではライトの心配を払拭することはできなかった。

 「お兄ちゃんが心配なら、ライトお姉ちゃんも頑張らないとね。」

 ラナが会話に参加してきた。

 「私が?私に戦闘能力なんてほとんどないよ。」

 ライトは自分に手伝えることがないと考えている。

 「別に戦闘能力が全てじゃないよ。戦争でお兄ちゃんが本調子で挑めるように、コンディションを調整することだって大切だよ。」

 「そっか。うん、そうだよね。」

 ライトは明るさを取り戻した。

 「ついでにお兄ちゃんの夜のお世話も・・・痛い。」

 ラナが余計なことを言おうとしたので、頭をチョップして言葉を遮らせた。せっかくラナが良いことを言ったのに、余計なことを言おうとして全て台無しだ。

 「まあ、とりあえず、これから勝つために対策しないとな。」

 涼平の戦争に向けての準備が始まる。

 

 

 

 


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