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十二 魔界Ⅱ

 涼平が目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。身体を起そうとするが、普段に比べて身体が重い。涼平は重い身体を無理やり起こす。

 「良かった。目が覚めたんだね。」

ベッドの隣にある椅子に座っていたライトは、涼平が目を覚ましたことに安堵する。

 「ここは?」

 余り状況がつかめていない涼平はライトに質問する。

 「ここはモーデン城の来賓室だよ。涼平は治療を受けた後、丸一日ここで眠っていたのよ。」

 ライトは涼平が気絶してからの経緯を伝えた。

 「そうか。」

 涼平は意識が覚醒し、気絶する前の状況を思い出す。

 (そうか。俺はアランたちに負けたんだな。)

 もともと勝率が低かった上に、重力魔法と言う初見殺しにあったわけだ。戦力・戦術の二つで涼平はアランたちに負けたのだ。

 「アランは今後のことについて何か言ってなかったか?」

 涼平は自分が生かされたということは、アランにとって価値があると認めらたと同義だと理解していた。戦力が必要だと言っていたし、戦場に行く必要があるのだろう。

 「そうだったわ。涼平が起きたら連絡しなきゃいけないんだった。」

 ライトはアランから渡されていた通信器具を取り出す。

 「もしもしアランさん。涼平が目を覚ましたよ。」

 「分かった。すぐに行くから、少し待っているようにリィトに伝えてくれ。」

 「分かった。」

 ライトはアランとの通信を切った。

 「アランさんすぐ来るって。」

 「そうか。」

 涼平は何からツッコめばいいか分からなかった。さっきまで普通に接していたが、まずなぜライトが魔界似るのか?そしてアランと妙に仲良さげだし。ライトはいるのに従者のフレアの姿が見えないこと等、色々気になることが多い。

 「ところで、ライトはどうして魔界にいるんだ?」

 涼平は一番気になることをライトに質問した。ライトが魔界にいるメリットが分からない。ライトは国宝を盗んだ張本人だし、牢屋にぶち込まれていてもおかしくはないだろう。

 「それは涼平が心配だったからだよ。身体は傷だらけだったし、ちゃんと目を覚ますことをこの目で確認したかったの。」

 「ありがとな。」

 どうやらライトは俺の心配をしてくれて、わざわざ魔界までついてきてくれたみたいだ。ライトが心配してくれることは嬉しい反面、戦いに負けてライトにも辛い思いをさせてしまったことに反省する。

 「気にしないで。」

 「フレアはどこにいるんだ?姿が見当たらないけど。」

 「フレアはラナちゃんと城の中探索してるよ。」

 「そうなのか。」

 フレアの行動が予想外だった。フレアはライト命みたいなところあるし、魔界と言う敵地の真ん中みたいなところでライトを放置するなんて。けど、フレアがいないってことはここはライトにとって悪い場所ではないってことか。涼平は状況を考えて、一人で納得する。

 ガチャ

 扉が開く音がする。涼平たちが扉の方を見るとそこにはアランがいた。

 「元気そうで何よりだ。」

 アランは涼平の様子を見てそう呟いた。

 「おかげさまでな。」

 涼平がここまで元気なのは、やはりアランたちが深手となるような傷を与えなかったことが一番大きいだろう。

 「とりあえず、今日一日は絶対安静だ。明日以降は普通に過ごせるだろう。」

 アランは涼平に怪我の状況を伝える。

 「それは良かった。ずっとベッドの上だと退屈だからな。それより、俺をわざわざ生かしたんだ。俺に何をさせたい?」

 涼平はおおよその予想はついているが、確認のためにアランに聞く。

 「お前には戦争出て、倒して欲しい奴がいる。詳しい話は怪我明けの明日にしようと思っている。」

 「まあ、そうだよな。」

 アランは戦力が欲しいと言っていたし、戦争で不利な状況なのだろう。問題は、弱体化している俺で、アランの言う敵に勝てるかどうかだ。

 「とりあえず、今日はゆっくり休め。」

 アランはそう言うと部屋を出ていった。

 「ねえ涼平。戦争に出るって話だったけど、大丈夫なの?」

 涼平とアランの話を聞いていたライトが、心配そうに涼平の顔を見る。涼平が完敗したアランたちが苦戦する敵、ライトは涼平に勝てる見込みがないのではと考えている。

 「心配することはない。アランたちに負けたのは、重力魔法という初見殺しにあっただけだ。普通にやってれば勝てた勝負だった。それにアランは勝算がない勝負はしない。俺が勝てる可能性があるから、俺に対処を求めているんだ。」

 涼平はライトの心配を払拭するような言葉をかける。しかし、涼平の言葉は真意ではない。アランが勝算のない勝負をしないことは事実だが、あくまで勝算があるというだけで、確実に勝てるわけではない。それにアランは俺の強さを実際よりも高く見積もっている可能性が高い。アランは俺の決定的な弱点を知らないからだ。

 「そうなのね。涼平がそう言うなら信じるよ。」

 ライトは涼平の口調から、発言内容は嘘であるかもと感じた。以前に似たような質問をしたときに比べて、言葉に自信を感じなかった。しかし、ライトにはどうすることもできない。自分が戦えないので、涼平を見守ることしかできないのだ。

 ガチャ 

 涼平とライトが会話していると、再び部屋の扉が開いた。

 「お兄ちゃんげんきー?」

 ラナが元気よく部屋に入ってくる。ラナの後に続いてフレアが部屋に入る。

 「この姿を見て元気に見えるか?」

 涼平は全身包帯が巻かれており、ミイラ男とたいして変わらない姿だった。

 「ハハハッそうだね。」

 ラナは笑いながら部屋の隅に置いてある椅子をライトの隣に置き座る。

 「ライト様、涼平様おはようございます。」

 フレアはペコリと朝の挨拶をし、ライトの斜め後方に立った。

 「「おはよう。」」

 涼平とライトはフレアに挨拶を返す。

 「ところで、お兄ちゃん。朝ごはんまだだよね。何か食べたい物ある?」

 「そうだな・・・。」

 涼平は自分の腹の具合を確認する。丸一日寝ていたことから、空腹であることは間違いない。腹ごしらえをしておくことは得策だろう。

 「何か食べたいな。ラナ頼めるか?」

 「うん。じゃあ料理持ってくるから、フレアちゃんとライトお姉ちゃんも手伝って。」

 「分かりました。」

 「いいよ。」

 ラナは立ち上がり、城内にある食堂に向かった。ライトとフレアはラナの後を追いかける。涼平は三人を見送った。

 部屋から涼平以外の人が消え静まり返る。

 「・・・。」

 涼平はベッドに寝転がり天井を見つめる。

 (魔界に戻ってきたんだな。)

 涼平は久しぶりに帰ってきた故郷に嫌気がさす。魔界に帰ってきたということは、また戦争に参加して悪魔を殺さなければならない。しかも、今回の相手は強敵なのだろう。命の保障はない。

 (こんなことなら、もっと積みゲー消化しとくべきだったな。)

 涼平は人間界でやり残したことがたくさんある。まだ死ぬわけにはいかない。アランは明日には治ると言ってたし、明日から対策を考えて、少しでも勝率を上げられるようにあがくしくない。

 「お兄ちゃん。料理持ってきたよー。」

 ラナたちが帰ってきた。ラナたちは持ってきた料理をテーブルの上に並べる。

 「お兄ちゃん何食べる?いっぱいあるよ。これはドラゴンの卵で作った目玉焼きでしょ。これは魔獣のステーキでしょ。・・・。」

 ラナは運んで来た料理の説明をする。魔界の料理は素材こそ人間界とは違うが、調理方法は人間界とさほど変わらない。だから、目玉焼き等人間界と同じ料理が出てくる。

 「じゃあ俺は・・・。」

 涼平は食べたい料理をラナに伝える。ラナはそれを聞いて、持ってきた小皿に料理を取り分ける。

 「はい、お兄ちゃん。」

 ラナは小皿を涼平の手前に置く。

 その後、ラナはライト、フレアにも欲しい料理を聞いて、小皿に取り分けた。

 「「「「いただきます。」」」」

 朝ごはんの時間だ。

 「魔界の料理もおいしいね。」

 ライトは料理の感想を言う。ライトは魔界の料理を初めてだった。魔界の料理は調理方法は人間とほぼ変わらないが、味付けが違い、同じ目玉焼きでも違う味を楽しめるのだ。

 「そうですね。私も魔界の料理を食べるのは初めですが、これはいけます。今後は、魔界の料理も作ってもいいかもしれません。」

 フレアにも料理は好評だった。フレアは今後の自分の料理の幅が広がる可能性を見出した。

 その頃涼平は料理を食べれずにいた。魔界では、人間界でいうフォークとナイフを使って食べるのだ。当然、涼平もフォークを手に取り食べようとした。しかし、フォークを上手く握れなかった。涼平の身体は全身包帯で巻かれており、これは大袈裟に巻かれているわけではなく、本当にいたるところに怪我があるのだ。フォークを握ろうとすると、身体に痛みが走りフォークを離してしまう。

 「まいったな。」

 涼平は考える。痛みを我慢して、フォークを握れば料理を食べることができる。実際、戦闘中の涼平は痛みに耐えながら、剣を握り戦っていたのだ。しかし、今は戦闘中のように痛みを耐えながらでも、料理を食べる気力はない。

 「どうしたのお兄ちゃん?さっきから全然料理食べてないけど。もしかして、お腹すいてなかった?」

 ラナは涼平の様子を見て質問する。

 「いや、お腹はすいているんだが、怪我のせいで上手いことフォークを握れなくてな。」

 涼平は今の状況をラナに説明する。

「そうなんだ。どうしようか?」

 「私が食べさせてあげるね。」

 ラナが悩んでいるとライトが声を発した。ライトは手に持っていたフォークとナイフで、料理を涼平が食べやすいように切り分ける。そして、そのうちの一切れをフォークにさす。

 「はい、涼平。」

 ライトはフォークを涼平の口元まで運ぶ。

 「・・・。」

 涼平の感情は料理が食べれる喜びなどではない。このフォークを口にするとライトと間接キスをしてしまうということにあった。涼平はライトの顔を見る。相変わらず可愛い顔をしている。その後、ライトの唇に視線が集中する。最後にフォークに視線を戻す。 

 「うわぁ。お兄ちゃんドン引きだよ。」

 ラナは涼平の様子を見て反応する。

 「えっどうしたの?」

 ライトはラナの反応に驚き、一度フォークを置く。

 「お兄ちゃんがキモイというか、下心丸出しというか・・・。」

 「えーっと何が気持ち悪いのかな?」

 ライトはラナが何に反応しているのかが分からなかった。

 「簡単に言いますと、涼平様はライト様との間接キスできることに興奮していたのです。」

 フレアはライトに簡単に説明する。

 (ちょっと誇張し過ぎじゃないか?)

 確かに、間接キスに対して意識はしたが、別に興奮したわけではない。

 「そっか。これって間接キスになるんだね。」

 ライトは先ほどの行為が間接キスになることを理解していなかった。しかし、これは別におかしな話ではない。ライトはまだ人の心を勉強中であるし、フレアが下着類を3人分まとめて洗濯しても何とも思っていない。要するに、ライトは年頃の男女の関係、距離感というのを完全に理解していないのだ。しかし、聖来や美影という同性の友達から、色々と情報を収集しているからので、少しずつではあるが成長はしている。今後に期待だ。

 「つまり、涼平は間接キスになるから、私に食べさせられることは嫌ってこと?」

 「いえ、むしろ逆です。涼平様はライト様と間接キスできて嬉しいのです。」

 ライトの質問にフレアは返答する。

 「なら、何も問題ないじゃない。ほら涼平。あーんして。」

 ライトのそのセリフでフレアとラナはもちろん、涼平までも何も言えなくなった。涼平はライトに言われるがままに口を開けた。

 朝食はライトのおかげで食べることができた。涼平としては腹も満たせて、ライトと間接キスもできて満足だった。ただ、涼平が食べ物を口にする度に、ラナに白い目で見られていた。ちなみにフレアは一切表情を変えずに見ていた。

 「何かどっと疲れたな。」

 朝食を食べ終えた涼平の感想だった。ラナは朝食を食べ終えた後、仕事があると言って部屋を出ていった。フレアは朝食の後片付けをし、食器をキッチンに返しにいった。

 「そうだよね。間接キスくらいで騒ぎすぎよ。」

 ライトは部屋に備えられていた食後のコーヒーを入れた。

 「まあ確かにラナは過剰に反応し過ぎだったな。けど、ライトも異性にそういうことをする時は、もう少し考えた方がいいぞ。」

 涼平はライトの事が少し心配になった。ライトは純真すぎるというか、そのうち悪い奴に騙されて酷いことをされることをされるのではないかと。

 「別に何も考えてないわけじゃないよ。あいてがりょ・・・。」

 「ただいま戻りました。」

 ライトの会話を遮る形でフレアが帰ってきた。

 「おっおかえりフレア。」

 「何の話をしていたのですか。」

 フレアはライトの隣に座る。

 「べっ別に。とっとりとめのない話をしているだけだよ。」

 「そうですか。」

 フレアはライトの反応を見て、嘘をついていることが分かったが、指摘しなかった。主人であるライトがそう言うのだから、それ以上は干渉しないのだ。

 「ところで、これから何をしようか。」

 ライトは話題を変える。

 「そうだな・・・。」

 涼平は考える。魔界は人間界に比べると本当に娯楽が無い。アニメやゲームはもちろん、遊園地のようなレジャー施設もない。魔界での娯楽と言えば、本と演劇くらいである。涼平が魔界にいたころは、時間があれば戦闘訓練をしてご飯を食べて寝る。涼平は娯楽とは縁遠い生活をしていたのだ。今は、怪我のせいで戦闘訓練はできない。本を読もうにも、本を持つには痛みが伴う。演劇を見るには城外に出なければならず、今の涼平の状態で出ることはできない。つまり、やることがないというわけだ。

 涼平は一日安静にしておかなければならないが、ライトにわざわざ付き合わせる必要はない。涼平はフレアと二人で、魔界でも観光すればと提案した。しかし、ライトは「涼平の身体の方が大事。」と言って、涼平の提案を拒否した。

 結局、今日一日は涼平とライトとフレアの3人でダラダラ話して過ごすことになった。


 そして、時刻は夜の9時を回った。フレアはラナの部屋で寝泊まりをするらしく、「失礼します。」と言って部屋を出ていった。涼平が「ライトは?」と聞くと、「私は昨日はこの部屋に一日いたよ。」と返答する。ライトの話によると、昨日は椅子の上で睡眠をとったらしい。涼平がちゃんとベッドで寝た方がいいと伝えたが、ライトは涼平の身体の方が心配と言われ、涼平は何も言い返せなくなった。

 「よし、風呂でも入るか。」

 涼平はふと思い立った。昨日は丸1日寝ていたので、風呂に入っていない。一昨日も戦闘に負けてから、意識がなかったので、風呂に入っていない。要するに2日間風呂に入っていないのだ。しかも、一昨日は、遊園地と戦闘という汗をかくには十分すぎるほど、運動していたので、身体は超汗臭い。夜になり、回復魔法も大分効いてきたので、一人で立ち上がっても、特に問題は無かった。(多少の痛みは感じるが、我慢できる範囲だ。)涼平は立ち上がり、部屋に備えつけられている風呂場に向かった。

 「広い風呂だな。」

 涼平は服を脱いで風呂場に入って思った感想だった。涼平の家と比べると、倍以上の大きさはあった。

 「まあ、これならゆっくり休めるか。」

 涼平は湯船に浸かり足を延ばしてリラックスする。涼平は10分程度湯船に浸かり、身体はあったまったので、身体を洗うために湯船から出よう、そう思った時だった。

 ガラガラガラ

 風呂場の扉が開いた。

 「りょっ涼平。身体洗ってあげるね。」

 ライトが入ってきたのだ。

 「らっライト!!!」

 涼平は驚いた。だが、それと同時に視線はライトの身体の方に視線が集中した。ライトの身体はバスタオルで大事な部分は隠されていたが、身体のラインまでは隠すことができない。ライトの身体は服の上からでも十分魅力的なことは分かっていたが、バスタオル一枚だとその威力が倍増する。

 「大丈夫。大丈夫だから。もう身体は元気だから。手伝ってもらわなくても大丈夫だから。」

 涼平がこれ以上ライトの身体を見ていると、自分の理性を抑えることができなさそうだった。実際、身体は元気だし、ライトに手伝ってもらう必要もない。(ライトのせいで、身体の一部は物凄く元気なのだが。)

 「今は無理しちゃだめだよ。私が手伝えるところは手伝うから。」

 ライトは一切引く気は無いようだった。

 話し合いの末、背中だけという条件でライトに手伝ってもらうことになった。

 「・・・。」

 「・・・。」

 ライトに背中を洗ってもらっている間、お互い一言も発しなかった。昼間に話過ぎたから、話題がないとかそういうわけではない。ライトの様子がいつもに比べて少し違った。正確にはライトの明るい感情が抜けたような感じだった。ライトのそんな雰囲気なので、涼平の方から話しかけることができなかった。

 そんな時間が時間が数分続いた。そんな中、ライトは意を決して発言する。

 「ごめんね、涼平。私のせいで・・・。」

 ライトの唐突な謝罪に涼平は困惑するしかなった。ライトが謝罪する理由が分からなかったからだ。

 「どうしたんだ急に。ライトが謝ることなんて何もないぞ。」

 ライトが謝った理由を聞く必要があると涼平は考えた。

 「あるよ。私のせいで、涼平の人間界での生活はめちゃくちゃになって、それにこれから戦争にも出なくちゃならなくなって。もし、涼平が戦争で死んだら、わたし、わたし・・・。」

 背中を洗ってもらっているので、ライトの顔を見ていないが、おそらくライトの顔は涙で一杯なのでだろう。ライトの声だけで、ライトの感情は十分に伝わってきた。

 (・・・そうか。ライトはそんな風に思っていたのか。)

 確かに、涼平が今魔界に帰ってきて、今度の戦争に参加しなければならない。こうなったきっかけは、ライトと出会ったことが全ての始まりだろう。しかし、全てがライトのせいではない。涼平の選択の結果、今の状況になっただけだ。ライトはそんなことを考えずに、全部自分が悪いと思ってしまっているのだろう。今日一日、涼平の看病をしてくれたり、昨日もずっと傍にいてくれたようだ。ライトにとって、罪滅ぼしのつもりなのかもしれない。ライトに自分は悪くないことを伝えなければ。涼平はそう思い口を開いた。

 「ライトは悪くない。今の状況は、全て俺が選択した結果だから。ライトのせいじゃない。」

 「どういうこと?」

 「ライトがファミレスで自分のことを説明して、住居を提供して欲しいとお願いした時、俺は断るという選択ができたわけだ。俺は悪魔で魔界のことは知っていたし、悪魔と対立する可能性があることは当然理解していた。俺が断っていたら、今のような結果にはならなかった。そうだろ。」

 涼平は淡々と説明する。

 「けど、それは私が涼平が承諾してくれるように情に訴えたから。私が断りにくいことをいったからよ。」

 確かに、ライトにお願いされて承諾したことは否めない。けど、別に他にも理由はあったし、全てがライトが原因ではない。

 「確かに、その選択にはライトにも原因があったかもしれない。けど、初めて悪魔と対峙した時、俺は戦わないという選択だってできたはずだ。それでも、俺は戦う選択をした。この選択はライトは関係ないだろ。」

 悪魔と初めて会った時は、ライトは涼平が戦えることなんて知らなかった。だから、涼平を戦力として頼ることはできなかったのだ。

 「そうね。あの時の私は涼平が戦えることを知らなかったし、その選択には私は介入できなかった。けど、そもそも、私のお願いを聞いていなければ、その選択は発生しなかったでしょ。だから、私に原因があると言っても過言ではないわ。」

 ライトは一貫して自分に非があると言ってきかない。

 (ライトはあくまでも自分のせいにするつもりか。)

 今のライトは何を言っても、理由をつけて自分に原因があることに繋げるだろう。頭が回る分、余計に厄介だ。言い争いでは涼平は勝てないと判断した。

 (しょうがないか。)

 涼平はライトの方を向き、そのままライトを押し倒した。

 「りょっ涼平!?」

 涼平のいきなりの行動にライトは困惑した。

 「ライト。何でもかんでも自分のせいにするな。俺がいつライトが悪いって言った?俺がいつライトと出会わなければとか言ったか?言ってないだろ。全部俺が選んだ道なんだ。ライトは悪くない。分かったな。」 

 涼平はライトの顔をじっと見つめながら、ライトを委縮させるくらい大声で言った。

 「うっうん。」

 ライトは涼平の迫力に驚いて、とっさに返事をしてしまった。

 「それでいいんだ。ライトは悪くない。」

 「うん。」

 ライトは一回認めてしまったので、これ以上反論をすることができなかった。

 「あの・・・涼平。」

 「何だ。まだ自分が悪いとか言うんじゃないだろうな。」

 「そうじゃなくて、その・・・この態勢は恥ずかしい。バスタオルもはだけちゃったし。」

 ライトの言葉で、気が高ぶっていた涼平は冷静さを取り戻す。涼平はライトを威圧するために、ライトの顔だけを見ていた。だから、他のところは視界に入っていなかった。冷静になった涼平は視線をライトの身体の方に落とす。ライトの言う通りバスタオルははだけていて、ライトの綺麗で大きい胸が露わになっていた。涼平はそれを目にした瞬間、ライトからすぐさま離れ、背を向けた。

 「悪いライト。別にそんなつもりで押し倒したわけじゃないんだ。」

 涼平は必死に弁明する。

 「分かってるよ。私がうだうだと御託を並べて、自分のせいにしようとしてたことが悪いから。」

 「・・・。」

 涼平はわざとではないにしろ、ライトの胸を許可なく見てしまったわけで、気まずくなり言葉を失った。

 「涼平。本当に私は気にしてないから。」

 ライトはそう言って、起き上がりバスタオルを巻きなおす。

 「いや、それでも・・・。」

 涼平はライトが許しても自分を許せなかった。ライトの胸を見たのは一瞬とはいえ、脳には焼き付かれたし、今後おかずにしてしまうことは間違いないだろう。性欲に忠実な自分が許せないのだ。

 「そんなに自分を責めなくてもいいよ。けど、涼平が気になるなら、罪滅ぼしの代わりに私のお願い一つ聞いてくれないかな?」

 ライトは偶然起きたこの状況を好機と思い、会話の主導権を握ろうと考えた。ライトは胸を見られたこと自体は恥ずかしかったが、涼平に非はないし特に問題はなかった。確かに、全然知らない異性に見られたら嫌だが、涼平に見られる分には問題ないと考えている。

 「分かった。俺が聞ける範囲なら。」

 涼平はライトのお願いを聞くという選択しかできなかった。

 「じゃあ、涼平の過去の話を教えて欲しいな。涼平が魔界にいたころとか、何で人間界にいたのかとかそういう話を。」

 ライトはそうお願いした。ライトとしては、涼平の過去の話をずっと聞きたかった。けど、涼平が話したくないオーラを出していたし、聞いてはいけないと考えていた。けど、涼平が自分に負い目を感じている今ならチャンスなのではと考えたのだ。

 「過去の話か・・・。別にいいけど、そんな大した話じゃないぞ。」

 涼平は少し考えたが了承した。

 「別に問題ないよ。涼平のことをもっと知りたいだけだから。」

 「そうか。・・・分かった。」

 涼平は自分の過去の話を語り始めた。





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