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十一 元仲間との戦闘

 「・・・久しぶりだな。」

 涼平はアランのセリフで自分の正体がばれたことを確信した。

 「ちょっとお兄ちゃん。久しぶりの再会なのに、もっと何かないの?」

 ポニーテールの少女、涼平の妹であるラナが兄の塩対応に文句を言う。

 「別に何もない。できればお前たちとは会いたくなかった。」

 このセリフは涼平にとって本心だった。アラン、ヴィル、ラナは涼平と元小隊の仲間で、お互いの攻撃パターンや戦術は知り尽くしている。涼平には魔力消費が多いという弱点がある以上、知っている相手と戦うと戦闘時間が長くなる可能性が大いにある。だから、涼平は出会いたくなかったのだ。

 「悲しいな。お前とは昔よく飲んだ仲じゃないか。」

 ヴィルは涼平との過去の思い出を語る。

 「・・・。なあアラン、盗んだ国宝は返すから大人しく帰ってくれないか。」

 涼平はヴィルの話を無視ししてアランに提案する。涼平としてはアランたちと戦闘したくない。涼平の計算ではアランたちに敗北する可能性の方が高かった。だから、向こうの目的である国宝を返して戦闘を避けれるようにしたい。

 「それはできない相談だ。今回の目的は国宝じゃなくてお前だリィト。」

 アランは涼平の提案を断る。

 「どうしてだ?国宝は取り返さないとダメだろ。」

 涼平は無駄だと分かっているが、アランに抵抗する。

 「国宝など一時しのぎにしかならない。本当に必要なのはお前のような戦力だ。」

 アランは答える。ライトが盗んだ国宝は戦争に負けそうになる時に使う奥の手である。しかし、その奥の手は戦況を立て直すための手段に過ぎない。立て直したところで、戦力が整っていないと勝てないのだ。

 「そうだな。けど、今の俺にそこまで期待しない方がいいぜ。」

 涼平は自分が弱体化していることを伝えることで、アランに目的を果たせないことを遠回しに言う。

 「それは実際に戦って判断する。強ければ目的は果たせる。弱ければお前は死ぬだけだ。」

 「そうか。」

 涼平はもう交渉の余地はないと判断する。涼平はアランたちに背を向け、後方にいるライトたちの方に近づく。

 「ライト。盗んだ国宝を俺に渡せ。そしてここから去るんだ。」

 涼平はライトに強い口調で命令する。アランの目的は自分であることに違いない。しかし、国宝をそのまま放置するとも思えない。逆に言えば、涼平と国宝その二つさえあれば他はどうでもいいのだろう。つまり、ライトが国宝を盗んだことは不問になる可能性がある。ライトが国宝を置いて逃げたら、わざわざアランも追うメリットはそこまで多くない。せいぜい盗人を処罰できるくらいだ。

 「嫌よ。私はどんな結末でも最後まで見届けるから。」

 ライトは涼平の声に少し怯えつつも、自分の意見をしっかり言った。ライトも涼平と先ほどの会話から、涼平の勝率が高くないことを感じていた。涼平のさっきのセリフも自分のことを気遣ってくれていることは理解している。自分がいても何もできないことも知っている。それでも、この戦いを見届ける必要があるとライトは考えていた。ライトは涼平がこのような状況に陥ってしまったのは、自分に原因があり罪悪感を感じていた。

 「・・・フレアお前なら分かるよな。」

 涼平はライトのセリフから、ライトの覚悟が見え説得でないと判断した。だから、涼平はフレアに話を振る。フレアは冷静に物事を判断できると涼平は信じていたからだ。

 「残念ですが、涼平様の期待には応えることはできません。私はライト様の従者ですので、主であるライト様の意思を尊重します。」

 フレアも涼平の提案断る。

 「・・・好きにしろ。」

 涼平は諦めてアランたちの方を向きなおす。

 「話は済んだのか。」

 「ああ。」

 涼平はアランに返答する。アランは涼平がライトたちと会話している間、攻撃を仕掛けてこなかった。涼平は一応警戒をしていたが、アランたちが攻撃を仕掛けてこないと考えていた。アランは涼平の今の実力が知りたいと言っていた。だから、不意打ちに近いような攻撃はしないと踏んでいた。

 「では始めようか。」

 アランたちは各々武器を取りだし戦闘態勢に入る。涼平もそれを見て武器を呼び出し戦闘態勢に入る。

 (さて、どう戦うか?)

 相手は3人でよく知っている相手だ。前衛にヴィルとアランが位置し後衛にラナがいる。ヴィルはパワータイプで、攻撃の威力は凄まじいが、スピードはそこまで速くない。アランはオールラウンダーといった感じで、特徴はないが、近接戦闘、魔法で高水準を誇る。ラナは魔法タイプで、魔法をメインにしているが、近接戦闘もそれなりにできる。少なくとも涼平の攻撃ですぐにやられることはないだろう。

 まず相手の頭数を減らすことが大切だ。狙うとしたらラナだ。ラナを倒すことが一番簡単だ。ただ、相手もそれは分かっているだろう。だから、ラナを後衛に下がらせて、涼平との戦闘を避けれるようにしている。ラナを倒すのは難しいだろう。

 次はヴィルを狙う場合だ。ヴィルは涼平のスピードには対応できない。防御するのが精一杯で、攻撃までには手は回らないだろう。ただ、ヴィルを倒すのに障害になってくるのはアランだ。アランは俺の攻撃に対応することができるし、ヴィルに防御をさせて自分は魔法で攻撃することもできる。正直、ヴィルを最初にするのも難しい。アランは論外だ。3人の中で一番強いからだ。

 涼平が魔界にいたころに、同じように1対3で戦ったことはあるが、その時は1時間にわたる持久戦のうえ、涼平が勝利したのだ。その時の作戦は、ラナの魔力が切れるまで耐久して、1対3から1対2の形にもっていった。頭数が減ればそれだけ、攻撃の手が減るので涼平も動きやすくなるし、3人に割く意識を二人に減らすことができる。後は、ヴィル、アランと順番に倒すだけだった。

 今回は持久戦はできないが、考え方は同じだ。ただ、倒す順番を変える。ラナを戦闘不能にし、1対2の状況を作る。過去にも一度行った方法であり、魔法使いから順番に倒すことは悪魔の戦いにおいてセオリーなので、アランたちは涼平がラナを狙うと考えているだろう。相手が想定している戦い方をしては、対策されており、戦いの長期化は目に見えている。だから、多少無理をしてでもヴィルを最初に狙うべきだ。

 涼平は先手を取り、戦いの主導権をとるために動き始める。まず、アランとヴィル目掛けて走り始めた。そして、アランとヴィルの手前で跳躍し、ラナの後方に着地する。そして、すぐさまラナに攻撃する姿勢をとる。ラナは涼平からの攻撃を防ぐために防御魔法を展開する。悪魔の防御魔法は、半径1メートル程度の半球が術者を覆うのである。

 (ここまでは想定通りだな。)

 涼平が攻撃態勢をとればラナが防御魔法を展開することは読めていた。もちろん、全員が全員ラナのように防御魔法を展開するわけではない。自分の能力に自信があるなら、攻撃の回避を選択する者もいる。ラナの行動は、以前同じ部隊にいたから分かったのである。対戦ゲームに置き換えると人読みである。

 ラナの考えでは、防御魔法を展開すれば、涼平の攻撃を一撃防ぐことができる。その時間でアランとヴィルがカバーに入ることができる。

 アランとヴィルもラナが狙われることは予想通りであり、動き出しが速い。そして、二人の頭の中から自分が狙われるという可能性が排除されたのである。

 涼平はラナが展開した防御魔法を踏み台にし飛び上がる。そして、高位置から落下する勢いをプラスして、攻撃を仕掛ける。ヴィルは自分が狙われるとは考えていなかったことから、反応が遅れ自身の防御が間に合わない。しかし、ヴィルも一筋縄でいく人物ではない。ダメージをくらうことはしょうがないと割り切り、ダメージを最小限に抑えるよう試みる。涼平の攻撃が空中からということもあり、攻撃が届くまでに通常よりも時間がある。時間にすればコンマ数秒ではあるが、ヴィルは身体を少しずらす。

 グサッ

 涼平の一撃が左腹部に突き刺さる。涼平はすぐさま次の攻撃に移るためにヴィルの身体から剣を抜き追撃をする。しかし、その攻撃はアランに防がれる。そこからはアランとの剣の打ち合いになる。

 「ヴィル状況は。」

 アランは涼平の相手をしつつ、ヴィルの怪我の具合を確認する。

 「大丈夫だ。防具のおかげで貫通はしてないし、止血すれば戦える。少し時間をくれ。」

 ヴィルは冷静にアランに自分の状況を伝える。

 「そうか。」

 アランは安堵し涼平との戦闘に集中する。

 (しまったな。)

 ヴィルの状況を聞いた涼平は自分の甘さに後悔する。ヴィルは涼平にとって、数年共に過ごした仲間であり、できる限り殺したくなかった。だから、急所を狙わずに深手を負わせ、戦闘不能にしたかったのだ。だから、ヴィルの想定外の回避が加わり、余り大きなダメージにならなかったのである。ヴィルの口ぶりから、止血までに大した時間はかからないだろう。ヴィル復活までにアランもしくはラナを戦闘不能にすることは難しいだろう。

 涼平とアランの剣の打ち合いが続く。涼平が打ち合いの中で一つ疑問に思うことがあった。それはラナの行動だ。本来ならば、前衛であるアランと協力して、魔法で攻撃してくるはずだ。前回戦った二人組の悪魔のように。しかし、ラナは魔法を詠唱しているが、攻撃魔法ではない。涼平とアランの打ち合いはもう1分ほど経つ。攻撃魔法にそんな時間はかからない。一体何の魔法を詠唱しているのかが分からない。その不気味さも相まって、一刻も早くラナを戦闘不能にしたいのだ。

 さらに打ち合いが1分ほど経過したところで、ラナの魔法の詠唱が終了する。

 「できたよ。展開せよ<グラビティケージ>」

 ラナを中心に地面に半径500メートルほどの魔方陣が描かれ、そこから三次元的に展開する。先ほどラナが発動した防御魔法と同じような半球の形をしている。

 「何だこの魔法は。」

 涼平がそう疑問に思った瞬間身体が重くなり膝をつく。

 「身体が思うように動かねぇ。」

 涼平は剣を支えにして立ちあがる。

 「これは重力魔法だ。この魔方陣の中だけ重力が変化している。普段より5倍の重力がある。思うようには動けないだろう。」

 アランは涼平に状況を説明する。

 「重力魔法か。・・・完成していたのか。」

 涼平は過去の記憶を辿る。魔界にも人間界と同じように重力がある。魔界ではその重力を操作することができないか日々研究が行われていた。しかし、涼平がいたころは完成までには程遠かった。涼平がいなかった数年の間に完成したのだ。

 「よし、止血終わったぞ。」

 ヴィルがアランの隣に立つ。

 「ハハハッ。」

 涼平は笑うしかなかった。ただでさえ、数的不利な状況であるのに、さらに対応できない魔法を展開された。正直言って絶望しかない。ただ、僅かに勝算は残っている。ヴィルの動きを見ると、怪我をしているとはいえ、明らかに動きが鈍い。おそらく、アランたちも重力魔法に完全に適応しているわけではないのだろう。涼平より優位な状況を作るために、多少の犠牲は厭わないという考えだ。

 「じゃあ私の役目は終了だね。」

 「ああ。」

 ラナはアランに確認をとると、重力魔法の外へ歩き始めた。当然、ラナも重力魔法の影響を受けているわけだから、ゆっくりと歩いている。

 (ラナは離脱するのか?)

 涼平にとっては朗報だった。いくらこの状況でも、敵の人数が減ることは少しは有利になるはずだ。だが、よくよく考えるとこの重力魔法下ではラナは無力なのかもしれない。魔法使いとの連携は、味方が魔法の巻き添えにならないことが前提にある。だから、魔法発動前には相手から距離をとり回避する。この重力下では回避することが難しくなるだろう。それにラナ自身も重力の影響でを受けている。重力によって、魔法の照準が合わずに味方に誤爆してしまう可能性もある。

 ラナの有無に関わらず状況的に涼平の方が不利なことは変わらない。涼平が今できることは、アランたちの攻撃に耐えつつ、この重力に身体を慣らすほかない。涼平は重い腰を上げ、杖代わりにしていた剣を持ち戦闘態勢に入る。

 「では、行くぞ。」

 アランとヴィルの攻撃が涼平を襲う。


 戦線から離脱したラナは、ライトとフレアの方へ行った。

 「こんばんは。」

 ラナはライトたちに挨拶を交わす。

 「・・・何の用ですか?ライト様には指一本触れさせません。」

 フレアはライトの一歩前に出て、ラナの動きに警戒する。

 「そんな警戒しなくていいよ。私はお姉ちゃんたち仲良くしたいんだよ。とりあえず、名前教えて欲しいな。」

 「私の名前はフレアです。」

 フレアはラナの馴れ馴れしい態度にあっけにとられて、ついつい名前を言ってしまった。

 「私はライト。よろしくね。」

 ライトはラナが戦闘意思がないと考え、警戒心をといた。

 「ライトお姉ちゃんにフレアちゃんね。」

 ラナは2人に近づきながら、2人の容姿を嘗め回すように見ていた。

 「えーっとラナちゃん?そんなにジロジロ見られると困るんだけど。」

 ライトはラナの視線に恥ずかしさを感じる。

 「ライトお姉ちゃんちょーかわいい。胸大きいね。お兄ちゃんとの関係は?もうエッチした?」

 ラナはマシンガンのごとく話した。

 「ありがとう。胸はFカップかな。涼平とはただの友達。エッチなことはしてないよ。」

 ライトはラナの質問に対して、一つ一つ丁寧に答えた。

「ライト様にそのような質問攻めをして何が目的ですか?」

 フレアはラナに質問の真意を求める。

 「特に意味はないよ。ただ、お兄ちゃんとライトお姉ちゃんの関係が知りたかっただけだよ。」

 「ラナちゃんは涼平の妹なんだよね。涼平のことを心配してないの?」

 ライトは戦っている涼平を気にしている。実の兄妹が争うなんて、ライトからは考えられない。ライトで例えるなら、神様同士で争うようなものだ。ライトはそんなこと、辛くてできるはずもなかったのだ。

 「特に心配してないよ。勘違いしないでね。別に白状ってわけじゃないよ。アラン君はお兄ちゃんを殺そうなんて考えてないから。お兄ちゃんを魔界に連れ戻すために大人しくしてもらうだけだよ。もちろん、私だって命をとるなら反対するし、敵対もするよ。」

 ラナは心配していない理由を説明する。

 「そっそうなのね。」

 ライトは少し安堵した。少なくとも、涼平が戦闘に負けたら死ぬわけではない。

 「戦闘がどれだけ長引くか分からないし、終わるまでお話ししよ。」

 ラナは友達と話すようなノリで提案する。

 「・・・いいよ。」

 ライトは少し考えたが、ラナの提案を呑むことにした。理由は多々あるが、一番大きな理由は、今の涼平が戦っている姿を直視したくなかったからだ。


 その頃涼平は、アランたちの攻撃を防ぐことしかできなかった。しかも、全ての攻撃を防ぐことができず、既にかなりのダメージを受けていた。かなりのダメージを受けていたが、深手や再起不能になるようなダメージは受けてなかった。これはアランとヴィルが意図的に涼平に後遺症が残るような攻撃をしていないからだ。涼平の傷自体は浅い物ばかりだが、数が多ければ負荷は大きくなる。特に剣での攻撃なので、切り傷が大半となる。そうなると当然、切り口から出血が生じる。切り傷は大量にあるわけだから、出血も大量になる。

 (まずいな。) 

 涼平は自分の置かれている状況が絶望的であると再認識する。まず、重力だ。もう数分は戦闘しているが、一向に重力に慣れることができない。当然と言えば当然である。重力にすぐ適応できるなら、わざわざこんな大規模な魔法を使わないだろう。明確に有利が取れるから使用する意味があるのだ。おそらく、アランたちは長い時間をかけて、この5倍の重力下でも動けるように鍛錬をしてきたのだろう。

 次にダメージの問題だ。一つ一つの傷は浅いが、大量に傷があるので痛みはとてつもない。さらに出血が酷く、身体から血が減って頭がクラクラして、めまいもする。正直に言って戦える状況ではない。降参した方が楽なことは間違いない。 

 (どうせ負けるなら最後の賭けだな。)

 涼平は自分の中に残っている魔力を全て身体強化に回す。涼平がここ数分戦って分かったことは、身体強化をすればするほど、重力の影響を軽減することができることだ。厳密な理屈は分からないが、涼平は一つの考えがあった。簡単な数学の話になる。普段の身体能力をXとすると、身体強化魔法をかければ式はaXとなる。仮に5倍の身体強化魔法をかけると5Xとなる。ここから5倍の重力が加わると数式的には、5X÷5=X。つまり、今回の5倍の重力に対しては5倍の身体強化をすれば無効かできるということだ。

 しかし、実際はそんな単純な話ではない。そもそも涼平は人間の身体能力しかなく、その時点で悪魔であるアランたちと数倍の差がある。今の涼平の魔力では、重力下のアランたちの身体能力に及ぶか疑わしいところだ。それだけ、人間の身体というのは悪魔との戦闘において不利なのだ。足りない分は涼平の戦闘技術に欠けるしかない。

 涼平は一転変わって攻撃に移行する。しかし、全身にダメージを負っているので、攻撃の威力が足ない。涼平の攻撃はヴィルにあっさり躱され、反撃の一撃を食らってしまう。その一撃で涼平は限界がきて気を失ってしまう。涼平の最後の賭けも無残な結果に終わった。

 アランは重力魔法が解けるのを待った。重力魔法の欠点は永続発動ではないということだ。魔法を展開するには術者の魔力が関係し、ラナの魔力だと重力魔法は15分程度しか展開できない。その事実からみると、涼平の賭けは完全に裏目だったのである。重力魔法の対処法は魔法の効果が切れるまで耐えるということだ。仮に涼平がこの対処法を知っていたとしても、アランたちに勝つのは難しかっただろう。重力魔法下で涼平が15分も耐えることは至難の業であったことは間違いない。魔力的な問題で涼平は長期戦が難しい上に、重力魔法下でアランたちの攻撃を耐えるには身体強化魔法の倍率は上げなければならない。運よく15分耐えたとしても、魔力が底をついていて、その後の戦闘でやられるだけだ。どのみち涼平に勝つ術はなかったのだ。

 重力魔法が解けアランは気絶している涼平を持ち上げラナの方に向かう。

 「終わったみたいだね。」

 ラナはアランたちの様子を見て言う。

 「そうみたいだね。」

 ライトは涼平の口ぶりから結果を予想していたとはいえ、辛い感情が心の中を渦巻いていた。

 「ラナ。ミカに連絡しろ。」

 アランはラナに指示する。

 「分かったよ。」

 ラナは荷物の中から通信器具を探す。

 「ちょっと待って。」

 ライトが声を上げる。

 「どうした娘よ。安心しろ。今更貴様らをどうこうするつもりはない。」

 アランは今後のことを考えてそう口にする。アランの目的は涼平の戦力だ。ここでライトたちに危害を加えて、涼平の機嫌を損ねることは避けたいところだった。

 「そうじゃなくて、私たちも魔界について行っていい?」

 ライトは涼平のことが心配だった。ライトは今回の戦いで自分が涼平の人間界の生活を壊してしまったのだ。そのことに対して、ライトはすごく責任を感じていた。ライトは涼平の優しさと強さに甘えきっていたと改めて自覚した。一言涼平に謝罪をしなければとライトは思っていた。

 「・・・少し考える。」

 アランはライトたちを魔界について行くメリットとデメリットを考える。メリットはリィトがこの金髪女に好意を持っていることから、彼女がいることで心の支えになってくれるかもしれない。メリットはたいして無い。それに対してデメリットは明確にある。彼女たちはゲートを使うことができることだ。隙をついて涼平を連れて逃げ出す可能性がある。そうなれば、今日の戦いは無意味になってしまう。アランは考える。

 「いいだろう。ラナ、ミカへの連絡はなしだ。彼女たちにゲートを開いてもらう。」

 アランはライトたちを連れていくという結論を出した。よく考えると、デメリットに関してはライトたちを連れていくか否かに関わらず起こりえることだ。彼女たちは自分たちで魔界に行けることから、もしここで同行を拒否したとしても勝手にやってくる可能性は大いにある。それなら、一緒に来てもらう方が、ライトたちの動向を監視できるというメリットが加わる。それらのことを考慮して、アランは天秤にかけた結果、連れていくことにしたというわけだ。

 「分かったわ。フレアお願い。」

 ライトはフレアに頼む。

 「分かりました。それでは、座標を教えてもらっていもいいですか?」

 フレアはゲートを繋ぐために必要な座標をアランに聞く。

 「座標は・・・。」

 アランは繋いでほしい座標を教える。

 フレアは座標を指定し、ゲートを展開する。

 「もう入っても大丈夫です。」

 「分かった。」

 アランはゲートに入る。それに続いてヴィル、ラナと順番に入っていく。最後にライトとフレアが入った。全員が入り終わると、ゲートは光の粒子となって消えていった。


 

 

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