表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/39

十 帰ってきた日常

 ライトとフレアが人間界に戻ってきた。ライトの話によると神界にはしばらくの間戻らなくても良いという話だそうだ。涼平はそれを聞いて心の中で喜んだが、顔には出さないように踏ん張った。ライトは神様の力を使って転校を取り消し、いなかった期間は家庭の事情で欠席していたと学校に暗示をかけた。なので、ライトは何事もなかったかのように学校に登校している。一方のフレアは、一年間人間界で生活し家事全般を練習していたらしく、涼平に代わって家事全般を引き受けた。フレアは学校には通わずに、家事をやりつつ家でゲームをして時間を潰している。

 「ただいま。」

 涼平とライトは学校から帰宅した。

 「おかえりなさいませ。」

 フレアはゲームをしながら返事をする。

 「そのRPGってクリアしてたよね。」

 ライトはフレアがやっているゲームを見て疑問に思う。

 「はい。ですからクリア後にステータスをカンストさせようと思いまして。」

 「フレアはやり込み型のプレイヤーなんだね。」

 ライトはフレアに感心する。ステータスをカンストさせるには、低確率で落ちるステータスをアップできるアイテムが必要だ。全キャラカンストさせようと思ったら、途方もない時間がかかってしまう。ライトにはできない芸当だった。

 「そうですね。私はこのような一見作業に見えるようなことが好きなのかもしれません。」

 「そうかもしれないね。」

 ライトには心当たりがあった。フレアは神界では基本ライトの後ろで待機しているだけという、退屈な仕事を常日頃からしていたのだ。ただ後方で待機しているよりもむしろ、ゲームを操作できる分こちらの方が幾分かましかもしれない。

 「ねぇフレア。私と一緒にゲームをしようよ。」

 「もちろんです。」

 フレアはRPGをセーブして終了した。そしてライトと普段一緒にやっているゲームを起動した。そのゲームはオンラインゲームで、ソロプレーでもいいのだが、パーティーを組んだ方が何かと都合が良いのだ。ライトとフレアは2人で仲良くゲームを始めた。

 (相変わらず仲がいいな。)

 ライトとフレアの涼平は眺める。涼平はゲームには参加せずに、ダイニングテーブルの方で宿題を始める。涼平はライトと違って宿題にかなりの時間を必要とする。涼平たちの通っている高校は私立のの進学校であるので、勉強には非常に力を入れている。毎日多くの宿題が課される。さらに、明日から中間テストが始まるので、テスト勉強も平行して行わなければならない。涼平は人一倍勉強しないと赤点を取ってしまう可能性が高い。しかし、涼平にとって勉強をすることは苦ではない。魔界で殺し合いをしているよりは何倍もましである。

 涼平たちが帰宅して数時間が経過した。

 「いただきます。」

 夕食の時間だ。フレアが3人分の料理を作ってくれる。涼平はそのおかげで、学業の方に集中して取り組むことができる。残念な点があるとすれば、ライトに手料理を振るう機会を失ってしまったことくらいだ。

 「相変わらず美味しな。」

 フレアの料理はレストランで出てきてもおかしくないくらい美味しい。一年間練習したと言っていたが、涼平も一年以上料理をしてきたが、フレアに勝てる気がしない。

 「ありがとうございます。私は涼平様のように強くありませんし、ライト様のように頭が良いわけでもありませんので、家事では一番でありたいものです。」

 「フレアは私の従者から、この家のメイドに昇格だね。」

 ライトもフレアの家事能力の高さは評価している。

 「それは昇格なのでしょうか。」

 フレアはライトの発言がいまいち分からなかった。

 「昇格よ。今までは私だけだったけど、これからは私と涼平の二人を支えていくんだから。」

 「確かにそうのように考えると昇格ですね。」

 フレアは納得する。

 「フレアには助かってるよ。これからもご奉仕してくれよな。」

 涼平は家事を代わりにやってもらっていることに非常に助かっている。勉強する時間等、今まで家事をしていた時間を自分の時間に充てることができるのだ。

 「ご奉仕っていやらしい響きね。」

 (アニメの見過ぎだろ。)

 ライトの発言に心の中でツッコむ。

 「私としては、涼平さんがお望みでしたらそのようなご奉仕もしますよ。」 

 フレアは眉一つ動かさず発言したので、本心で言っているのか冗談で言っているのかが分からなかった。しかし、さすがに冗談だろうと涼平は考えた。

 「フレアは可愛いけど、フレアが相手だと犯罪臭が漂うからなしだな。」

 フレアの見た目は小学生とたいして変わらないので、ロリコンだと疑われかねない。

 「涼平はフレアみたいな顔が好みなの?」

 ライトが少し不機嫌になった。

 「えーっとライト?俺何かまずいことでも言ったか?」

 涼平はライトが不機嫌になった理由が分からなかった。フレアの提案に乗ったら不機嫌になるのは分かるが、しっかり断ったから問題はないと考えている。

 「別にー。」

 ライトは否定する。

 不機嫌なライトとライトが不機嫌になった理由が分からない涼平を見て、フレアはこのままではいけないと感じ行動に出る。

 「涼平様は私のことは可愛いと言ってくれましたけど、ライト様はどうですか?」

 「!!!」

 フレアの発言で涼平はライトが不機嫌な理由に気づいた。フレアに可愛いと言っておいて、ライトに言わなければ、ライトは可愛くないみたいになるからな。涼平はそう解釈した。

 「ライトも可愛いよ。俺が今まで出会った女の子の中で一番可愛いぞ。」

 涼平はライトを褒めることにした。涼平の中ではライトが一番可愛いと思っていることは事実であり、ライトと一緒にいたいという願いをライトに聞かれている以上に恥ずかしいことはないと涼平は考えていた。

 「ほんとに!!嬉しい。」

 ライトは両手で顔を隠して照れているが、声からは嬉しさが伝わってきた。

 「涼平様は察しが良くて助かります。しかし、もう少し女心を学んだほうがいいですよ。」

 ライトはが照れている間に、フレアが小声で涼平に耳打ちをする。

 「気を付けるよ。」

 涼平は反省する。

 「そうしてください。ライト様を悲しませたら許しませんので。」

 フレアはライトのことが大好きなんだなと思わせる発言だった。


 食事をとり終えるとライト、フレア、涼平の順番に入る。理由としては風呂を入る順番を決めておけば、風呂場で鉢合わせするハプニングが無くなるからだ。涼平としては、誰も風呂場にいないと勘違いしたふりをして、風呂場でライトやフレアが着替えを見るというチャンスを失ってしまったから残念ではある。

 3人ともお風呂に入り終えると、3人でゲームをすることになっている。やるゲームは様々で、ライト曰く、「せっかく一緒に住んでいるのだから交流を深めないとね。」とのことらしい。プレイ時間はそこまで長くなく、1時間程度なので涼平も断る理由は特にない。

 ゲームを終えると大体10時くらいになっている。涼平は自分の部屋に戻り勉強の続きを始める。今はテスト期間で勉強をしているが、普段は一人でPCゲームをする時間に充てている。ライトは史書の作成の仕事を始める。人間界と魔界の両方作成するので、ここから5時間程度かかる。フレアはその間リビングでゲームをしていることがほとんどだ。フレアはライトより先に寝ることはしないらしい。ライトたちが帰って来てからの1日はこのような感じで過ぎていく。

 

 翌日になりテスト週間となった。高校生のテストは一日に2教科もしくは3教科しかせずに、5日間にかけて行われる。涼平はしっかりと勉強していたので、赤点をとることはなかった。しかし、進学校ということもあり、テストの難易度や生徒のレベルの高さから涼平の全体の順位は240人中163位と微妙な成績しかとることができなかった。

 ライトの方は、どの教科のテストも開始15分程度で終わらせて、問題用紙の裏側で絵を描いていた。そんなライトの順位は美影と同率で1位だった。全教科満点という化け物っぷりを盛大に発揮した。そのライトと同率1位をとれる美影も十分化け物だと涼平は考えていた。

 

 「ねぇ涼平。テスト期間も終わったし、週末3人で遊びに行かない?」

 放課後帰り道を歩いているとライトが提案してきた。

 「そうだな。3人で遠くに遊びに行ったことまだなかったもんな。」

 ライトたちが帰って来てから、3人で行った場所といえば、フレアの生活用品を買うためにお馴染みのショッピングモールに行ったくらいだ。

 「それでね~私は遊園地に行きたいの。ジェットコースターとか乗ってみたい。」

 ライトは自分の願望を伝える。

 「いいんじゃないか。」

 涼平は了承する。実のところ、涼平も一度も遊園地に行ったことが無かったのだ。わざわざ一人で行くような場所でもないし、友達とも遊園地に行く機会がなかったからだ。さらに、涼平自身はジェットコースター等の絶叫マシンを楽しめる気がしないからというのも理由の一つだ。戦闘の方が何倍もハラハラドキドキするだろう。

 「それじゃあ帰ってフレアにも聞いてみないとね。」

 「そうだな。」

 涼平は頷きはしたが、聞く必要はないだろうと考えている。フレアはライトの要望を否定したりすることはないだろう。 

 帰宅後、ライトは週末に遊園地に行く話をフレアのした。フレアの返答は涼平の予想通り、二つ返事で了承した。

 そして土曜日になり遊園地に行く日となった。涼平の家から遊園地までは電車で1時間半くらいだ。遊園地の開園時間が9時なので、それよりは少し早く現地についておきたいと考えていた。だから、7時には家を出た。予定より少し遅れて8時40分に遊園地に着いた。既に開園を待っている人がたくさんいた。涼平たちは当日券を買う必要があるので、チケットを売っている所に行く。そこにも既に列ができていた。

 「こんなことなら、チケット予約しておくべきだったな。」

 涼平は列を見て呟く。涼平としては、夏休みや3連休とかでもないのに、ここまで人がいることが衝撃的だった。

 「まあいいじゃない。アトラクションに乗るにはもっと時間がかかるんだから、練習よ練習。」

 「そうだな。」

 ライトのこういうポジティブな考えに涼平も見習いたいところだ。

 9時になり開園する。涼平たちは少し遅れて9時18分に入園した。ライトは一番人気のジェットコースターに乗りたいとのことなので、早速そのジェットコースターがある所に行った。

 「3時間待ちか。」

 涼平はこのジェットコースターは平均どれくらい待つのか知らないので、3時間という数字だけを見て呆然とする。

 「当然待つよ。私は今日これに乗りに来たんだから。」

 ライトは最後尾に並ぶ。涼平たちも続いて並ぶ。

 付き合いたてカップルが別れるという噂はよく聞く話だ。その要因として、アトラクションに乗るまでの待ち時間の会話が続かずに、気まずい空気が流れてしまうことだ。その点、涼平たちは問題が無い。3人の共通の趣味としてゲームがある。皆それぞれ自分のゲーム機を取り出し、協力プレイをする。協力プレイをしていれば、ゲームでの共通の話題があるし、無言でもゲームに集中しているだけで気まずい雰囲気にはならない。

 ゲームをしながら待っていると、3時間という時間もさほど長くは感じなかった。ついにその時は来た。涼平たちは荷物を指定の場所において、ジェットコースターに乗る。全員乗った後、自動で安全バーが降りてくる。係員が安全バーの最終チェックをして、いよいよ動き出した。このジェットコースターの売りは、最高到達点が70メートルで、最高時速は120㎞/hだ。

 「キャー。」

 隣でライトが叫んでいる。涼平は予想通りというか、ジェットコースターに何も感じない。涼平が身体強化をすれば、最高時速よりも速いスピードを出すこともできる。いくら何も感じていなくても、それを顔に出してしまったら楽しんでいるライトがしらけてしまう。だから、涼平は楽しんでいるふりをするように心がける。ジェットコースターに乗っている時間は3分程度で、待ち時間に比べれば文字通り一瞬で終わった。

 「楽しかったね。」

 ジェットコースターを乗り終わったライトは感想を述べる。

 「そうだな。」

 「そうですね。」

 涼平とフレアは返事をする。

 「次何乗ろうかな。」

 ライトはアトラクション一覧がのっているパンフレットを見て考える。

 「ライト様。私これ行きたいです。」

 フレアはライトが持っているパンフレットの中から、自分が行きたいアトラクションを指さす。

 「お化け屋敷?私はいいけど、涼平はどう思う?」

 「俺もいいと思うぞ。」

 ライトと涼平が了承したので、次の目的地が決定する。涼平は了承したものの、フレアがなぜお化け屋敷を選択したのかが疑問だった。涼平は悪魔であるので、お化け屋敷で怖がることなんてあるはずがない。ライトとフレアも神様であるから、魔界のことは色々知っているだろうし、今更人間界のお化け屋敷で怖がるとは思えない。誰も怖がらないのにお化け屋敷に行って何の価値があるのか分からなかった。 

 お化け屋敷は1時間待ちと書かれていた。ジェットコースターのような人気アトラクションからは一段落ちるといった感じだった。待ち時間はいつも通りゲームをすることで時間を潰した。

 ゲームをしていると1時間はあっという間だった。スタッフに案内されてお化け屋敷のスタート地点に案内される。スタッフからお化け屋敷の説明をされ、お化け屋敷を回るのに必要な懐中電灯を渡された。懐中電灯は先頭を歩く涼平が持つことにした。

 「涼平様。私お化け怖いです。」

 フレアは涼平の左腕に自分の右腕を組ませた。

 「えーっとフレア?」

 涼平はフレアの行動に疑問をもった。フレアが怖がるとは思えないし、フレアの先ほどの発言は棒読みでわざとなのは明らかだった。しかもフレアは体を涼平に意図的に密着させている。涼平的には、フレアの柔らかい肌の感触を楽しめるので、無理に腕を振りほどくことはしなかった。

 「ちょっとフレアちょっと近すぎじゃない。」

 フレアの様子を見てライトはしびれを切らす。

 「しょうがないじゃないですか。お化け怖いのですから。涼平様に守ってもらわないと。ライト様も怖いなら、反対側が空いていますよ。」

 「えーっと・・・。涼平は嫌じゃない?」

 ライトは少し考えた後に涼平に許可を求める。

 「いいぞ。俺的には、ライトに頼ってもらえると嬉しい。」

 涼平はそう言ったが、本心は別にあった。ライトが腕を組んでくっついたら、ライトの豊満な

身体を堪能できると思ったからだ。

 「そっそれじゃあ。」

 ライトは涼平の右腕に自分の左腕を組ませる。

 ライトは恥ずかしいのかフレアみたいに密着はしなかったが、ライトはダイナマイトボディなので、涼平の腕にライトの大きな胸が当たっている。

 (今日来てよかった。)

 涼平は心の中で叫んだ。涼平にとって遊園地のアトラクションは子供騙しのようなものだった。今日はライトの付き添いで来ているだけだった。しかし、まさかこんな役得があるとは。涼平はお化け屋敷を歩いている間、ライトの胸や肌の感触を存分に味わった。正直な話、涼平の下半身の一部は少し大きくなっていたが、お化け屋敷が暗いこともあり、ライトたちに気づかれずにすんだ。

 お化け屋敷は全然怖くなかった。当然と言えば当然である。ただ、このお化け屋敷には怖がらせる以外に要素があった。それはビックリさせる要素だ。このお化け屋敷は寂れた洋館という設定で、シャンデリアが急に落ちてくる演出や、急に大きな音が鳴る演出うがあった。ライトはそういう演出に驚いて叫んでいた。

 お化け屋敷の中はそこまで広くなく、7分程度でコースを回ることができた。ゴール地点にたどり着き、スタッフに懐中電灯を返し外に出る。

 「いやービックリしたね。怖くなかっったけど、ちゃんと楽しめたよ。」

 ライトはお化け屋敷の感想を言う。

 「そうですね。洋館の雰囲気とかクオリティは高かったと思います。そう思いますね涼平様。」

 「えっ。あっそうだな。」

 急に話を振られて条件反射のような返事をする。

 「どうしたの涼平?何か考え事でもしてたの?」

 「別に何でもないよ。」

 涼平はライト身体の感触が気持ちよくて余韻に浸っていたせいで、上の空になり会話をほとんど聞いていなかっただけなのだ。

 「涼平様はお化け屋敷以上に楽しいことがあっただけすよ。」

 フレアは小悪魔のような笑みを浮かべる。

 「???」

 ライトはフレアの言葉の意味が分からずに首をかしげる。

 「もう1時過ぎてるし、どこかでご飯にしよう。」

 涼平は無理やり話題をそらす。

 昼ごはんはパンフレットで調べて、現在地から一番近いレストランにすることにした。そのレストランは洋食をメインとしており、遊園地にキャラにそったメニューが盛りだくさんだった。味はそれなりに美味しかったが、問題なのは値段である。例えば、ライトが食べているハンバーグ定食は1500円程度だ。これをファミレスで食べれば、半額くらいの値段で食べることができるだろう。まあ、遊園地にまで来て、そんな現実的なことを考えてもしょうがないので、涼平は何も考えないことにした。

 昼食を食べ終わるころには2時を過ぎていた。今はライトがお手洗いに行っているので、フレアと二人で待っているところだ。

 「やっと二人きりになれました。」

 フレアは涼平に話しかける。

 「どうしたんだ。」

 「ライト様の前では話しずらい話題ですからね。ジェットコースターを乗り終えた辺りから、私たちの後をつけている人たちがいます。」

 「フレアも気づいていたんだな。」

 涼平は少し驚いた。涼平も自分たちを尾行している人物の存在には気づいていた。しかし、それをライトたちに教えて、変に不安にさせてしまうのも良くないので伝えていなかった。

 「あんなバレバレな尾行、ライト様でなければ気づきます。」

 「そうだな。」

 フレアはライトをご主人様として慕っているのか、分からないような発言を多々している。だが、確かに今回はそれくらい尾行されていることが分かりやすかった。尾行者はただ後ろをついてくるだけで、隠れながら移動しているわけではなかった。遊園地は人が大勢いるから、見つからないの高をくくったのだろうか。尾行者は顔をフードで隠す特徴的な服装をしていた。頭隠して尻隠さずといったところだろう。見つかることを前提としていているが、正体を知られるわけにはいかないといった感じか。

 「わざと見つかるように尾行していたとして、その理由が分かりませんね。」

 「あえて理由をつけるなら、俺たちが人が少ない場所に行くことを待っているとか。」

 「と言いますと?」

 「尾行者が悪魔だったら戦闘の機会を窺っている可能性がある。」

 涼平は尾行者の行動を推測する。

 「悪魔だとしたら、私たちを見つけた瞬間襲ってきたらいいのではないでしょうか?」

 フレアは疑問を持つ。フレアがライトから聞いた話だと、悪魔は出会った瞬間戦闘が始まったのだ。今までの悪魔とは傾向が違うみたいだ。 

 「戦闘する場合、遊園地のような人が多い場所で戦うことは不確定要素が多くなる。例えば、死角だ。人が多いと敵を見失う可能性があるし、人の隙間から攻撃することも可能だ。それに俺はしないが、人を盾にすることだってできる。」

 「なるほど。尾行者は3人ですし、普通に考えれば数的有利をとれます。けど、人込みの中だと数的有利の状況を覆すことができると。」

 「まあ、そうだな。尾行者たちは俺の感覚だと今の俺と同格程度だろう。同程度同士の相手だと、戦闘の決着ってのは、体力や集中力の差で決まる。相手は3人だ。普通にやれば勝てる勝負をわざわざ、負ける要素を増やすこんな場所で戦う必要はない。」

 涼平は尾行者の動きにもっともらしい理由をつける。実際涼平が言う人込みで戦うメリットは空いても有効であるから、涼平だけが有利をとれるわけではない。むしろ、人を盾にすることを躊躇する分、涼平の方が不利まである。おそらく尾行者には、人がいては戦闘の際に何か支障があるのだと涼平は考えている。

 「そうですか。なるほど。それで、涼平様はどうするのですか。少なくとも遊園地にいる間は襲われないとしても、遊園地を出たら戦闘になる可能性が高いということですよね。」

 「おそらくな。俺としては戦闘するなら日が沈んでからの方がいい。暗闇の中の方が有利に戦えるからな。」

 暗い中での戦闘は目が重要になってくる。味方と敵の判断をする必要がある。涼平は一人なので、自分以外は全て的と判断できるが、相手の方は涼平か味方かを判断しなければならない。仮に何かしら目印になるようなもので対策していても、確認の際にコンマ数秒の時間ができてしまう。その一瞬が勝負では大きな差となる。

 「でもそうでしたら、相手方は暗くなる前に勝負を仕掛けてくるのではないでしょうか。」

 「そうなったらそうなったで構わない。向こうの位置は割れてるから、不意打ちは効かないし、向こうが焦って戦闘を仕掛けてくれれば、こちらとしてはやりやすい。」

 勝負に焦るとそれだけ思考能力が低下して、単調な攻撃になったり、作戦通りに行動できなくなったりする可能性が出てくる。むしろ、相手が作戦に絶対な自信を持っていて、暗闇程度の条件では不利にならないから気にしない方がよっぽど厄介だ。

 「では、今は遊園地を楽しんでいればよいと。」

 「そうだな。閉園時間まではいられないが、7時くらいまでは楽しんでも問題ないと思う。」

 この遊園地の閉園時間は9時でそこから戦闘となると10時近くになる可能性がある。今は5月で10時過ぎともなれば辺りは真っ暗だ。暗闇で戦うと涼平の方が有利に戦えること自体は事実だが、涼平自身も暗闇での戦闘では全力で戦うことができない。例えば、敵の急所を突きたい時に、暗闇だと確実に当てることは難しくなってくる。涼平の魔力的に戦闘の早期決着を望んでいるので、確実に相手にダメージになる攻撃をしたい。暗闇だと命中率と言うのはやはり落ちてしまうのだ。涼平が先ほど暗闇だと自分の方が有利だと考えたのは、お互いマイナスだが、向こうの方がマイナスが大きいだけである。だから、涼平自身もなるべく明るいうちに戦いたいのだ。だが、遊園地に来る事を楽しみにしていたライトに、早く帰るなんて言ってライトを悲しませたくない。だから、譲歩した結果7時までなのだ。

 「ねえねえ何の話してるの?」

 トイレからライトが戻ってきた。

 「大した話はしていませんよ。次はどのようなアトラクションに乗ろうか話していただけです。」

 フレアは平然と嘘をついた。ライトに余計なことを話して心配させることは良くないけど、顔色一つ変えずに話すフレアに涼平は少し恐ろしく感じた。

 その後、最初に乗ったジェットコースターとは別のジェットコースターに乗った。待ち時間は2時間半程度だった。時刻は5時前。涼平はライトに次のアトラクションを最後にしようと提案した。ライトは意外にも二つ返事で了承してくれた。涼平的にライトはごねると思っていたからだ。

 ライトが最後に選んだアトラクションはフリーフォールだった。これまでに乗ってきたアトラクションから、ライトは絶叫マシンが好きなことが分かった。まあけど、多くの人が絶叫マシンは好きなので、ライトもいい意味で人間に染まりつつあるのかもしれない。

 フリーフォールも乗り終え時刻は7時を過ぎたころだった。涼平の予定した時刻になり、遊園地を出ることにした。

 「今日は楽しかったね。」

 ライトは歩きながら言った。

 「そうだな。」

 涼平は相槌を打つ。

 「涼平はどのアトラクションが面白かった?」

 「それは・・・最初に乗ったジェットコースターかな。」

 涼平は悩んだ末に答えを出した。正直に言うとアトラクションとしては、どれも楽しめなかったというのが本音だ。

 「私はお化け屋敷が一番面白かったですね。ライト様と涼平様の反応を見ているのがとても面白かったです。」

 フレアが話に入り込んでくる。

 「何よそれ。私たちがお化け屋敷でビックリする姿を見て、面白いだなんて悪趣味だね。」

 ライトはフレアがそんな感想を言ったことは意外だった。ライトにとってフレアは従順な従者と言うイメージだった。人間界にきてから性格が変わったのだろうか。

 (まあ、ライトが考えているような反応ではないけどな。)

 涼平もフレアが悪趣味なことにはおおむね同意だった。


 涼平は尾行者が後をつけていることを確認しつつ電車に乗る。

 「涼平、この電車、家とは逆方面に向かうやつだよ。」

 ライトは涼平が乗る電車を間違えていることを指摘する。

 「大丈夫だ。ちょっと行きたいところがあってな。」

 涼平はライトに間違ってないと返答する。涼平はこれから尾行者と対峙する場所に向かっている。涼平は遊園地での待ち時間の間に、どういう場所が最適なのかを考えていた。まず街中及び人がいるところは避けたかった。その理由は戦闘する際に、他人を巻き込みたくないからだ。涼平の頭の中に無関係な人の存在がちらつくと戦いに集中できないからだ。まず、人のいない場所が良いことは間違いない。次に必要になるのは戦いやすい場所だ。涼平としては荒野のように障害物がない、開けた場所が最適だ。開けた場所では小細工は通じにくいからである。問題があるとすれば、尾行者側もおそらく開けた場所で戦いを望んでいることだろう。だが、涼平は自分が慣れない場所で戦いをし、本来の力が出せない方がデメリットと感じた。

 色々な理由から涼平が選んだ場所は街外れの河川敷だ。河川敷は障害物がないし、夜は人通りがほとんどない。涼平にとって最適な場所だ。

 「涼平が行きたい場所ってここだったの?何にもないただの河川敷だけど。」

 ライトは河川敷を見渡して疑問に思う。

 「ああ。何もない見晴らしの良い河川敷だからいいんだ。ここなら戦いやすいからな。そうだろ尾行者さんたち。」

 涼平は後方を振り向き尾行者に尋ねる。

 「そうだな。こちらとしてもこのような場所の方がやりやすい。」

 尾行者の一人が返事をする。

 「えっ何尾行者って。」

 一人状況が分からないライトがあたふたしている。

 「ライト様。空気を読んでください。」

 フレアはライトを制止させる。

 「そろそろフードを外してもらえると助かるんだが。」

 涼平の一言で、尾行者たち3人はフードを外す。

 「久しぶりだなリィト。」

 そこには涼平がよく知っている顔が並んでいた。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ