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花言葉シリーズ

柳薄荷の散花

作者: 怪連堂

もう疲れた。

今日も今日とて動かない足を引きずり出社した。

「おはようございます…」

返ってくる言葉は無かった。それでいい。むしろ怒号が返ってきたときの方がよほど厄介だ。今日の獣は幾分機嫌が良いらしい。

窓辺に座る初老の男。眉間に刻まれた深い皺が、奴の底意地の悪さを表すかのようだ。

文句ばかり言う上司。ヒステリックに喚くだけ喚いて、失敗は全てこちらの責任として擦り付けてくる。

そして嫌がらせは気弱な俺にのみやってくる始末。

ああ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。

自分は無能の癖をして、さも能力が高いかのように居座り続ける老害めが。何かと難癖をつけてこちらを否定する悪魔めが。

頭が痛くなる。

今日もいつもと同じように昼休みが終わった途端に仕事を押し付けてきた。

俺はお前の奴隷などではない。

早く病気やら事故やらでいなくなってくれないものか。

できなかったら明日で良いなどと。本当にそれをしたら激怒するのは、火を見るより明らかであるのに。なぜわざわざそんなことを言ってくるのか。

「今日は妻との結婚記念日」だと?

何故それをまだ仕事が終わっていない俺に対して言うのだろうか。嫌がらせか。嫌がらせなのだろう。

こちらが苦しむ様を見るたびに、お前が心の中でほくそ笑む姿が目に浮かぶ。

こちらがどんな思いをしてお前の下で働き、どんな思いをして我慢をしているか。想像もしないだろう。

憎い。憎い。ああ、憎くて仕方がない。

窓辺にいる上司。

眉間に皺を寄せながら働く厳格な上司。

それを称賛する頭の湧いた愚かな女ども。

ああ、腹が立つ。

終業後。深夜に帰ろうとする上司を呼び止めた。

眉根を寄せて訝しがる上司の顔ときたら。なんと滑稽なことか。

作り笑いを浮かべて、お祝いだと言ってスグリとヒソップの花束を贈ってやった。

心地良い風がそよぐ窓辺で花束を渡す場面は、男女ならロマンチックなのだろうが生憎相手は自分が大嫌いな上司だ。

反吐が出そうでも我慢した自分を褒め称えたいくらいだ。

それにしてもあの嫌な顔をした上司が、あんなにも涙を流すとは!

笑いが止まらない。

泣き笑う上司の、なんと夜空に映えること!

あれは実に美しかった。

心底嫌いな上司ではあったが、あの光景は一生に一度も無いくらいの絶景だった。

感謝しよう。唾棄するほど嫌いな相手ではあったが、最後に絶景を見せてくれたことには人として感謝をしよう。

ああ、これからは自由だ。

上司も本当に飛ぶようだったし。

嗚呼。

明日が楽しみだ。

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