第29話 三度目の正直?
カーナとその師匠であるオーサンの見解が一致した為、本格的な調査に乗り出す事となった。
...なったのは良い事なんだろうが、なぜ?..僕まで参加する羽目になってしまったのだろうか?
いや、参加したくなかった訳じゃないんだけども...僕の実力は身をもって実感したし、正直言って、足手纏いにしかならないと思う。
そのなぜ?参加する事になったのかを、今から詳しく説明していきたいと思う...
カーナがオーサンに相談した後、ゴブリンが巣を作っている兆候が見られる為、詳細な調査をする事になった。
「やっぱり、成員は少数精鋭で?」
「まあ、それが妥当だな...大人数だと無駄に刺激しちまうだろうし、今回は調査と言っても、状況把握が主は偵察みてぇなもんだが、今のこの世の中じゃ、何が起きるか分かんねぇ。っちゅ事で、緊急時の素早い行動が取る為にも、ある程度の実力がある者じゃねぇといけねぇ訳だ!」
話し合いは二人の間で行われており、アーツは蚊帳の外である。
...スイ?..スイは余程暇であったのであろう、もうすでに気持ち良さそうに寝ている。
二人はなんだかんだと言っても、師弟の関係であるから、話はスムーズに進んでいる。
オーサンは狩りの腕だけでなく、探索の腕も里一番であり、調査や偵察といった事もお手の物であるのだった。
カーナが相談のみで訪れる訳がない。
オーサン、そして、カーナ自身の参加は決定済みなのである。
ある程度の実力がある者…里の上位の実力者…が最低条件になる事も分かっていたのである。
「私の実力は里の三本指に入るから、あなたの護衛も指導もバッチリよ!」
狩りの最中にそう、アーツに自慢している。
自称ではあるのだが、そう言えるだけの実力は充分にあるのだ。
オーサンとカーナは決定みたいだね...他は誰だろうね?まあ、どう転んでも僕が参加する事はないだろうし、面倒事に巻き込まれる心配はしなくて済みそうだ。
...まあ、情けない話ではあるんだけどね。
「...オレとカーナ、後は..守り長と言いてぇとこだが、守り長は里から離れる訳にはいかねぇ~だろうし..まあなんだ、カーナ?お前ぇは嫌がるだろうが..最後は..モリトだな!」
カーナは露骨に嫌そうにしつつも「はぁ~、やっぱりそうなるのよね?」と渋々と最後には了承していた。
オーサンだけでなく、モリトというどこかのバカ者も一緒でカーナは大変だぁー..てな冗談を頭に思い浮かべていたのだが...
「...アーツと言ったか?お前ぇは最初からオレに対して容赦ねぇな..もっと敬意ってもんを払えんかねぇ~?」
「...モリトって、何かと私に絡んでくるから面倒くさいだけ..私の方が実力が上なんだし、もっと敬意を払ってもいいと思うんだけど?..まあ、アーツの言う通り!師匠も面倒くさがり屋だから、実質、私が統率者として頑張らないとね!」
「...おい!」
またもや心の声が..以下略。
何か知らないけど、オーサンには気兼ねなく接する事が出来るんだよね!
ムコウの世界の僕の師匠にどことなく似てるのかな?
特に面倒くさがりでずぼらな所とか...
まあここは..オーサンの人柄が良い!..という事にしておこう!
「いえいえ、オーサンさんの人柄が良くって、つい、それに甘えてしまって..申し訳ありませんでした...」
「お、おい!そんなに落ち込む事ないぞ!そう、それは仕方がない事だ!ま、まあ、オレほど人柄が良いのは里でも珍しいからなぁ~(〃▽〃)..さん付けしなくてもいいぞ!呼びにくいだろうから、ここはオーサンと呼ぶ事を許可しよう!」
「...」
ふっ、チョロいな!オーサン!..まあ、良い人と思うのは本音なんだけどね!
チャララ~ン!オーサンをさん付けせずに呼ぶ事を許可された!!
...な~んてね!..まあ、呼びにくいのも確かだけども。
ちなみにオーサンから後で聞いた話なのだが、カーナから師匠呼びされる前は、やっぱりと言ってよいのか、オッサン呼びされてたそうだ。
カーナもその頃はまだ幼かったので、呼びにくかったのはあるのだろうが、他の同年代の子にもそれが伝わり、そして、里中に広がり、皆からオッサン呼びされて当時はトラウマになりかけたそうだ。
5~6年前...逆算しても30歳ぐらいかぁ~..うん、充分におっさんだな!
この時に聞いたのだが、今、36歳だそうだ。
そして、その当時はアニキと呼ばれたかったそうだが、呼ばれたかどうかは..まあ察するとしよう!
そういう訳で、モリトのバカタレの家にやって来た。
オーサンが開き戸をノックして、呼びかけた。
戸が開いた先には、如何にも、いぶし銀的な顔をした厳ついオジサマという感じの方が出てこられた。
髪は長く、後ろで束ねており、眼光鋭く、口は真一文字でその口を隠すように髭が周りにある。
そして、その髭はアゴヒゲ、モミアゲと繋がっていた。
漂う気配だけで分かる!彼者は歴戦の強者だと!!
皆はその気配に気圧され..てないね?僕だけみたいね..オーサンもカーナも普通に接していた。
「おっ、守り長!モリトはいるかい?アイツにちょっと頼みたい事があるんだが...」
「...門で他の者と屯して居ろう...そこの勇者とやらがカーナと狩りに出かけたと聞いたようでな...待ち伏せでもするつもりだったのであろうが...成人の儀も終えたというのに...この調子では次の守り長は別の者になるであろうな...」
後の方は関係のなさそうな事言ってたけど、あのバカチンは門で待ち伏せしてるようだね?
...って、タイミング遅すぎだろ!
僕達はとっくの昔に里に入ってるし..でも、そういえば、早めに切り上げてきたんだっけ?
という事は、異変がなければ、まだ、狩りをしていて、タイミング的には良かったのか?
まあそれよりも、何でこの家に守り長が...!?
えっ..もしかして、そういう事なの!?
守り長が同じ家にいる⇒行き先を知ってる⇒次代の守り長の心配をしてる⇒つまり...
あのタイミング悪い男は守り長の息子!!!
..だから、あんなに威張ってたのかぁ~。
「...まあ、守り長、成人したって言ってもまだまだ時間はあるだろうし、モリトも根は良い奴だよ?若手連中には好かれてるし、強さだけなら上位だしさ!そこまで気にする事はねぇよ?」
「...強さだけであろうあの者は...他の者もその強さを当てにしてるにすぎん!!」
「まあ、そうだろうけども..これから、色々と経験を積んでいけば良いのさ!..それで訪ねて来た訳だけど..一応聞いてはみるが、守り長は外に出かけれるかい?」
「...私が里を離れる訳にはゆかん...」
「まあそうだよな..という訳だから、守り長、経験を積ませる為にもモリトを連れていくぜぇ」
「...構わん...好きにしろ...だが...あの馬鹿息子が素直に言う事を聞くかは知らんぞ...」
「...カーナもいるし、まあ何とかするわぁ~」
そう言いつつ、踵を返すオーサン。
カーナは姿勢を正し頭を下げてから、オーサンの後を付いて行く。
僕も置いて行かれないように付いて行こうとしたのだが...
「...勇者とやらよ...私らが勝手に召喚した手前...こんな事を言うのはおかしいのだが...命は大事にされよ...それと...そのスライム?...と常に一緒にいるように...」
そう言いつつ、僕が抱えてる眠ったままのスイをチラリと見た後、戸を閉め家の中へと消えていった。
「アーツ!何してるの!置いて行くわよ~!」
守り長に言われた事を疑問に思いつつも、カーナの後を付いて行くのであった。
守り長に言われた事を考えてる内に門へと辿り着いていた。
守り長の言う通り、バカ者と数人の若者が門で屯していた。
見事な入れ違いだったようで、まだ、僕達が狩りに出ていると思っているようだ。
門の外に目を向けているしね...
「よう、モリト!ちょっと頼みてぇ事があるんだがよぉー?」
オーサンに背後から声をかけられて、ちょっとビクッとし、こっちを向いて、今度はギョッとする愚か者。
「オーサンか、ビビらすんじゃね..って!?カーナ!?何でお前たちが里の中にいるんだよ!お前たち、狩りに行ったんじゃあ...?」
「「...」」
「里の中に居てはまずいの~モ~リ~ト~..待ち伏せして今度は何をするつもりだったのかしら(怒)?」
「...」
バカな愚者は待ち伏せがなぜ失敗したのかと絶句してる様子だが、他の取り巻き連中は分が悪いと思い始めたのか、距離を取っていた。
「...はぁ~、モリト、あなたそれでもホントに成人の儀を乗り越えて来たのかしら?ちっとも成長してる感じないんだけど?」
「なっ!?」
バカタレは僕達と入れ違いになったとは気付いてないみたいだね!
取り巻き連中は形勢不利と見て、若干、こっちに寄って来てるね..いや、カーナの怒りの巻き添えを食わないように避けているのかな?
それにしても、こんな脳筋に僕は簡単に負けてしまったんだねぇ~..はぁ~..
「...なあ、モリト?入れ違いになっただけだぞ?カーナが森の異変を察知してな..それで早めに狩りを切り上げてきたんだぞ?..まあ、その件で、お前ぇに頼みてぇ事があるんだがよぉ~?オレとカーナと一緒に森の調査に行ってくれねぇか?」
オーサンは単刀直入に調査の助っ人を頼んだのだが...
「なんで、このオレ様がそんなメンドイことをしねぇといけねぇ~んだ?勇者とやらとつるんでるみたいだが、たとえオーサンの頼みでも、そんな得体の知れないヤツの手伝いなんて...」
何故か、このおバカ様は僕の依頼でオーサンとカーナが協力してくれてると勘違いしてるようだ。
オーサンとカーナはあまりの的外れに呆れを通り越して、絶句している。
「だがまあ、オレ様がじきじきにえたいの知れないヤツの実力を見極めてやってもいいぞぉ?」
...何言ってんの?僕の実力なんて決闘でたかが知れてるでしょうに?
僕が何を見当違いな事をと思ってる中、オーサンは「シメた!」という感じで言葉を発した。
「そうだろぉ?オレもソレを気にしてたんだよ!モリトが見張っててくれるなら安心だろうよ!」
「ふふん!まあ?そこまで言われちゃあ~、しょうがない!おい、勇者とやら!お前は弱いからオレ様が守ってやるから、側をはなれるんじゃないぞ!!」
オーサンも何を見当違いの事を..と思っている間に、僕は首根っこを掴まれ、引き摺られながら門の外へと引っ張り出されて行く。
はっ!もしや!!オーサンを揶揄い過ぎたから仕返しされてる?..なんて思ってたら、オレ様野郎が僕の方をチラチラ見てる?
...いや、視線が微妙にズレてるな?
その視線の行き先は如何に?..僕が両手で胸の前に抱きかかえてるスイ…未だに気持ち良さそうに寝てるけど…だった!?
..見当違いは僕の方だったね?
オーサンはこの事に気付いて、利用してたっぽいね!
カーナはまだ絶句して..いや、呆れてるな。
スイは気持ちよさそうに..僕もこのまま寝てもいいかな?
チラ見男はそんなスイを見て..ニヤついてる!?
スイ!寝てる場合じゃないよ!!逃げないと、身の危険だよ?
僕はそう現実逃避しながらも、このニヤつき男に今後も振り回される気がしたのだった。
追放されて放り出された時も大変だったが、今回も嫌な予感がする..?
...いや!嫌な悪寒かな!
そうする間に僕達は里の外へとやってきていたのだった...
三度目の正直?..それは何でしょうか?オイシイノデスカ?
...はい、すいませんでした、ふざけてる場合じゃないよね?
二度あることは三度ある!とも言うし..ドンマイ、ドンマイ!
次こそは自分の意志で里の外へと!..とは思うのだが、次もなんだか続きそうな予感が..いやいや、そんな事..ないよね?
こうして、不本意ながらも里の外へとやってきて、ズルズルと森の異変の調査にいつの間にか参加する羽目になったってな訳ですよ!
ズルズルと引き摺られてるだけにね!...オチは取れたかな?
「面白い!」
と少しでも思ったソコのアナタ!
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