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良くも悪くも何か「引く」 暴走コマンダー


 二十七年前の誕生日、私の名前は「まゆみ」から「ユミ」へと改められるはずだった。若くして、安達太良(あだたら)家の主に選ばれた。主は、特定の年齢を迎えると「ユミ」を名乗る掟だった。主だった祖母が、孫の私をぜひに、と指名した。だが、私は安達太良家の一員のままだった。父が「ユミ」として生きることを止めたのだ。因習は終わらせる、家の長はこの現代には要らない、と。祖母は、息子の反抗にショックを受け、心臓を弱らせた。翌年、祖母は息を引き取り、祖母に従っていた叔母、いとこ、仕えていた人達が後を追うように病にかかり、みな世を去った。


 二十年前の誕生日、父にペンダントをもらった。弓矢を象った銀のチャームは、強い女性の武器を思わせた。大学入学のお祝いも兼ねて、だったらしい。私はつい、首をかしげた。入学式の朝に、細長い包みが机にあったのだが。藤色のボディが上品な万年筆。あれは、父からではないのか。訊ねてみたかったが、胸にしまっておいた。父は、過去を振り返らないことを信条としていたから。この頃から、父と会話する数が減った。今思うに、話したいことを逐一話せば良かった。未来を前もって知っていたならば。


 十二年前は、誕生日どころではなかった。ひと月前に、父が黄泉(よみ)へ旅立ったのだ。家族が、鈍色に曇っていた。父は、まだ晴れやかに笑えていない。家族にもそんな父をみせたい。私は、先祖のアヅサユミに力を貸してもらい、父の命を(うつつ)に引き戻した。あの弓のペンダントをたづきにして、アヅサユミを()んだ。私は、確かに安達太良の人間だったのだ。だが、父は笑ってくれなかった。終わりが訪れるからこそ、命なのだと私を叱り、父は黄泉へ再び行った。良くないことをしたとは、自覚している。良くないことをしてまで、父に幸せになってもらおうとしたというのに、律儀に帰らぬ人になって……。恨みたくても、恨めなかった。

 喪が明けて、私は「安達太良」の家を抜け、「真弓(まゆみ)」の家に入った。父の一番弟子であり、息子同然に大切にした人が、私の夫になった。浪人生だった私の家庭教師だったこともあった。夫に父の像が重なって、就職するまで「父の代わり」として甘えていた。いみじく反省している。当たり前だが、夫と父は、別の人間だ。誠意をもって、夫を夫として愛さねばならなかった。


 今年の霜月十一日、私はまあまあ年をとった。私が担当しているゼミで、気になっていたスパイスカレーのレトルト食べ比べセットを学生達にもらった。さらに、私が顧問を務めている学科公認サークル「日本文学課外研究部隊」で、寿(ことほ)がれた。隊員五名の生演奏つきの歌は、日頃心についた埃を落としてくれた。与謝野(よさの)さんは大きなクラッカーを鳴らして、はしゃいでいた。夏祭(なつまつり)さんはカレー味のトルティーヤチップスを山盛りにしてすすめてくれた。仁科(にしな)さんは、シフォンケーキを見事に六等分にして拍手をもらっていた。本居(もとおり)さんは、時々折りたたみピアノで私の好きな曲を弾いていた。大和(やまと)さんは、むりやり三角棒をかぶせられ、パーティひげメガネをかけさせられげんなりしていたが、写真を撮る時は隠れてうきうきしていた。私は、五人が楽しんでいるところを見ていて、生きてきて良かったと実感した。こんな私を、祝ってくれる人がいる。私も、あなた達を寿ごう。()(さき)くあれ。



 父よ、アヅサユミよ。私の行ったことは、人間の域を逸れていた。その(とが)は、この身と命を持って償う。たとえ誰もが絶望するようなものでも、私は負けやしない。屈しない。私がすすんで行ったのだ。なにを恐れようか。だから、ひとつ望みを叶えさせて。


  私の大事な教え子達に、災いがふりかかった時、私に覆せる「奇跡」を授けてください。

特別企画:もしも、日文の先生が某人気カードゲームになったら

⑦安達太良先生篇

安達太良 まゆみ (あだたら まゆみ)

体力:220 属性:白 弱点:なし 抵抗:紫色(受けるダメージ30減)

※この登場人物が戦闘不能になった時、伏せ札を2枚取る。

技:ひく(引く)、白エネルギー1枚

→以下の効果から、ひとつ選ぶ。

 ①山札を上から2枚引き、手札に加える。

 ②次の相手の番、相手の使う技のダメージは「50減」となる(0より少なくなった場合、0ダメージとする)。

 ③相手の戦闘人物に50ダメージ。


 技:せいばい(成敗)、白エネルギー2枚 60ダメージ

→相手の場にいる人物全員にもそれぞれ30ダメージ。


技:まゆみコレクト(まゆみコレクト)、赤エネルギー・青エネルギー・緑エネルギー・黄色エネルギー・桃色エネルギー各1枚 

→相手の体力が「60」以上なら、残り「50」になるまでダメージ印を乗せる。「50」以下なら、戦闘不能にする。


【八十島評】あの「特別な力」をどう再現するか、悩みに悩んだうえ出した答えが、これです。札を取る意味での「引く」、ダメージを減らす意味での「引く」、体力を削る意味での「引く」……あ、②と③の意味が重複している! 「せいばい」で有無を言わさぬ全体攻撃、そして「まゆみコレクト」で一撃または次の番で必殺。恐ろしい教師ですね。エネルギーを回せるよう、補助札を使いこなしましょう。

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