表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

清く、厳しく、美しく 月陰に詠う妖花

「ふむ、()らずの雨かい」

 講義棟の一階に下りたら、硝子戸がくもっていた。

「食堂だったならば、お茶でもしながら待てるのだけれどもね」

 上司は、流し目を作って言った。


 エナメル加工の手提げから折りたたみ傘を取り出す。淡いオレンジの地に、白い小花が各面に一輪ずつ刺繍してある物だ。

(もり)(くん)、急がぬとも()いでないか。今日の講義が済んだのだよ?」

「事務助手より、時進主任がひどく酔われていると連絡があった。主任の介抱は、最優先事項である」

「私達は、学科主任の護衛を任されている。けれども、だね……」

 ほとほと困る上司を、部下はまばたきせずじっと見ていた。

「君には降参するよ。行こう」

 一本の傘に、二人。大雨のもとを歩き始めた。


「十年ぶりだなあ。あの頃通いつめていた店の若女将だったかな。うなじに紫陽花の香りをつけていたよ」

「誤りである。正しくは、八日前。二限目の移動時に、国際学部外国語学科伊国(イタリア)語コース所属伊藤(いとう)ガリバルディ美亜(みあ)講師の傘に入っていた」

「はは、ははは……そうだったかね? 夢でも現でも、似たようなことを経ているものでね、ひとつひとつ覚えられぬよ」

「……いつでも初恋の気分だと、近松先生は仰っていた」

 上司が、ネクタイを締め直す。分が悪い時の仕草だ。部下は、何年も目にしてきた。

「君との思い出は、身をもって刻みつけているからね。安心しなさい」

「生々しい表現である。誤解を招く可能性が極めて高いといえよう」

 量が増えてきた。上司は、自然な手つきで部下を抱き寄せた。

「濡らすわけにはいかぬ」

「自然現象に嫉妬しているのだろうか」

「いや、私自身の問題さね」


「近松先生」

 上司は色っぽく首をかしげた。

「本朝の歌に、神の涙が空に降りて、飴になったというものがある」

「ドロップ、かね」

「涙ではあるが、雨と飴をかけているのだろうか」

「なにしろ、『雫』だからね……。狙いはあったと思うよ」


「森君には、負かされてばかりだ」

「先生が、勝とうとしていないだけではないだろうか」

 上司は、わざとらしく肩をすくめた。

「雨の歌といえば、私は蛇の目傘だね」

「母親が迎えに来る童謡か」

「結局、母の傘に入れてもらえず、だったがね」

 詳しくは明かされていないが、上司の母親は事件で帰らぬ人となった。

「湿気のせいかね、胸の傷が疼いてしまうよ」

「『(どく)()の変』で受けた傷は、大層深いのだろうか」

「なに、私の力が及ばなかっただけさ。恥のひとつだ。これと引き換えに、母を守れたら名誉になれたろうにね」

 部下としてできることは、静かに聞くのみ。

「だから、今度こそ折れぬ剣となるのだよ。守るべき者のために」

「自分は、貴方(あなた)の副官、そして盾である」



 剣がもうこれ以上刃こぼれしないように、盾はかばい害を防ぐ。


 果てない道を共にゆく、二人に甘き雫よ、降りかかれ。

特別企画:もしも、日文の先生が某人気カードゲームになったら

⑤森先生篇

森 エリス (もり えりす)

体力:180 属性:桃色(現在は紫タイプに入れられているらしいですね。でも、桃色タイプ期が好きですので) 弱点:なし 抵抗:金色(受けるダメージ30減)

特性:じんのこころ(仁の心)→自分の番に一回だけ使える。自分の場にいる人物のうち一人のダメージを20取り除く。


技:げっこうのうた(月光の詩)、桃色エネルギー2枚、30ダメージ×

→自分の場にいる桃色か灰色の人物の人数×30ダメージ。


技:ようえんのはな(妖艶の花)、桃色エネルギー2枚、白エネルギー1枚 80ダメージ

→次の相手の番、相手は技を使えない。


【八十島評】回復系をデッキに入れるか、入れないか。昔は入れたくない派でした。補助札で可能ですから。今は「保険」として入れておこう派ですね。「げっこうのうた」を成功させるため、桃色単色もしくは桃色・灰色単色デッキを組みましょう。攻撃系の近松先生とデッキ相性は良いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ