鉄分に見放された 偉大なる学科主任
菊がきれいに巻けた、朝だった。窓辺の日を受けて、私は乳児を抱いていた。おくるみと一緒に丸まっていて、温かそうだ。眠れ、眠れ。あなたは良い子。
私の家は、男ばかり生まれる。娘と呼べる人はいつも「義理の」がついていた。私も、私からできた子も、男だった。
長男は、のんびり屋だった。競争では毎回末等、それでも、小さな喜びをいくつか見つけて、屈折せず大人になった。私と同じ、ことばの研究者になったことには、驚いた。
「お父さんをずっと追いかけてきましたから」
妻には私の目を拭かせ、鼻をかませてしまった。
次男は、とにかく自分が中心でなければ気がすまなかった。兄と弟のご飯やおもちゃを横取りして、困らせてくれた。その分、度胸が人一倍あった。皆が逃げたがる困難に、切り込む大人になった。現在は、空満神道本部の屋台骨と呼ばれている。頼りにされているのだね。
三男は、人にものを教えることが得意だった。子ども達の中で、失敗をたくさんしたが、二度は間違えない賢さがあった。私には似ずに、外の世界へ臆せず飛び出して、日焼けして家に帰ってきたものだった。心も身体も健全な大人になり、高校の国語教諭を務めている。教壇に立って七年か。すっかり教師が板についてきたな。
四男は、母、父どちらにも似ていない、極度の臆病者だった。ちょっとびっくりさせただけで、号泣した。夜が来ると叫ばれて、いつも近隣の人達に頭を下げてまわっていた。そんな彼は、大人になると、臆病が慈悲に転じて、困っている人・迷っている人をいつでもどこでもお助けする優しい男になった。共感が過ぎて涙が止まらなくなり、助けられた人に心配されていると聞いているが。
五男は、私にそっくりの本好きだ。人付き合いは二の次、三度の飯より読書を迷わず選ぶ奇特な子だった。ある出来事があって若い女性に恐怖心を抱いているが、少しは克服できたのだろう。現在は、私の勤め先にある図書館で働きはじめ、前よりは明るい性格になった気がする。話ができる女子学生がいるのだそう。進歩したな。
「あなたにも、私が見ているものを共にしたかった」
菊が美しくなる頃、私はこの乳児に会える。生まれようとしたけれども、生きられなかった。命が確かにあったけれども、この世まで続かなかった、私の家族。五人の子、六人の孫は皆、安産だった。ただ、あなただけが……。
日の光が、弱々しくなってゆく。今年も、ここでお別れだ。
「次も、会いに行きますので。どうか、お元気で。意お兄さん」
午前七時、書斎の机に主人が休んでいた。
「まあ」
主人の枕になっていた物は「多胎妊娠のトラブル」について書かれた本だった。きっと、お義母さまに貸してもらったのね。今度、お手伝いに伺わなくては。
「あの夢をみていらしたのね。お義兄さまの」
毛布をかけ、私は朝食の仕度に向かった。
「菊のお水を食後にお出ししないとね。長生きがうちの人の願いですから」
特別企画:もしも、日文の先生が某人気カードゲームになったら
①時進先生篇
時進 誠 (ときすすみ せい)
体力:80 属性:緑 弱点:赤(ダメージ二倍) 抵抗:なし
特性:ひんけつ(貧血)→相手の戦闘人物が、この人物に技を使う場合、相手は手札から灰色のエネルギーを1枚捨てなければならない(捨てられない場合、技は使えない)
技:ほんがくれ(本隠れ)、緑エネルギー1枚と白エネルギー1枚、50ダメージ
→相手の戦闘人物にダメージを与えた後、のぞむなら、このカードとこのカードについているすべてのカードを山札に戻し、山札の中からこのカード名以外の人物を1枚選び、相手に見せ、戦場に出してもよい。その後、山札を切る。
【八十島評】大会ですぐに制限されそうなカードですね。灰色デッキじゃないとダメージを与えられないのが、きつい。相手が使ってこられたら、負けは覚悟しておきましょう。