神様は今日も追い返す
※銀河標準語から太陽系第三惑星地球基準歴2020年日本語へ、筆者による翻訳がなされています。
筆者自身銀河標準語、銀河標準歴にまだ触り始めたばかりのため、表記ブレ、年数などの数値変換ミスなどがある場合がございます。
生暖かくご支援ください。
【警告 統合三種進入禁止エリアが近づいています。航行を停止してください。】
【警告 統合三種進入禁止エリアが近づいています。航行を停止してください。】
統合システムからけたたましいビープ音が艦内に鳴り響いた。
『緊急停止装置が作動する。各員Gに備えよ』
慌てて緊急放送を入れると、程なくして船が停止した。
「こんなとこに禁止エリアなんてあったか?」
端末から航路記録を呼び出し参照する。
「少なくとも前回はなんともなかったはずです。同じ航路を通っていますから。……航路ズレではないようです。星間位置は合っています」
「仕方ない、問い合わせるか。『統合管理局。こちら惑星ソーナマリア所属星域探査部隊、艦長のフェニス・ドーラだ。このあたりに進入禁止エリアはなかったと思うが、何かあったのか?』」
【統合管理局よりフェニス・ドーラへ。通信を繋げます】
システム画面に強制的に白い人影が映し出される。ふわふわと光るそれはやがてひとつにまとまると、ヒューマンの男性型に固まった。
「「全員正せ!!!!!!!」」
副艦長とともに椅子をひっくり返して立ち上がり、最上位礼をとった。乗組員も慌てて追従している。
『あー、いいよいいよ〜。ラクにして』
スピーカーから響いたのは、艦内の緊張感に反して随分と間延びした声だった。
「き、恐縮です」
『やあドーラ君、久しぶり〜。っていっても1000年くらいかな?』
「1015年ぶりであります。超長距離移動でのコールドスリープモードもありましたので、主観的には400年ほどになります」
『そっかそっか〜。うんうん、キミが前回ここを通ったときはまだ通行止めしてなかったんだね〜』
「は、450年――失礼、462年前には特に問題なく通過できたと記録されております。理由をお伺いしたく」
『ボクの管理してる星系――っていってもまだ単一星なんだけどネ、そこが宙域観測期に入ったんだよ~』
「…………は? 前回お話伺ったときは確か、ようやく水域を利用して大陸間を移動できるようになったと……」
『よく覚えてるね! 嬉しいよ~そうなんだよ~。そこから600年で宙域を観測できるレベルの遠見器が発明されてね、トントン拍子でさ~こないだとうとう衛星まで人がちょこっと行ったんだよ~。すごいでしょ~』
俺にとって、いや俺以外の乗組員全員にとっても、それは衝撃的な発言だった。
水域利用での大陸移動手段の確立、つまり中規模水上船が開発されたのがほんの1000年前のはずで。移動のための水上船ということはその時は誰も重力から逃れられていないはずで。1000年。たった1000年で第二宇宙速度を突破して衛星にたどり着いただと。信じられない。すごい、なんてものではない。
『技術進歩は早いんだけど、精神性の方がイマイチでね~。まだ単一国家もできてなくって、惑星上の陸地と資源を奪い合って戦争しちゃってるんだよね~。もうちょっと様子見るから、悪いけど近隣通過はお断りしてるんだ~』
「かしこまりました。三種進入禁止ということは、精神体なら通れるということで?」
『そ。科学ばっかり進化しちゃってて、神秘や精神体の方は発見期すら来てないんだよね~。だから実体がない状態なら通っていいよ~』
「我々にはまだ無理ですね。ようやく小物質の非実体化が実験的に成功したところでして」
『まあ惑星ソーナマリアが統合管理局に加盟してからまだ3000年そこらでしょ? まあまあ順調な方じゃないかな~』
我々が精神体の基礎理論の流入から3000年かけてようやく第一段階をクリアしたところだというのに、目の前の被管理惑星は1000年そこらでゼロから宇宙進出したのか。
進化ペースが早すぎる。末恐ろしい種族だ。
『独力で統合管理局とコンタクトが取れればボクも晴れて一級神だからさ~』
邪魔、しないでね?
脳に直接響く言葉。揺れる足元。気づくと俺達は目的地である母星ソーナマリアのゲート付近に到着していた。
***
「あんまりウチのコを脅さないでくれるかい」
「いや~ゴメンね? でも今うっかりコンタクトとっちゃうと健全な成長の妨げになっちゃうからさ~」
「その割には惑星外生命についての考察がすでにあるようだが」
「ちょこっと上司と面談してる間に宇宙に出ちゃうとかこっちも思ってなくてさ~。その時にするっと通っちゃった船があるみたいなんだよね~。まあこれくらいは事故ってことでいいでショ。前例でもそのくらいはOKって事になってるし。さ、データベースにも進入禁止項目追加したよ~」
「お疲れさん。まあ今の調子なら1000年くらいでこっち入りだろうし、多少不便な程度か」
「いんやー、いいとこ300年ってとこかな〜」
「……?」
「ちょこっと上司と面談してる間に宇宙出ちゃったって言ったでショ」
「500年くらいだよな?」
「200年だよ~」
「200年!?そんな短期なのか?!」
「それがね~もっと短いの。揚力でわずかに重力から逃れたのがたったの100年前なんだよね~。それから50年で宇宙出ちゃってホントびっくり。上司も慌てて面談中断しちゃう進化っぷりだよ~」
「そりゃあ事故だわ」
「でしょ~。こっちも手続き間に合わなくてさ~」
「ああおい。アラート出てるぞ」
「ホントだ。通信遅い文明度のトコに届くまで忙しくなっちゃうな~〜いってきまーす」
艦内のモニターに白い影が映る。
彼は間の抜けた口調でのんびりと喋り、その力を行使する。
『今はまだ、邪魔しないでね?』
広い宇宙の片隅で、神様は今日も追い返す。