転生女神のアルバイト(男)、始めました
TS成分は薄めです。
「なるほど、矛盾したこと言ってるなと思ったら伏線だったのか。
・・・・・・ん?」
俺はある日、気になる広告を見つけた。
「異世界転生女神のアルバイト募集中」
高校を中退して早2年、親から 「バイトでもブラック企業でもいいから就職しなさい」 と言われた。後者は色々とアウトな気がするが...
2年間に及ぶニート生活の経験からマジなやつだと理解したが、何せ気が進まない。
バイトの募集を探すふりをして『艦船こねくしょん』の嫁を修理している間、某小説投稿サイトを読み漁っていた。
その時目についたのがこれだ。
普段ならどうせ漫画の広告だろうと一蹴していたところだが、今日は何故か目についた。
どうやらそろそろ俺の無職生活に終止符を打つときが来たらしい。
すうううう、はぁぁぁぁー。
カチカチッ
遂にやってしまった。
ええい、こうなりゃやけだ。
まあ、大方漫画サイトか何かだろうけど。
・・・そうであって欲しい。
零コンマ数秒後、ページが表示される。
アルバイト募集!!
仕事 死亡者の内異世界転生希望者の転生(住み込み)
給与 要相談
年齢 18歳~ 学生可
時間 10時~18時
待遇 交通費支給
面接 お電話の上指定した場所にお越しください。
株式会社 女神の導き
TEL ××××―△△―○○○○
「絶対漫画の広告だろっ!」
一番下まで下げてリンクを探したが、何も見当たらない。
「電話してみようかな...」
自分でもどうかしてると思ったが、何故か掛けたほうがいいと思った。こういう時は直感を大事にしようと思う。女神だから男の俺だと落とされるだろうけど。
リビングから電話を取ってきて、書かれてある電話番号にかける。スマホ?高校中退したら契約解除されちった。てへぺろ。
「もしもし、株式会社女神の導きです」
「ぶふぉっ」
まじかよ。思わず吹いてしまったわ。にしても綺麗な声だな。声優になればいいのに。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。あの、アルバイト募集を見たんですが...」
「おお、見てくれたんですか!面接はいつします?」
声に喜びの感情が混ざった。眼福ならぬ耳福だ。
「何時ならできますか?」
来週ぐらいまでだといいんだけどな。
「今からでもいいですよ」
「ぶほぉっ」
流石にそれは予想してなかった。
「・・・場所はどこでしょうか」
ここはド田舎だ。こんな辺鄙な場所に籍を置く企業はそうそういない。
「そうですね...貴方の家の裏山でどうでしょうか」
一瞬体に寒気が走った。こ、この人マジモンの女神かもしれない。
確かに裏山がある家はいくらでもあるだろう。だが、今の一連の会話の中には方言や場所を表す言葉は一切出ていない。マジモンでなければ逆探知か何かだろう。
・・・ひとまずその線で行こうか。
「え、場所は逆探知しているにしろ大丈夫なんですか」
女神(仮)は「逆探知って...クスッ」
と笑った後、咳払いしてこう言った。
「テレポートすればなんと0円」
「なんてお安い、今夜のご飯はそれで決まりね」
白ご飯に掛けて頂こうかしら。
・・・自分でも気持ち悪い。
「・・・まさか乗ってくれるとは思いませんでした」
「学校ではノリの良い陰キャで有名でしたから」
「それはもはや陽キャでは」
「いじめられてましたけどね」
そこまでは酷くなかったけど。
「突然の暴露、というか場の雰囲気が悪くなるのでやめてください、そろそろ話を戻しませんか」
「確か今日のご飯がテレポート掛けご飯に決まったんですよね」
「テレポート掛けご飯」
「冗談です、そちらもテレポートなんていう冗談はやめてください」
ほんとに冗談はやめてほしい。
「今貴方の裏山にいるの」
「メリーさん人形ですかね」
「サリーさん女神です」
「惜しい」
「というか本当に着きましたよ、裏山を見てください」
「いや、今さっき電話にノイズが入ったけどいるわけな...
普通にいましたね」
「冷静ですね、では外に出てきてください」
「今パジャマなんで少し待ってください」
「3分間だけ待ってやる」
俺は久しぶりに外出用の服を取り出した。
多少鍛えていたせいもあったが2年前の服は簡単に着れた。
このころにはすっかり女神の存在を認めていた。
◇
ふう、超特急で着替えたけど間に合ってるかな。うわ、女神様お美しい。・・・やっぱりマジモンだ。
「3分1秒です、喰らえバルス」
「ム○カ大佐はバルス使えませんよ」
バルスされる方だったし。
「では面接を始めます」
「スルースキルがお高い、そういや面接ですね」
「はい終わりました」
「早い」
「闇魔法で記憶を読み取るだけですからね」
「それを面接とはいいません」
「ハイ合格」
「オオ嬉しい」
「何故女神のアルバイトに男の貴方が希望したのか気になりますけど」
「募集条件は何もなかったじゃないですか」
何故希望したのか自分でも疑問だが、取りあえずこう言っておこう。
「男女雇用機会均等法という面倒くさいものがありましてね」
※詳しくは調べてね!
あああれか。
「高校受験の時に覚えたけど結局模試にすら出なかったやつですね」
その高校も中退したけど。
「今役に立ったので良いじゃないですか」
「ともかく覚えるのが面倒くさい法律ですね」
「これなら天皇制の方がまだマシです、まずは総理大臣を洗脳して...」
「安○さん逃げてぇ、超逃げてぇ」
※○倍さんを洗脳しても天皇制にはできません。
不意に女神様の体がブルッと震えた。何が起こったのかと身構えたが、発せられた言葉は意外だった。
「おっと、とある青年がトラックに轢かれたようです」
「これまた唐突な」
「予想死亡時間まであと10分ですね」
「よくわかりましたね」
「闇魔法の<未来予知>を使えばなんと0円」
「もうそれ魔法ですらないですよね、そして安定の0円」
「闇魔法の起源は有史以前に遡ります。昔々あるところに、
闇の神「スター・デストロイヤー」というものがいました」
「それただの破壊神、そろそろ話を進めましょう」
これ以上ツッコミどころを増やさないで欲しい。
「ごほん。では、今から空間を創造して彼の魂を死と同時に
呼び寄せます」
「おお、何か壮大。というか空間創造できるんですね」
「女神ですから」
「うっわ、一度は言ってみたいランキング8位ぐらいに入ってる・・・かも知れなさそう」
自分で言っててなんだが微妙だな。
「言い回しが随分と曖昧ですね、それではちゃちゃっと空間創造しますか」
その時、虚空に直方体の空間が現れた。
広さは六畳半だ。
「よし、これで完成ですね。あ、これ他の人には見えないので大丈夫です。もう少しするとその青年の魂がやってくるので私が彼を転生させます、なので貴方は透明にするんでそれを見ていてください」
「はい、わかりました」
そういや異世界転生のアルバイトだったな。確かに挿絵では見たことないけどラノベの異世界転生部屋の雰囲気に似ている気がする。
――――10分後
「もうすぐ死亡します。トラック野郎の無様な死に様を拝んでやりましょう」
「女神様口悪いですね、そしてトラックに轢かれただけでトラック野郎ではないと思いますが」
その瞬間、光と共に青年の魂らしきものが現れた。
「俺はトラックに轢かれて...はっ、ここは」
「貴方は不運なことにトラックに轢かれてしまい死亡しました」
「ありゃ、やっぱり死んだんだ」
(この人冷静ですね)
(貴方の方が100倍ぐらい冷静ですよ)
「あぁ、哀れな青年よ、あのような死に方では未練も多いでしょう。やり残したこともあるはずです。しかし、このままでは輪廻の輪に組み込まれ、記憶を忘れ新たな生命を授かることになります。そこで、『特別』にあなたに『だけ』にお願いするのですが、どうか世界を救って頂けないでしょうか。もちろん、様々なサポートは致します」
美しい容姿と美声が相まって、悲痛な表情で青年の魂を上目遣い姿はまるで女神のようだ。・・・女神だったわ。てか絶対そんなこと思ってないだろ。
(素晴らしい演技ですね女神様)
(あ、バレました?さ、さては貴様私の心を読んだな!この魔法使いめ!)
(マジモンの魔法使える人に言われたくないです。なんで分かったかは...その、女神ですから)
(で、出た~、一度は言ってみたいセリフ8位~)
こうして念話(?)でふざけ合っている間も、女神様は沈痛な表情をキープしている。流石はプロだ。意識の高さが違う。当の上目遣いされた青年の魂は、動揺しているのかゆらゆらと揺れ動いている。心の中では『よっしゃ異世界転生キタ――(゜∀゜)――!!』とガッツポーズしているのかも知れない。
「め、女神様」
「世界を救うとかそんなことより、俺とデートしませんか?」
・・・違ったわ。
「そ、そんな、考え直して頂けませんか!?あなた様だけが頼りなのです!」
女神様は青年に泣きついた。実際涙も出てる。
(絶対この状況を楽しんでますよね)
(実際こういう奴もごまんといます。僅かにでも異世界転生願望が有ればここに送られて来るので。ちょっと泣きついて調子に乗ったその鼻先をへし折るぐらいはしないとやってられません)
転生女神もシビアなんだな。
「へへ、よく見りゃいい顔してんじゃねぇか。そんなことよりよぉ、俺と楽しいことしないかい?」
”楽しいこと”が魂の状態で出来るのかという事については考慮していないらしい。にしても同じことしか言えないのか。オウムかよ。
「そこを何とか・・・なんて言うと思いました?そろそろ面倒くさくなってきたので、輪廻にぶち込んどきますね。来世はオスの飼い猫かな~?知ってる?飼い猫って、計画外繁殖を防ぐために去勢されちゃうんだよ?あ、去勢ってのは―――――――――”楽しいこと”は来来世までお預けだね!」
美人が嬉々として語っていい内容ではないと思う。
「え、まじ?ちょ、そこをなんとか」
ようやく彼我の立場を理解したらしい青年は慌てふためいている。
「なんとかしましせ~ん、さよなら~」
「ああああああああっ!」
青年の魂が輪廻の輪に入ったのを感じた。せいぜい飼い猫としての人生を楽しんでほしいと思う。
「随分とはっちゃけましたね女神様」
「気にしたら負けなのです」
「先ほども言ってましたがこういう奴って結構いるんですか?」
「いますね。特にさっきの青年はトラックに轢かれたと言いましたけど、もう少し具体的に説明するとどうなると思います?」
「え、横断歩道を歩いていたら信号無視したトラックが来て―――とかでは?」
「違いますね。『未成年なのに仲間内のBBQで酒を飲みまくった挙句、酔っぱらってふらふら歩いたあと道路の真ん中でぶっ倒れ、そのまま寝ていたところをトラックに轢かれた』ですね。ちなみに彼女持ちです。結構可愛かったのに残念ですね」
「予想の斜め上。てか彼女持ちなのに女神様口説くのですね。可愛かったのに」
「私の方が美しいのですから当然です。とまあ、前置きはここまで。」
「早速貴方もやってみましょう!」
「え、でも容姿とかどうすれば」
「大丈夫です。えい」
刹那、体の造形が粘土のように歪められていくのを感じた。不思議と嫌悪感はない。下を見ると、立派な双丘が出来ていた。
「さあ、これで貴方も女神様です。見た目は想像すればいじくれるので好きなようにどうぞ。服はこちらで用意・・・出来ました」
「えっじゃあ『艦船こねくしょん』の...」
「著作権的にアウトなのは駄目です」
即答。あーでもこーでもないと悩んだ結果、金髪ロングの清楚系巨乳美人が出来上がった。金髪と清楚の両立に手間取ったが、満足のいく結果だ。
「あ、また一人哀れな青年がトラックに轢かれました。あと5分で死にます。ささ、出番ですよ!そのダサい服を脱いでさっさと着替えてください!」
人の死に対する価値観が音を立てて崩壊していくのが分かる。・・・にしてもこの服ダサかったのか。数少ない余所行き用なんだけどなぁ。
それはさておき、女神様から貰った服に着替える。自分の体に興奮するのはなかなか新鮮な体験だった。服のタグには『めがみ』と平仮名で書かれていた。可愛らしい。下着も女ものなのが恥ずかしかったが、ブラの付け方も女神様が親切丁寧に教えてくれたことで何とかなった。神官服のような純白の服に袖を通すと完成だ。
「そういやその青年に対する対応はどうすれば」
「救いようがあれば異世界へ。救いようがなければ輪廻にぶち込む。簡単なお仕事です」
「言うは易く行うは難しってやつですね。マニュアルとかは?」
「最悪私がカンペを出すので読んでください」
新人教育がおざなりだ。
「あと10秒です!ステンバってください!応援していますよ!」
そういって女神様は姿を消した。
きっちり10秒後、例の青年の魂がやってきた。
「貴方は不運なことにトラックに轢かれてしまい死亡しました」
沈痛な表情でそう告げる。
こうして、俺(私?)の前代未聞のアルバイト生活が始まったのだった。
(あれ、そういや給料について何も聞いてないな...)
始まったのだった。
中途半端な終わり方かもしれませんが、いかがでしたでしょうか。
ここから先を書いてもよいのですが、マンネリ化しそうなので短編という形での投稿になります。
コメディー成分を多くするためにTS成分は犠牲になりました。ラーメン。
ここから先余談(時間の無駄です)
久しぶりになろうを起動したところ、書きかけの本作が発掘されました。数年前に書いたもので、すっかり存在を忘れていたものなのですが、思ったより筆が進み本日投稿という形になりました。正直自分でも驚いております。
ですが一番の驚きは...当時の政権がまだ続いていたことですかね。