006.異世界はやっぱり全然ちょろくない
楠木涼太曰く、社会不適合者気配をふんぷんに漂わせているらしい不知火凪と柊秋穂は、洞窟から出てすぐの場所で思い思いに準備運動の最中である。
服は制服から、村でもらった上着とズボンとに着替えている。随分とやぼったい服ではあるが、美人が着るとたちまち見栄えがしてくるのだからやはり美人は得だと改めて涼太は思うのだ。
山裾の村から穀物やら果物やらを譲ってもらってから二日が経っている。
この間、涼太はベネディクトから魔術を教わっていて、凪と秋穂の二人はいきなり強くなった腕力に慣れるための訓練を行なっていた。
昨日の訓練がよほど面白かったらしく、涼太は凪と秋穂に面白いからちょっと見てみろと誘われていた。
少し離れた場所から見ているのがいいとのことで、言われた場所で待っている涼太に、秋穂が嬉しそうに頭上で手をぶんぶんと振る。
「楠木くーん! いっくよー!」
そう言うと、秋穂の身体が宙を舞った。
比喩でもなんでもなく、秋穂の背丈すら超えるだろう高さにまで、秋穂が一跳びで跳び上がったのだ。
更に、動きはこれで終わりではない。
跳び上がった秋穂は片足で木の幹を蹴ると、そこからまた上へと跳んだではないか。
今度はもう一本の木を蹴ると、更に上へと。二本の木の間でこれを交互に繰り返し、十メートル以上はあろう木のてっぺん付近にまで跳んでいってしまった。
涼太、そしてその肩の上に乗っているベネディクト。両者揃って言葉もない。
馬鹿みたいに大口開けて秋穂を見上げている。
すると今度は木の根元のところから凪の声が。
「くすのきー! 次は私行くわよー!」
次て!? とつっこむ涼太を他所に、凪もまた木を蹴って蹴って上へと跳び上がっていった。
そして驚きはまだ終わらない。
今度は木の上からひらりひらりと木の葉が舞い落ちるように二人が降りてきた。
枝から枝へと跳び降り続けているのだが、動きはもうまるっきり人間のそれではない。あげく、五メートルほどの高さのところで二人は、同時に木から外に向かって大きく跳び出した。
途中に着地する木の枝もない、跳び出したらそのまま地面まで一直線。だが、二人は全く同時に着地すると、その場で前転一回。それだけで、着地の衝撃を完璧に殺しきった。
綺麗に立ち上がった二人が、どんなもんだい顔をしているのを見ても、涼太もベネディクトもやはり言葉が出なかった。
上機嫌で凪が言う。
「腕力ばっか強くなって気持ち悪いって言ってたけど、取り消すわ。コレ、すっごく楽しいっ!」
凪ほどではないが秋穂も楽し気である。
「腕力っていうか全身の力が極端に上がってるから、こんな真似も普通にできるようになってたんだよ。すごいでしょ?」
涼太とベネディクトは並んで首を縦に振る。
先に我に返ったのはベネディクトのほうだ。
「いやいや、とんでもないな君たちは。高位の騎士などは人間離れした動きをすると聞いていたが、君たちのそれもきっと負けてはいまい。その様子だと、山の魔獣も敵ではないのではないか?」
凪は嬉しそうに頷いた。
「そう、それよ。口から火を噴く鳥とかいたのよ。あと、木登りするおっきいワニ」
「この山ならば紅火吹き鳥と山トカゲか。山トカゲは仕留めたのか?」
「もっちろん。あの巨体でびっくりするぐらい動き速かったけど、対処できないほどじゃなかったわね」
この話に秋穂も混ざってくる。
「それより鳥のほうが面倒だったよね。危うくせっかくもらった服焦がすところだったし。まあ、叩き落としてやったけどっ」
「なに? 紅火吹き鳥は空を飛んでいたのではないのか? あれは獲物が完全に動きを止めるまで決して地表近くには降りてこないはずだろう」
「うん。だから石投げて落としたよー。ふっふっふ、こんなこともあろうかと、投擲向けの石、用意しといたんだ」
「そうそう、木のずっと上飛んでたはずなのに、秋穂一発で当てたからね。大したものよ、ああいうのはちょっと真似できそうにないわね」
「どうだろ、あの距離ぐらいなら凪ちゃんでも当てられると思うよ。今度コツ教えたげるよ」
「いいの? 山だとあの投擲ものすっごく有効みたいだし私もすぐに覚えるわよー」
「え? いや、紅火吹き鳥って人間の背丈よりずっと大きくて、石の一発で落とすとかありえないというか……ああ、うん、まあ、そういうこともあるのか、君らだと……」
涼太は一人真顔であるが、凪は特に気にした風もない。
「まさか、襲われたのか?」
「この山じゃ、アイツらにとって人間は餌にしか見えないみたいね。ふん、どいつもこいつも狩り倒して、二度と私たちの前でデカイ態度取れないようにしてやるわ」
凪さんは山の生態系とやらにはあまり興味がない模様。秋穂も乗り気な辺り同類なのだろう。そして探究の徒を自称するベネディクトはといえば。
「はっはっは、実に頼もしいな。魔獣を狩り尽くしてやれば麓の村の者たちも喜ぶであろうよ」
やっぱりそういったところに思考がいかないようで。
『こうやって人間の領域って広がっていくんだなぁ』
涼太はそんな現実逃避で、雄々しき生態系破壊をスルーした。
実際、この山での食物連鎖の頂点はその三種、大猪、紅火吹き鳥、山トカゲであるらしいが、これらを狩り尽くしたとしてそれが山の生態系にどう影響が出るのかわかる者はおらず。
ベネディクトはこれらを害獣としてしか見ておらず、村の者に聞いても危険が減るのならありがたい、としか考えていないので、この後凪と秋穂はこれらに遭遇するなり、ちょうどいい訓練相手だと嬉々としてこれを狩っていった。
結果としてこの山周辺では中型の雑食動物(もしくは魔獣)が大いに増えていくのだが、それは涼太たちの生活には大して関係してこない話なのである。
その砦の名を盗賊の砦という。
辺境開拓のために造られた砦であり、当時は別の名があったのだが、魔獣の数が多すぎ放棄が決まってから随分と時間が経っており、最早その名を知る者もない。
この砦に集う百数十人の盗賊たちの長、ホーカン・ホールソンは盗賊の砦なんていう安直すぎる砦の名前にも、これといって文句はない。興味がない、というのがより正確な表現であろう。
それよりも、大慌てで駆けこんできた配下による報告のほうが重要だ。
「ホーカンさん! 馬鹿がやらかしました! ホーカンさんの命令に背いて村襲った馬鹿が出ました!」
「わかった、すぐに行く」
ホーカンは配下になった盗賊たちに命じてあった。砦近隣の村には手出しするなと。
表向きには、今後この砦を中心に活動していく以上、周辺の村とは友好的に接したほうが何かと便利である、という理由である。
もちろん本音は別だ。
村なんぞ幾ら襲ってもロクな金にはならないし意味がない。それでも百人超という数の多さに気が大きくなる馬鹿が絶対に出ると思っていた。
そして、そういう馬鹿を皆にわかりやすい形でシメてやることで集まった馬鹿共を脅しつけようというつもりであった。
ホーカンが向かったのは砦の中庭だ。
ここは千人の兵の閲兵すら可能なほど大きく開けた場所になっていて、今はこの広場を取り囲むように盗賊たちが集まっている。
彼らは皆にやにやと笑いながら、混乱や問題発生を無責任にはやし立てている。広場の中心にいるのは、この混乱の元凶であり問題を起こした馬鹿共、盗賊団『赤い空』が集まっていた。
彼らはホーカンが出張ってくる前に、集まった盗賊たちに自らの正当性を主張している。
「こっちはよう! 仲間殺られてんだ! それも村人なんぞによう! それで黙ってちゃあ『赤い空』の名折れってもんよ! それはつまりよう! 盗賊同盟の名折れってことになりゃしねえかい!?」
赤い空の頭は、自分たちの仲間が山で行方不明になったのは、この村の連中が殺したからだと主張しているのだ。
少し頭の回る奴ならばその話の不自然さに気付けようものだが、盗賊の大半はあまり頭はよろしくないので、そりゃそうだ、と頷いている者が多い。
そしてこれをどう治めるつもりなのか、とにやにや笑いながら眺めているのが二十三人斬りのエドガーだ。
見ると火付けのヤンネも仲間と一緒になってエドガーと同じような顔をしている。
エドガーは残る一人の注目株である女殺しのカスペルの姿を探したが、これだけの騒ぎにもかかわらず周辺には顔を出していないようだ。
赤い空の頭は、まだここには来ていないホーカンに向かって語り掛ける。
「よう! 盗賊王! ホーカンさんよう! 俺みてぇな命じられる前に動く賢い男を! 重用しねえようじゃ先はねえぜ! 俺に任せてもらえりゃ俺たちだけでリネスタードぐれぇは落としてみせるぜ!」
盗賊団赤い空には現在、囲っている女がいなかった。
砦に集まっている盗賊団の中でも大きな規模の集団は必ず一人か二人、女を連れているというのにだ。
これを恥ずかしいと思った頭は、近くの村からそれっぽいのを見繕って格好をつけようしたのだ。女を一人丸々買い取るような金はないので、これ以外の手が取れなかったのである。
ただ女をさらう、とやったらみっともないと馬鹿にされるので、仲間の敵討ちのために威勢よく村を焼くなんて形にした、というのが事の真相であったりする。
そんな赤い空首領の心の機微が筒抜けだったというわけでもないのだが、ホーカンはもう最初から彼の言い分なぞ聞く気もなかった。
砦からホーカンを先頭に、二十人の盗賊が出てくる。
赤い空も二十人弱でほぼ同数。だが、ホーカンは一切の躊躇なく命じた。
「殺れ」
「「「「おうっ!」」」」
配下たちは一斉に赤い空に襲い掛かった。
まさかいきなり斬りかかってくるとは思っておらず、最初の攻撃で赤い空側は三人が斬られてしまう。
そして赤い空もすぐに応戦するが、できて五合、多くは三合も打ち合えば斬り倒されてしまう。
誰の目からも明らかなほど練度に差がある。
赤い空の頭目が驚き対応を指示する前に、盗賊たちは次々と討ち取られていく。
これに、大声で待ったをかける男がいた。
「待てえい! 待て待て待て待てええええええええい! その斬り合いそこまでえええええ!」
ホーカンの部下たちはその声の主の力を考え、一度手を止めてホーカンの反応を伺う。
ホーカンは小さく頷く。この男を無視する気はないようだ。声の主は、アーレンバリ流の恥晒し、女殺しのカスペルである。
「おおっ! 止まってくれたかありがてえ! ホーカン! ホーカンよう! 俺の話をまずは聞いてくれ!」
赤い空一党は恐怖に怯えながら、ホーカンの部下たちはうさんくさそうな目で、ホーカンはこれといって表情を出さぬまま、ゆっくりと歩み寄ってくるカスペルを待つ。
「ホーカン! アンタは言ったよな! 俺に殺させてやる! 幾らでも敵は用意してやるって! なーのーにっ! こんな派手な殺しに俺を呼ばねえたあどういう了見だ!」
観戦していた者たちは皆、何を言っているんだコイツは、といった顔になるが、ホーカンは真顔のままだ。
「……なんだ、お前もやりたかったのか?」
「あったりめえだろ! ここしばらくアンタの言う通り大人しーくしてたってのによ! なんだってこんなおいしい話俺に聞かせてくんねえのよ! 俺ぁアンタの指揮下に入ったぜ? 命令もちゃーんと聞いてるぜ? こんな良い子の俺に何一つご褒美がねえってのはそりゃ納得がいかねえだろうが!」
「いいぞ」
「あん?」
「そんなに殺りたいんなら、連中もう抵抗する余力もないだろうし、後はお前の好きにしていいと言ったんだ」
「え? いいのか? いや、でもさ、俺、めちゃくちゃいたぶるぜ? 悲鳴とか漏れちゃうぜ? そこらで見てる奴ら、何人かビビって逃げちまうかもしんねえぜ?」
「今ここで殺れとは言っとらん。おいっ! ソイツら全員捕まえておけ! 砦を出て、どこか森の中ででも楽しんでこい」
「本当か!? おいおいおいおい! なんだよなんだよなーーーーーんだよ! ホーカン! いやさホーカンの旦那! 大将! 盗賊王! おっとこまえじゃあねえかお前さんはよう!」
ホーカンの指示に従い、生き残った赤い空の一党を捕縛するべく配下が襲い掛かる。
彼らはそれはそれはもう必死の抵抗を見せたが、練度にも人数にも差があるため、どうにもしようがなく全員が縛り上げられてしまう。
それを見てカスペルは自らの配下にも怒声を浴びせる。
「てめーらは何ぼけっと突っ立ってんだ! 盗賊王ホーカンのお手伝いをしてやらねえか! 手間かけさせてんじゃねえぞ! へっへっへ、旦那ー、すんませんねえ、使えねえボンクラばかりでして」
こんな理不尽な扱いにも慣れているのか、カスペル配下の者たちは縛り上げた赤い空の連中を受け取りに向かう。
カスペルはこの間に猫なで声でホーカンに問う。
「な、なあ。それでよ。ものは相談なんだが……」
「連中が連れてきた女も寄越せというのだろう? 好きにしろ。だが、次からは事を起こす前に一言声を掛けろ。他の連中に示しがつかんからな」
「だんなあああああああ! もう愛してる! ケツ貸してもいい!「いらん」んじゃさっそく行ってくるぜー!」
カスペルの指示で、盗賊団赤い空の生き残りは砦の外へと引きずられていく。
赤い空の連中の哀願するような表情は、観戦していた盗賊たちの脳裏に焼き付いた。
ここに集った盗賊たち、誰もが盗賊働きに自信のある無法者の中の無法者ばかりだ。
そんないっぱしの男があんな無様を晒してしまうぐらい、女殺しのカスペルの悪名は轟いているのだ。
そして命令に背いた者を躊躇なく殺したホーカンとその一党の力も理解した。
これで下手な真似をするような馬鹿は大きく減るだろう。
二十三人斬りのエドガーは、顎髭をなでながら仲間に漏らした。
「……野郎、最初っからこのつもりだったな」
「集まった連中に一発かましとくって話っすか?」
「ああ。大したもんだよ。さすがに盗賊王なんて呼ばれるだけあって、大将の器、持ってんじゃねえの」
「そっすね。それに、カスペルの奴も今回の件でホーカンに借りを作りましたし……」
「ははっ、そいつは違うぜ」
「へ?」
「カスペルみてぇなドクズ野郎はな、良くしてもらったその時は調子のいいことべらべら並べやがるが、いざ自分に都合の悪いこと言われると、それまでの恩義も何も全部知ったことかって暴れ出すんだよ。貸しも借りも通用しねえ、そういう理屈の通じねえ真性のクソ野郎だ」
「……いや、女殺しのカスペルって言や、街道一つ丸々縄張りにしてる大盗賊じゃねえですか。そんなのが……そんなイカレ野郎で上手くまわるんですか?」
「見たろ、アイツの配下連中。どいつもこいつも死んだ目してやがるのは、カスペル一人で配下全員をビビらせてっからだよ。そういう組織の回し方もあるんだ。そうできちまうぐらいカスペルは強ぇんだろうなぁ。くっくくくくく、いいねぇ、本当に、いい話じゃあねえか」
配下の男は溜息を吐く。
エドガーは知識も経験もあり、危機に際しても冷静さを失わぬ胆力を持ち、仲間に対して配慮もできる優れた男だ。大将の器というのであれば、エドガーもホーカンに負けていないと彼は思うのだ。
そんな男の唯一の欠点が、コレである。
強大な敵との戦いを求める。それこそがエドガーが生きる目的であり、強敵と見定めた相手をぶっ殺してもかまわないような仕事を選んだ結果が、盗賊なのである。
そうでもなければどこぞの軍で一隊を率いていたであろう男なのだ。
つまり、エドガーが自分たちの頭で居てくれるのはこのエドガーの悪癖故なのである。それを理解しているその男は、エドガーのこの先行きの不安しか感じられない台詞にも苦笑するのみであった。
二週間。
この異世界に来てからそれだけの時間が経った。
涼太はベネディクトより魔術を教わり、凪と秋穂は山を駆け巡って訓練を重ねる。
主食は肉であるが、それ以外も麓の村から入手可能で、三人と一匹は極めて順調に異世界での生活に慣れていっていた。
そんな穏やかな日々が唐突に終わりを告げたのは、二週間目のその日、涼太たちがおすそ分けとして大猪の肉をまた村に持ち込んだ時だ。
村は盗賊たちに襲われた後であった。
もう火はほとんど鎮火していたが、避難していた村人たちが戻ってから大して時間が経っておらず、盗賊による襲撃を受けた爪跡は村中に残ったままで。
涼太たちの警告のおかげで全滅は免れたものの、村人の半数は逃げ遅れて殺された。いや、村人の半数が殺されている間に残りは彼らを囮に村から逃げた、という形であろう。
二十人の武装集団とは、総勢百人を超える村人たちにとっても、そうしなければ皆殺しにされるような相手なのだ。
涼太は持ってきた大猪を無償で村に提供し、また村復興のために何匹か金になる獲物を獲ってくると約束する。
村人たちはこんな信じられぬ不幸の直後だというのに、涼太たちの申し出に驚き、深い感謝の意を示した。
涼太にも、凪にも、秋穂にも、こんな有様の村を放置するなんて選択肢はありえなかった。
一人冷静なままであったベネディクトが、不思議そうに三人に問うた。
「なぜここまで入れ込むのだ? いや、それ以前にだ。なぜお前たちはそんなにも怒っているのだ?」
盗賊に襲われるなんてことはよくある話で。村一つというのは珍しいが、それでも盗賊の襲撃に遭えばこうなるのは当たり前だ。
付き合いがあった村ではあるが、交渉回数も片手の指で足りるほど。そんな相手が不幸に遭ったからと激怒する理由がベネディクトには理解できなかった。
「盗賊たちのやりようが不快であるのは認めるが……」
それ以上を言葉にするのは止めた。すぐに涼太がベネディクトにフォローする。
「……俺たちはこういった理不尽に人が死ぬって経験、ほとんどないんだよ。しかもそれが、話もした、仲良くもなった相手だなんてさ」
「ふむ、なるほどな。屋敷を出ずに育った貴族の子弟、といったところか。……いや、私に他意はないのはわかろう。だからそんな目で見るなナギ」
「……別に、見てないし」
「やめとけベネ、今の不知火に不用意に声掛けるな。ああ、うん、柊もかなり、キテるっぽいな」
秋穂は顔を見られないようそっぽを向きながら言う。
「ごめん、ね。ちょっと私、向こう行ってくる。後は、楠木くんお願いしていい?」
「ああ、こっちは任せろ。不知火、お前も向こう行って頭冷やしてこい」
凪と秋穂はそれぞれ別方向に向かう。
その後、かなり離れた場所から八つ当たりの音が聞こえてきたが、涼太もベネディクトも聞こえないフリをしてやる。
涼太は怯え竦みそうになっている足を、それとバレないよう極力平静を装いながら村の片づけを手伝う。
『駄目だ。アイツらが俺には理解できねえ。普通こんなの見せられたら、怒るよりも悲しむよりも、ビビるのが先じゃね? アイツらコレ見ておっかねえとか思わねえのかよ』
理不尽も非道も一切恐れず己が欲望のまま振る舞うことに躊躇がない。そんな存在が強力な武力を有しているというのに、あの二人がどうしてこれを恐れないのか。涼太にはその理由が全くわからなかった。