254.アクセルソン伯の軍
アクセルソン伯領は、長年尚武の国ランドスカープにおいて、正にその武によって周囲から畏怖と敬意を勝ち取ってきた領地である。
直前に痛恨の大敗北を喫しているが、アレはもう相手が悪すぎたというしかない。そんなどうにもならぬ相手と初見で戦うなんてことになっていたのだから、決して武略武勇が劣っていたなどという話ではあるまい。
そんなアクセルソン伯領は、外海から巨大な船で一直線に突っ込んでくるという察知のしようのないありえぬ不意打ちを食らっておきながら、領主に話が通る前に既に兵たちは動き出している。
敵の侵入を許した海岸沿いを治める長は、敵が何処の何者かも全くわからぬままに迎撃の準備を整える。
「……街は、放棄せよ」
敵軍の浸透に間に合わぬと判断した長は、街の人間に避難を促しつつ兵たちの集合地点を領都含む領地中央への進路を阻む位置に定め、近隣よりありったけの兵をかきあつめに動く。
この報せを聞いた他所の長もまた彼の判断を支持し、独自に斥候を放ちながらだが兵を集めるべく声をあげる。
兵士たちも兵士たちで、各地区の長から招集だと言われれば即座に武具を揃えて集まってくれる。
良くも悪くも、戦慣れした連中なのだ。
集まった兵たちも各々が戦況を推測していたりする。
「珍しいなんてもんじゃないな。敵に領内に侵入されるたぁ」
「何処のクソだ。ウチに喧嘩売るなんざ、随分と気合入ってんじゃねえの」
「腹が立つ腹が立つ腹が立つっ! リネスタードで負けるからこういうふざけたのが出てくるんだよ! 次はぜってー勝つぞチクショウ!」
「……まさかとは思うが、王軍、とかじゃ、ない、よな?」
普段は畑を耕しているようなのがこういう話をしてくるのだ。
尚武の国ランドスカープの中でも、この地は特に戦の動きに慣れているのだろう。
ただ、領内に攻められたのはもう何十年も前の話であり、従軍している兵士たちはそのほとんどが自分の土地を攻められることに慣れていない。
なので街が襲われ焼かれたと聞くや、皆が皆、これでもかという勢いで激怒した。
街に火を付けたのは死人兵をなんとか殺そうとしたその街の人間であるのだが、この際そういった細かいことは問題ではないのである。
「即座に打って出て連中を八つ裂きにしてくれよう!」
そんな台詞が兵士たちだけでなく隊長たちからもあがり、皆がそれで盛り上がってしまうというのは、勇気をこそ最大の美徳とするアクセルソン伯領軍ならではの光景である。
代々この軍の大将は、こういう連中を抑えることに腐心することになるのだが、まあ、集合しきる前にそういう威勢の良いのだけ集まってしまってついつい突っかけてしまった、なんてのもこの軍ならではの光景である。
斥候というか、強行偵察というか、そういうのが百人ほどで敵軍に挑む。集結途中の軍の指揮をとっていた者がこれを許してしまうのがアクセルソン伯領軍である。
千に対し百で仕掛けながらも上手く逃げ隠れしながら敵に痛撃を与える、はずであったのだが、そこでわかっていた情報を改めて確認することになる。
「うおっ! 死なねえコイツら! 本当に死人兵じゃねえか!?」
「こっちもだ! こっちも心臓ぶちぬいたってのにまだ動きやがる! 痛え! てめえふざけんなぶっ殺す!」
だからと怯まないのが、たった百人で先陣をきるなんて真似をするアクセルソン伯領軍の兵士たちである。
とはいえ傷を与えた全ての敵兵が死人兵の如き挙動を見せるのだから、さしもの彼らも勝つなり損失を与えるなりは極めて難しいと理解する。
「敵さんやたら連携が良い。死人使いの術者は結構近くにいやがるんだろうが……クソッ、探してる余裕はねえか」
年間の大半を農民として過ごす徴兵された兵の中にも、死人繰りの術と対策を知ってる者がいるのだから、本当に侮れない軍なのである。
そして、死人兵の大軍が襲い掛かってくる前に、彼らが言うところの連携のとれた死人兵の軍から綺麗に逃げおおせてしまうのだから、本当に、本当に、優れた兵士たちなのであろう。
そのまま戻った兵士たちの隊長が全く悪びれもせずに報告する。
「十六人やられました。全部死人兵ですねありゃ。気になったのは、明らかに他所から応援にきたはずの死人兵も、即座に最適の動きを見せてくることですかね。何せ無言ですから死人兵同士がどういう情報伝達してるか想像もつかないんですけど、まるで高いところからこっちの動きを全部見張ってるみたいな正確さで動きやがるんですよ」
そんな状況でありながら十六人の損失で済んだのか、という話である。
隊長が出撃した時点での最高位の者は既に後からきた援軍の、最も近場にいた将軍位にある者にその地位を譲っていて、そちらへの報告である。
将軍は喉の奥から出かかった、集結しろって命令だろ誰が出撃しろなんて言ったよ、という言葉を飲み込んで質問を重ねる。
「倍でも戦にならん、か?」
「無理でしょうね。小競り合いで引き上げるつもりだったのが十六人も殺られちまいました。腕は並ですが、隊で動くってことをよくよく理解してるようです。死人兵の集団ってのは初めて見るんですが、あんなもんなんですかね」
「そんなもの私だって見たことはない。斬るより骨を砕く方が良いか?」
「ああ、そうですねそれがいいでしょう。それと死人繰りの術者の気配は何一つなしです。探りようもありませんでしたね」
通常は術者の視界内にいなければ死人兵を動かすなんてこともできないはず、なのだが、千の兵全てが死人兵だとしたらそもそもこんな条件では動かせるはずがない。
隊長は街に仕掛ける形であったのだからなおさらだ。死角だらけの状況で、しかし死人兵たちの対応は全て適切であったと、それが不思議だと彼は言うのだ。
「つまり、今の兵数で街に雪崩れ込んだら?」
「全滅します。あの調子だと、中の庁舎まで辿り着けすらしないんじゃないですかね」
「その内容をご領主さまにお伝えするが構わんか?」
隊長とこの将軍は顔見知り同士であった。なのでかなり踏み込んだ話もするし、信用できぬ相手には絶対にしない責任問題に発展しかねない内容も平気で口にする。
「ええ、俺の名前出してくれていいっすよ。……そうやってわざわざ一声かけてくれる配慮ってやつが嬉しいですね」
「気分の問題ってやつは、存外に馬鹿にはできんものだからな」
前線で得た情報を即座に領主に伝達する。
これは同時に、この軍に後で正式に配備されるだろう将軍への情報でもある。
彼らのやっていることは、ヴェイセルがカテガット砦でやった、兵を先に送り込み布陣を整え将軍が後から合流する、というやり方そのものである。
これを領内とはいえ、誰が言うでもなく当たり前にこなしてしまうところを見れば、決してアクセルソン伯領軍は、直前の戦で見せたような不甲斐ない軍ではないと誰にでもわかろう。
一通りの報告を終えると、隊長は陣幕を出て、集まってきている兵たちを眺めた後で、額に皺をよせ毒吐く。
「……クソッ、まだ千かよ。あの敗戦がなきゃ、とっくにこの倍は集まってるぜ。あの時の一万の軍がありゃ、死人兵だろうと何だろうと野戦の一撃で全部磨り潰してやれるのによ」
トシュテンより前線の話を聞いた凪と秋穂は、二人共がとても驚いた顔を見せる。
「いや、もう前線できてるの?」
「領内ですよ、驚くことでもないでしょうに」
「アッカ団長が教えてくれた話となんか違う」
以前戦場を共にしたラーゲルレーブ傭兵団のアッカ団長に戦場のいろはを教わったのだが、もちろんこれらは一般的な戦場のそれであり、アクセルソン伯領軍やヴェイセルが差配した軍などとは様々な部分で異なっている。
トシュテンの隣にいた中年の男がトシュテンを肘でつつきながら言う。
「そのことはいい。それより、アキホ殿とナギ殿は死人繰りの術者と真っ向からやりあったと聞いたのだが、その話を是非聞かせてほしい」
彼はアクセルソン伯領の千人長の一人で、上から従軍の命令が出る前に一度敵軍を見たというトシュテンから話を聞きにきていた。
凪は基本もったいぶるということをしないので、即座にこれを了承する。
「いいわよー。私がやりあったような最大でも二十人ちょいしか使えない普通の死人繰りと比べたいって話よね」
「うむ。二十人でも随分と腕利きだと言われるものなのだが、今回はちと異常すぎる。死人繰りの術者が百人ほどもいる、というのもあまりぞっとしない話だ」
「そもそも術者の視界の外には動かせはするけど、見えないままで動かさなきゃならないみたいだし、本来は二十人でも過剰よ。それに、こっちが内の一体にでも難しい動きを要求すると、他がおろそかになったりもするから、多数を同時に動かすってのがそもそも相当難しい作業なんだと思う」
「当然であろうし、納得できるものではある。だが、前線からの報告を聞くに、どうもそういった制限があるとも思えんようなのがな」
「向こうの視界内にあるってことは当然こっちの視界内にもいるってことだし、飛び道具対策は必須になる。鬼哭血戦の時のも周囲はがちがちに肉盾で固めながら常に動くようにしてたし」
「死人兵のフリをした術者が紛れている、というところか」
「かといって、そいつだけ危ない動きを絶対にしない、ってのがいたらすぐに気付くだろうしねえ」
「……気付けるのか、それ。ともかく、高い視点を確保しつつ注視すべき、か。術者に矢は有効なのだろうが、死人兵自体にはほとんど意味がないというのがな……」
「燃やしたいんなら燃料が山ほどいるし、まさか街中で戦した挙げ句街中燃やすわけにもいかないしねえ」
「馬鹿みたいに燃え尽きるのを待っているほど愚かでもなかろう。火攻めなぞよほど条件が揃った場合でもなくば使えんよ」
秋穂がかなり真剣な表情で言う。
「一度忍び込んでみようか。アレ、涼太くんはアーサ軍かもしんないって言ってたけど、その辺すらはっきりとしてないんでしょ」
「強行偵察に出た連中がそれを失敗しているんだが。夜陰に乗じての作戦だったはずなのに、もうどうにもならんほどがっつりと迎え撃たれたらしいぞ」
「ソレ、死人使い以外の魔術師がいるって話かもね」
遠目遠耳の術の話は他所ではしないことにしているため、あまりはっきりとしたことは言えない秋穂だ。
だが、死人繰りと遠目遠耳の魔術とを組み合わせることができたのならば、確かに幾つかの矛盾は解消されよう。百人の術者全員にソレができるとするのならば。
千人長も渋い顔である。
「そこまでの魔術師を揃えたとなると、やはり魔術研究所の存在が噂されているアーサが最も怪しくなってくるな。ランドスカープ内でそこまでの規模の魔術師団を作ったのならば絶対に何処かしらに存在が漏れていただろうしな」
「アーサが今攻めてくる合理性もない、とも聞いたけど」
「確かに、先のカテガット砦の戦の話も聞いたがな。アーサのオージン王らしからぬのも事実だが、戦なぞそもそも合理性だけでやるものでもあるまい。恨みつらみに全体を見ない損得勘定、非合理な戦なぞそこら中に転がっておるわ」
さすが領主の恨みで一万の軍を動かしたアクセルソン伯領の人間は言うことが違う、などという煽るような台詞は口にしない二人だ。
別段彼も非合理な戦を推奨しているのではなく、理由はどうあれ攻めてきたのなら迎え撃つだけだという話である。
他にも、鬼哭血戦に横入し実際の戦闘となった時の流れを説明していると、トシュテンが手配していた人間がこの部屋に駆け込んだきた。
「新事実出ました。敵死人兵はどうも、目でものを見る、というのをしているようです」
それもう生きてるじゃん、と凪は思ったが、詳しい話を聞きたいので黙っていた。
連絡員は続ける。
「街の監視をしていた者からの報告で、敵はどうも死人兵を用いた哨戒行動を行なっているようで。それだけではなく、見張り塔で監視任務を行なっている死人兵もいたと」
凪だけでなく秋穂も言いたくなってきたことを、千人長が代わりに言ってくれる。
「いやそれ死人兵ではなく、通常の兵士なのでは?」
「確認したそうです。具体的には哨戒中の死人兵に矢を打ち込んだんだとか」
無茶するなぁ、とやはり感想は内心のみで留める凪と秋穂。
そのまま連絡員は告げる。
「前線ではそれまでの情報を総合し、今回の死人繰りの術者は、使っている死人兵と視覚を共有できる、と結論付けました。また、以上の特性から死人兵から離れ安全な場所に篭ってこれを操作しているだろうと」
千人長はその厄介さに舌打ちをしていたが、凪と秋穂はといえば、そうではない、全く別のところに意識を向けていた。
『私が襲撃の報を聞いたのが五日前で、実際に攻めてきてからまだ十日も経ってない、はず、よね』
『なのにもうここまで相手の手の内暴いちゃってるの? コレ、かなり特殊な戦況だよね? なのに当たり前に対応して、あっという間に敵の正体探り出しちゃうんだ。うわー、コレ、きっとカゾ無かったらリネスタードボロ負けしてたんじゃないかなー』
秋穂は残るもう一人の仲間のことを考える。
『どうも普通の死人兵と違うみたいだけど、涼太くん大丈夫かな』
魔術具作成にはほぼ密閉が可能な頑丈な個室が好まれる。
トシュテンが連れてきてくれたこの街には、そういった施設が元々存在していて、もちろんこれらを用いる魔術師たちも常駐している。
彼らにトシュテンが話を持ち掛けたところ、エルフの魔術と聞いて即座に彼らは飛びついてきた。
合流するまではまだ騙りの可能性を考えていたようだが、涼太が彼らにエルフからもらった魔術具を見せると、彼らも納得し、嬉々として協力を約束してくれた。
涼太は最初から彼らに対し強く出るつもりもなく、また出すと決めた分には出し惜しみや交渉をするつもりもなかったので、正直に自分の魔術具作成技術の低さを申告し、どうか手助けを頼むと頭を下げれば彼らも気分よくこれを受けてくれる。
そしてもののついでに色々なコツも教えてくれるようになった。
「違う! 何度言わせるんだリョータ! その石はまっすぐではなく、回すように削ると言っただろう!」
言っていない、という事実の指摘はせず、すみませんと謝りながら涼太は言われた通りに削る。
少しすると別の魔術師の怒鳴り声が響いた。
「リョータ! 指示通りの粘液ができんぞ! 色味が薄れているのはどういうわけだ説明しろ!」
はいはいただいま、と自分の作業を中断しそちらの状況を確認しにいく。
途中で更に別の魔術師が涼太の腕を掴んだ。
「これでいいか!?」
ちらっと見て、とても綺麗な琥珀色に輝いている草を確認すると頷いてかえしてやる。
「うん、そしたら次に入ってくれていいよ。次の工程はそこそこ失敗するらしいから、そのつもりで挑んでなー」
殺気立った魔術師たちの声にも涼太は平常運転だ。この喧噪が彼ら魔術師にとっての気持ちよく教えてやる、ということである。
部屋の入り口を開き、外に怒鳴っている魔術師もいた。
「次の触媒を持ってこい! 後は水鉱石を中箱いっぱいで!」
彼の怒鳴り声に被せるように室内の他の魔術師たちも怒鳴りだす。
「こっちは火鉱石を小箱二つ分だ!」
「ウチの弟子に完全保管箱持ってくるように言っておけ!」
「ワインを寄越せ! 代金は上につけていいから最高級品にしとけよ!」
「……ごめん、ウチの凪と秋穂にすげぇ遅くなるって伝えといてくれー」
遅くなるどころか涼太はこの後になっても部屋から出ることはできず、結局物が出来上がるまで部屋に入りっぱなしで丸二日かかってしまったのである。
王都から経済制裁なんてされている中、千もの兵士が海岸から上陸してきた。
常識的に考えて、千人が乗るほどの大船団なんてものを見逃すことはまずありえない。
にもかかわらず完全な不意打ちをくらい、あっという間に沿岸地帯の都市をおとされてしまった。
しかもこの兵士、千人全てが死人兵だという。
「なんなのだ、一体なんだというのだ……」
アクセルソン伯のそんな意味をなさぬ言葉も、配下たちは無理からぬとこれを責めるようなことは言わない。
旗を挙げるでもなく、名乗るでもない。いきなり襲い掛かってきて街を奪取し占領する。こちらへの要求も無しだ。
報告を聞く限りでは、最終的には五千弱の兵が集まることになろう。だが、全て死人兵の千を相手に、これで十分かどうかの判断がつかない。全て死人兵の軍隊と戦った経験なぞ誰にもありはしないのだから。
アクセルソン伯は目で軍務担当に問うと、彼はアクセルソン伯が望んだ答えではない言葉を返した。
「どうやらあちらには攻め込むつもりはあるようですから、拠点化した場所で迎え撃つのがよろしいでしょう。死人兵とはいえ潰せば動かなくなりますし、決して殺せぬわけではありません。術者狙いが難しいとの報告も上がっておりますが、まずは死人兵を削り取り、しかる後逃げる術者を仕留めるのが最良かと」
不満気なアクセルソン伯の態度を見れば、彼が何を望んでいるのかもわかるが、彼は出来ぬを出来るという人間ではない。
アクセルソン伯は不満気な態度のままで言い返す。
「死人兵軍なんていう未知を相手に、先手を取られては不測の事態も起こりうるのではないか? いや、いい、こんな後方で戦の話をするべきではない。私も出るぞ」
軍務担当は悩まし気な顔になる。
アクセルソン伯が前線に出てきては、冷徹な軍事的判断が下せなくなる懸念がある。
とはいえリネスタードでの敗戦や経済制裁のこともあり、軍自体が弱体化していることからアクセルソン伯の出馬はこれを補う一手にもなりうる。
敵が得体の知れぬ相手ということもあり、こうした士気向上の手段は幾らあってもいいだろう。
「……そう、ですな。伯に出ていただければこちらもありがたくはあるのですが……」
それ以上を口にすることはできなかった。
経済制裁に対応している配下たち皆が一斉にアクセルソン伯の出陣を非難し始めたからだ。
軍事的問題は、そもそもからしてアクセルソン伯がいなければ解決できないというものでもない。対して経済制裁への対処にアクセルソン伯の権限は必須なのだ。
領主が軽々に前線へと顔を出すことの危険さを考えればこんなもの即断していい内容だという彼らの主張に、軍務担当も返す言葉はない。領主出陣に懸念もあることから、領主の助けを求める顔を彼はそっぽを向いて見えぬフリをした。
結局のところ、アクセルソン伯領の首脳陣全員が、今現在アクセルソン伯にかかっているストレスの大きさを見誤っていたということだろう。
それまでの領主人生においてそうした無責任な行為をほとんどしてこなかったアクセルソン伯は、配下たちに何一つ言葉を残さぬままに屋敷から失踪してしまった。
当人からすれば自分の領内をどう移動しようと俺の勝手だ、といったところなのだろうが、配下たちはもう大混乱である。
最初の一日の間は、配下たちもまさかアクセルソン伯が自分の意思で屋敷を抜け出したとは考えていなかったせいで、さらわれただの殺されただのといった見当違いの心配をしていた。
そのせいで、致命的なほどに対応が遅れてしまったのである。
「馬鹿にしおって馬鹿にしおって馬鹿にしおって馬鹿にしおって馬鹿にしおって馬鹿にしおって馬鹿にしおって…………」
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