215.目も当てられぬ戦い
離れで死体の片付けと掃除を任された二人の兵士は、直前にあった生涯忘れ得ぬ恐怖体験のせいか、兵士としての義務や責任なんてものには何一つ思い至らず、ただ秋穂に言われた通りに掃除と片付けをしていた。
むしろ屋敷の使用人たちの方が、報告はしなくていいのだろうか、と心配したほどだ。
とはいえ使用人たちも、兵士たちの行動が屋敷の主人たるハッセの意図からは外れたものだったと思えたので、下手に逆らうこともしないが、さりとて協力的でもなかった。
そして残る一人の生き残りは秋穂と共に移動中。つまり、ハッセの離れにおいて起きた事件を、外部にて知る者はまだ一人もいないということである。
「んー、やっぱり解放感はあるねー」
今、豪奢くんに先導させて街中を歩く秋穂は、この街にきて初めて、顔を隠さぬまま堂々と道を歩いている。
その類まれな容貌と、革鎧では隠しきれぬ色気に満ちた身体つきに、通りすがる全ての者が皆、二度見三度見しているが、それはもう昔っからそうなので気にしないことにしている。
妙に怯えた顔の全身金属鎧が秋穂を先導していることで、これに不用意に話しかけるような者もいない。
道中、秋穂は気になっていたことを豪奢くんに聞いた。
「ねえ、もしかしてさ、君、私が無抵抗で連行されると思ってた?」
「は、はい」
「……それ、イデオンってのもそう思ってる?」
「恐らくは」
「理由を聞いても?」
「え、それは、法務官からすでにイデオン様の命令に従わせる法的根拠を得ているのですから、これに逆らうということは、その、最悪一族を巻き込んだ死罪をすら、視野に入れねばならぬ大罪でありまして……」
「うんうん。それ、つまり、私だけじゃなくて、私の周囲の人間も襲うつもりだって理解でいいのかな?」
「襲う、といいますか。罪人となれば当然そういう形になるものかと……」
大きくため息をついた後、秋穂はこう漏らした。
「何処の国に行っても、気に食わない人ってのは尽きないものだね」
秋穂の機嫌が悪化したと見た豪奢くんは、以後また無言になった秋穂に怯えながらも、余計なことは言わずに先導を続けるのである。
秋穂と豪奢くんは、諜報という観点で言えば、国内随一の鉄壁さを誇るイデオン邸に辿り着く。
豪奢くんが先頭に立っているので、門番は声を掛けられるとすぐに門を開いてくれる。
ぬるすぎる、と秋穂が思っていたのもわずかの間だ。豪奢くんの様子がおかしいのと、兵士を連れていないことを訝しがった門番の一人が上長に相談すると、屈強の兵士が秋穂たちを咎める動きをみせてきた。
豪奢くんはその動きを見て、期待半分、恐怖半分といったところだ。
集めた三十人もまた豪奢くんが見立てた精鋭であり、それと比べて、今屋敷の警護についている兵士が特に優れているとも思えないのだ。
「ああっ」
そして案の定だ。槍を向けた瞬間、精鋭だろうと新米だろうと、豪奢くんの目からは全く差異がわからないぐらいあっさりと殺されてしまう。
当然だが、屋敷中大騒ぎだ。
驚き駆け寄ってくる兵士たち。そして特に気にした風もなく歩きながらばっさばっさと斬り倒していく秋穂。その後を、地面に並ぶ死体を見ないようにしながら続く豪奢くん。
「おおっ! 隊長だ! 隊長が出るぞ!」
隊長と呼ばれているのは、イデオン配下の兵士たちの中で、最も恐れられている将だ。
つい先日の、ハッセ商隊を襲いこれを皆殺しにしたのも彼の指揮だ。人を殺すことを、まるで虫を潰すようにそうできる冷酷非情な人間と言われている。
「あ、ちょうどいいや。ソイツの首、拾って持っていこう」
そんな隊長ですらただの一合も打ち合えず。他の雑兵と全く同じように殺され、綺麗に飛ばされた首を拾って持っていけという無体なご命令を豪奢くんは受ける。
矢が飛んできたときは豪奢くんも悲鳴と共に足を止めたものだが、秋穂はこれを当たり前に避けていた。そしてすぐに反撃で何かを投げると、矢は二度と飛んでこなくなった。
『外れた、じゃなくて、避けてるのが私にもわかった。二射目を許された者は一人もいなかったのも』
それに少し安堵する豪奢くんだ。こんなモノを連れてきてしまったことに対する言い訳の、説得力が増すというものである。
イデオン・ヌールマンはその日、とても落ち着きのない様子であり、部下はもう今日は仕事にならないと匙を投げてしまった。
なのでイデオンが執務室内をうろちょろしているのも、仕事をしているフリをしながら余計なことを考えぼけーっとしているのも、放置していた。
そんなイデオン待望のモノが屋敷にきたとなれば、二階の部屋の窓に張り付きになってこれを見守るのもやむなしである。
だが、そこから見える景色はほんのちょこっとだけ、イデオンの想定から外れたものであった。
「は?」
イデオンの立場であれば、人が斬り殺されるなんていう場面に遭遇することはまずない。
処刑も事故死も、イデオンの視界内で行なわれてよいようなものでは決してないのだから。
だからイデオンがソレを見て、何処か現実味のない光景だと思えてしまうのも仕方のないことだろう。
たとえそれが、イデオンの配下がまるで草木のようにばっさばっさと斬り倒されている光景だったとしても。
「あれ、死んでいるのではないか? おい、何故、あんな危ないものを振り回している。何故誰もアレを止めない?」
きょろきょろと周囲を見渡すイデオン。何度見てもそこはイデオンが見慣れた屋敷の庭の光景である。
目をつむっていても庭木の配置がわかる、住み慣れた屋敷だ。そんな景色を見知らぬ異物が侵食していく。
庭を見下ろすイデオンと、侵食の中心にあるソレで、目が合った。
ソレが何なのか、その意味を理解できていなかったイデオンは、だからと恐れる様子もない。ただただ不思議そうにソレを見ているだけだ。
ソレ、こと秋穂は、突っ込んできた勇気ある兵士を股下から抱え上げると、数歩の助走と共にイデオンの部屋に向かって放り投げる。
勢いよく回転しながら飛んでいった兵士弾は、イデオンが見ている窓の脇の壁に投げ込まれ、大穴を開ける。そこに、続いて秋穂が飛び込んだ。
壁が砕けた衝撃と煙に驚き、両腕で顔を覆っていたイデオンがこれをはずした時にはもう、秋穂は部屋の中に立っていたのである。
「はい、こんにちは」
その声で、正確には声が聞こえる距離にあることに気付いたことで、イデオンは自身の窮状をようやく、察することができた。
「ま、待ちなさい。随分と珍しい訪問の仕方だが、これがランドスカープの流儀かね」
すたすたと歩きながら、イデオンが部屋の自分の椅子に座るのを秋穂は、ちょっと驚いた顔で見ている。
「イデオン・ヌールマン?」
「そうだ。待ちなさい。まずは、そうだね、そこの椅子にでも座りなさい。待ちなさい、今お茶を用意させよう」
椅子に座る気ももちろんお茶を飲む気にもなれない秋穂は、さっさと本題に入る。
「死ぬ前に、一応話ぐらいは聞いてあげてもいいけど」
「そうだ、まずは話をするべきだ。お互いの意図を伝え合わなければ、待ちなさい。話の途中で動くんじゃあない。元々はランドスカープの、待ちなさい。わかった、簡潔に、だな。綿の輸入に同意しよう。叔父上も私の言ならば……」
肩をすくめる秋穂。どうもこのイデオンに秋穂がこの屋敷を訪れた理由は察せられないらしい。
それ自体は驚くことでもない。貴族に限らず、自分の視点でしかものを見られない者なぞいくらでもいるものだ。
ただ、当人がかなり真面目にこちらに合わせようとしてくれているとなると、一応話ぐらいは聞こうかという気にもなる。
「そんなのどーでもいいけどさ。私に喧嘩吹っ掛けといて、これで終わりとか、ないよ」
「そうか、わかった。ランドスカープの流儀というものがあるというのなら、詳しい者に確認させよう。その後で改めて、待ちなさい、今ここで決めようじゃないか。まずは君の要求を聞こ、待ちなさい、わかった。君たちの言うところのオトシマエ、というのか? それを求めるというのであれば応じよう」
なんやかやと少しずつ話が通るようになってきている。
秋穂の理屈に対しほとんど知識のなかったイデオンであるが、基本的に知能は高いのだ。
ただ、秋穂の望みというか、ケジメというかは、首とか命とか腹を切れとかそーいうのであって、今後どれだけイデオンが理解を深めたところで決して交わることはないであろう。
秋穂が死人を出した時点で、ケジメは首となっているのだ。この辺の機微が、基本的に命のやり取りがない世界に生きる者には理解しにくいところだろう。
「各条件のすり合わせは、君の側近であるリョータという者とする形がよいかな、待ちなさい。話はまとまってきているだろう、何故動く。待ちなさい、待ちなさい。だから待てと言っている!」
秋穂の腕がイデオンの首を掴む。
「私が欲しいのは、とりあえずは、君の首だよ」
つまり元々交渉の余地などなかったということだ。
ちょうどのその時、豪奢くんが隊長の首を持って部屋に入ってきた。
「遅くなりました。ひっ」
イデオンが首を片手で掴みあげられているところに遭遇し、豪奢くんは悲鳴を上げる。
豪奢くんが持ってる隊長の首を見て、イデオンも悲鳴を上げたかったが、あまりの苦しさにそれどころではない。
秋穂は豪奢くんに言う。
「これ、案外物分かり良かったから持っていくことにしたよ。事情説明は君一人残しておけば十分、かな?」
「は、はい」
「本音は、さ。君を生かしておく理由もないんだけど、きっと君を残して状況説明させておいた方が、犠牲者は少なく済むと思うんだ。だから、お願いできるよね」
「は、はいいいいいい」
じゃ、後よろしく、と言って秋穂はイデオンの後ろ襟を引っ張り引きずりながら屋敷を出ていく。
もう、これを止めようという人間もいない。そうできる者はみな死んだ後だ。
残ったのは、ほんの少し現実が見えて、ほんの少し勇気が足りなくて、かなり考えの足りない人間であろう。主を見殺しにする人間が、一族が、今後重用されることはなかろう。この屋敷に勤めている者はその大半がイデオンの郎党であるのだから。
秋穂が兵士たちの集団に捕捉されたのは、領主の館へと向かう主道を進んでいる時だ。
国家の最重要人物の一人であるイデオンであるが、女に襟首掴まれ引きずられているという状況は、その特異性故にこそ、引きずられている人間がイデオンであるなどと誰も思わないものだ。
下手な主張は文字通り首を絞めることになる、と恐れたイデオンが沈黙を守っているのも理由ではあるが。
ただ、イデオン邸襲撃を受け、兵士たちのもとに報せに走った者もいたのだ。
その時兵舎にいた兵士たちは、相手が黒髪のアキホであると聞き、勇んで現場へ駆けつけた。
結果、ハーニンゲ有力貴族であるイデオン・ヌールマンを引きずって移動中という、ちょっと想像だにしなかったものに出くわす羽目になったのだが。
ただ、兵たちを引きいる隊長にとっては、想像していた通りの悪逆非道の徒であるとわかり、ならばと雄々しく動くのみだ。
「黒髪のアキホ! 卑劣な真似は今すぐやめろ! イデオン様を離し縛につけ!」
ぴくり、と秋穂の頬が動く。
「卑劣?」
「人質などと剣士の風上にもおけぬ輩よ。恥を知れ!」
「人質だと認識しているんなら、言葉には気を付けた方がいいよ」
そう言って秋穂は、イデオンの身体を引っ張り持ち上げ、下段蹴り一発でその足をへし折った。
主道中に響くイデオンの絶叫。ちょっとこれ声大きすぎでしょ、と秋穂が眉を顰めるほどの大声だ。
そしてそんな所業に、怒りの声を上げる兵士たち。
「頭悪いなー」
もう一発下段蹴りを決め、もう一本の足を折ったところでようやく兵士たちも理解をしたようだ。
青ざめた顔で喚くのを止めるが、隊長はとても慌てた様子で言い募る。
「待て。待て。わかった、そのお方を無意味に傷つけるのはやめろ。だが、逃げるというのならばもう何処にも逃げ道なぞないのだぞ」
「逃げないよ」
そう言って秋穂は持っていたイデオンを地面に落とし、言う。
「何を勘違いしてるのか知らないけど、私に勝てるつもりなら相手してあげるよ」
そこで、きっと待ち構えていたのだろう、男が一人前へと飛び出してきた。
隊長が何を言うよりも先に、明らかに兵士としての立場を逸脱して彼は、抜き放った剣を片手に叫ぶ。
「我が名はマックス! 両手剣のマックスなり! 黒髪のアキホ! 俺と尋常に一騎打ちで勝負だ!」
え、ととても予想外顔を晒すことになったのは秋穂である。
わざわざ集団で押しかけ無法を咎めんとする兵士が、いきなり単身飛び出してきて一騎打ち要求とか意味がわからなすぎる。
何がヒドイかといえば、隊長はこの出来事に驚き対応ができておらず、部下たちもまた止めるだのといった話にはならずむしろ、先を越されたか、ってな勢いである。
「は、はあ。一騎打ち? 一人ずつやるってこと? いや、まあ、そうしたいんなら、そりゃそっちの勝手だけどさ……」
意味がわからずとも敵は剣を抜きこれを秋穂に向けているわけで、秋穂もまた剣を抜いてそちらに向ける。
「ちぃえあああああああああ!」
男は長めの剣を両手に握り、肩に担ぐほどに大きく振りかぶりながら突っ込んできた。
秋穂にも、ランドスカープより来たベロニウス流がハーニンゲの若い兵士たちの間でとても流行っており、剣一本を頼りに成り上がるなんて物語を彼らが本気で信じている、なんて話はわからない。
わからないが、剣を抜きかかってくるというのであればやることは一つだ。
とりたてて難しいことをするでもなく、受け流した後でそのまま斬ってマックスくんは終わった。
「「「「「マックスううううううううううう!!」」」」」
兵士たちの絶叫。しかる後、友の仇とばかりに勇んで前に出てくる兵士たち。
そして呆然と呟く秋穂。
「なにこれ」
結局、一騎打ちを五回もやる羽目になった秋穂だ。
隊長止めろよ、と思ったが、彼が動いたのは五人目が倒され、兵士たちが怯むようになってようやくだ。
「最早奴は剣士ではない! 血に飢えた猛獣よ! 獣を倒すに剣の技は使うべきではない! 押し包み囲み殺してしまえ!」
勝手なこと言ってくれるなー、とか思いつつも、一人一人丁寧にぶっ殺してさしあげる秋穂。
都度、真面目にやっているのが馬鹿らしくなるような悲鳴や泣き言や戯言が聞こえてくるが、面倒なので全部無視した。
そんな秋穂は、別の集団がこの付近に来たことにも気付いている。
『こっちも、戦士っぽい、かな。とはいえ、何処までアテになるもんだか』
足音とかは、最初の兵の集団もきちんと兵士っぽくはあったのだ。それでこのザマなのだが。
ただこちらは一所に固まったまま援護する様子もない。
『見殺し? どーなってんの、この国の兵士ってば』
遅れてこの場にきたのは、ベロニウス流の門下生たちであった。
ちょうど道場にいた三十人で駆けつけているので、彼らはかなり強気であった。
なので兵士たちを相手に暴れている秋穂を見て、誰しもが即座に踏み込もうとしたものだがこれをヴィクトルの息子が止める。
「待てい! 貴様らはそこを動くな!」
そして息子はじっと秋穂と兵たちとの戦いを見つめるのみだ。
皆、兵士たちを仲間、味方だと思っている。彼らが失われる前に急いで援軍をしてやらねば、と駆けてきたというのに、いざ敵を前にして止まるとはどういうことか、と彼らは憤慨する。
だが息子は絶対に許可を出さないし、息子がランドスカープから伴ってきた弟子が説明する。
「師匠に任せておけばよい。戦の呼吸も知らぬ貴様らは黙っておれ。そも、兵士たる者が剣を抜いたのだぞ。これの生死を嘆くなぞ不覚悟にもほどがあるわ」
もちろん師匠たる息子が止まったのは、戦の呼吸だのといった理由ではなく単純に、秋穂の剣を見定めにかかっているだけだ。
対戦直前に、わざわざ手の内を見せてくれるというのだから、こんな楽な話はなかろう。
そして、秋穂が後方の敵に対処するため切り返しをした時、息子はにたりと笑みを見せる。
『見切ったわ、黒髪のアキホ』
息子は堂々と怒鳴り声を上げながら踏み出していく。
「どけどけええええい! 有象無象では相手にならぬわ!」
そのまま名乗りを上げ、ずいずいと無遠慮に秋穂へと踏み出していくと、その後ろにいるベロニウス流の集団も含め、頼もしき援軍とみなした隊長は兵を下げさせる。
それを当然のことと受け取り、息子は秋穂の前に立つ。
流派と名を名乗り、息子はまず、秋穂の剣術を非難した。
明らかに重心の位置がおかしく、無駄に力を消耗する、更に、剣を振るうという点においてあまりに非効率的にすぎるその連携を罵る。
その堂々たる口上に、この場を見ていた誰しもが息子の勝利を確信する。
秋穂がこれを黙って聞いていたのは、実はその言い草に、理解できないでもない部分があったからだ。
『うん、よく見てるよ、この人』
口調はムカツクが、内容はきちんと剣のことを考えているからこそ出てくる話ばかり。とはいえ、秋穂からの反論がないわけでもない。
『いや、まあ、単純に、こっちの世界の剣術しか知らないんだろーなーって感じだけどね』
話自体はそこそこ聞けるものだったので聞いてやっていたが、だからと手を抜いてやるほどでもない。
息子はゆっくりと剣を抜き、また、逆手に短剣を握り、言った。
「黒髪のアキホ、破れたり」
弱くはない。
そして、きっとこれを狙ってくるというのも概ねわかった。
息子が踏み出し、剣を振り下ろしてくる。速く鋭い。潜れない。受けるしかない。だが、重さは秋穂が上だ。
受けながら弾くと、息子の脇が空く。ここに剣を回すように打ち込めばそれでおしまい。だがこの動きを、息子は恐らく直前の秋穂の戦いを見て知ったのだろう。
受けのための逆手の短剣だ。柄元を押し当てるように支えれば、今の息子の体勢ならば受けきれる。
『ふつーの剣ならね』
秋穂の剣は、中国拳法の先にあるものだ。強打を打つ理は、槍を突く時と同じ強靭無比な下半身にある。
人間離れしたこの足腰を用い、大地を支えに押し出される力は、鋼をすら断ち切る一刀となる。
文字通り、胴を輪切りに一刀両断である。
千切れた上体が宙を舞った瞬間、秋穂は息子の顔を見た。口元が動いているのは何かを言おうとしているのだろう。
『ひきょうな』
と見えた。何処が、と思ったが、同時に理解もした。きっとこの男は、自分の不利益になることが起こると、まずはとりあえずで卑怯と口にするようにしてきたのだろうと。
それは兵士たちの隊長と同じもので、秋穂からは嘆息しか出てこない。
『あーあ、コレ、きっとヴィクトルおじーちゃんの関係者なんだろーなー。あーあ』
いくら友達だと思える相手でも、家族を斬ってしまったのなら、こちらから配慮して距離を取るようしてやらなければならない。
それが、剣士同士の最低限の礼儀だ、と秋穂は思うのだ。




