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誰だ、こいつら喚んだ馬鹿は  作者: 赤木一広(和)
第二章 リネスタード騒乱
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019.盗賊砦陥落の影響


 商業組合所属、商隊護衛団赤狼の若きリーダー、イェルド・ネレムは、目の前の怪我だらけのボンクラ目掛けて手にした木の棒を振り下ろしていた。


「山の魔法使いに喧嘩売っただあ!? てめえ誰に断ってそんなふざけた真似しやがったんだこのボケが! 俺がいつ言った!? 魔法使いに手を出せなんて誰が言ったって聞いてんだこのクソッタレ野郎があああああ!」


 イェルドのただでさえ目つきの悪い目が、今は更に凶悪に見開かれている。

 怒りに任せて何度も棒を振り下ろす。元々魔法使いの従者にぼこぼこにされていた小隊長は、悲鳴を上げながら頭を押さえることしかできない。

 これを見ている商業組合の商人、ギュルディ・リードホルムは思った。直前に、その三人組を見逃したということで半殺しにされた小隊長がいる。それを知っていれば、中途半端な真似はできないと腹をくくって事に当たるだろう。

 恐らくはその勢いが過ぎて、相手が魔法使いの従者とわかっていてもつっかかってしまったのだろう。

 そもそもここを出る前に、誰が相手だろうと一歩も引くんじゃないと煽ったのはイェルド自身ではないかと。

 とはいえギュルディもこの痛めつけられている男を庇う気は欠片もない。よりにもよって山の魔術師にケンカを売るなどあまりに短慮すぎる。仮に魔術師の側からケンカを吹っ掛けてきていようと絶対に手を出してはならない相手だ。

 ギュルディはイェルドと同世代、まだ二十代前半であるが、この年で商業組合の幹部の一人である。

 イェルドと違って育ちの良さそうな品の良い顔立ちをしており、荒くれ者が集まるこの事務所に全く不似合いな男であった。

 少しすると、ギュルディがこの事務所で待っていた相手、シーラ・ルキュレが下っ端たちに連れられてやってきた。


「あ、ギュルディだ」


 男を木で殴りつける音が聞こえないのか、シーラが呑気にそんなことを言うと、ギュルディもまた男を殴る音を無視して呆れ顔を見せる。


「あ、じゃあない。報告だ、早くしろ」

「え? 報告とかないよ」

「何? お前、鉱夫街に行ったんじゃないのか? てっきりアンドレアスでも殺しに行ったかと思ったんだが」

「わわ、バレてる。不思議」

「何が不思議だ。まさか、仕損じたのか?」

「ううん。なんか今日はどうでもよくなって行くのやめた。ねえねえ、聞いてよ。さっきね……」


 ギュルディは手をひらひらと振る。


「あー、わかったわかった。とりあえずここは出るぞ。後ろがやかましくてかなわん」


 男の泣き声と悲鳴とが断続的に響いてきており、これに興奮したイェルドはもう人間のしていい顔ではない表情で、やっきになって木の棒を振り下ろしている。

 事務所の建物を出たところで、ギュルディは小さく嘆息する。


「あれでイェルドの奴も頭は悪くないんだがな、いかんせん自制心が無さすぎる。後五年、十年かかってももう一つ上ぐらいまでで頭打ちだろうな」

「へえ、案外評価してるんだ」

「性格と能力は別物だからな。幾つか確認が取れた話がある。どうする? 先にお前の話を聞くか?」

「ギュルディが確認取らなきゃってほどの話なんでしょ? いいよ、聞くよ」


 ギュルディはもったいつけたりせず要点だけを伝える。


「盗賊砦が落ちた。ホーカン、エドガー、カスペル、ヤンネ、主要な者の死体も確認されている」

「え?」


 シーラはきょとんとした顔に。ギュルディは構わず続ける。


「ホーカンの親衛隊も全滅だ。犯人は不明。だが、リネスタードの者ではない、ボロースの街でもない。となるとそんな真似ができる奴は限られてくる」

「え? え? え? それ、山の魔術師が盗賊砦落としたって言いたいの?」

「他に心当たりがあるか?」

「えー、だって無いよー。幾らなんでも魔術師にエドガーは殺せないでしょ」

「……お前は魔術師をあまり恐れている風には見えないが、理由はあるのか?」

「だって魔術師って弱いし。弱い人には強いけど、きちんと速く動けるんならほぼ負けないよ。ひどい不意打ちとかされなければカスペルとかヤンネでもほとんど負けないんじゃないかな。ましてやあのエドガーなんてねえ」


 世評に言うところの魔法使い、魔術師というものは、一つ手を振れば風を起こし火をまき散らし、敵を睨めば身体の内から爆発四散、空を駆け抜け地を泳ぐ尋常ならざる力の持ち主、と言われている。

 街で見かける魔術師もその本業は工房での勤務であるが、いざ戦いとなれば手より炎を噴き出すぐらいは当たり前にやってくるのだ。

 それが、特に高位の者が集まっているという山の魔術師相手となれば、何が起こるか見当もつかない。


「強い魔術師って逆にすっごく珍しいよ。みんな工房での作業に特化した人ばっかだからね。山の魔術師はそういった魔術師とはちょっと違うらしいけど、でも、幾らなんでも盗賊砦を落とせるほどじゃない」


 他ならぬシーラの断言だ。ギュルディは自らの認識を改める。

 自身の中で思考をまとめるべく歩く足をすら止めて考え込むギュルディに、シーラが確認のために問う。


「ねえ、じゃあリネスタードの街落とすって話、あれ無し?」

「それどころではなくなったな。組合長は半狂乱だったぞ」


 盗賊砦にいた盗賊同盟によるリネスタード攻略作戦。これに、商業組合は手を貸し内から街を崩す予定であった。

 ブランドストレーム家と街の支配層である豪農や大地主をこの騒ぎで始末し、リネスタードの実権を一手に握るのが目的であったのだが、最も頼りにしていた強力無比な武力、盗賊同盟が一夜にして消滅してしまった。

 街襲撃の日に備え準備も整え、後は盗賊砦に盗賊たちが集まり次第攻撃開始となる予定であったのだ。それが、集まった報告を今か今かと待ち構えていればあったのは盗賊砦陥落の報せだ。

 商業組合の混乱は想像に難くない。かくいうギュルディもかなり動揺してしまったものだ。

 ただ、ヒドイ裏切りも思いもかけぬ不運も経験のあるギュルディは、誰よりも早く立ち直れた。

 そして誰よりも早く、この先どうなっていくのかを考えることができたのだ。


「シーラ。盗賊同盟攻撃の日に備えて、商業組合は派手にやりすぎた。リネスタードはどうせ落ちるのだからとかなり強引な真似もしたし、とんでもない強気の姿勢を維持し続けた。そうし続け過ぎた」

「うん」

「結果があれだ。山の魔術師にケンカを売るほどに、下っ端連中に強気の影響が出てしまっている。イェルドが必死になって抑えているが、あれはもう止まらんだろう。商業組合の上が止まるつもりでも、下は間違いなく暴走する」

「あー、うん、なる、ね。きっとそうなる」

「上は盗賊同盟をアテにしての強気だったがそれがなくなった。しかし下はそんなものハナから知っちゃいない。盗賊同盟と手を組んでいるなんて話を知っているのも極一部だけだしな」

「んー、んー、んー、でもさ、それがどうしようもなくっても、負けるって決まったわけじゃないよね。戦力で見るんなら、極端に商業組合が劣ってるって話でもないし」

「それが最悪なんだよ。いっそ明らかに劣っていれば突っ込もうなんて気も起きん。だが、拮抗してるんだ。そしてアイツらは馬鹿だ。勝てるかも、で平然と敵に突っ込める生き物なんだぞ」


 うわぁ、とうんざり顔のシーラ。


「ひっどい戦になるねぇ」

「それも街中でだ。兵士同士なら外での会戦なんて発想も出てくるだろうが、連中ただのチンピラの集まりだぞ。街中で、ロクに戦慣れしていない連中が殺し合うんだ。街がどんなザマになるのか想像もつかん」


 色々とシーラは考え、そしてあははと笑う。


「うん無理っ。鉱山街のアンドレアスは絶対に引かないし、ブランドストレーム家はデニスが馬鹿すぎて止まらない。あはははは、ほんとに街中でひっどい戦になるよ。女子供もたくさん死ぬね。火も付く。下手すれば城壁だけ残して中は全部焼け野原とかもありそうだね、あはは、あははははははっ」

「笑いごとかっ。とまあ、この辺が私が考えた未来予想図だ。この話の後に私に聞かせるような話が、お前に何かあるか?」


 バツが悪そうに頭をかくシーラ。友達ができた、なんて話を嬉々として聞かせたらさすがにこの男も呆れるだろう。


「あ」


 そこでようやく気付けた。


「あー、ああ、そっか」


 まだ戦いの動きを見たわけでもないのに、ただ突っ立っているだけでシーラ・ルキュレに警戒心を抱かせた正体不明の二人組、とおまけ一人。

 今度はギュルディがぎょっとした顔をする番だ。


「おい、お前その顔はなんだ。まさか盗賊同盟壊滅の心当たりがあるっていうんじゃないだろうな」

「あー、あー、あー、えっと、にゃ、ニャンデモナイデシュヨ」

「馬鹿め! お前は嘘に向いてないと何度言わせる気だ! まさかまさかまさか、盗賊砦落としたのお前だって言うんじゃないだろうなっ」

「あー、それは違う。うん、私はそっちには手出してないよー。エドガーいるけど我慢したよー。えらいよえらいよわたしえらいよー」

「アンドレアス殺しに行っといて何が我慢しただ。いいからつまらんこと言ってないで吐けっ」


 しばらくの間、うー、だの、あー、だのといってごねていたが、ギュルディが全く追及の手を緩める気がないのがわかると、諦めたようにぽつぽつと話し出した。

 シーラ・ルキュレをして剣を振ることさえせず強者と認識させた二人組。その容貌を聞いたギュルディは最悪の展開に天を仰ぐ。


「おいシーラ、その三人組、赤狼のチンピラと揉めた連中じゃないか? ついさっき、十人ほどで襲いに行って返り討ちに遭って戻ってきたが」

「えー! 何それ早く言ってよ! あの娘たち戦うんなら私見たいっ! みたいみたいみーたーいっ!」


 きゃんきゃん喚くシーラを無視し、ギュルディは口元に手を当て、自分の思考を整理する。そしてシーラに聞いた。


「私とお前とでその二人の前に立って、無事に戻ってくることはできるか?」

「んー、魔術師の従者ってことならもう一人いた男の子、もしかしたら魔術使えるんじゃないかな。だとしたら、使える術次第では難しいかなぁ。わかってること少なすぎるし、どうしても博打になっちゃうよ」


 口元に当てた手はそのままに、額に皺を寄せるギュルディ。

 そのままじっと考え込んで、結論を出す。


「よし、行くぞ。そいつらの所に。ただ、できる限りの用心はしておく。頼めるかシーラ」

「ふふっ、ギュルディのそういう所、私結構好きだよ。お願いだから簡単に死んじゃったりしないでね」

「お前の好きという言葉からは血の匂いしかせんのだよなぁ。見た目だけならば美人だというのにどうしてこう……」






 鉱夫たちの間でも、山の砦に多数の盗賊団が集まっていることは噂になっていた。

 そしてアンドレアスの知恵袋である武器屋で店番をしていた男は、かなり早い段階からこの盗賊たちと商業組合との繋がりを疑っていた。

 なのでその双方に対し、可能な限りこの動向を注視していたのだが、そのおかげか慌てふためく商業組合の動きを早々に掴むことができた。

 盗賊砦に問題発生。それがわかれば後は人を送り込めば何が起こったのかはすぐに知れる。

 陰鬱な気分で店番の男はこれをアンドレアスに伝える。


「はあ!? エドガーが死んだだぁ!? 何言ってんだてめえ! あのクソ野郎をどうやったら殺せるってんだよ!」


 盗賊団が壊滅しただのといった所にはまるで触れずにエドガーの所にだけ食いついてくる。


「死体も確認させた。死んでるのはエドガーだけじゃねえんだ。そんな真似のできるとんでもねえ戦力がここらに居やがる。ああ、後……」

「誰だ! 誰がアイツを殺りやがった!」

「……不明だ。商業組合は山の魔術師を疑っている。ってーことはだ、ブランドストレーム家じゃねえ。ボロースの街でもねえ。シーラでもねえってことだろ」

「ふっざけんな! あのクソ野郎ぶっ殺すのは俺なんだよ! なに勝手におっ死んでんだあの野郎は!」

「アレより強いのがいるかもしれねえ。今注目すべきはそこだぜアンドレアス。くたばった奴のことなんざさっさと忘れろ」


 ありえねえ、と苛立たし気に目の前のテーブルを蹴り飛ばすアンドレアス。

 まだ右も左もわからないガキだった頃に、アンドレアスはエドガーに半殺しの目に遭わされているのだ。

 次に見つけたら絶対に殺す、と強くなることを心に誓った。そしてあまり頭の良くないアンドレアスは、ただひたすら戦い続ければ強くなれると信じ、今に至るのである。

 それからしばらくの間アンドレアスは、誰も話し掛けられないほどに殺意をそこら中に振りまいていた。

 付き合いの長い店番の男も見たことがないぐらいの不機嫌さであったが、半日もそうしているとアンドレアスはぴたりと殺意を止める。

 そしてやる気も何もかもを無くしたような腑抜けた顔で、椅子に座ってぼけーっと中空を眺め始めた。

 鉱夫仲間たちはようやく機嫌を直したかと安堵したものだが、店番の男だけは、その変わりようをひどく警戒していた。


『やべぇ、かな。アンドレアスの奴、色々とぶん投げちまってるくせえ』


 アンドレアスは小さく口の中で呟いた。


「くっだらねえ。もう、どーでもいいわ」






 コンラードはブランドストレーム家所有の、家を買えない、借りれないチンピラ用集合宿舎である通称、ネズミの巣に戻ってきた。

 ここは同時にブランドストレーム家の前線基地とも言うべき場所で、チンピラが常在し、各種武器が揃っており、何か事件が起こったならばブランドストレーム家所属のチンピラは皆自然とここに集まってくる。

 その建物入口に、この場所ではあまり見ない二人の男が立っていた。


「ん? デニス来てるのか?」


 この二人はブランドストレーム家幹部の一人、デニスの護衛である。

 そして中からそのデニスの騒々しい怒鳴り声が聞こえてきた。


「なーんーで! わざわざ俺が来たってのにコンラードの奴が留守してやがんだよ! ふざけんな! てめえら俺をなめてんのか!?」


 ぎゃんぎゃんと喚き散らす声が聞こえる部屋に、コンラードはうんざり顔で入っていった。


「おいデニス。その意味の分からねえキレ方どうにかしろっていつも言ってんだろうが」

「あ!?」


 部屋の中はテーブルと椅子が倒れ転がっており、幾人かのチンピラが顔や腕を押さえている。

 妙に甲高い声、横に大きく広がる肥満体型、せせら笑いの形で固まったかのような顔。どれをとっても不快感しかない。

 実年齢は四十代なのだが、顔つきが幼いせいで三十代に見えなくもない。ついでに言うならばその口調は誰が聞いても分別盛りの四十代のものには思えず、やはり年若く見られるもう一つの要因となっている。

 これが、コンラードと並ぶブランドストレーム家実戦部隊幹部、デニス・セルベルである。


「なんでてめえはいっつもいっつもココに居やがらねえんだよ! 俺様を待たせようなんざ千年はええぞ!」

「仕事してりゃ外に出るの当たり前だろうが。おいっ! テーブルとイス片付けろ! それと茶出せ!」

「はあ!? 俺が茶なんざ飲むか! 酒持ってこい酒!」

「お前は何しに来たんだ。まさか俺と昼間っから飲もうなんて話でもねえだろ」

「薄気味悪いこと抜かすな! おい! てめえらは出ていけ! 盗み聞きしてやがったらぶっ殺すぞ!」


 デニスの怒鳴り声に応じてチンピラたちはテーブルと椅子を戻してから部屋を出ていった。

 デニスは部屋の外にいる護衛の二人に、誰も入れるなと怒鳴った後で、すぐ本題に入った。


「聞け、コンラード。山の盗賊砦のクソ共がな、みーんな殺されてたってよ」

「何?」

「ケケッ、ホーカンの野郎もよ、盗賊王だなんだと偉そうに抜かしてやがったくせによ、あっさりと殺されちまったってよ。ざまあねえな」


 ホーカン他、名の知れた盗賊たちが多数殺された。彼らを嘲笑いながらデニスはちらちらとコンラードのほうを見ている。

 コンラードはコレとの付き合いも長い。デニスは盗賊砦が落ちたことによりこの後何がどうなるのかを知りたくてここに来たのだ。自分ではわからないから。

 もちろんデニスの傍にはそういったことを判断できる者もいる。だが、はっきりと言ってしまえばコンラードほど正確な予測ができる者はブランドストレーム家のチンピラにはいない。

 デニスが上の連中と話を合わせるには、彼らに会う前にコンラードから話を聞いておく必要があるのだ。

 コンラードから聞いた話をさも自分の判断であるかのように上の者の前で話すのだろうが、それを咎めるのもはっきり言って面倒くさいので、コンラードはデニスの望み通りに先の展開を予測してやる。

 かなりの規模で盗賊が消えたことになる。それは一帯の街道に盗賊が出現する確率が大きく下がることに繋がり、街道の安全を確保することで利益を得ている商業組合には大きな打撃となる出来事であろうと。

 もし戦力に余裕がもてるのなら、この機会に商業組合に任せていた流通をブランドストレーム家で奪ってしまうのも悪くない。

 幾つかの状況認識に加えてそんな商売の話をしてやると、デニスは嬉しそうに頷いた。


「おっし、よくわかった。んじゃ長老連中には俺から話通しておいてやっからよ。おめーは他所の動き見張ってろや」

「ああ。後、もちろんだがコイツは貸し一つだぞ。貸しと借りは絶対に忘れんじゃないぞ」

「わかってるわかってるって、俺が今まで借りを忘れたことなんてあるか?」


 しょっちゅうである。が、それを蒸し返しても意味はないのでコンラードは肩をすくめるのみだ。

 それにこの貸しにしたところで、デニスが馬鹿をやらかした時に、自制できる理由付けをしてやっているという意味合いが強い。

 貸しがあるのだから馬鹿を止めて言うことを聞けと、そうやってデニスがやらかすのを止めてやっているのだ。

 デニスはブランドストレーム本家の直系の血を引く現在唯一の男子である。

 血筋で言うのなら現当主よりずっと血は濃いのだ。それほど知能が高いでもないデニスが偉そうにしていられるのはこういった理由があるからで、決して彼自身の努力でも能力でもない。

 そんな馬鹿の一番最後の尻拭いをしているのがコンラードである。誰もが嫌がる役目だが、他にできる者がいない、という当人にも周囲にもどうにもしようのない理由によりコンラードはこれをこなしている。

 もちろん当人の面倒見が良いという性質も影響していようが。

 コンラードの話を聞いたデニスは、嬉々として屋敷を出ていった。

 残されたコンラードは深く深くため息を吐いた。


「厄介なことになりそうだな。とはいえ、少しはデニスの奴も成長したか?」


 盗賊砦陥落の話を聞いた時、デニスはこれを行なったのはリネスタードの人間でも、隣街のボロースの人間でもないと言っていた。

 調べたのはデニスではないのだろうが、これをきちんと伝えるべき情報として認識していたことにコンラードは感心していたのだ。そして少しして大いに落ち込む。


「……いやまあ、このていど幹部なら普通はできてて当たり前なんだけどな……」


 敵対組織である商業組合のイェルドなどはほっといても自分で考え自分で判断し、アラはあるにしても適切な立ち回りをしてくれるのだから、彼を見て羨ましいと思ってしまうのも無理はなかろう。

 ギュルディ辺りに言わせれば、あまりに程度の低すぎる話だ、とでも言いそうではあるが。

 そして順当にコンラードもまた、今回の一件に山の魔術師が絡んでいるのではと思い至る。山の魔術師の従者が街にきていることにも。


「ふむ、こうなってくると友好的に接していたのが良かったな」


 筋の通った対応をしてきたことをきちんと褒めてやれば、向こうも悪い気はしないだろう。それをきっかけに手土産の一つでも用意しておけば、多少なりと情報を得られるかもしれない、とコンラードは涼太たちとの再度の面会を考えるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんだろう… ボトムズのウドの街みたいな悪徳の街だな そんなところに火種をぶちこんだわけだから…南無南無
[一言] 商業組合と山賊が繋がっていたということはシーラとの関係もすんなりとはいかなさそう 最悪敵対かな?
[一言] あ・・・(三つ巴戦フラグ)
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