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誰だ、こいつら喚んだ馬鹿は  作者: 赤木一広(和)
第十二章 王都血戦
181/272

181.よろしい、やれ


 決行の日を定めるのもルンダール侯爵の重要な仕事だ。

 とはいえ各暗殺者たちを管理運用しているのはルンダール侯爵の部下たちであり、侯爵は部下たちから上がってきた報告をまとめたものを見て、適切な日を指定するのみだ。

 最終責任者がそうするのは当然のことであるのだが、ルンダール侯爵に責任を取るといった思考はない。

 責任もなにも、自身が不快な思いをするようなことを一切するつもりがなく、周囲の状況から仕方なくそうなってしまう場合のみ、極めて不愉快そうな様子でそういった問題を解決するのだ。

 破綻している、そう見える部分もあるのかもしれないが、これで当たり前に回ってしまうぐらいには人員が充実している。それが長く続く高位の貴族家というものだ。

 ルンダール侯爵の前には、並々ならぬ覚悟を決めた部下たちが並ぶ。

 そうせよと命じたのはルンダール侯爵だ。だが、これを実行にうつすのは彼らであり、実行しきれぬ時責任を負うのも彼らなのだ。

 それを言われるからそうするでのはなく、自ら望んでそうする、そんな部下たちが侯爵の前に並ぶのも、侯爵にとっては当たり前の光景である。


「よろしい、やれ」


 一斉に返事を返す配下たち。

 誰しもが興奮を抑えきれずにいた。

 ランドスカープ国建国以来初、いやさ今後もこのような規模の作戦は決して行なわれぬであろう、そんな一大決戦の一翼を担うことができるのだから。

 その行為の良し悪しなぞは彼らの考えることではない。

 ルンダール侯爵家の隆盛が自らの一族のそれにも繋がる、それを何代にも渡って信じ続けてきた彼らの信念に、僅かな迷いもありはしないのだ。




 ルンダール侯爵の標的はベルガメント侯爵とその一派である。

 特に武力に秀でた家は真っ先に狙われる。

 全面戦争を覚悟しなければ到底狙うことのできぬ相手は、全面戦争を覚悟したならば真っ先に狙うべき相手となる。

 彼らもまた決して油断をしていたわけではなかろう。王都を取り囲む不穏の気配に気付かずでは王都の貴族など務まるまい。

 だが、そんな気配をすら薄め誤魔化し得るのが諜報に長けると言われたルンダール陣営である。

 その日も、いつも通りの王都のままで。彼らがその時その場にいたとて不思議ではない。不自然ではない。そう誰しもが思えるような状況を整え、暗殺者たちは標的の屋敷を取り囲むのだ。

 襲撃者たちは音もなく、気配もなく、その姿すら見えぬまま、屋敷の敷地の壁を乗り越え、庭師を永久に黙らせ、衛士詰所を隔離し、そして、屋敷の傍へと。

 合図一つで襲撃者たちは屋敷の中へと浸透していく。

 それは真綿に水が染み入っていくようで。閉ざされていた窓が開き、中に誰がいようと声を発することもできず、屋敷の中が徐々に徐々に侵食されていく。

 そして、姿を現す時もまた屋敷の人間に発見されてのことではなく、これ以上は潜み続けることが困難であるというところにまで踏み込んだところで、彼らは一気にその姿を現す。


「なんだ! きさまら……」


 それでも、発せるのはこのていどの言葉のみ。

 そんな細かな声が屋敷の各所から聞こえてくる。

 異変を察した衛士が詰所より動き出そうとするも、不用意に外に飛び出した者は待ち構えていた暗殺者の矢に倒れ、容易に身動きできなくされる。

 その間に屋敷の制圧は進む。

 屋敷内にいた護衛との剣撃の音も聞こえてくるようになるが、それもまた散発的なものにすぎない。

 事の重大さが屋敷の主に伝わることは、結局最後までなかった。その証拠が決着の声だ。


「貴様ら! 私を誰だと……」


 それがここの屋敷の主の最期の言葉である。

 こんな暗殺は誰も見たことがない。警戒する貴族邸宅の全ての人間を殺し尽くし、貴族家当主を完璧に殺しきるような殺し方は、常の暗殺とはまるで違うやり方だ。

 だが今はこれでいいのだ。

 暗殺の罪を咎めることのできる武力以上の戦力で王都中を席巻し、相手の反撃の余地の一切を封じる。

 そして、裁定者である王に訴えるだけの立場がありルンダール侯爵に敵対する度胸と根性と力のある人間を優先して殺していけば、王の裁定に至ることすらなくなろう。

 無理も無茶も、押し通す準備はしてあるのだ。

 屋敷の主の死に顔を確認した襲撃者たちの頭は、安堵の溜息をついてしまいそうになるのを堪えながら、全員に撤収を指示する。

 こんな大規模な暗殺なぞ、頭も今回が初めてだ。

 だが今この王都では、数十か所で同じような襲撃が行なわれているのだ。




 カルネウス侯爵の手を引く護衛の腕力が強すぎて、カルネウス侯爵は小さく悲鳴をあげそうになってしまったが必死にこれを堪えた。

 まだカルネウス侯爵は暗殺者の姿を見てはいない。だが、護衛たちの逼迫した気配から、かなりマズイ状況にあることだけはわかる。

 三大侯爵の一人であり、ルンダール侯爵の盟友であるカルネウス侯爵は、今、どうして、自身が狙われているのか、全く理解していなかった。


『何故だ。何故私を狙う。王都でこの規模の暗殺ができるのはルンダール侯爵以外にいない。そう言っていた。だが何故私を狙うのだ。ベルガメント侯爵ならわかる。ギュルディへの制裁というのもわかる。だが、何故、私なのだ』


 と、自身に一切の非がないと考えているカルネウス侯爵であったが、ルンダール侯爵、または彼の配下たちは全くそんな風には思っていない。

 カルネウス侯爵はルンダール侯爵より軽く見られることがよくあった。少なくとも、同じ三大侯爵である、などとは絶対に思われてはいない。常に一段下、として扱われていた。

 年齢、実績、そういったものを考えればそれもまた仕方のない部分もあろう。そういった理由でカルネウス侯爵もそんな扱いを受け入れてはいたが、だからと矜持がそれで大人しくしてくれるわけではない。

 なのでカルネウス侯爵は時折、ルンダール侯爵への暗殺計画の立案を配下たちに命じていた。

 コレを実行に移したらどんなことになってしまうのか、カルネウス侯爵もよくよくわかっている。だから立案だけはしてそれの成功率を考えながら、暗い愉しみにひたるのがカルネウス侯爵の自尊心の保ち方であったのだ。

 そして決して漏れてはならぬそんな話を、ルンダール侯爵は知っていたのである。

 家格はほぼ同格であるが、これを運用する当主の力量の差がこういったところに出てしまっている。

 また、カルネウス侯爵が、彼の子飼いの戦士マウリッツが失われたことでルンダール侯爵への信用をなくしてしまったことも、ルンダール侯爵側に伝わってしまっていた。

 当主カルネウス侯爵はこの襲撃に対しほぼ無警戒であったのだ。だが、彼の配下は、カルネウス侯爵が問うた言葉を覚えていた。ルンダール侯爵よりの襲撃を受けてもたえられるのかとの言葉を、覚えていたのだ。

 今、カルネウス侯爵はその周囲を十数人の戦士に守られながら、馬車を降り街道を駆けている。

 ルンダール侯爵配下の暗殺者たちが必死必殺を期した一撃を、どうにか防いで逃げている真っ最中だ。


『はっ、ははっ。だが、防いだぞ。私の配下が、私の部下が、貴様の初撃を防いでみせた! どうだ! 思い知ったかルンダール侯爵! 日頃無敵だの必殺だのとほざいていた貴様の暗殺者を! 私の! 兵が! 防いだのだ!』


 この後はカルネウス侯爵の屋敷へと逃げ込む算段だ。

 高揚した気持ちを抱えたまま、カルネウス侯爵は街路を走る。




 大本命、ベルガメント侯爵の屋敷には、複数の部隊が襲撃任務についていた。

 そうするにあたって、選んだ部隊は明らかに格の差がはっきりとしている部隊を選んだ。

 同級同士ではまとまる話もまとまるまい。

 主流となる部隊が襲撃の主力となり、次に力のある部隊が助攻に回り、一番格の低い部隊が包囲を担当する。

 襲撃者たちは直前までこの屋敷の情報収集を怠っていなかった。


「予定通り、ランヴァルトは不在です。子飼いの部隊を出迎えにいっており、今夜まで王都には戻りません」

「客人は一人。正体不明。低位貴族と思しき相手であり、該当人物は多数おり特定困難」

「ベルガメント侯爵の滞在は確定です。敵戦力は……」


 特に問題となる要素はない。

 鬼哭血戦十番勝負の勝者、月光イラリは屋敷にいるが、アレが二人いたところで暗殺を完遂できるよう備えているのだ。

 油断はなく、躊躇もない。暗殺者たちは、ベルガメント侯爵邸にじわりと潜み寄っていった。




「出るぞクスター!」


 そう当主が叫んだので、控えているよう言われていた戦士クスターは、配下の戦士たちに出撃を命じる。

 待ちきれぬ、といった顔で大股に歩いていく主の後に続きながら、鬼哭血戦十番勝負勝者、戦士クスターはあまり乗り気になれぬ心が顔に出ぬよう注意する。


『あまり面目に拘られるのは望ましくはないのだが……』


 クスターの主である男爵は、襲撃開始と同時にそのことを報せてもらえるていどにはルンダール侯爵の信任を得ている。

 この報せを受けるなり、男爵はかねてより備えていた無礼者への懲罰を実行にうつすことにしたのだ。

 貴族ならば、そこに利益が伴うよう動くものなのだが、今の男爵の頭にあるのは侮蔑に満ちたルンダール侯爵の顔のみだ。

 これを払拭する、といった意味すらない。男爵の行為は完全に八つ当たりでしかないのだが、面目だのなんだのと口実をつけるのも彼は得意であり、クスターもまた言葉を挟むことができぬまま従っていた。

 出立をする男爵の隣には、一人の小男がついている。

 コレは標的につけておいた男だ。男爵はいつその機会がきてもいいように、標的である男を常に監視させていたのだ。

 大きな代償を要求されるルンダール侯爵麾下の諜報員を、こんなことのために用意しておくなどと、男爵の父親が聞けば激怒し顔を真っ赤にするか、呆れ果てて空を仰ぐかのどちらかであろう。

 家の浮沈を懸けた一戦に挑む貴族もいれば、ここぞと私怨を晴らしに動く貴族もいる。

 王都の混乱はここに極まれりといったところだ。


「あのリョータなる慮外者を、今度こそ床に這いつくばらせてくれるわ」




 涼太は二人の望み通りに、ギュルディから幾つかの襲撃予定地点を聞き出していた。


「今回はさー、正直、俺ら一切関係してこねーと思うんだけどなー」


 涼太の言う通り。ルンダール侯爵の標的はギュルディではなくベルガメント侯爵であり、ギュルディ陣営の小物を狙うことはあっても、その主軸をどうこうするつもりはないだろう。

 だが、凪も秋穂も参加する気満々である。


「いや、だってムカツクし」

「そーそー」

「何処がだよ」

「見つからなければいい。当局の追及がかわせればいい。咎める戦力がなければいい。……こういうこと言って好き放題する奴らよ? 見つけて追及して咎めてぶっ殺してやりたくならない?」

「なるーなるーなーるーよー」

「ブーメランはさておき、そんなこと言ってたらキリねーだろ」

「だからこうして手の届く範囲でしかやってないでしょ。私の目に入るところでクズみたいな真似する方が悪いのよ」

「凪ちゃんの機嫌を損ねるなんぴとも、この世に存在してはいけないのだー」

「ちょっと秋穂なんだっていつもアンタは私だけのせーにしようとするのよ」


 この機会に暗殺者たちを減らしておくということ自体は、ギュルディの方針に逆らってはいない。

 なので涼太も黙認したわけだが、どうしても一言添えずにはおれない。


「いーっつも危なっかしいところばっか行きたがりやがって。おめーらは丸山ゴンザレスかっての」





 五大魔王筆頭、幼剣イェッセは、ルンダール侯爵からの指示を受け取ると、目を大きく見開き、そして大笑いしながら皆にこれを見せてやる。


「あははははははははは、いやいや、まいったよルンダール侯爵。コイツは本当にまいった。どうやらボクはまだまだキミの器を見誤ってたみたいだね」


 中身を確認した三剣のヴェサもまた目を丸くしている。


「なんと……ワシら全員を揃えるだけでも相当な金がかかっていように……」


 疾風撃タイストもまた大笑いであった。


「ぎゃははははははは! やるじゃねえかルンダール侯爵! こんなご機嫌な指示見たことねえぜ!」


 残る二人、大魔術師トゥーレも、赤き衝撃ヨーゼフも、この指示には唸らざるをえない。

 王都の闇の頂点。言い換えれば王都で最も高価な連中なのだ、五大魔王というのは。

 これを全て揃えておきながら、ルンダール侯爵が彼らにした指示はその金額に到底見合わぬものであった。


『作戦の全ては五大魔王抜きで準備され、実行される。故に貴様らは五人それぞれの判断で、適切と思われる場所に介入し、作戦の成功に尽力せよ』


 作戦内容から何から全てを五大魔王に伝えた上でこんな指示を出してくるのだ。

 正気を疑うなんてものではないのだが、この指示は闇の住民たる五大魔王全員の琴線に触れずにはおれなかった。

 タイストが真っ先に席を立ち、残る四人もそれぞれの形ではあったが、このルンダール侯爵からの信頼とも挑戦ともとれる指示に、応えるべく動き出したのだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 一番邪悪っぽいのが主人公たちなんですがw
[良い点] 全てをぶっ壊す感じがいいですね 収集なんて知らんけど何とかなるだろの精神とかあれ悪い感じしかしないのが [一言] もうどうにでもな~れ♪
[良い点] 貴族貴族しとるなあ・・・ [気になる点] 幾ら何でも、バカ過ぎな気もするが。 [一言] 血反吐を吐き、泥水を啜り、地べたを這って身に付けた力と技。 其れ等を全力でブン回す事に漲るモノが有る…
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