150.直前の様子です
聖堂正面入口に、その男の堂々たる声が響く。
「聖アニトラ聖堂より参った! 天剣三人衆が一人ディックである!」
彼の声に、聖堂入口に控えていた衛兵が姿勢を正し返答する。
「ご苦労様です。天剣三人衆は、全員が来られていると聞いております。今、案内の者が来ますのでお待ちくださいませ」
「うむ。他にも名の知れた猛者が集まっていると聞く。皆、もう来ているのか?」
「十聖剣は既に集まっております。後は、イングヴェ騎士団の方々はつい先ほど到着したところですね」
ディックは一瞬表情を歪めるが、すぐに立て直す。
「そうか。シムリスハムン司教様のご遺体に別れを告げることはできるか?」
「……申し訳ありません。そうおっしゃられる方があまりに多く、墓所に入られてから、となります」
「いや、いい。それも当然であろう」
少し待つと、案内人がシムリスハムン大聖堂の周辺にある宿泊施設にディックと一行を案内してくれる。
ディックのすぐ後ろにいた巨漢の男が笑い、言う。
「十聖剣、ではないだろう、既に」
「よせ。ヤーン様もメルケル様もご立派な方であった。揶揄するような真似はするな」
「フン。戦士としてなら、クリストフェル殿の方が上であったろうに。どうせ後釜に座るのならば、あの方の後の方が良い」
「お前、本気で十聖剣を狙っているのか? 私は聖アニトラ聖堂を離れてまで聖都に入りたいとは思わんが」
「相変わらず野心のない男よ。我ら三人で十聖剣を埋めてしまえば一番簡単であろうに」
もう一人、戦士としては細身に見える男が呟く。
「……書類仕事をしたくはない。だから、ディックも十聖剣になれ」
「お前、十聖剣になってまで私に事務仕事押し付けるつもりか……」
やりたいのならお前らで勝手にやれ、とディックは突き放す。
そうすると巨漢も細身も残念そうではあるが、十聖剣をあっさりと諦める。
ディックはその辺がわかっていたようで、呆れたように嘆息する。
「弱いとみなされるのが腹が立つからと、十聖剣になろうとする馬鹿があるか。お前たちはもう少し聖職の重要さというものを考えろ」
そんなある意味不敬であるようなやりとりもいつものことなのか、三人衆の会話にも後に続く従者たちは特に反応もない。
だが、そんな一行の行方を塞ぐように集団がいるのを見ると、彼らが一様に緊張した顔になる。
「よう、ディック。久しぶりだな、景気はどうだ? 儲かってるか?」
そこにいたのは、イングヴェ騎士団の団長、イングヴェその人だ。
ディックのすぐ後ろにいた巨漢と細身が共にぎょっとした顔になる。
それほどに、ディックの様子が激変したからだ。
「……貴様、よくも我が前に顔を出せたものよな」
ディックは憤怒の表情を隠そうともせず、臨戦態勢になり剣に手を添えている。
イングヴェはそのいきなりの変化にもへらへらと笑ったままだ。
「おいおい、聖都で何するつもりだ。そういうのは今回は無し、無しだろう? 信徒同士での刃傷沙汰なんざ亡くなった司教様も悲しむぜぇ」
イングヴェにはディックが聖都で剣を抜かぬ自信があったのだろう。それは巨漢にも細身にも共有されているものだ。ディックがそこまで非常識な真似をするとは思えないと。
だが、ディックは即座に抜いた。
「貴様の薄汚い謀略により、失われた我が友への手向けだ。そっ首叩き落とし、墓前に供えてくれよう」
つまるところ、この男ディックもまた天剣三人衆なんて呼ばれるような、剣士であったということだ。
決して許せぬ仇を前に、抜かずで済ませるほど人間できてはいないのだ。
「ばっ! 馬鹿よせ!」
「待て、ディック落ちつけ」
慌てて取り押さえようとする巨漢と細身の腕をすり抜け、一足で踏み込んだディックの剣は、驚愕で引きつったイングヴェの眼前でぴたりと止まる。
咄嗟にイングヴェの隣にいた男が剣を抜き、これを受け止めてみせたのだ。天剣三人衆の必殺の打ち込みを、だ。
「だから言ったでしょうに。天剣三人衆ディックは本物ですって」
本物であるからして、その間合いがディックにとって不利だと悟って即座に後退するディック。
イングヴェの前に立つ男は、油断なく剣を構えながら真後ろのイングヴェに言う。
「鍛錬さぼってる貴方じゃこの男の相手は無理です。さっさと下がってください」
「ふ、ふざけんなコイツ! ここを何処だと思ってやがる! 聖都で! しかも司教様の追悼式を前に殺しをしようたぁ正気かてめえ!」
「剣士が剣士を相手にしてるってのにそんな道理が通るわきゃないでしょうが。そーいうのは殺してから考えることですよ」
「イカれてやがる! くっそ! いいかディック! 今回のことは上まで話を通すからな! てめえこのままで済むと……」
ディックの返答は言葉によらず、剣によって行なわれる。
猛然と踏み込んできたディックの剣を、イングヴェの前に立つ男が必死に防ぐ。凄まじい攻勢だ。邪魔だてする者はどうなるのかを、これでもかとはっきり示してきたのである。
イングヴェの配下の他の者はそのあまりの剣技の冴えに、驚き怯え竦んでしまっている。
イングヴェの前に立つ男が、単身でこれを必死に防ぎながら大声で怒鳴る。
「さっさとイングヴェ様を連れて下がれ馬鹿者共!」
その怒声に弾かれるように彼らは動き、イングヴェを含む全員がその場から逃げ出していった。
もちろんこれへの追撃は男が許さず、三人衆側もディックの暴挙に力を貸すでもなく傍観だ。
そして、三人衆と従者たちと、男のみがその場に残った。
イングヴェが完全に姿を消してしまったことで、ディックは冷静さを取り戻したのか剣を引き、言った。
「ふん、アーレンバリ流か。アレにはもったいないほど良い腕だ。よくもまああのクズに従う気になったものだな」
「家族が世話になっているもので。それに、騎士団の名は伊達ではないですよ。無理押しがそうそう通るとは思わないことです」
「今なら通るさ。……次は、ない。覚えておけ」
そう言うとディックは案内人に先を促し、皆を引き連れその場を去る。
そこでようやく、男は両腕を走る痺れに眉をしかめることができた。
「見逃された、か。まいったな、こんなことなら使える奴は全員連れてくるんだった。こりゃ、よほど気合い入れんとイングヴェ様は守れんぞ」
後に、この騒ぎを聞いた十聖剣ヴィンセントが、お前らホントやる気ねえだろ、と嘆いたとか。
十聖剣の中で、貴族の血を引かぬ者への蔑視を隠さぬ者たちが多数派となった。
だが教会全体では貴族の血を引く者こそが少数派であるし、神の前では貴族も平民もない、という建前もある。
そして、各派閥の調整をしなければならぬとなれば、自然、貴族の血を引くからとこればかり優遇するようでは絶対に話はまとまらない。
なので話をまとめる立場の十聖剣は、自身の主義主張を前面に打ち出すなんて真似は絶対にできない。
本来それをする役目は、十聖剣のまとめ役であり、軍事を統括する立場にある者がそうすべきなのだが、彼はとても排外的で、貴族的で、とてもではないが調整役には向いていない。
なのでこれを上役である聖卓会議より押し付けられた不幸な十聖剣の一人、クリステルは集まった戦士たちの配備に苦心することに。
「は? いやそいつ、我こそは先陣にって言ってた奴だろう。なんで前衛に回してやったら文句言うんだよ」
連絡員は困った顔でクリステルに答える。
「はあ。曰く、配置を固定されるのは望ましくない、だそうで」
「はあ!? そりゃ自分勝手に好きなところで戦わせろって意味か!? アホか! そんな話が通るわけないだろうが!」
「ですが、各司教様からの推薦つきの戦士たちは皆、異口同音にこちらからの配備指示には従わぬ、と言っておりますが……」
「何処に出るかわからん奴を相手にしようってんだ! 配置と発見後の移動計画は綿密に立てておかないと作戦が成り立たんだろう! そんな当たり前のこともわからん間抜け揃いなのか!?」
「……彼らの主張は、他の連中がそういう仕事をして、自分だけは自由にやらせろ、だと思われます」
衝動的に怒鳴りつけたくなるのを、こめかみを押さえて堪えるクリステル。連絡員に怒鳴ったところで意味はないのだ。
クリステルは側近に指示を出す。
「司教様全員から、兵士はこちらのあらゆる指示に従うよう命令書を取ってきてくれ。交渉の場にはウチの大将連れていけよ。それで司教様たちも文句は言わなくなる」
大将とは、現在の十聖剣のまとめ役をしている男であり、貴族の血を引かぬ者が十聖剣であることに特に嫌悪感を示している者だ。
彼は剣術よりも軍の指揮に長けていると自称しており、いずれ大将軍となる男だ、という意味で大将と呼ばれている。もちろん、揶揄する意味合いが強く当人の前では使われぬ言葉であるが。
「司教様直轄ではない者たちは? 三人衆やイングヴェ騎士団、ルーヌ道場の者たちは司教様の指示だけでは動きませんよ」
「三人衆は聖卓会議からの指示だと言えば問題ない。イングヴェ騎士団はリキャルド師から、ルーヌ道場は私が直接命令書を書く。……ったく、面倒をかけさせてくれる。どうせこちらが正式に段取りを踏んだら絶対に逆らえなくなるのだから、最初から指示に従ってくれ」
「この調整を行なうのが大将殿であったなら、こんなふざけた要望も通ってしまった可能性もありますからねえ」
「あの人、そこまでか……貴様貴様言ってるだけで派閥のボスやれてるんだから、教会も随分と余裕のある組織になったものだよ」
「その分周りが苦労するようにできているのですよ」
「ああ、正に今そいつを実感しているところだ。今回、敵の首が二つしかないのが一番の問題なのだろうな。結局、最後にこの二つの首を誰が取るのかだけが連中にとっての問題なんだ。だから、この二人を見つけ出したなら、まずは兵をぶつけて疲弊させてから自分たちが、なんて話を持ち出すんだろうよ」
「……その兵の損耗を最低限に押さえるための精兵のはずですが」
「だから命令書が必要なんだ。指揮権が大将に与えられたってことはつまり、連中の命令権は大将にあるって意味なんだが、そいつをわかりやすーく直接の上司からの命令書で教えてやらんと意味の分からん駄々をこねてくるんだ、アイツらは。やっぱ見せしめいるかね」
「見せしめたところで、次は自分だなんて殊勝に考える頭があるんでしたら、そもそもこのような事態にはなっていないのでは、と」
十聖剣クリステルは、彼だけではなく他の十聖剣も、それこそ派閥のボスである大将ですら酷使し、その指揮権を確立させた。
これでどうにか当初の作戦を遂行するだけの態勢が整った。最後の詰めが終わったのは、それこそ閲兵式の前日で。
この手の段取りを組む仕事は通常文官相当の者が担当するものだが、クリステルの持つ十聖剣の立場でもなければ、誰もまともに指示に従わないのである。
普段、全く別の指揮系統に属する者たちが一堂に会し作戦を共にすることの難しさは、実際にコレと遭遇した者でもなくばそうそうに理解はしてもらえぬものであろう。
それでもどうにか間に合わせることができたクリステルは、彼を労う仲間たちに向かって、やさぐれた声で言った。
「後はもう、閲兵式だろうと討伐作戦だろうと私の知ったことじゃない。お前らで勝手にやってくれ」
それはとてもとても苦労ばかり多く、クリステルにとっての益はほとんどないものであったが、とりあえず聖卓会議のわかっている者たちの覚えは良くなったようだ。
そしてそんな十聖剣たちの苦労を見て、一人攻撃部隊から外れた場所にいた同じ十聖剣のヴィンセントは、ざまあみろとけたけた笑っていたのだとか。
飯沼椿は、王都にて初老の子爵の愛人の座を手にし、リネスタードに残った仲間たちと比べても随分と裕福な生活を送れるようになっていた。
だがそれは、椿にとっては通過点でしかない。ここから王都の権力に食い込んでいく、そのための商売を立ち上げようと色々画策している最中であった。
そんな椿に、ギュルディ配下の商人から接触があった。
椿はギュルディの支援を受けて王都にいる。それは表向きはそうでないようになされているが、椿の立場からすればここに不義理をすることはできない。
その中年の商人は、椿に頼みごとがあってきたのだ。
「私に、聖都に行けと?」
それはとても危険な依頼である。
聞きたくもなかった超弩級機密情報であるが、教会と絶賛揉め事中のアキホとナギの二人が、秘密裡に聖都シムリスハムンに潜入する予定である、そうな。
そこで、かの二人はとんでもない悪行に手を染める予定であるらしい。
それを椿に止めるよう説得してほしい、という依頼である。
「いやいやいやいやいや、さすがにそれは無理でしょ」
椿はギュルディルートとは別に幾つかの情報源を既に手にしているが、それによれば、アキホとナギは教会の重要拠点に仕掛けた後であり、教会側は本気でこれを潰すつもりで戦力を集めていると。
そんな戦力集積地に、当のアキホとナギが乗り込むというのだ。
その時点でもう無理だ。ありえない話だ。しかもその上で、聖都に潜入した二人を、椿が説得するのだという。
「え? 何それ? 私、ギュルディさんに損害与えるようなことした? 迷惑かけるようなこと何もしてないわよね?」
「いえ、ギュルディ様からの指示はまだ届いていません。……距離的に、そもそも指示を待っていたら手遅れになりますし」
「そりゃ、まあ、そうだけど。んで、なんで私、死ねなんて言われてるの?」
彼もとても心苦しそうだ。とはいえ、相手は歴戦の商人、そういう顔を作ることもできるだろう、と椿は見ている。
「……困難な任務であることは、理解しております。ですが、ここまで教会に損失を与えてしまったお二人を、今ここで失うわけにはまいりませぬ。アキホ様とナギ様を滅ぼした後、教会は余勢をかってリネスタードに矛を向ける可能性が高いのです。ですから、お二人にはこのまま教会への脅威として存在していてもらわねば……」
あの二人と同郷である者は、今王都圏には椿しかいない。
ほんの少しでも説得の可能性を高めるための選択であるのだろう、と椿は理解した。
一応、抵抗を試みてみる椿。
「リネスタードに兵を向けたところで、例の必殺兵器があるんじゃない?」
「既にギュルディ様の領地はリネスタードとその周辺のみではありません。カゾのみでそれら全てを守りきるのは不可能です」
「ですよねー」
基本的に、椿はギュルディ配下のこの商人を信頼している。
彼がそう言うからには、本当に他に手段がないのだ。もしくは、椿がそうするのが最もギュルディのためになることなのだろう。
彼はギュルディからの指示を誤解することも少ないし、曲解するような人間でもない。それが何処まで椿自身のためになるかどうかはわからないが、少なくとも彼の申し出に従ったことでギュルディへの不義理になることはないし、きっと従わなかったならばギュルディに対し大きな不利益を与えることにもなろう。
つまり、断ることなど初めからできなかったという話で。
それに椿はあの二人の内の秋穂の方とは会話を交わしたことぐらいはあるのだ。
五条たちの誘いに乗って学校を出て、秋穂の襲撃を受けて戻った後、椿は秋穂に声を掛けられた。
特に珍しい話をしたわけではない。
ただ、あの時椿があまり好ましくない目に遭ったことに気付いていてくれて、元気か、大丈夫か、なんてことを確認しに来てくれたのだと椿は思っている。
『悪い子じゃ、ないとは思うんだけど……』
伝え聞いた二人の所業を思い出す椿。
『いや、うん、まごうこと無き悪い子だ。ボニーとクライドが並んで土下座するレベルの。元の世界の全てのシリアルキラーが小物に思えるほど殺してるし』
戦争時ならば人を殺して良い、という感覚は椿には馴染みのないもので。
そこまで殺す能力があるのなら、殺さずに済ますこともできたのでは、とそう考えてしまうのだ。自身が剣を持たぬ者であるせいもあろう。
とはいえ、あの二人を責めるつもりも椿にはない。椿の善悪の基準によって悪と判断されたとしても、だからとそれを咎めるかどうか、そんな相手と仲良くするかどうかはまた別の話なのである。
椿は商人に問う。
「成果を確約なんてできないわよ。てか、かなりの確率で失敗する。それでいいの?」
「現状ですと、貴女に頼むのが一番マシな選択なのです。もしもの時のための脱出の準備、関与を疑われぬような手配は可能な限り整えさせていただきますので、どうか」
「……報酬は成功失敗問わずもらうわよ」
「はい。よろしくお願いいたします」
断れないのなら、せいぜい高く売りつけるだけだ。後は、運だろう。
戦場は知らぬ椿であるが、運が悪ければ破滅する選択は、何度か乗り越えてきているのだ。
『やるしかないってんならやってやるわよ。こんな所で、死んでたまるもんですか』
望まぬ苦労ではあったが、十聖剣クリステルは眼下の整然とした兵の行進を見て、それなりの充足を感じてはいた。
仕事の成果を確認できるのは、それがたくさんの群衆たちに歓呼で迎え入れられているのを見るのは、悪い気はしないものだ。
さんざん手間をかけさせてくれたあほう共も、群衆の前を進む行進においては教会の人間らしくきちんとしていてくれる。
自己の利益追求に余念のない連中だが、いざ動き出せば、自身を無能と断じられることは耐えがたいと考える連中なので、なんやかやと働いてくれるとは思っている。
つまり、ここまで整えてしまえば後は大将が正確な指揮をしてさえくれれば問題はない。
クリステルは最も晴れやかな場所から離れたところで、行進にも加わらずシムリスハムンの大聖堂でゆっくりと待機していたのだが、同じことを十聖剣でしている者がいた。
「おや、クリステル殿は参加しなかったので?」
そう厭味ったらしく声を掛けてきたのは、同じ十聖剣のヴィンセントである。
「貴様は結局最後まで引っ込んだままだったな。十聖剣の座、諦めたか?」
「さてね。だが、ここが一番の手柄になる可能性も、まだまだ残ってるんじゃないかってな」
十聖剣、そして集まった精鋭は全て行進に参加している。それはつまり、かの二人を追い詰め追い込む部隊に参加したということだ。
そしてここに残る二人の十聖剣は、シムリスハムン大聖堂の警護を請け負った、そういうことである。
クリステルは少し悩んだ後で、ヴィンセントに頭を下げる。
「……すまんが、その時は、頼む」
「ああ、わかってるよ。アンタ、今回はとことん貧乏くじ引く気なんだな」
もし、あの二人が暗殺に走ったのなら、閃光剣のヤーン、灰燼のメルケル、天翔けるクリストフェルを仕留めた二人を、クリステルとヴィンセントの二人で迎え撃たねばならない。
大聖堂には二人以外の戦力も当然残しているが、黒髪のアキホと金色のナギほどの達人を相手に、頼りになるのはお互い二人のみ。
だから、もし敵が来たのなら、命を懸けて敵を食い止め、聖卓会議に代表される教会の重要人物が逃げるまでの時間稼ぎをしなければならないのもクリステルとヴィンセントの二人になる。
それは自爆特攻と同義であることからその可能性は低いと見ているし、だからこそ集めに集めた精鋭たちは皆攻撃に回しているのだが、それでも、可能性はゼロではない以上、覚悟は決めねばならない。
その時が来るまで、後、少し。
「さーて、そろそろ出番かしら」
「さすがに緊張するなー」
「こっちはこっちで上手くやるから、お前らはせいぜい好き放題暴れてこい」
「…………楠木、結局止めないんだもんなー。知らないわよ、どーなっても」