014.名前を呼んで
山の懸案事項である盗賊砦の問題は解決した。
楠木涼太、不知火凪、柊秋穂の三人は、砦から死体を引っ張り出し、一か所にまとめて森の中に積み上げておいた。
死体の数は百体を超える。そのあまりの多さに、涼太はこれ全部凪と秋穂でやったのかと本気で疑問に思ったものだが、両者が当たり前の顔で、そのぐらいかなと返してきたのでそれ以上つっこむのはやめた。
死体の運搬は気が滅入るなんてものではない作業であったが、そのまま放置しているのも寝覚めが悪いと思ったのだ。
とはいえ百人分の穴を掘る気にもなれず、砦前の道から外れた森の奥にまとめておくとなったわけだ。
ベネディクトはその様を見て、遺体のこの先を淡々と述べる。
「獣の餌だな」
「やめろ馬鹿野郎。その獣食ってんだぞ俺たちは」
少し驚いた顔をするベネディクト。涼太にも段々ネズミの表情がわかるようになってきた。
「お前たちでも同族食いは嫌悪するのだな」
「お前の頭の中の俺たちってのが、いったいどーいう風になってるのか一度見せてみろコラ」
とりあえずこの砦周辺の猪を狩るのはやめよう、と心に誓う涼太だ。
盗賊砦は居住空間としては、大きすぎはするものの今涼太たちが使っている洞窟と比べれば格段に良いものである。
だが盗賊殺して砦を奪ってそこに住み着くなどと、トラブルの予感しかしないので全員一致でこの砦は放棄することになった。
そしてその後のことだ。
凪は難しい顔をしている。
「盗賊たちがリネスタードの街を狙ってたって話、街の人たちに教えておいたほうがいいかしら?」
同じく秋穂も判断に迷っているようだ。
「危険なのは全部殺したと思うから、もう問題はないはずなんだけど」
これに関して涼太は答えを出しているようで、回答は極めて明快であった。
「そもそも俺たちはリネスタードの街ってのがどういう場所なのか知らないんだから、何をどうするのが妥当かなんて判断できるはずないだろ。俺はまず街に行って、街の様子を調べてから判断すべきだと思うぞ」
凪も秋穂も涼太の意見には基本的に賛成であったが、盗賊たちから聞いている話があまり好ましいものではなかったので、街に行くのは避けるべきなのではという考えもあった。
この砦の盗賊たちに街の衛兵の偉いさんが殺されて、街の治安維持組織は混乱状態にあると聞いていたのだから、そんな考えも当然のものであろう。
涼太はそれでも行くべきだと断言する。
「いつまでも山籠もりなんて、片眉剃った空手家みたいな生活続けらんないだろ。都市があって、人が生活している空間があるってんならそっちでの生活を考えるべきじゃないのか?」
いつまでも山籠もりすることにまるで抵抗のなかった凪と秋穂は、ああ、うん、と鈍いお返事。
だろうと思っていた涼太は説得のための言葉も用意してある。
「上下水道設置済み、そんな街もあるってベネが言ってたろ。きっとそういった家は金もかかるんだろうが、俺たちがこの国で目指す目標としては悪くないんじゃないか」
水の便に関しては洞窟暮らしの中ではどうにもしようのない不便なところだ。現代人である涼太たちにとってこの点が不便であるというのは大きなストレスとなる。
涼太の言葉に納得し頷いた秋穂と、一点気になって問い返してくる凪だ。
「お金ならあるじゃない」
「それは盗賊からぶん取った金のことか? それとも魔法使いが残してった奴か? どっちも出所を明らかにできない金じゃねえか」
「あれって銀塊と銅貨でしょ。出所とか問題になる?」
「収入も定かじゃない人間が、大金を持っていること自体が既に問題なんだよ。アホな使い方したら絶対に面倒な奴らが出張ってくる。自動販売機なんてねえんだから、金の動きは現代以上に隠しきれないだろうよ」
うーむ、と考えこむ凪。苦笑しつつ涼太は続ける。
「そういう所も含めて街を知っておく必要あるだろ、俺たちは」
「うん、それはそうね。なら行きましょうか、リネスタードって街に」
「おうよ。柊もそれでいいか?」
「そうだね、私も街って確かに気にはなってた。……うん、わかった。できれば訓練もしたかったんだけど我慢するよ」
バツが悪そうな顔で凪も言う。
「あ、やっぱ秋穂も?」
「まあねえ、あんな大きなケンカの後だし。そりゃ色々と練習しときたいことも出てくるよ」
わかるわかる、と嬉しそうに頷く凪。
二人のやり取りを聞きながら、小さい声で涼太はベネディクトに問うた。
「あれ、ケンカだったのか?」
「一般的にはあれはもう戦と言っても差し支えない規模であったろう。片方が二人だというのだからケンカという表現もあながち間違いでもないのだろうが」
「……俺さ、あの二人の頭の中のほうがよっぽど異世界だと思うんだよな……」
「同感だ。本当に、リョータが居てくれてよかった。あの二人だけだったらきっと私は異世界をひどく勘違いしたままであったろう」
涼太たちにとって現在、異世界において一番安らげる場所は、魔術師たちがいた洞窟である。
元々魔術師たちが居住空間としての快適さを要求していたので、多数いた従者たちが魔術師の注文に合わせて色々と洞窟に手を加えていたのだ。
ここに、盗賊砦から涼太、凪、秋穂、ベネディクトの三人と一匹が戻る。
洞窟入口まで戻る頃には、凪はそれはそれはもう居た堪れなさ気に小さくなってしまっていた。
「あのね凪ちゃん、私たち友達だよね。もし凪ちゃんだったら友達が危ないところに突っ込んだら後を追うよね? 危ない目に遭ってるってなったらリスク冒してでも助けようとするよね?」
「ナギ。単身で飛び込むのと複数で策を練ってから踏み込むのとで勝率に大きな差が生じるのはわかるな? ならば一人で相談も無しに何かをするということの愚かさはお前にも理解できるだろう?」
秋穂とベネディクトが砦からの帰り道の最中、懇々と説教を続けていたせいである。
へこんでしまっている凪に、涼太がフォローを入れる。
「ま、以後は気を付けてくれよな。とりあえず今日は俺が飯作るから、お前らは休んでろよ。さすがに疲れたろ」
秋穂は真顔で。
「え? もう回復したよ」
説教タイムは終わったと見た凪は嬉しそうに。
「十分休んだし、今から狩りにだって出られるわよ」
「お前らいーから休んでこい」
二人は揃ってはーい、とお返事。
不意に思い出したように涼太は言った。
「あっと、そうだ凪。後で新しい剣確認しといてくれよ」
凪が目を見開く。涼太も多少の違和感があったようで、小首をかしげる。
「あ」
秋穂とベネディクトにつられて、不知火、ではなく、凪、と名前で呼んでしまったのだ。
「わ、悪ぃ」
別に悪くもないのだが、ついそんな台詞を漏らす。授業中に教師をおかあさんと呼んでしまったかのような恥ずかしさがある。
そんな照れた涼太を見て、くすくすと凪は笑う。
「いいわよ、凪で。呼びやすいでしょ、そっちのほうが」
「え、あ、いや、そのだな」
照れくさいのと焦っているのとでしどろもどろになる涼太に、凪は笑みを深くする。
「いざって時、呼ぶ名前は短いに越したことはないしね」
「お、おう、そ、そそそうか。な、ならっ、俺も涼太でいいぞ」
凪は晴れやかに笑う。それを見た涼太が思わず目を見張ってしまうほどに。
「りょーかい、よろしく涼太」
凪に名前で呼ばれるのはそれほど抵抗はなかったが、その前の失敗と赤面中に食らった凪満面スマイルにより、やはりきょどった反応しか返せない涼太だ。
だが、かくいう凪もまた、涼太の名前を呼んだ瞬間、ほっぺたから熱が顔中に広がっていくのを感じた。
『っぎゃー! なんかかっこいい感じで名前呼んでみたけど! これっ! すっごい照れるっ! わ、わわっ、顔っ、赤いわ今絶対っ。照れる、照れすぎるっ』
涼太に気付かれぬようそっぽを向くが、今凪が考えているのは剣を見るどうこうではなく、次に名前を呼ぶ時どうしよう、である。
その様を微笑ましい表情で見守っていた秋穂は、こちらもまたこの上ないにこにこ顔で、涼太の前に進み出てひょいっと顔を出す。
「私は?」
凪の顔が視界から無くなったことでほんのちょっと落ち着きを取り戻した涼太は、秋穂にはみっともないところを見られないよう表情を無理に立て直す。手遅れではあるが。
「えっと、どうした柊?」
「……わたしは?」
「ん? 柊になんかあんのか?」
ぷくーっと秋穂の頬が膨らんだ。
極めて珍しい、見てわかるほどあからさまに不機嫌顔の秋穂である。
そんな顔を秋穂がすることに驚いた涼太だ。いつでもにこにこ、滅多に穏やかな表情と雰囲気を崩さない人間だと思っていたのだが。
そして何故秋穂の機嫌がいきなり悪くなったのかが全くわからない。
ぐぬぬとこちらを睨む顔も、正直に言ってしまうのならば滅茶苦茶可愛い。こういう時、秋穂も凪に劣らぬ美人であると思い知らされる。目の向けどころに困るというものである。
だがそんなことに意識を取られている場合ではない。早急に秋穂不機嫌の原因を特定しなければならない。だが、全く、全然、これっぱかしも、理由がわからない。
そんな窮地の涼太に、金髪の天使が救いの手を差し伸べる。
「りょ、りょーたっ、名前。なーまーえっ」
凪の口調には照れが混じっていたが、涼太はそれに気付く余裕もない。
「あ、ああっ。えっと、その、あ、秋穂、で、いいか?」
「ん」
うんうん、と頷く秋穂。涼太は続いて自分を指さす。
「涼太」
「うん、涼太くん」
よろしい、と頷いた後で、やはり不機嫌顔のまま秋穂は続ける。
「どうして私だけ仲間外れにしようとするかな。そういうの良くないと思うんだ。大体ね、私は前から……」
そこから延々秋穂によるお説教である。
名前呼びぐらいでなんでそこまで、と思えるほど秋穂はしつこくこれを言い続ける。そして救いの天使である凪は、これはマズイと早々に避難を決め込んだ。盗賊砦からの帰路にて延々説教されてたことが効いているようだ。
『てめー凪! 逃げてんじゃねえ! お前もこれに関係してるだろーが!』
『アディオス涼太、秋穂の説教は私も食らったんだからアンタも食らっておきなさーい』
どちらも秋穂が怖くて口には出していないが、なんやかやとあっという間に名前呼びにも慣れたようだ。
そして定位置であった秋穂の肩からするりと降りてこちらも逃げ出したベネディクトである。
「仲がよろしいようで何よりだ」
ちなみに翌朝、もう回復したと言っていた凪は全身筋肉痛でベッドから起き上がれなくなっていた。
もちろん秋穂も同様で、結局街に行くのは数日経ってからとなった。
「いやぁ、やっぱり殺し合いの後って尋常じゃないわね」
「ほんとにほんとに。こんなに動けなくなったのなんて小学生以来だよ」
「いいからお前らきちんと休んでろ。後お前ら俺の作った飯に文句言うけどお前らの飯だって大概なんだからな、その辺自覚しろよこんちくしょうがっ」
昼間はそれほどでもない。
だが、夜は駄目だ。それも寝床に入って目をつぶった時が最悪だ。
どうしようもなく身体が震えてとても眠れそうにない。
涼太は寝床から這い起きると部屋を出る。
洞窟の外に出ると、薄暗い空には白く輝く月が見えた。
「月、あるんだよな」
そんな言葉で心のざわめきを誤魔化してみる。ほんの一瞬、気分が晴れた気がしたが、すぐに意識は嫌なことを思い出す。
発散させたら何か変化はあるだろうか、と近くの石を蹴飛ばしてみるも、そんな行為をしてしまった自分を嫌になっただけだった。
落ち着かぬままにうろうろとそこらを歩き続ける。
涼太の意識は完全に自分の心の内に向けられていたため、その声が聞こえた時は心臓が止まるかと思うほどに驚いた。
「涼太くん、眠れないの?」
悪さを見つけられた時のように大いに焦った様子で涼太が振り返ると、洞窟の入り口に秋穂が立っていた。
寝る前だったからだろうか、いつもは後ろで縛っている黒髪が無造作に後ろに広がっており、前髪もまた歩を進めればそれだけでふわりと揺れるような、まとまりのないものになっている。
その容貌を確認するには月明かりのみが頼りだ。なのに、何故かどうしてか、秋穂の美しい顔ははっきりと見える。
温かみのある柔らかい笑顔。それが秋穂の笑みであったのだが、今はうっすらと闇が覆っているせいか、はたまた髪型の変化のせいか、触れ得ざる神秘をすら漂わせる神々しき女神のようだ。
そんな相手に、みっともない今の自分の姿を見せるのが恥ずかしくて、涼太は少し強がって答える。
「お、おおう」
無理であった。
秋穂はそんな涼太の焦りにも気にした風はなく、当たり前の顔で涼太の隣に並ぶ。
そしてまっすぐに急所を突いてきた。
「やっぱり、人殺したの気になる?」
その通りである。それでもまだ強がろうとも思ったが、誤魔化しきれるとも思えなかったので涼太は観念した。
「本では読んだことあるけどさ。まさか自分がそうなるとは思ってもみなかった。なんだよこれ、自分でも何がどうなってんのか全くわかんねえけど、ありえねえぐらい落ち着かねえんだよ」
「殺すに足る理由はあった、よね?」
「そう何度も自分でも考えたんだが、まるで落ち着ける気がしない。何がなんだかわかんないんだけど、とにかく怖いんだよ。おっかなくって仕方がない」
秋穂はほんの少しだけ考えてから答える。
「それ、本当に殺したのが問題?」
「何?」
「ねえ、涼太くんが怖いのって、人を殺したことじゃなくて、涼太くんが死ぬかもしれないから、じゃないの?」
その発想はなかった、そんな顔で秋穂の綺麗な顔をじっと見る涼太。
「どう?」
「……ああ、うん、そう、かもしんない。俺は人を殺したんだから、俺も殺されるかもしれない、そう思う。それは、すげぇ怖いと思った」
「人を殺していようと殺していなかろうと、人は死ぬし殺されるんじゃないかな? そこに因果関係があったとしてもそれはとても薄いものだと思うよ」
「そーいう理屈は何度も考えた。それでも、怖いのはどーしようもないんだよ」
「うん、そうだよね」
「いや納得すんのかよっ」
これはね、と前置きする秋穂。
「おばあちゃんの受け売り。死ぬのが怖いのって当たり前のことなんだって。ずっと起きてたら眠くなるように、ご飯を食べてなければお腹がすくように、死ぬかもって考えれば怖くなってくるんだって。普段は死ぬなんてこと全く意識してないけど、涼太くんは今日、これでもかって勢いで人が死ぬってこと意識しちゃったから。そして自分が死ぬって考えたら、当たり前に怖くなるんだよ」
涼太はじっと秋穂の言葉に聞き入っている。
「つまり、ね。当たり前ってことは、しょうがないってことでもあってね」
涼太の眉根が寄る。
「怖くなるのはもうどうしようもない、ってことか?」
「うん」
「……勘弁してくれ。本気で眠れないんだからコレ」
「ふふっ、そんな時でもきちんと疲れてれば眠れるんだって。意識してそうしたほうがいいかもね」
「おう、それは良い話だ。明日からはそうする」
「そうそう。そうやって、上手く折り合いをつけていくしかないんだって」
「じきに慣れてくれんのかね?」
「眠いのやお腹がすくのを我慢してれば慣れるていどには、じゃないかな」
「どっちもめちゃくちゃキツイじゃねえかっ」
「あはははははっ、そうだよね」
既にかなり冷静さを取り戻している涼太は、気になっていたことを聞いた。
「なあ、これかなり重っ苦っしい話題だと思うんだが、秋穂がそうやって気安い調子で話してるのって、もしかして意識してか?」
「ほんっと、涼太くんってそういう所、鋭いっていうかよく見てるっていうか……一緒になって暗く沈んでてもしょうがないでしょ?」
「ああ、俺もそう思うよ。秋穂は怖くないのか?」
秋穂は少しバツが悪そうである。
「そうだね。涼太くんがキツそうな顔してなければ向こうで熟睡してたくらいには問題はないかな」
「全然余裕ってことじゃねえか。正直、めちゃくちゃ羨ましい。コツでもあるんなら教えてほしいぐらいだ」
「自分なりに、怖くない理由は考えたかな。涼太くんは中国拳法の修業の仕方とか聞いたことある?」
「漫画でちょっと見たていどだ」
「漫画によっては本当に詳しく書いてあるのもあるけどね。中国拳法の型って、同じ動きをしてても訓練の段階によって教わることが違うって話は?」
「いや。聞いたことないな」
「例えば、ね。型とは違うんだけど、こう、ね、親指を突き出して、相手の目を突くとするよ」
「例えの段階で既におっかない件」
「相手の目を潰すことが目的の時と、相手の目の奥、眼底を貫いて脳を打つ時とで、当然同じ動きでも重心の乗せ方も力のかけ所も全然違ってくるのはわかるでしょ?」
「あまりに具体的すぎてドン引くが、言いたいことはとてもよく伝わってくるな」
「型稽古でも、動きは一緒かもしれないけど、その動きでどうやって敵の攻撃をいなすか、どうやって敵を攻撃するかを意識してないと、その鍛錬は意味のあるものにはならないの。意識してるってことはつまり、その型を繰り返した回数だけ私は、そうだね、相手の目の奥の眼底を貫いて脳を傷つけられるよう、想像しながら動いてたって話で」
苦笑する秋穂。
「中国拳法をやってる人みんながみんなそうだとは言わないよ。ただね、私はおばあちゃんからそうやって教わってきたから。人を殺す手段としての拳法をずーっとやってきた私はつまり、同じ時間だけ人を殺すってことを考えてたって話なんだよ。その分、耐性があるとかそういうんじゃないかなって私は思ってる」
それがどんな境地であるのか涼太には想像もつかない。
「凪もそうなのかね」
「あ、あはははは、凪ちゃんは正直わかんない。いやホント、あの子の思考はもうぜんっぜん読めないよ」
「一応聞くが、凪は俺みたいに眠れてないとかないよな?」
「うん。筋肉痛でまともに身体が動かないからって文字の勉強とかしてたら、逆にすっごい疲れちゃったって熟睡してる」
「きっとメンタルお化けってああいうのを言うんだろうな。度胸良すぎだろアイツ……」
二人でひとしきり笑った後、秋穂がにこにこと笑いながら言う。
「ねえ、涼太くん」
「ん?」
「もう、あんまり怖くなくなってるでしょ?」
「あ」
言われてみれば、今はもう怖いだの死ぬ云々だのを全く考えていなかった。
秋穂は笑顔で続ける。
「こういう時は他人と話をするのが良いって聞いたよ。それで何が解決するわけでもないんだけど、対症療法としては優れたものなんだって。さ、明日もあるしもう寝よ」
涼太は思った。
たまに意味のわからんこともするが、秋穂の安定っぷりは到底同級生であるとは思えないもので。
『コイツもコイツですげぇタフガイなんじゃねえのかね』
秋穂に促され洞窟に戻りながら、涼太はそんなことを考えていた。後、ガイ、と付けてしまうことに全く不自然さを感じない雄々しい頼もしさがあるよなー、とも。




