013.やればできる(できた方が良いとは言っていない)
中庭で秋穂がエドガーを倒した後、尻込みし今にも逃げ出しそうになっていた盗賊たちの背を押したのは、盗賊王ホーカンとその配下三十人の精鋭だ。
二十三人殺しのエドガーを殺した怪物を相手に、三十人の精鋭はまるで怯える気配もない。
ホーカンが怒鳴る。
「ウチの奴らの後に続け! 隙間から槍を突き出せ! あのエドガーを無傷で倒せるものか! 傷つき疲れている今こそ好機だぞ! エドガー殺しの英傑を討ち取って名を上げろ! もちろん褒美もある! 金でも酒でも女でも! 好きなものを選ばせてやるぞ!」
勝機と報酬と、これらを約束してやれば連中も盗賊だ。己の欲望にはめっぽう弱い。
歓声と共に秋穂へ襲い掛かっていく。
ヤンネが金髪に殺され、エドガーもまた黒髪に殺された。それでもホーカンには勝つ算段があった。
元々ホーカンの率いる精鋭は、人並外れた戦闘能力を持つ化け物をそうでない兵で殺すために集め訓練してきたものだ。
正規軍の中でも特にそういった対精鋭兵対策として用いられている戦い方を、金とツテと脅迫で入手し、見込みのある者に仕込んだのがホーカンの精鋭兵なのだ。
戦いの鍵となるのは疲労だ。
如何な技術も、岩をも砕く膂力も、これを支える体力がなくては意味をなさない。
こちらの犠牲を減らしつつ少しでも多く疲労を蓄積させる、それが戦闘の目的であり、更には配下の雑兵を捨て石にこの作戦目的を遂行するといった手法も皆が学んでいる。
この精鋭兵で化け物を相手するのはこれが初めてであるが、既にある程度疲労を溜めている相手であり初陣としては悪くはない。
はずであった。
「くっ! 抑えきれねえ!」
「腕がああああっ! ちくしょう後を頼む!」
「槍だ! 槍持ってこい! 普通槍斬るとかできるか!? コイツ絶対おかしいぜ!」
「誰かっ! 誰か早く代わってくれ! もうもた……ひぎゃっ!」
動きは封じることができた。だが、それだけのためにホーカンが大変な時間と金をかけて揃えた精鋭兵が一人、また一人と失われている。
集めた盗賊たちの手前、ホーカンはこの黒髪女を素通りはできない。交渉すら駄目だ、なめられたままでは頭は務まらない。
だが、これは、ホーカンにどうこうできる相手ではなかった。
最初に乗り込んできた金髪女はヤンネを斬り、次に乗り込んできた黒髪女はエドガーを、そしてこの二人が入れ替わった際の煙は間違いなく魔法だろう。
『山の魔法使いか。だが、連中は皆死んだのではないのか?』
魔法使いの従僕をしていた人間はそのアジトから皆逃げだした。この時の生き残りが盗賊砦に保護、というか捕まっていた。魔法使いが皆魔法の事故で死んだという話は、ホーカンとその側近だけが知っている。もちろん情報提供者はもういない。情報の確かさを悲鳴と絶叫でホーカンに教えていってくれた。
ホーカンの蜂起はそちらにも話は通してあったはずだ。だが、生き残った魔法使いがそれまでの方針を変更したのかもしれない。
ホーカンは淡々と、現状を一切誤魔化すことなく認め、盗賊同盟の失敗を受け入れた。
結果失われるものはそれはもう考えるのも嫌になるほど莫大だ。それでも、駄目となれば駄目であると受け入れられる。損切りの判断を下せるのがホーカンという男である。
ホーカンは側近に、切り札を取ってくると言ってこの場を任せる。その言葉に疑いをもたれない程度には信頼関係を築くことができていた。それをこれから裏切るのだが。
表、裏、共に出口になっている場所は避ける。
目指すは城壁の上だ。何か所か地形の関係上外からは見えにくい場所があり、そこならば上から縄を垂らして降りる間も外に敵が来ていたとしても気付かれ難いだろう。
こういったいざという時のための逃げ道探しは、どんな建物であろうと滞在するとなればホーカンは当たり前にやっておくようにしていた。そんな用心深さが功を奏したのは数えるほどだが、準備一つで生死が分かれるのが盗賊稼業なのだから、これをわずらわしいと思うことはなかった。
だが、逃げるホーカンの行く先には、さきほど煙と共に消えた金髪女が待ち構えていた。
「今度は一人で、ねえ。ホント、味方見捨てて逃げるって人としてどうなのよ」
ホーカンは逃げなかった。
間違いなく敵のほうが足が速い。それも今開いているこの距離なぞあっという間に埋めてしまうだろうほどに。少なくともヤンネやエドガーが相手ならばそうなるし、その二人と対等に渡り合ったこの金髪ならばそうできるだろうとホーカンは判断した。
剣も抜かない。勝てないどころか防御すらできないのなら抜いても意味がない。そう、ホーカンはヤンネ、カスペル、エドガーたちとは違って、人間離れした戦闘力など持ち合わせていなかった。
両手を開いて上げ、隠し武器も持っていないと明示する。
「わかった、降参だ。そちらの要求には全て従おう。部下にもそうしろと言うのなら俺から命じる。連中は殺しておきたいというのなら、仕方がない、それもまた納得しよう。とりあえず俺から提示できるのは、リネスタードでの利権各種とランドスカープ貴族との取引だ。月に金貨三十枚ってところだな」
幾つかの固有名詞は凪もベネディクトから聞いている。ランドスカープとはこの土地を治める国の名前で、リネスタードは山を下りたところにあるここらでは一番大きな辺境の街だ。
金銭の価値についても教わったが、凪が知るのは世俗から浮いた生活をしていたベネディクトと、恐らくかなりの低収入であろう辺境農民だけであるので、月に金貨三十枚という額が高いのはわかるが、それがどれだけ高いのかはよくわからなかった。
凪は疑問に思えたことがあったので、率直に聞いてみることにした。
「それだけ稼いでるのに、なんで盗賊なんてしてるのよ」
「盗賊をしていたからここまで稼げるようになった、という言葉では納得できんか? 人を襲う理由は、何も金品の強奪だけが目的ではないということだ」
「あー、商売敵を殺しちゃえー、とかそういうのかしら?」
「殺すことができる、と相手が認識してくれるだけで十分な場合が多いがな。……実際、他の盗賊たちはお前さんの想像通り金品を盗むことしか考えてないのがほとんどだが、少なくとも俺は、それ以外の方法で金を稼ぐ手段を知っている。ヤンネとエドガーを討ち取る猛者相手に、意地を張る気も裏切る度胸もない。もし、アンタが判断に迷っているのであれば、一度だけでもいい、アンタの上と交渉させてくれ。絶対に損はさせん」
凪はほっとしたような顔で笑った。
「よかった」
笑みとは裏腹に、漂う気配は冷気をすら伴っていると思えるほど薄ら寒いものであった。
「砦のなかで盗賊っぽいの斬ってたけど、これ本当に盗賊かどうかってずーっと気になってたのよね。ほら、単に盗賊に捕まっただけの人とか、そもそも砦には盗賊以外の人もいたーとかなってたら、さすがにそれ斬っちゃうのまずいでしょ?」
だがそんなところに配慮して、一々一人ずつにソイツが盗賊かどうかを確認している余裕なぞないし、多分盗賊だろうで砦の中にいる人間全部を斬り殺すしか凪にはできなかった。
人を殺すという行為は不可逆なものである。とてつもなく薄い可能性であろうとも、間違えましたが通じないのだから全ての可能性を潰し確認すべきだろうが、当たり前だが殺し合いの最中にそんな馬鹿な真似をしている暇なぞない。
それがコイツに限っては間違いなく盗賊であると当人自供してるわけで。
「ま、全員盗賊だとは思うんだけどね。あれよあれ、気持ちの問題ってやつ」
凪の目は、意識は、ホーカンが提示した取引に欠片も興味を示していなかった。
ホーカンは表面的には動揺をほとんど出さず、冷や汗一つで表情を保つことに成功した。
「もちろん、金が集まるということは情報も集まるということだ。お前が知りたい何かがある、調べさせたいことができた、そういった時に俺とその取引相手たちが役に立つだろう。今、何か知りたいことはないか? この世の全てを熟知しているとは言わんが、案外に色々なことを俺は知っているのだぞ」
そう、じゃあ、と凪は続ける。
「口の上手い盗賊の殺し方が知りたいわね。ああ、答えは言わなくていいわ。答え合わせだけ、してもらえれば」
凪が踏み出す。ホーカンは身を翻し近くの部屋に飛び込もうとするがホーカン自身が無理だとわかっていた通り、凪の俊足によりあっという間に間合いを詰められ斬られた。
致命傷だ。床に倒れ伏したホーカンは、悔しいとも、悲しいとも、焦っているとも、憎んでいるともとれる、複雑な顔をしていた。
その顔が、強く凪の印象に残った。
「……そっか。人って、殺されるとこういう風に死ぬんだ……」
村の人たちもこうだったのだろうか、と考える凪は、少なくともこのホーカンの死に関してならば、一切罪悪感なんてものを感じることはなかった。
村を襲った盗賊を制裁したのはホーカンで彼自身は村への襲撃に関与していなかったのだが、ホーカンは見ず知らずの者にいきなり殺しにかかられるようなことを山ほどしてきた何処に出しても恥ずかしい盗賊であり、きっと凪がその事実を知ったとしても、やることも心への負担もさして変わりはしなかっただろう。
盗賊同盟による対柊秋穂戦線の崩壊は至極あっけなく訪れた。
ホーカン精鋭兵の半数が戦闘不能になった頃、それまでずっと我慢してきた盗賊の一人が遂に限界を迎えてしまった。
「かっ、勝てるわけねーよこんな奴! カスペルさんは!? ホーカンさんはどうしたんだよ! 俺たちだけでこんなの殺せるわけねーじゃんか!」
弱気の怒鳴り声が一つ。精鋭兵はその声を聞き忌々し気にするのみであったが、他の盗賊はホーカンや精鋭兵が怖くて口に出せなかった言葉を聞けたことで、恐怖が噴き出す切っ掛けとなってしまった。
一番後方にいたそもそも臆病な者がまず、そろりそろりとこの場を逃げ出し、次に恐怖が限度を超えてしまった盗賊が悲鳴を上げながら秋穂に背を向ける。
そこからはもう精鋭兵による制止の言葉も効かない。生き残っていた盗賊たちは我先にと中庭から正門に向かって逃げ出していった。
これが通常の砦攻めであるのなら、乗り込んできた正門を抑えていないなんてことはありえず、そちらに逃げるというのは確実な死を意味する行為であるはずなのだが、凪と秋穂とベネディクトの二人と一匹のみの戦力でそんな真似ができるはずもなく。
盗賊たちは正門から外に無事逃げおおせることができた。
逆に、裏門のある砦内部に向かった者は、裏門周辺には死体が転がってるから怯えてそこは通らないだろう、と砦内で敵を探していた凪の餌食となった。逃げ切る算段をつけてあったホーカンが凪に遭遇したのはこのためである。
より優れた盗賊は死ぬ、そんな形になったのは凪や秋穂、そして盗賊の被害に遭っているような人間にとっては実に好ましい形ではあろうが、凪も秋穂もベネディクトも意図してそんな真似をしたわけでは無論ない。
残った精鋭兵は、全員がホーカンが戻ってくることを信じ、そのまま秋穂に殺された。
少なくとも彼らにとっては、ホーカンは命を懸けるに足る信頼できる上司であったようだ。今日この時までは。
精鋭兵全てを殺した後、秋穂は周囲を見渡し、盗賊はもう一人も残っていないのを確認すると、中庭から歩いて砦の中へと向かう。
中庭には秋穂の剣が甘かったせいでまだ死にきれぬ盗賊が幾人か残っていたが、彼らの呻き声を無視し、建物の一室の内に入り扉を閉める。
部屋の中にあった机を扉の前に置き、そこまでやってようやく、秋穂は疲れからその場にへたりこんだ。
しばらくの間は荒すぎる呼吸の音だけが部屋の中に響く。
『き、きっつかったぁ。もっとやれると思ってたんだけど、実戦は思ってた以上に疲れた。それに、ホント、もう、怖いなんてもんじゃないよ。あーっ、今思い出してもあの大剣、ほんっともうっ、死ぬかとっ、思ったっ。いやぁ、本気で殺しにくる剣って洒落になってないよねぇ』
床にしゃがみこみながら、秋穂は右手を強く握る。握力は落ちていたが、それでも拳は強く大きく膨らんで見えた。
『でも、それでも、私やれたよおばあちゃん。命懸けで戦って、勝ったよ』
最初に人を殺した時、あれは秋穂にとっては戦いというよりは狩りでしかなかった。
だが今回は、勝てるかどうかもわからぬ中、己が命を賭け勝負を挑み、そして勝った。誰憚ることなく胸を張れるだろう戦いであった。
『ははっ、おばあちゃんが言ってたこと、ちょっとわかったよ。殺し合いに挑むんなら絶対に勝てる算段がついてからそうすべきだけど、現実にはそんなことしてる余裕が持てることはほとんどない。いざとなれば博打覚悟で踏み込まなきゃならないからこそ、普段から自身を高める努力を怠ってはならない、ってね』
祖母が話していたことを体験できたことが嬉しく、秋穂の顔が笑み崩れる。
『えへっ、私、できたんだ。殺し合い、怖くても怯えずに、きちんと殺して生き残れたんだ』
鍛えに鍛えた技に自信はあれど、いざ殺し合いの場でそれを発揮できるかどうか。恐怖に震え動けなくなるのではないか、人殺しを躊躇して不覚を取るのではないか、ずっとそんな不安を持っていた。
だがこうして、いざという時戦える自分であると確認できたことが秋穂にはこの上なく嬉しかった。
まだ敵地の只中と言っていいだろう場所で、一人でにやにやしてしまうぐらいには。
逃げられる盗賊は皆逃げた。そして中庭には逃げられない盗賊だけが四人残った。
全員、凪に、秋穂に、斬られてそれで死にきれず、苦痛に蠢いているのみだ。これをどうしたものか、と中庭で合流した秋穂と凪は首をかしげる。
凪の肩の上で、ベネディクトは理解できないという顔をした。ネズミのそれで。
「これまでさんざっぱら殺して回っておいて、何故そこで躊躇するのだ?」
ベネディクトの言葉に凪と秋穂は顔を見合わせる。
「んー、言われてみればそうなんだけど、もう動けなさそうだし」
「あれ? そういえば凪ちゃん盗賊たち何人か見逃した?」
「見逃したっていうか、追いようがないっていうか。そもそも一人で皆殺しって無理があったわ。それが二人になっても一緒でしょ?」
「まあねえ。逃がしてもあんまりいいことなさそうだけど……」
不意に、正門から人影が現れる。
戦闘後すぐであったせいか、凪も秋穂も勘が恐ろしく冴えていて、姿を現す前からそちらに目を向けている。
「おーっす、もう終わった後みたいだな」
楠木涼太である。
ほっとした顔の凪と秋穂に、涼太は追加情報を伝える。
「そこの右側城壁の上、逃げられなくて隠れてるのが一人。あと裏口から抜けてったのが一人、こっちは追うのはもう無理そうだな。他はもう人はいないと思うぜ」
驚き大きく目を見開く秋穂。
「それ、魔術?」
「おうよ」
「は~。すっごいねぇ、そんなことまでわかるんだ」
「そうだよ凄いんだよ。だから俺が行くまで待てっつったろーがっ。で、ベネ。柊が俺を待たなかったのはそれに相応しい理由あってのことか?」
「いいや、アキホのわがままだ」
「ちょっ! ベネくんひどいよっ! 凪ちゃん疲れて大変そうだったでしょーっ!」
「まあな。あの判断を下した時点では様子見で抑えておくべきだったが、結果的にはアレで良かった部分もあるだろう。というわけだ、アキホはまあ、要注意ってところでよかろう。その後の大活躍を考えれば失点は十分に取り返していると私は考える」
ふふーん、とデカイ胸を反らす秋穂。
そしてとても聞き難そうに話に混ざる凪と、即座に判定を下すベネディクト。
「えー、っと、秋穂は、ってことは私は?」
「有罪だ。ほんっとにもう、お前という奴は……」
説教が始まりそうなところで涼太がこれを止める。
「ベネ、ちょっと待て。その前にそこの盗賊だ」
涼太の言葉に、秋穂が問う。
「何か聞き出す? なら私やるよ?」
「いや、聞くことはない。というか、俺たちが捕虜とか取っても意味がないし、これを街に連れていって裁きを受けさせるってのも無しだ。理由はわかるか?」
「行った先の街の治安組織が、私たちにとって信頼に足るものであるかどうかわからないから」
凪も言葉を付け加える。
「ここの盗賊、リネスタードに利権持ってるって言ってたわよ。国の貴族とも取引があるって。何処まで本当か知らないけど」
「なら尚のことだ。生かして帰したところで俺たちに恨みを持つ人間をこの世に増やすだけだ。生かしておくことに意味がないんじゃない、生かしておくのは有害でしかない」
涼太の言葉に、呻いていた盗賊たちは口々に命乞いの言葉を発するが、涼太はそちらには目も向けない。
そして凪も秋穂も、涼太の様子がおかしいことに気付いた。
「楠木くん?」
「楠木? どうしたのよ、その顔まるで……」
涼太は盗賊が使っていた中庭に落ちている剣を拾い上げながら、硬い口調で言った。
「悪ぃ、ちょっと今俺余裕ない。だから、黙って見ててくれ」
言うが早いか涼太は、手にした剣を地面に転がり呻く盗賊に突き刺した。
感触で言うのならば、猪を解体していた時よりも手軽な感じがした。
凪は涼太が人を殺したことではなく、その真っ青な顔色に驚き声を掛ける。
「ちょ、ちょっと楠木!」
涼太は二人目に剣を突き立てる。一人目よりは上手く急所を貫くことができた。
秋穂もまた焦り慌てた様子で声をかけてくる。
「く、楠木くん。そんな無理しないでいいから。私がやるよ。だからね」
表情は引きつったものになり、手も足も震えているのがわかるが、それでも涼太は動きを止めない。
遂に四人全員のトドメを刺した後で、涼太は無理やり笑おうとして失敗し、口元と頬が小刻みに震えているなんとも形容しがたい表情で凪と秋穂のほうを向く。
「俺たち、仲間だろうが。俺だけ置いていくんじゃねえよ」
涼太の言葉に意表を突かれた凪と秋穂は、ぽかんと口を開けたまま涼太を見返す。
だが、それはどちらからだったか。
凪も秋穂も、それはそれはもう愉快痛快と言わんばかりに、大声で笑いだしたではないか。
盗賊の死体が無数に転がる中で、友の人殺しを目の当たりにした直後の凪と秋穂は、笑えて笑えて仕方がなかったのである。
女の子としては、はしたないなんて感想を持たれても仕方がないほどに、声を出し腹を抱えて笑っている。
その笑い声のせいか、涼太の引きつった顔も少しはやわらかくなったようで。
「お前らなぁ。人が必死の思いで頑張ったっつーのに笑うことはねーだろ笑うことはよぉ」
涼太の言葉の内容はともかく口調はそれほど責めるようなものではなかったので、凪も秋穂もごめんごめんと気安く謝り、それでもやっぱり笑っていた。
その原因や理由やらの良し悪しはともかく。
涼太と、凪と、秋穂の三人が、それまでに作ったどの友達よりも、この三人が大切だと思えた最初の瞬間が、この時であった。
そういうのと上手く付き合う方法? ああ、簡単だ。俺もそっちに行っちまえばいい。な、簡単だろ。




