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誰だ、こいつら喚んだ馬鹿は  作者: 赤木一広(和)
第一章 盗賊同盟
12/272

012.生き汚いのが悪党というものでして


 アーレンバリ流の恥晒し、なんてとんでもない二つ名で呼ばれている男、カスペルは正に今、この世の春を謳歌していた。


「おー! おー! おおおおおおーーーーーっ!! いいなお前ら! ぜーんぶ俺の好みじゃねえか!」


 裸の女性が何人も何人も、カスペルの周りを楽しそうに走って回っている。


「はははー! おいおい待て待て待てよー。幾ら走ったって捕まえちまうぞー。斬っちゃうぞー」


 走る女、にやけきった顔で追いかけるカスペル。

 うちの一人を捕まえると、カスペルは手にした剣でゆっくりさっくりと女を斬る。


「やだー、もう、いーたーいー」

「はははははー、そうだろそうだろ。痛いけどまだまだいくぞー」

「きゃー、カスペルさま素敵ー」


 そのままざくざくと女を斬り殺す。もちろん女は息絶えるその瞬間まで満面の笑み。カスペルがそうであるように、女もまた楽しそうなままである。

 更に別の女、次の女、二人まとめて、といった感じに次々と女を殺していくカスペル。


「あー、もうっ、至福っ、至福っ、至福の時だっ! こんな時間が永遠に続いてくれたら……」


 カスペルが目を覚ますと、そこには女のおの字すら出てこないようなむさっくるしい男の顔が二つ、三つ、四つと並んでいる。


「お、カスペルさん起きた」

「具合はどっすか? 一応包帯やらも持ってきてるっすけど」


 カスペルの理想の世界から、突如現実に引きずり戻された。

 無言のまま身体を起こしたカスペルは、両手で顔を覆った後、人目も構わずさめざめと泣き崩れた。


「ひでぇ、あんまりだ……なんだよこれ。もういいだろ、俺を夢の世界に招いてくれよ。こんな現実もう耐えらんねえよ……」


 カスペルの奇行は今に始まったことではないのか、慣れた様子で配下は報告を行う。

 エドガーとヤンネの二人が共謀して天井を落とし、その下敷きになったという話を聞いた時はさしものカスペルも怒ったが、その結果金髪の女から逃げられたと聞くとならばよし、と何故か納得した。

 現在、ヤンネが女に斬られてエドガーが中庭で迎撃中との話を聞くと、カスペルは左右をきょろきょろと見回した後、指で手招きをする。

 部下たちが顔を寄せると、カスペルは小声で言った。


「ここは分が悪い、金目のもんかっさらって逃げっぞ」


 部下が確認するように問う。


「ホーカンとエドガーを敵に回しますぜ?」

「それでもだ。どーにも居心地が悪ぃ、嫌な予感がしやがんだよ」


 長生きしている外道なだけに、勘の良さはぴかいちである。実際、今ちょうど中庭に新たな敵、柊秋穂が現れたところだ。

 カスペルが周囲を探らせると、これまたちょうどいいことに、ホーカンとその直属の部下たちが中庭に向かっていくところが見えた。

 カスペルは部下たちに向かって、よしやれ、と頷く。

 大丈夫かねえ、なんて不安そうにしながらも、部下たちはカスペルの命令には逆らえないので言われた通り、金目のものを探しに向かうのである。






 城壁の中は全部が全部石壁で埋め尽くされているわけではなく、城壁の中に通路があり、どちらかといえば細長い城といった方がより雰囲気は近い。

 ベネディクトの案内でその城壁内の一室に隠れた凪は、その部屋の水瓶に汲んであった水を、水瓶に顔を突っ込みこれを傾けながら喉に流し込んでいた。

 見目麗しい女性の、あまり上品とは言えぬありさまにベネディクトは物申したそうな顔であったが、極度の疲労状態であったのもわかっているので見逃してやることに。


「ぷっはー! あーもう生き返ったわっ!」


 晴れやかさわやか満面の笑みでそう言う凪であったが、ベネディクトは苦々しい顔を隠そうともしない。


「そうか。ではたった一人で、皆に一言もなくこんな暴挙に及んだ理由を聞こうか」


 ネズミの表情にもそれなりに慣れてきた凪ではあったが、どれだけ怒っているのかはやはり声に出すでもしなければわからないもので。


「あ、あれ? ベネ君? もしかして、怒って、る?」

「当たり前だ。……いや君もしかして本気で怒ると思っていなかったのか?」

「あー、えっと、でも、ほら。盗賊と殺し合いとか、危ないし、ね。一緒に行くとか言われてもし盛大に失敗でもしたら、私責任取れないし」

「だったらそもそもやるな」

「嫌よ。だってコイツら頭にきたし」


 目元を手で押さえるベネディクト。白いもこもこがそうしている様は実に愛らしく、凪は状況を弁えず凝視してしまっている。


「まあ、説教は後だ。無事でよかった。で、何人殺せた?」

「ごめん、数えてなかった。何せ必死だったから余裕なんてなかったもの。もう少し休ませて、そしたらまた行くから」

「というかだ。こちらに敵が来ないのはどういうわけだ? 見るからに怪しい煙が移動してただろうに」

「さあ? 向こうの秋穂に集中してるのかしら。残り全部秋穂のほうに行ってたとしても、私が自分でやってみた感じだと秋穂にもできると思う」

「そこはもうアキホを信じるしかないな。砦攻めの感想は?」

「次はもっと上手くやるわよ」


 少し落ち込んだような顔でその場に座り込む。目を閉じて、呼吸を静かに。少しでも早く体力を回復させようという凪に、ベネディクトも口を閉じる。

 ベネディクトは魔術にて周囲の様子を探るが、少なくとも部屋のすぐ傍には盗賊の姿が見えない。

 凪は敵は来ないとでも思っているのか、かなり気を抜いているようにも見える。だが、ベネディクトは敵陣ど真ん中で凪ほど余裕の態度をとる気にはなれない。


『せめてリョータがいればな……』


 地形の影響を受けない秋穂と凪にしかできないだろう移動方法により、涼太との距離は大きく離れてしまっているだろう。

 ベネディクトは多数の魔術を知っているが、今のネズミの身体ではそのほとんどがロクに効果を発揮しえず、効果を得られるほど大きく展開しようと思ったら、さきほどのようにかなり無理をしなければならない。

 現状、著しく力を消耗しているベネディクトでは、自身に全く負担のかからない程度の魔術しか使うことができない。

 なのでびくびくしながら部屋の扉を見張っていたが、いつまで経っても部屋に入ってくる者はない。

 そうこうしているうちに凪が閉じていた目を開き、両手で自分の両頬を音が鳴るほど強くひっぱたく。

 ベネディクトは、自分のものとはいえあんな綺麗な顔をよくもまあ叩けるものだ、とあまりこの場にそぐわないことを考えていた。


「うしっ! ふっかつっ!」


 嘘である。僅かな時間ではあれど完全に寝入っていた凪が目を覚ますと、意識も身体も重くて仕方がなかった。

 眠いので起きるのは嫌だが、このまま眠れと言われても気持ち悪いのと頭痛いのとですこぶる気分が悪く、そんなネガティブな心を頬を叩いて吹っ飛ばしたというわけだ。

 汗でべたつく肌も嫌だし身体の節々から鈍痛がするのも嫌だが、嫌な状況の中で我慢しながら頑張るというのは子供の頃からずっと繰り返してきたことでもあり、凪を床に張り付けようとする全身の脱力感に逆らって立ち上がる。

 目覚まし代わりに水瓶の残った水を飲んだ後、ベネディクトを連れ部屋を出た。

 すぐに中庭の様子を確認する。秋穂がまだ戦っている。だが、凪も手こずった巨漢の男が倒れているのを見て、ここは任せて大丈夫だと凪は城壁内通路を奥に向かって走る。

 この砦には小さな裏門が存在する。

 砦の裏は崖になっているのだが、裏門から出ればこの崖沿いに細い道を下っていくことができる。とはいえ、人がすれちがえないぐらいの幅で、しかも崖に階段が張り付いているといった形であるためわざわざこれを利用しようという者も少ない。崖を吹く風に煽られたらそれだけで人死にが出るような場所なのである。

 この裏門を使って逃げるやつがいる、という予測のもと凪はそちらに向かっていた。

 肩の上のベネディクトは、やっぱりナギは最後までやる気だったかと諦め顔である。文句を言おうにも実際に正面から盗賊砦に乗り込んで数時間に渡って戦闘を続けた挙げ句、当人怪我の一つもしていないのだから、できる事をしたまでだと言われれば文句も言い辛い。

 正確な殺害数はわからないもの、間違いなく二十人以上は斬っているだろう凪に、何と文句を言えというのか。

 そして今、もう一人の秋穂も中庭で多数を相手に大立ち回り中で。凪に、盗賊十人分より強い、と言わしめた巨漢も秋穂が倒し済みとなれば、この二人と一匹での砦攻略戦も無謀でも無茶でもないものに思えてくる。

 城壁内の廊下を進む凪が、とても嬉しそうな声を出す。


「居たっ! みーつけたっ!」


 普段はもう少し大人びた話し方をする凪だが、興奮すると多少なりと子供っぽい口調になるようで。

 凪を喜ばせたのは、廊下の先にいた五人組の男。正確にはその内の一人、アーレンバリ流の恥晒し、女殺しのカスペルだ。

 一瞬、カスペルも逃亡準備中であることを忘れ、凪登場に喜色を露にするも自らの立場と凪の実力を思い出したのかすぐに渋い顔になる。

 その表情の変化は凪の予想しなかったものだ。


「あら? 何よその顔。アンタ私とやりたいんじゃなかったの?」


 歩み寄る速度は落とさぬまま、凪はそんな声を掛ける。

 逃げる、を選びかけカスペルは思い直す。逃げ道はこの先にしかなくそこは裏門だ。裏門を出て断崖絶壁沿いの階段を降りながらコレとやりあうことになれば、十中十殺されるだろう。

 心底嫌そうにしながらカスペルは足を止めた。


「おめーとやると俺が死んじまうかもしれねえだろ」


 適度な距離で凪は足を止める。


「あらら。盗賊なんてやってるんだし、そこはもうそういうものだって諦めてるとばかり」

「アホか。何処の世界に殺されて笑って諦められる奴がいるってんだよ」


 カスペルは、殺そうとする人間が笑いながらそれを受け入れ、自分が楽しく殺すのと同じぐらい楽しんで死んでくれることを本気で望んでいるのだが、自分と他人とは全く別の生き物だと思っているカスペルの思考に論理的矛盾は存在しない。

 ふーん、と納得したようなしていないような顔で、凪は逆手で剣を抜くと、それを小さく空中に投げ上げ半回転させ、柄が下を向いたところで順手にこれを掴む。


「ま、どうでもいいわ。どうせ殺すし」

「ほんっとかわいくねえ女だなてめえは!」


 カスペルも抜く。凪が踏み込む。

 カスペルはそれまでの凪の動きから、初撃はとにかくじっくりと見て防ぐに専念するべく剣を防御の型に。

 凪、これを見て即座に目標を変更。カスペルではなく、その左右に広がり、凪を包囲せんと動く盗賊たちをまず殺しに動いた。

 ここでカスペルが動くことがこの配置の肝だ。カスペルが中央で凪を抑え込んでいる間に有利な位置に付き、死角をついて攻撃を続ける。それが狙う形であったのだが、カスペルが動かない。

 凪の一撃を防ぐのに集中するあまり、配下への手当てが遅れてしまった。

 一人、二人、まで斬ったところでようやくカスペルが踏み込んできた。


「遅い」


 先程戦った時とは比べ物にならないほど判断が甘く、反応が鈍い。そんなカスペルのやる気のない態度に凪は不満顔だ。

 カスペルの突きを仰け反り避けながら、腕の動きだけでカスペルに突きを放つ。

 その一撃に対し、カスペルは大仰に後退する。

 またも不可解なカスペルの動きだ。あまりに愚かすぎる動きに凪は怪訝そうな顔に。


「それでいいの?」


 返す剣で凪はもう一人の盗賊を仕留める。これで残る盗賊は一人のみ。

 カスペルが慌てるがもう遅い。凪の剣はカスペルへの牽制を行いながら、残る盗賊に対する必殺の間合いへと踏み込む。あとは剣を返すだけで終わる。

 この時凪は敢えてカスペルから視線を外す。最後の盗賊を斬ればもうカスペルは地力で凪と勝負するしかない、そうなる前のこれが最後の機会だ。

 焦るカスペルならば乗ってくるかと思ったのだが、カスペルはやはり動かず。盗賊は斬り伏せられ、凪が敢えて作った隙にカスペルが乗ってくることはなかった。

 だが、乗ってこないのならそれこそもうどうしようもない。カスペルはたった一人で、凪と対峙しなければならなくなった。

 カスペルは防御の構えだ。その顔を、動きを見て、凪はようやく理解した。


「貴方、もしかして怯えてる?」

「くっ、くそっ! なめてんじゃねえぞ! 俺の部下ぁまだいる! そいつらが来るまで堪えりゃいいだけの話だ!」


 怒鳴っていると、少しづつカスペルも調子に乗ってきたようだ。


「へ、へへっ、いいか。てめえはきちんと斬ってやるぜ。何度も何度も何度も何度もな、その白い肌に、赤い筋がすすすーって走るのよ。てめえがよ、痛い痛い、助けてくれって、泣き叫ぶのがよ、嬉しいじゃねえの、楽しいじゃねえの、そういうのも、悪くはねえって話よ。なあ、おめえ、俺の敵になっちまったんだからよ、女郎宿に売り飛ばすなんてお優しい真似はしてやらねえからよお、わかってんだろうなあおい!」


 胴中央を狙った凪の突きが伸びる。身をよじりながらこれを剣で払い落としにかかるカスペル。凪の剣先が、カスペルに払い落とされる寸前で軌道を変える。

 今度は上、首元へと伸びる動きを見せると、もうカスペルは堪えられない。攻めっ気を失い大きく後ろに下がろうと重心を後ろに持っていく。

 この瞬間、凪に対するカスペルの攻撃はほとんどなくなり、凪はカスペルの反撃をさほど警戒しなくてもよくなった。重心の乗らぬ剣撃ならば、身体をぶつけて弾くこともできよう。

 しかしこの時カスペルの意識は必死に急所を守ることに向けられており、この隙を突くのは難しい。だから凪は、末端から先に狙った。

 後退のために床を深く蹴り込もうとしたその足を、凪の剣が払い斬る。

 さすがに一撃で決めさせてはくれない。だが、カスペルの太ももには深い傷が横一文字に刻み込まれる。

 この時のカスペルの意識は、足をやられたではなく急所でなくて良かったである。

 そんな逃げ腰のカスペルに、凪は次々と追撃を繰り出す。

 急所を餌に、四肢を狙った攻撃を続けてやると、カスペルはそれとわかっていても急所を疎かにすることができず、両手足がずたずたに斬り刻まれてしまう。


「て、てめえ、ちくしょう、きたねえぞ。ふざけんなちくしょう。ド汚ぇ卑怯者が、剣士の誇りもねえのかてめえには。こんな薄汚ぇ剣、何処の道場だって鼻で笑われちまうぜ」


 凪は攻め手を緩めない。徹底的に四肢を狙い続け、カスペルの戦闘力を削ぎ取りにかかる。もう十回以上、有効打と呼ばれるほどの一撃を加えてきたのだが、ただの一度も致命打を許さないのはさすがとしか言いようがなかろう。

 カスペルの身体に染みついた剣術の理が、辛うじてその生命を守ってくれていたのだ。

 だが、凪は揺れない。何処までもカスペルが粘るのなら、凪もまた何処何処までも弱らせるまで。決して踏み込んだ一撃を、博打要素のある動きを見せたりはしない。

 そうこうしている間に、後方よりカスペルの仲間たちが駆けてくる。砦にあった金目のものを抱えながらであったが、カスペルの有様と転がる四つの死体を見て、彼らはその場に足を止めてしまう。


「か、カスペルさんが……嘘だろ、あの女何しやがったんだ」


 カスペルが必死の形相で助けにくるよう叫ぶが、凪はそれを無視して更にカスペルの傷を増やす。

 その動きを見て、カスペルが負った数多の傷はこの女がつけたとわかるや、部下たちは皆金目のものを放り出し悲鳴を上げて逃げ出してしまった。


「おっ! おいっ! てめえらぶっ殺されてえのか! せめてエドガーかホーカン呼んでこい!」


 引きつった顔でカスペルは言う。


「い、いいか、エドガーは名うての猛者だ。い、いくらてめえだろうと、あの剛剣は捌けねえだろう。それにな、盗賊王ホーカンが俺にはついてんだよ。へ、へへへ、死んだぜお前。あの二人を敵に回しちゃ、いくらてめえでもおしまいだぜおい」


 カスペルはその後も脅し文句やら懐柔の言葉やらを続けるが、凪は一切反応せず。ただ淡々とカスペルに傷を増やしていく。

 そんな追い込まれた状態であっても、傷と出血からじわじわと死が近寄ってきていても、カスペルは絶対に諦めようとはせず、防戦に徹しながら口で凪を牽制し続ける。

 だがそれも、限界を迎えた。


「あっ……ああああああっ! ああああああああああ!! ああああああああああああああああああああ!!」


 絶叫。


「なんなんだよお前! ふっざけんなよお前! なんでそんなに俺ばっか狙うんだよ! 道理に合わねえだろう! つーかお前何度俺を斬ったと思ってんだよ! なのにまだ斬んのかよ! 汚ねえぞてめえ! こんだけ斬ったんだからよ! 一回ぐらい俺にも斬らせろよ! 俺まだ一回もお前斬ってねえじゃねえか!」


 血走った目でカスペルは怒鳴り続ける。


「いいじゃねえか一回ぐらい! なあ! こんだけ俺のこと斬ったんだから今度は俺の番だろ! お前も剣士ならそのぐれえ当たり前に気を使えよ! いいよ! おめーのほうが強いのはわかったからよ! 俺の負けだ負け! ほらっ! こっちは負けを認めたんだからもうやめだやめっ! おめーもさんざ俺斬ったんだから満足だろ! なっ! そしたらよう! 俺にも一回ぐらい斬らせてくれてもいいんじゃねえのか!? そういう剣士の不文律っておめえ知らねえのかよ! いっぱしの剣士なら当たり前に心得てるはずだろうよなあ!」


 一方的にまくしたてるカスペルに、対する凪はといえばくすくすと含み笑う。

 笑ってくれたことを好感を得たと取ったのか、カスペルは更に喚きたてる。


「な、なあ! 俺ぁよ! 金もある! 俺ならホーカンに対しても話を通せる! なんならホーカンぶっ殺して砦乗っ取っちまうのもいいな! そうすりゃこの砦も集めた金も下っ端共もぜーんぶおめえのもんさ! もちろんこの俺もな! いいじゃねえの盗賊王! おめーが盗賊王になれるんだよ!」


 凪の笑いが更に深くなる。そして、笑顔のままで言った。


「だーめっ。貴方はここで死になさい」


 踏み込む凪。それでもカスペルはそれまでと同じように必死に抗う。だが、その時だけは凪はそれまでとは狙い先を変えていた。

 四肢を狙う動きに慣れさせた後で、剣がそちらに流れるよう仕向けたうえで、凪はカスペルの腹部を刺し貫いた。


「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょおおおおおおおお!!」


 動きが一瞬止まった隙に、更に剣を持つ右腕を斬り飛ばす。

 背を向け這いずるようにして逃げるカスペル。その背中を、採集した虫を固定するかのように刺すと、少しの間もがき足掻いた後でカスペルは動かなくなった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 涼太くんの分は残るのか!?
[良い点] この精神破綻っぷりと無双っぷり。 前作を思い出すなあw
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