二人で?お出かけ
『キャーっ、 何ですかここは~~。』
”何ですかって、外だよ。”
『何で色々な形の大きな箱が、すごいスピードで動いているんですか?
馬車ですか?
でも、馬はいないのですか?』
”まあ、此処には居ないかもしれないけど、
田舎に帰れば沢山いるよ。”
『やはりあれは乗り物なんですね。
中に人が乗っていました。
ずいぶん大きのですね。』
”うん、あれはバスって言うんだ。
あれに乗れば、離れた場所まで歩くよりずっと早くいける。”
『素晴らしいですわ。
馬車よりずいぶん早そうですし、沢山の人が乗れそうですね。
ねえ、あれには私などが乗ってもいいのでしょうか。』
”そりゃあ大丈夫だよ。みんな乗ってるよ。”
『あの……。』
”分ったよ、乗りたいんでしょ? ”
『はい!ぜひ。』
しょうがないなぁ、
それじゃあ今日はちょっと足を延ばして、
隣の町までショッピングと洒落込みましょうか。
それに隣町なら、知り合いに会う確率も、ぐんと減る。
そう思い、バス停に足を向けた。
バスを待つ間もアンリエッタは喋り続ける。
主には質問だったな。
『何故大きな建物の殆どは四角なんですか?』
”さあ何故でしょう?強度の問題かな?”
『何故、男装をした女性が多いのですか?
此処にはそんなに女性騎士が多いのですか?』
”この辺に騎士はいないと思うよ。
まあ、お巡りさんとか、企業戦士は多いかもしれないけどね。”
そんなやり取りをしていると、今まで私一人だったバス停で、いきなり誰かに話しかけられた。
振り返ってみると、そこには我がクラスの王子、紀里谷俊が立っていた。
大丈夫、私はコスプレをしているんだ。
”正体に気付く人はいない。”
「ごめん、もしかして、君は同じクラスの竹本さん……?」
”何故、瞬時に分かる~~~!”
「ごめんね。いつもとちょっと違うから、一瞬君だと分らなかった。
何処かに出かけるところ?」
「あっ、え、ええ。ちょっと買い物に……。」
「もしかして隣町に?
それは偶然だね。
僕も丁度隣町に行くところだったんだ。
そうだ、一緒に行かないか?」
”何ですと?
そんな、嫌ですよ。
ただでさえあなたは目立つのに、そんなあなたの傍に居れば、確実に私は引き立て役。
そんな人と一緒に行く訳無いでしょう。”
私はきっと嫌な顔をしていたのかもしれない。
ちょっと困った顔をした紀里谷君は、
「妹のバースディプレゼントを買うつもりなんだ。
でも、何をあげたらいいか分からなくて、
もし手伝ってくれるなら、スイスコラールのクレープ奢るよ。」
”クレープですか?奢ってもらえるの…。ぜひご一緒させていただきたい。”
そう思ったが、やはりこの人と歩いて注目を浴びるのは嫌だ。
「ごめんなさい、ちょっとプライベートな物を買いたいので、
一人で行きたいんです。」
どうだ、こういえば断れまい。
「あ、そうか。
ごめん、そうだよね。」
そう言って少し顔を赤らめる紀里谷君。
「そう、そうやって勝手に勘違いして、別行動して下さい。」
それでも紀里谷君は立ち去る様子が無く、色々と私に話しかけてくる。
まあ、別行動にしても、行き先は同じだから仕方が無いか。
テストがどうの、部活がこうのと言っているが、
帰宅部の私にとって、そんな話は鬱陶しいだけだ。
それよりも目立つから何処かに行くか、出来れば他人の振りをしていてほしい。
それから10分ぐらいして、ようやくバスが来た。
バスのステップを登り、振り返ると紀里谷君が手を振っている。
「乗らないの?」
そう聞くと、彼はただ微笑んで首を振った。
乗らないのか……。
私も手を振り、開いている席に腰を下ろした。
いったい彼は何なんだ?
バスに乗りもしないなら、なぜあそこにいる必要が有ったんだ。
理解不能だ。
そう思ったら、頭の中に笑い声がした。
”アンリエッタ、何か楽しい事でもあった?”
『楽しい事…。そうですね、楽しかったわ。
あなたは、彼があそこにいた理由が分からないの?』
”分る筈無いじゃん。
アンリエッタには分かるの?”
『ん~~、絶対とは言えないけど、大体の事は想像が付くわ。』
”へー、凄いね。
私には全然分からないや。”
『どうして彼があそこにいたのか、私の予想を聞きたい?』
”べつにいい、
あなたが話したいのなら聞いてもいいけど、
別に興味が無いからどっちでもいい。”
『まあ、可哀そうな紀里谷様。』
”へっ、紀里谷君に何かあったの?”
そう聞くと、アンリエッタは楽しそうに、また笑った。
『ホント、美夏さんといると、とても楽しいですわ。
楽しいし、珍しいものも沢山あるし、食べた事の無い美味しいものもある。
まるで別世界ですわ。』
アンリエッタがとても楽しそうだ、
今の私にとって、その事が何故か一番うれしかった。