此処は何処、私は誰なの。
何故私は、ここで布団を頭からすっぽりかぶり、
パニクッテいるのですか!?
たしか私は死んだはず。
えーと、ちょっと待って、
何で私は、そんな事を考えているんだ?
確か私はダウンロードしたばかりのゲームをするつもりで、
連休を利用して、昼夜ぶっ続けでゲーム三昧をする筈だったよね。
食べる事に執着も無いし、ゲームさえしていれば幸せな私は、
最高の日々を送る筈だった。
そんな私に突然の激しい胸痛が襲い、目の前が真っ暗になったまでは覚えている。
それは覚えている筈なのに、なぜこの私は私じゃ無いなんて感じがするのです?
私は公爵令嬢ですわ、それなのになぜこのような場所で、こんなに貧相な下着を着ているのです。
て、なんで私がそんな喋り方するのよ。公爵令嬢って何よ。
あぁ、病院に行った方がいいかもしれない。
ひとしきりパニクッタ私は、どうやら再び意識を失ったようだ。
気が付いたら、あたりは明るくなっていた。
そしてさっきまで、私の中にいた二人の人格は、
どうやら折り合い良く、一人の人間となった気がする。
そう、私は公爵令嬢のアンリエッタ。
しかも第二王子殿下の婚約者だった。
私達二人の仲は悪いものでもなかった。
しかし、突然現れた男爵令嬢のフローラ様が、
何を思ったか殿下と私の間にやたらと入り込み、ウロチョロする。
やたら殿下の前でいい子ぶって気を引こうとする。
男爵という身分なのに、そんな真似をして、不敬だと注意するも一向に引こうとしない。
それがいつの間にか、私が彼女を虐めまくっているという噂が溢れていた。
虐めまくっている?
私が彼女と話をしたのはあの時の1回限り。
それがなぜそんな事になっているの。
私が弁明すればするほど、状況は拗れてどんどん私が不利になっていく。
徐々に私は外に出るのが怖くなり、部屋に閉じこもるようになった。
食欲も無くなり、怯え、伏せぎがちになった。
そう、私が何もしなければ、私の評判は、これ以上落ちようが無い筈だ。
しかし、私の体力が落ちるほどに、私の魔力も枯渇していく。
でも、そんな事はどうでもいいのだ。
先日メイドが、殿下は私との婚約を白紙に戻し、
フローラ様との結婚を望んだようだと話してくれた。
その事を聞いた私は熱を出し、臥せってしまったのだ。
どうやら私は殿下の事を、かなり好きだったらしい。
もうどうでもいいわ。
全てが終わった。
食事も飲み物も、全てを拒否した私がそこにいた。
私の事を心配する家族をよそに、徐々に弱っていく私。
もういい、どうなってもいい。
そんな私が命を落としたのかどうかは記憶にないけれど………。
そして私は今ここにいる。
河本美夏という一人の少女となって。
どうしてそうなったのかは分からない。
私、河本美夏は鹿島村というど田舎の、メロン農家の二人姉妹の長女として生まれた。
子供が極端に少ない村で。
私のすぐ後に生まれた妹は、社交的な性格で、両親のいい所を集めたような美人として生まれた。
反面、私は大して目立たない子供として育ったのだ。
結果は想像が付くだろう。
ただでさえ人口密度の低い村で、妹はそこのスターとなったのだ。
彼女は、外で人に囲まれて過ごすことが大好きだった。
大人からも、子供からも関心を集めてしまう。
そんな妹と比較されるようになった私は、
家の中でひっそりと暮らすことが好きになるまで、そう時間がかからなかった。
だがそれも中学を卒業するまでだ。
運良く頭の程度が良かった私は、
勉強しかする事がなかったし、嫌いではなかった。
だから私は、県下でもトップクラスの県立島津精華高等学校を受験した。
うちの村の近くには、通える高校は極端に少ないし、レベルもそう高い所は無かった。
当然高校に進学するなら家を出る人がほとんどだ。
それなら近かろうが、遠かろうが、どこの高校に行っても結果は同じ。
家から出れる。
つまり、私を阻害するものから解放されるのだ。
試験の結果は難なく合格だった。
おまけに県立となれば、授業料も安い。
それにこの高校は、家からかなり遠い。
交通機関を使えば、乗り換えに次ぐ乗り換えで、軽く片道3時間はかかる。
だからこそここを選んだのかもしれない。
案の定、反対する人は妹だけだった。
この時ばかりは、
”お姉ちゃんがいないと寂しい”だとか、
”お姉ちゃんだって寂しいよね、
だからさっ、通える学校にレベル下げなよ。”
でも、私が通学範囲の高校には絶対に行かないと分かると、
”だったら頻繁に帰ってこれるように、もっと近い高校にしなよ。
お父さんも、お母さんも寂しいよね。”
何て言って、私が遠くの高校へ行く事を妨害しようとした。
だから私は、両親の気持ちがぐらつく前に、強引にこの高校に決めたのだ。
だけど、結果としたら以前とあまり変わらないというのが現状だ。
まず、ど田舎の出身という事が広まると、陰で色々と言われるらしい。
ダサいとか、センスが無いとか言うのが主流みたいだ。
まあ否定はしない。
私は昔からそうだったから。
だから多分、今もダサいのだろう。
校則を忠実に守り、長い髪はみつあみに、
コンタクトなんて物は考えもせず、エンジ色の縁の眼鏡をかけている。
まあ、色については、黒は男子の色だから、エンジなら少しはおしゃれに見えるかもと思ったのだが、
どうやらそれは間違いだったらしい。
で、ダサい私に近寄る人は、あまりいなかったのだ。
つまりは私には友達がほとんどできなかった。
しかし、都会に出てきた事で、メリットもかなりあった。
家との連絡用として持たされたスマホ。
これってゲームができるんだよ。
この中では、私は女性騎士になれる。
か弱く、皆に愛されるヒロインになれる。
現実の私の事を知らない人が沢山いて、
私は明るく、活動的な別人になれた。
システムなどすぐに理解できた私は、
すぐにそれにのめり込んだのだ。
そう、寝食を忘れても平気なほどに。
しかし考えて見れば、それがこの結果を招いたのかもしれない。