互いの名前
『名前、教えてよ』
『──そういえば言ってなかったわね。やっぱり必要?』
『当然だよ! なんて呼んだら良いかも分からないし、それともお姉ちゃんて呼ばれたいの?』
少年は少しからかうように言ってきた。
『そんなわけないでしょ……。 ルナリエよ。ルナリエ』
私は呆れながら答える。
『ルナリエ──可愛い名前だね』
満面の笑みで褒めてきた。けど──
『あーはいはい。』
褒め言葉には動じず、私は淡々とする。
少年はちょっと不満気そう。
『で、あなたの名前は?』
『僕?──道具の名前なんて知りたいの?』
『──ッ! いいから答えなさいよ! ど、道具にだって名前ぐらいあるでしょ!』
私はまた顔を熱くさせられた。
『ごめんごめん。 僕は──タカヒロ』
『タカヒロ……へん、変わった名前ね』
『今、変な名前って言おうとした?』
さすがに誤魔化しきれなかったようだ。
『ま、いいけど。僕の世界では普通だからね? 確かにカッコよくないし、地味な名前だし、気に入ってないし──』
『言っておくけど、私は友達が欲しいわけでも、仲良くしたいわけでもないの。私の目的の為に働いてもらう。強制的にね』
私は少年の言葉を遮り、冷たく真剣な眼差しで説明する。
『──うん……。分かってる』
さすがに少し怯んだ表情を見せている。
それでもすぐに表情を戻した。
『それで? これからどうするの?』
『──えぇ。そうね。さっきも言った通り街に行く。あなたの力を確かめる為にもね』
『そっか。──それで、少し休んでく?』
『そんなわけないでしょ。のんびりする気はない。今すぐに出立するわよ。』
他の追っ手がいないとも限らない。二人とも疲れはあるけど、すぐに離れるべき。
『そうだね……』
少年は愛想笑いしながら了承を得る。
『で?街まではどのくらいかかるの?』
『歩いて行くと半日かな』
『え……』
少年は絶句する。
『心配しなくても本当に歩いたりはしないわよ。馬を持ってるからそれで行く』
小屋の裏側に行くと小さな馬小屋があり、1頭だけ繋がれている。
私はその1頭の馬の頬を優しく撫で微笑み、(お願いね)そう呟いたあと馬に股がる。
『夜なのに大丈夫なの?』
『大丈夫よ。夜行馬だから』
普通の馬とは違って少し目の色が違う。
夜には夜行馬の特性で目は光って見える。
『ほら、早く後ろに』
『──どうやって乗れば』
『はぁ……。はい』
私は仕方ないと思いながら少年に手を差し出す。
『へ?うん』
手に触れた瞬間。
『うわっ!!』
勢い良く引き上げ、丁度私の後ろに座らせる。
『さ、じゃあ行くわよ。ちゃんと捕まってなさい』
『う、うん』
少年はおもいっきり私のお腹まで手を回してきた。
『ひゃっ──!』
凄く恥ずかしい声を発してしまった。
『ちょっと! どこさわってるの!』
『え!? ご、ごめん。だってちゃんと捕まれって……』
私は少年を睨み付ける。
なんだか顔が赤くなってる気がした。
『──まぁいいわ。さぁ行くわよ』
そう言うと私は手綱で馬に合図を送り、颯爽と駆ける。