第一話 転生と出会い
長い間、更新できなかったのでリメイクしました。
これからは少しずつ投稿します!
「いやー、面白かった」
パタンと読んでいた単行本を閉じた。
学校帰りに買った最新刊だ。
「これって現実に起こりそうな感じがあるからつい読み込んでしまうんだよな」
戦後初の空母を保有した日本が尖閣諸島を不当に占拠した某国と軍事と政治の二面で戦争をする内容だ。
昨今、急激に世界が動く中、日本も国防能力の向上を目指して空母型の護衛艦の配備や新鋭艦を次々と計画、製造している。
それ以外でも憲法改正による自衛隊の明記や武器の輸出など様々な面で日本も変わろうとしている。
世論はこの動きに注目しているが、納得する意見もあるが、それ以上に批判的な意見が多いという印象を受ける。
更に左翼派の連中が「自衛隊を解体せよ」だの、「日本の恥」だの喚き散らしているけど、自衛隊がいなかったら誰がこの国を守るんだ?と聞きたいくらいだ。
そんなことを考えながら、単行本を本棚に仕舞おうと立ち上がる。
だが、そこで異変が起きた。
立ち眩みが起きて平衡感覚を失って倒れてしまった。何が起きたのか分からずにそのまま意識が途切れた。
◆
「申し訳ありません!」
気が付くと目の前で貫頭衣を着た人が土下座をしていた。
見た目を客観的に言うと中世ヨーロッパ風の服装をした美少女だった。貫頭衣からははち切れんばかりの豊満な膨らみが激しく自己主張している。だが、だからといって肥っているわけでも無さそうで所謂、ボン・キュッ・ボンな素晴らしい体型だと窺える。
一体、何が起きているんだ?
確か、立ち眩みして倒れて……
「本当に申し訳ありませんでした!」
「……取り敢えず、頭を上げてくれ。状況が分からないのに何度も謝られても対応に困る」
「……怒らないんですか?」
「怒るも何も説明がないとわからん。まずはおまえは誰だ」
「……私は女神です」
………こいつ、頭の残念な人か。
「残念なんかじゃありません!本当なんです!信じてください!」
おおっ!?心が読まれたのか!
「……にわかに信じがたいが、これが夢じゃないっていうのは何となく理解できる。でだ、次の質問だがここはどこだ?なぜ俺はここにいる?」
周囲は見渡す限り白一色でそれがどこまでも広がっている。この空間は感覚的に言えば神社にいるような自然と神聖さを感じさせる。
勿論、俺はこんなところに来た覚えはない。夢なのか?
「こ、ここは私の神域です。あなたに関する重大な問題が発生しましたので私がここに呼びました」
「重大な問題?」
何だか嫌な予感がする。
この展開はライトノベルとか有名な某小説サイトでありがちなシーンに似ている。
「は、はい。実はあなたは本来死亡する予定じゃ無かったのですが、あなたの書類をお茶で汚して、拭いていたら破っちゃいまして……」
「……それで死んだと?」
「はい」
青年は呆れていた。まさか、自分の死因がこんな下らないことが原因だなんて思ってもいなかった。
ってか、やっぱり残念な女神じゃん。
単行本の続きは気になるし、まだ成人すらしていない。彼女を作って青春を謳歌したりなど未練を挙げればそれなりにある。
そんなことを思っていると女神は素晴らしいと言えるくらい見事なスライディング土下座をした。
「ごめんなさい!ごめんなさい!本当にごめんなさい!」
「お、落ち着いてください。確かに未練があるんですけど、生活に不満もありましたから怒っていませんよ。……それで?俺はこれからどうなるんでしょう?」
こんなに謝っていると怒る気が失せてしまうどころか逆に申し訳なく思ってしまう。俺がフォローすると、再び土下座をしていた女神は恐る恐る身を起こした。
その顔は反省と悔恨の涙に濡れていた。
「本来ここに来る予定では無いのですが、一度死を迎えると元には戻せません。また、地球に転生させる空きは今は無いので、別の世界に転生させることになります」
典型的な異世界転生だな。
となれば、この次はもしかして………
「私からは二つの方法を提案します。一つは異世界に転生する方法です。その際には向こうの世界で生きていくために幾つかの能力を授け、赤ちゃんからスタートします。但し、今までの記憶は消去します」
おお、やっぱり来た!テンプレ展開来たーー!
俺は内心興奮しながらも落ち着いた雰囲気で女神の二つ目の提案に耳を傾ける。
「二つ目は異世界に転生する事に加えてある任務を遂行してもらうものです。この場合は今の姿のまま転生することになります。この場合、記憶の消去はありません」
「その任務って何ですか?」
俺は女神に聞いてみる。出来ることなら記憶は持ったままでいたいからだ。
女神は分かりやすく丁寧にこれまでの出来事を話してくれた。
どうやら女神が転生させようとしている世界では人間至上主義による亜人や魔族の迫害と殲滅が横行する世界で亜人や魔族はその数を徐々に減らしているらしい。このままだと絶滅して、世界のバランスが崩れるとか。
神様なんだから自分で処理したらどうかと訪ねたが、その世界は女神や他の神様の管理外らしい。ちなみに女神は地球担当だとか。神様は輪廻転生だけ干渉が出来るが、世界そのものには干渉出来ないルールがある。
「それにその世界には危機が迫っています」
「危機?迫害のことじゃないんですか?」
「いいえ。それとは別です。詳しい事は神のルールでお伝えすることが出来ませんが、アレが目覚めると世界自体が滅んでしまう程の被害が出てしまいます」
「言えないんじゃ対応が出来ないですよ。何かヒントとか無いんですか?」
「世界を見て回ってください。いずれ、それが何なのか分かってきます。さて、あなたはどちらを選択しますか?」
世界が滅ぶ可能性のある世界に記憶なしで行くなんて自殺行為だな。なら、答えは一つしかない。
「その任務を受けるよ」
「分かりました。では、貴方が望む能力を考えてください。何でも叶えることができますよ」
(な、何でも……)
その言葉に息を飲んだ。
望めばあんなことやこんなことが出来る能力が……ぐへへ……
「ゴホンッ!一応、言っておきますけど、任務に必要な能力ですよ?そこを忘れないでくださいね」
女神は表情を崩さず、笑顔でそう言っているが、逆にそれが怖い。いかん。いかん。真面目にやらなけらば。
「その世界ってどんなところなんだ?」
「そうですねぇ、亜人や魔族がいるのはご存じですね。あとは魔法があります。文明は中世から近世くらいですね」
やはり、よくある異世界ファンタジーのような世界だな。
(つまり、アレが実現できる可能性が大だ!)
「その表情……決まったようですね」
「ああ。俺が欲しいのは『現代兵器とその兵器を扱う人員・補給物資・設備を召喚する能力』だ」
「なるほど。中々面白いですね。良いでしょう。しかし、貴方は耐えられますか?」
「耐える?」
「そうです。貴方はその武器で貴方が直接、或いは部下に命令して間接的に人を殺したという現実に耐えられますか?」
「耐えてみせる。例え、どんなにか心を傷つけられようとも、何度だって立ち上がる覚悟だ」
心配そうな顔だった女神の表情は笑顔に戻った。
「宜しいでしょう。ですが、その能力は世界に多大な影響を与えます。ですので、二年間だけ自由に召喚する権利を与えます。その後は一部を除き召喚出来なくなります」
「マジで?何なのその縛りプレイは」
「この世界の文明は現代に比べて劣っています。いきなり未知の技術を広められてしまうと無用の混乱を招きますので、すみません」
「まぁ、しょうがないか。じゃあ、代わりに国が欲しいんだけど駄目かな?」
「国ですか?」
「そう。二年間しか召喚出来ないから物資、弾薬などの補給や戦線の維持が必要になる。一から始めるには時間が足りないから、手っ取り早く国とそこで暮らす国民が欲しいなってね。出来そう?」
まあ、これはダメ元なんだよね。できなかったら召喚をフル稼働させて増やすしかないかな。でも、国家運営の戦略RPGのように国を動かしてみたいのも事実。出来るといいな。
女神は腕を組ながら考える素振りをしている。
十数秒悩むと笑顔で顔を上げた。
「こちらの不手際で転生させますので、ここはサービスということで認めましょう。貴方の記憶から最近やっていたゲームの国をそのまま送ります。召喚する兵士などもこれに合わせましょう」
最近やっていたゲームって【WORLD WAR IF】か?国家運営もやってみたいと思ってダメ元でお願いしてみたけど、やってみるもんだな。
でも、これで舞台は完璧だ。この能力があれば本物の戦艦大和が見れる!護衛艦いずもに乗れる!それだけじゃない。歴戦の武器や艦艇が見放題&使い放題じゃないか!
ミリタリーファンにとってこんな嬉しいことが他にあるだろうか?いや、ない!!なんて最高のシュチュエーションだろうか!
「ヤベェ……最高すぎておかしくなりそうだ」
「そ、そうですか!それは良かったです。最後に、異世界では必須の【言語理解】とランダムのスキルを付与しておきます」
「いえいえ! 異世界ものでよく見るスキルですけ助かります!何より軍事スキルを貰えただけでも嬉しいです。ありがとうございます!!」
「では、転送します。」
「はい、お願いします」
女神が俺に手をかざす。
視界が白くぼやけていき、やがて俺の意識は再び暗転していった。
◇◆◇◆◇◆
「ここが……異世界か」
目を覚ますとそこは浜辺だった。
熱い陽射し、白い砂浜、蒼くきれいな澄んだ海。
沖縄やハワイと同じくらい、いや、それ以上に美しいんじゃないだろうか?
あまりにも綺麗な砂浜だったので、あたりを少し散策していると、不意にポケットから映画『男たちの大和』の主題歌“CLOSE YOUR EYES”の着メロが鳴った。
「あっ、俺のスマホだ。あれ?ポケットに入れてなかったんだけど……メールか?」
画面のロックを解除して確認すると差出人はどうやらあの女神だった。
『女神です。無事に到着したようですね。その世界…クルセイアのことやあなたの能力について説明しようと思ったので連絡しました。これからこのスマホの操作方法を簡単にご説明します』
と書いてあった。
『このスマホで召喚術の全てを実行することが出来ます。それぞれアプリとして分かれているので後程確認してください。最初に使用上の注意を説明します』
この説明を簡単に纏めるとこうなる。
一日で召喚出来る数に限りがある。例えば兵士なら千人。武器なら五〇〇個。
兵士を召喚すると完全武装で召喚される。これは武器召喚にはカウントされない。故に重複しないように武器の召喚には注意しないといけない。
次に召喚した武器や兵士は戻すことが出来ない。また、兵士が死亡したら同じ兵士は召喚出来ない。
『次に禁止事項として、大量破壊兵器による非戦闘員の殲滅攻撃は原則的に禁止となります。ただし、国二つまでは許容範囲として認めます』
つまり、核兵器で国を最大二つまで滅ぼすことは認めるけど、あんまりやらないでねってことだな。
神様が国を滅ぼしていいとお墨付きを出すなんて恐ろしいよな。出来れば俺もそんなことはしたくはない。非戦闘員に発砲するのはやってはならない。
『次に各種兵器は召喚だけでなく自分で新しい装備の設計・開発が可能です。軍艦、車輌、武器弾薬、軍服など様々なものが可能です。後程、試してみてください』
「おお!夢が広がるな!」
現代兵器とファンタジーの融合は是非ともやってみたい。今は無理だけどいずれやってみよう。
『次に召喚される兵士は貴方に対して忠誠を誓っているため、調略や反乱の心配はありません』
「……それ大丈夫なの?」
洗脳じみた兵士が召喚されるって微妙な気分になる。外国の調略や反乱が起こらないのはありがたいから大きく反発できない。うーん、複雑だ。
『次に言語の問題は話すだけなら問題ありません。ですが、文字だけは現地で翻訳してもらわなければなりませんので注意して下さい』
「異世界モノではあるあるの特典だな」
言葉は人と人を結ぶ架け橋のようなものだと思う。会話だけでも相手と意志疎通が出来ることは非常に良いことだ。
「『国が欲しい』という願いについては少しだけ時間を下さい。先に部下の兵隊と共に召喚の練習や戦闘訓練をして体を慣らしてください。近い内にまた連絡します」
やっぱり、時間は掛かるよな。何せ何十万の国民を召喚するようにお願いしたのだからな。その間は女神のいう通りに訓練をして強くならないと。こっちは知識だけはあるただの素人だ。武器の扱い方や知識を学ばないと。やることは多いな。
『最後に現在地ですが、形や面積が日本列島とほぼ同じ洋上の無人島です。ですが、動物や魔物は多くいますので、移動の際は特に注意してください。また、国の召喚はこの島に上書きする形で召喚されますので、むやみに施設を建てないようにお願いします。説明は以上です。もし、分からないことがあればヘルプで見直しが出来ます。それでは世界をよろしくお願いします』
今、俺の中には女神からの依頼に対する使命感もあるが、それ以上にワクワクしていた。
ざっくりした説明だけどある程度は分かった。それにしても日本列島と同じってどういうことだろう?この世界には人工衛星が無いから全体像は把握出来ないが、いずれ打ち上げて世界地図を作らないといけないな。
「まぁいいか。取り敢えず、何か呼びだしてみようか」
そう思って武器のアプリを開いくと、想定外の事態に思わず固まった。
「……制限があんのかよ!?最初に言ってよ制限があるならあるって!」
召喚できる武器や艦艇が1945年12月31日まで計画・開発された物のみになっている。だが、独自に開発したものは規制に触れないようだ。
「とりあえずは召喚してみよう。70年以上前の兵器か……となるとミリタリーファンとしてはやっぱり大和だよな。よし、早速召喚だ!」
召喚を選択した次の瞬間、目の前に…………何も出なかった。
「……あれ?なんでだろう?」
ちゃんと召喚のボタンを押したのを確認するために、再び画面に目を向けるとエラーが表示されていた。
エラーの理由は大和を出現させる場所の水深が足りず、別の場所に召喚するようにという内容だった。
ああ、なるほどね。そりゃそうだよな。ここ、浜辺だもんな。気付かなかった。
今度は沖合に召喚されるように設定し直して再び召喚させる。
「おお!あれが大和なのか!?」
視線の先、浜から遥か沖合に巨大な魔方陣が現れ、そこから黒い巨体が現れた。
だが、ここで新たな問題が浮上した。
「あっ、どうやって大和まで行けば良いんだ?小舟でも召喚しないといけない感じかな?」
遥か沖合に浮かぶ大和まで泳いでいける距離じゃない。何か手頃な小舟を召喚しようと操作をしていると本日2度目のメールが届いた。
「また女神からのメール……じゃないな。誰だ?」
名前からして女性だが、知らない名前だ。そもそもこれまで女性のメアドなんて幼馴染みくらいしかいなかった。あえてもう一人加えるなら母親だな。
友達少ないとか思わないでくれよ?
『お迎えに参りますのでそのままお待ちください』
とても簡潔な文面だった。
女性からのメールって絵文字が多いイメージだったから少し驚きだ。幼馴染みからのメールは絵文字が多かったから余計にそう思うのだろう。
そのまま暫く沖合を見つめながら待っていると一隻の内火艇がやってきた。
内火艇が浜に乗り上げると黒い軍服を着た女性兵士が降りてきた。その後ろには5人の白の水兵服を着た男性兵士が順に降りてきて、女性の後ろで横一列に整列する。女性兵士と水兵たちはビシッと敬礼する。
俺も無意識に敬礼していた。自分でもビックリだ。
「黒江剣一様で間違いありませんか?」
「そうだ。それで君は?」
「失礼しました。私は三鷹由佳莉少佐であります。剣一様……いえ、ご主人様の副官としてサポート致します。以後、宜しくお引き回しください」
「えっ、ご主人様?サポートって?」
ヤバイ!メチャクチャ美人だ!
いや、同い年にも見えるから美少女か?
凛々しい表情の中に幼さも見える感じがある。
こんな女性が副官でご主人様って呼んでくれるなんて。戦艦大和に美人の副官が同時に目の前にあるこの夢のような瞬間。
「なんて最高なんだ……」
「はい?」
思わず思っていたことが口に出てしまっていたようだ。危ない、危ない。
ああ、首を傾げる三鷹少佐も絵になるなぁ。
「ああ…いや、なんでもない。それよりも大和に行きたいのだが」
「そうですね。詳しい説明は船で話しましょう。どうぞ、お乗りください。大和へご案内いたします」
「分かった」
内火艇に揺られて数分すると洋上で錨を降ろして停泊している巨大戦艦が見えてきた。あのシルエットは間違いなく戦艦大和だ。
「あれが……史上最強の戦艦かぁ」
こうして、俺の異世界ライフが始まったのだ。