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転生先で出会った女神が俺の幼馴染だった件について  作者: 六錠鷹志
1章 テンプレ厨な勇者のせいで、女神も転生するハメになった件について
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07.タイルクラブみたいな味がしました!

「えっ、あなたたちクエスト達成しちゃったんですか…………チっ」

「「あっ今舌打ちしやがったな、てめぇ!!」」 


 ギルドに戻ったヤドルたちは、さっそくロッククラブ討伐クエストの達成報告を受付嬢に行った。

 受付嬢はヤドルたちの言葉を聞き、あり得ない……という顔をした。

 それもそのはずで……実は、受付嬢はヤドルたちと、もう二度と会うことはないだろうと思っていたのだ。

 その詳細に気づいたのか、ヤドルたちと受付嬢の様子を眺めていた壮年の男冒険者が茶化すように、


「おぉ、またやっとるのか。ギル嬢。お前さんたち、えっと……ヤドルとカナさんだっけか」


 ちなみに『ギル嬢』とは、ギルド受付嬢のことである。

 実際、受付嬢は何人かいるのだが、今ヤドルたちを相手している受付嬢の仕事量が半端なく多く、会うのは大抵この人なので、受付嬢といえば『ギル嬢』である。


 壮年の冒険者に向けてヤドルは、


「あの……あなたは?」

「あぁ、俺はドックだ。よろしくな」


 いい感じに油の乗った冒険者って風貌のドックは、顔のしわを伸ばして笑いながら言った。


「ところでお前さんら、見た感じ冒険者って感じでもなさそうだが……あれか?」

「あれが何か分からないですけど、そのギル譲にクエストクリアしたら冒険者にしてくれるとか言ってくれて……」


 ドックは、みなまで言うな、という風にヤドルの話から状況を察した。


「……おいおい、ギル嬢。いくら冒険者に不人気でなかなか消化できてなかったクエストをやっつけたいからって、素人だますなよ」


 ギル嬢は、無言で目をそらした。

 その様子にドックは、


「やっぱり。ありゃ、黒だな。お前さんたち、どんなクエストやらされたんだ?」

「ロッククラブの討伐です。途中でロイヤルクラブに出くわして、ちょっとやばかったですけどね……」

「えっ、お前さんら、そのクエストから生き返ったのか?」

「そっ、そうですが……」


 ドックの驚き様に、困惑するヤドル。

 ドック曰く、ロッククラブ自体はそれほど強い訳でもないが、ひたすらに硬い殻を持っているため、倒すのに手間どうのだ。

 ちなみに、粘着質な体液を出したり、その体液や堅い殻で武器の刃こぼれが悪くなるという理由から、ロッククラブのクエストはギルド内で人気がない部類である。


「爆発系の魔法を使えばまぁ、倒すのは楽になるのかも知らねぇが、洞窟でそんな魔法使うバカはいねぇと思うし……あれ? どうしたんだ、ヤドル? そんな変な顔して」


――洞窟で爆発系って……ダメなの?


「あの、後学のために聞きたいんですが。洞窟で爆発系魔法を使うとどうなるんですか?」


 変な汗をかきながらもヤドルは、ドックにばれないように聞いたつもりだったが、


「おい、お前らまさか……使ったのか?」

「えっ、えぇと」

「使ったんだな……?」

「……はい」


――でも、それ使ったのはフェイルだし……爆発系魔法と言っても、『ヒール』なんだけどね!


 ヤドルは言い返そうと思ったが、説明がいろいろ面倒くさいのでドックの言うことをそのまま聞くことにした。

 ドック曰く、洞窟で爆発系魔法を使うと、洞窟が崩壊する危険性があるらしく、非常に危険なことなのだそうだ。

 ヤドルがただ無言でドックの説教を聞いていたので、ヤドルのことをどやすのは、これくらいでいいかな、とドックは判断し、


「まぁ、こうして生きて帰ったんだ。クエストも無事に達成したんだろ、やるじゃねぇか」

「はぁ……ありがとうございます」

「んでも、クラブ系モンスターの弱点の爆発系魔法使ったとはいえ、ロイヤルクラブを倒すとは……お前さんたち、結構腕は確かなようだな。なぁ、ギル嬢」


 ドックがギル嬢に同意を求めると、ギル嬢は書類を整理しながら興味なさげに、


「まぁ、実力は確かなようね……ロイヤルクラブを倒すなんて」

「ロイヤルクラブってどれくらい強いんです?」

「俺みたいな中堅でもそこそこ苦戦するなってくらいのモンスターだな。初心者がそれを無事倒すってのは、実力がある証拠だよ」


――んでも、俺とカナは何にもしてないんだけどな……


 うんうんと、頷くギル嬢とドックを見ながら、ヤドルはふと、疑問に思ったことがあった。


「えっと、つまり、今回のクエストって初心者には厳しいクエストだったんですよね」

「あぁ、そう言えるな」

「何でいきなりそんなクエストを、俺たちに」

「それはギル嬢が……」


 ドックが何か言おうとしたとき、「それはね!」とギル嬢が重ねた。


「それは冒険者にしてあげる上で、それなりの実力の証明をしてもらう必要があったってことよ。だから、難しめのクエストにしたの。本来だったら、こんな方法イレギュラーなんだから、当然よね」

「そっそれもそうですね。失礼しました。ギル嬢にさんざん泣きついて、やっとこのクエストを受けさせて貰えた流れなので……もしや嫌がらせなのかなって疑っちゃいました」


 ヤドルはギル嬢の言葉に素直に頷いた。

 ドックは何か言いたげな顔をしていたが、ギル嬢に睨まれていたので口にしなかった。

 ギル嬢はギルドのクエストを管理しているので、彼女に嫌がらせをすると、冒険者はロクなクエストを受けられなくなるので、逆鱗に触れないようにしていたり、……していなかったりする。


 ドックはギル嬢に近づき、ヤドルには聞かれないように耳打ちした。


「(なぁ、どうせお前さんのことだ。泣きついてきたヤドルたちを面倒くさがって、塩漬けになってるクエストをやらせたんだろう)」

「(それの何が問題あるってのよ……あなたたち冒険者がしっかりと食わず嫌いせずクエストをやってくれたらいい話じゃないの)」

「(はは、それはそれ、これはこれで、なっ……んで、本当にヤドルたちを冒険者にする気はあるのか? ギルドだけの権限じゃ無理だろう?)」


――どうせヤドルたちはクエストに失敗して、冒険者になるのを諦める……いや、死亡しても復活するお金を用意できなくて、もう二度と会うことはないだろうって考えていたんだろう。


 ドックはギル嬢の考えを大体察していたが、それを口にすると自分がいいクエストを回してくれなくなるので、目を細め見つめるだけで、


「(仕方ない、というか実力はそこそこあるみたいだから、冒険者にしてあげるわよ)」

「(裏のルートでもあるのか?)」


 ギル嬢はドックの言葉に、「女の顔は2つあるのよ」と微笑み、


「ヤドル、本日付けであなたを冒険者にします。書類とか、詳しいことは後でやってもらうことになるけど、もうなったってことでいいわよ」

「急ですね。というか、めっちゃあっさりですね」

「まぁ、いいじゃない。市民憧れの冒険者になれたのよ、もっと喜びなさい」

「そのことなんだが、少し頼みたいことがあるんだけど……」


 ヤドルは、フェイルもついでに冒険者にしてもらえないか、ギル嬢に頼むことにした。

 実際、ヤドルたちの実力を認めて……とかいう理由だったので、フェイルがロッククラブもロイヤルクラブも倒したとバレれば、ヤドルとカナも冒険者になれる話がなくなるかもしれない。

 だから、ヤドルはそのへんを隠して説明したのだが、


「それで……そのフェイルっていう子はどこにいるの?」

「ん、フェイルなら……あれ?」


 ヤドルはそこで、さっきからフェイルの姿を見かけないことに気が付いた。

 ついでに、カナも近くにいない。


――あいつら、どこ行きやがった?


 そうヤドルが思っていると、カナがちょうど戻ってきて、


「あなた、その女から離れなさい! その受付嬢は、自分の立場を利用して嫌いな冒険者にクソなクエs……うぐぅぅ」

「お前はちょっと黙ってろ!! せっかくいい感じに話が進みそうなんだって!」

「(でっでも、この女。絶対悪趣味で、嘘つきなのよ。私たちのことも騙して……あの胸も絶対シリコンに決まってるわ。嘘つきはシリコンの始まりなのよ!)」


 カナは自分の慎ましいそれと、ギル嬢の豊満なそれを見比べて言っているようだ。


「(お前はシリコンに何の恨みがあるんだよ。てか、この世界にシリコンなんてねぇだろ、たぶん! いいから黙れ)」

「(いいから私のこと放しなさいな、ちょっくらあの女しばいて……いいや、揉みしだいて確かめてくるわ)」


 カナがそう言った瞬間、ヤドルはカナから手を離した。


「えっ、何で急に放すの」

「お前が放せつったんじゃん。いいから、(……揉みしだいてこい」

「貴様ぁぁぁ!!」

「はぁぁっ、それもお前が言ったんじゃんかぁぁ」


 急に喧嘩を始めるヤドルとカナを見て、ドックが仲裁に入ると2人は静かになった。

 さすが、年長者だけある。若い子供の扱いには手馴れているのだ。


「ぎゅるるる」

「どうどうどう」


 カナはギル嬢の噂とかを、そこら辺の冒険者に聞いて回って帰ってきたところだった。

 どうして聞いて回ったのかは、あの洞窟に行ったとき、カナが「私たち、ギル嬢に騙されたのでは」……という話をしても、ヤドルに全く信用してもらえなかったのを根に持っていたからである。


 ヤドルがカナをなだめていると、ギル嬢が面倒くさそうに、


「ヤドルとカナはあなたたちでしょ。いい加減、フェイルがどこのどういう子か連れてきてくれないと」

「そう言えばあいつどこ行ったんだ?」

「洞窟に忘れ物したって、取りに帰っていたわよ」


――そうか、忘れ物か……何か嫌な予感がするのは気のせいだろうか。


 そう思って少し経つと、フェイルは戻ってきた。


「あっ、こいつがフェイルです。フェイル、この人がギルd……」

「ふわぁぁぁ! もしかして、ギルドの受付嬢ですか! 初めて会いました興奮ですです!! わたしはフェイル・サクセス。今回のクエストでは、わたしがすべての敵をt……うぐぅぅぅ」


 ヤドルとカナは全力でフェイルの口をふさいだ。

 不満げな顔をするフェイルに向けて、ヤドルはフェイルが洞窟に戻った理由を何となく察し、問い詰めて話を逸らすことにした。


「なぁ、フェイル?」

「はい、何でしょう?」

「……ロッククラブってどんな味がするか、知っているか?」


 その言葉にフェイルは顔を輝かせて、


「はい! とてもおいしかったです。爆発で焼けたとこ食べたんですが、とても香ばしくて、タイルクラブみたいな味がしました!!」


 フェイルの嬉しそうな顔に、ヤドルとカナは微笑んだが……ギル嬢とドックは口をあんぐりと開けてしまっていた。

 その理由は2つ。

 ロッククラブを食べたということと、タイルクラブを美味しいと言ったことに。


 タイルクラブは、平べったい姿をしていて、身も殆どなく、食べると砂利を口に含んだようなシャリシャリ感とドブの様な匂いで味がしないと言われるものである。ギル嬢とドックが驚くのも無理はない。

 ただ、フェイルの家はそれほど裕福ではなく、色々なものを食べる家庭であり、フェイルの味覚センサは世間のそれと少しずれているのであった。


 フェイルはそんな4人の様子に気づくこともなく、ふと思い出したように、


「ところで、ヤドル聞いてください! さっき洞窟に戻ったんですけど、洞窟の壁が崩れて、洞窟のほとんどがもう岩石に埋め尽くされちゃってたんです。先っちょだけです、洞窟の先っちょだけ、残っていたんです! 先っちょだけが!」

「お前、その言い方わざとか?」

「……言ってみたかっただけです、言わせないでくださいよ……ヤドル」


 フェイルはついでに自分の過去、何故『ヒール』が爆発するようになったのかも話そうかと思ったが、ギル嬢の言葉に挟まれ、また今度の機会にすることにした。


「はぁ……元気なのはいいことです。では、これからヤドル、カナ、フェイルの3人をギルド承認済みの冒険者として登録します。その有り余る元気はクエストに充ててください。ではまずは、ギルドについて一応、説明しますね」


 その後、ヤドルたちはギルドの仕組み、ギルドが運用している『死亡保険(死亡して復活させるとき、教会に払う額を補填してくれる)』、そしてクエストの受け方について教えてもらった。


 これで、やっと冒険者としてやっていける。活躍できる。


 そう3人が思ったとき、


「……ということで、クエストを受けるときに発生する契約金は、ギルドではなく冒険者の皆さんが支払う義務があるので、そこは注意してくださいね」

「「「まじかよ!」」」


――金何て、ねぇのに……

――またお金なの……最悪なんですけど……

――冒険者って、思ってたのと違うのですが……


 ギル嬢は3人のアホ面を見て、満足気にほほ笑んだ。


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