06.死んだらお金がかかります
「えっ……嘘」
爆散したヤドルの身体は、すぐさま光となって消えてしまった。
この世界の『死』のシステムを知らないカナは、フェイルの回復魔法の威力がとてつもないものだと判断し、もしかしたら自分も同じ目に合うかもしれない。後方もなくぶっ殺されてしまうかも知れない。証拠隠滅できるし……と思うと、カナは不安と恐怖で仕方がなかった。
それに加え、
――さっきの『ヒール』どちゃクソ痛かったんですけど!!
ヤドルがカナを守ろうとしたときにヤドルが受けた痛みは、カナに感覚共有されてなかったのだが、フェイルの『ヒール』はカナにしっかりと共有されてしまっていた。
ダメージを受けるのは、実際に『ヒール』を食らったヤドルだけだから、カナも共倒れすることがなかったのだが……
「ねぇ、フェイル! あなた回復魔法使えるとか言ったわよね! どうして、何で!」
「いや、本当に使えるんですって。信じてください!! 私だってどうして失敗したのか分からなくて混乱している所なんです」
フェイルは別に嘘を付いている訳ではなく、ヒールをちゃんとした『回復魔法』として使うこともできるのだ。本当は……だから、今回の出来事はフェイルにも原因が理解できない意味不な出来事であった。
その様なことをまんま表情に出しているフェイルの様子に、カナはフェイルを信用しようかと思った。
いや、
――死んだら死んだで、それでいいや。ヤドル死んじゃったし……
ヤドルが居なくなったことで、無意識にどうでも良くなったのだ、人生とか。
「よし、じゃぁフェイル。私にもヒールかけてみなさい」
「えっ、でも……」
「いいから、やりなさい」
その「やりなさい」が、女騎士の「くっ殺すなら殺せ」の意味合いに酷似していたのは言うまでもない。
カナの気迫に押され、フェイルは……
「あの私、お金そんなに持ってないですよ……」
……と、急にお金の話をしてから詠唱を始めた。
何故にお金? と、カナが考えているうちにフェイルの詠唱は組みあがり、『ヒール』が発動した。
咄嗟に目をつぶったカナであったが、痛みがすぅっと引いていく感覚がして、目を開けた。
「あれ? 私なんで生きて……」
「ほらほらほら! わたしだって使えるんですよ……というか、カナ。わたしが絶対失敗すると思ってたでしょ」
「当たり前でしょうが! あんな威力の『ヒール』みたらそう思うでしょう。そもそも『ヒール』の定義について最初から考え始めそうになったわよ」
ヒールによって、カナがロッククラブに付けられた粘液も綺麗さっぱり無くなり、カナは少し上機嫌である。
自分の身体が軽くなったカナは、身体を捩じってほぐしながら、ふと思った疑問をフェイルにぶつける。
「ねぇ、フェイルの『ヒール』が攻撃魔法として発動しちゃうのって、生まれつきなの?」
そこで、フェイルの表情に影が差したのをカナは見逃さなかった。
「いや、いいのよ。もし話したくないことなら、言わないでも」
「……いえ、大丈夫です。カナさんたちとは、これからもお付き合いしていくことになりそうですし……そうですね」
カナたちが冒険者ではないと知りつつも、フェイルは今後とりあえず都会で生きていくには、2人の助けを借りなくてはいけないと判断していた。
それだけ、この世は世知辛いのだ。
だから、フェイルは、カナもヤドルも大事にしたいと思っている。
そう、カナとは対照的にフェイルはヤドルが死んでいる何て考えてもいないのである。
フェイルが続けて言った言葉に、カナは……
「そうですね……ですが、まずはヤドルを復活させてからにしましょう。わたしとカナ、そしてヤドルの3人が揃ってから、わたしの過去についてお話します」
「……えっ、蘇生できるの!?」
「えっ……知らないの?」
ヤドルがまだ死んでいないことを知って、カナは驚いたのだが。
死んでも復活させることができると知らないカナの様子に、フェイルは驚愕していた。
* * * *
「よっしゃー、生き返ったぁ! 何でかは分からんがとにかくヤッター!!」
「バンザーイ!」
教会でカナに蘇生してもらったヤドルと、ヤドルが生き返ったことに喜ぶカナ。
フェイルはその様子を眺めながら……
「あの……もしかして、ヤドルも『死』とは何か知らなかったのですか?」
「えっ、死んだらお陀仏じゃないの?」
「お陀仏って何か分からないけど、分かっていないらしいね……」
フェイルは、ヤドルとカナが今までどんな教育を受けたのか心配になってきていた。
さっき、ヤドルを復活させるときにヤドルのステータスをチラ見したら、別にどこかのステータスが飛びぬけている訳でもないので、……本当、今までどうやって生きてきたのか、フェイルは心配になってきていた。
「はぁ、じゃぁ、一から説明しますね。まずは、『死』とは何か」
フェイルはこの世界の『死』とは、『復活方法』とは何か、説明を始めた。
1.『死』とは、肉体が魂を守り切れず、魂が肉体から離れ彷徨うこと。
2.彷徨う魂を集めるのが教会の役割であり、教会で死者の蘇生が可能である。
3.魂に必要な魔力を注ぐことによって肉体の再構築が可能。
4.魂の中に肉体の形状は保存されており、復活したときは死ぬ以前と同じ姿になる。
5.教会も慈善企業ではない。魂の管理費、膨大な魔力の使用料(お金)を取られる。
「端的に言えば、死んだらお金がかかりますってことね」
「へぇ、そうなんだ……おい、ちょっと待て。フェイルってそんなにお金持ってないとか言っていたよな」
「うん、ヤドルの蘇生で路銀のすべて使い切りました!」
ヤケクソ気味にフェイルは言った。自分が殺してしまった申し訳なさもあってだが、逃げることもできたのに、しっかりヤドルを復活させたのはフェイルの人柄の良さを表している言えるだろう。
ヤドルのステータスが低かったのが不幸中の幸いか、フェイルの所持金でぴったし復活させることができたのだ。
ステータスが上がれば、どんどん復活にかかるお金も増える。
「やばくねぇか……俺ら誰も金持ってないぞ」
「…………」
「…………」
「……食うにも、寝るにも金はかかる。ヤバい……」
――これから、どうやって生きていこう……。
――もう、この世界嫌い何ですけど!!
――早く、ご飯食べたい……
3人は現在の状況に軽く絶望しながら、一縷の望みにかけて、ギルドにクエストの報告に向かったのであった。