めっちゃ優しい幽霊
「これは手強いなぁ……」
少年は苔むした墓の前で呟いた。
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僕には霊感がある。
と言ってもテレビや映画なんかでやってるような霊感ではない。
人に憑いてる霊が見えるだとか、家の隅にいる霊が見えるだとか、そう言ったものではないのだ。
僕にはめっちゃ優しい幽霊が見える。
掛け時計が少し傾いているのがいつの間にか直ってたり、リモコンの効きが悪いと思ったらいつの間にか電池が変えられてたり、こたつをつけたまま家を出て帰ってきたら消えてたり、やる事なす事めっちゃ良い事ばかりだ。
掛け時計を急に落とすとか、テレビが勝手につくとか、そんなのはただの作り話でしかない。
幽霊はみんないいやつなんだ。
その証拠に肩が重くなるとかもないし。
ただ、その"おもてなし"には"うらがある"とはよく言ったもので、タダで優しくしてくれてるわけではない。
幽霊だって見返りが欲しいんだ。
だけど幽霊だから欲しいものがあるわけでも、ましてや見たいモノや行きたいトコがあるわけでもない。
では何が目的なのか。
そう、墓掃除だ。
彼らは自分の墓を綺麗にして欲しくて化けて出てきたのだ。
全人類がお墓を作ってもらえるわけではないが、作ってもらったものはこう言った悩みがあるのだ。
子孫が墓参りに来ない、たとえ来ても掃除はおろか線香すらあげない。
そう言った悩みが幽霊たちにもあるらしい。
だから僕は彼らのために、そして彼らの子孫の代わりに、墓参りに行ってやるのだ。
今日もそのためにわざわざ遠い地方の山奥まで向かう予定だ。
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「いやぁ、こんな山奥にお墓なんて作ったらそりゃあ墓参りにこないよ」
地図上ではあと少しのところまできてそう呟く。
あとほんの少しと言うところである事を思い出した。
「あっ、こたつ消したっけ」
少年はそう呟くと何かを聞いて相槌をする。
「ありがとう。最後までお世話になりっぱなしだね」
そして少年は無言のまま墓の前までたどり着いた。
「これは手強いなぁ……」
少年は苔むした墓の前で呟いた。