口をつぐんだ果ての想い
檸檬 絵郎様の第三回かっぽうミニ企画に参加させていただいた時のものです。
お題「出ていきなさい」で始まり、「入りなさいよ」で終わる二人の会話文。
「出ていきなさい」
「嫌です、先生」
「ほんといつまでいるのよ、もうとっくに下校のじ〜か〜ん!保健室じゃなくて家で休みなさい」
「夕暮れがまぶしいですね〜……ほら、甲子園が決まった野球部のかけ声も、いつもより気合いが入っているような」
「そうやって、心にもないテキトーなこと言ってはぐらかして」
「先生と一緒にいたいだけなんです」
「うん、君に気に入られてるのはよく分かってる。ただ今日はいつもに増して粘るね」
「そうですね〜……今の僕にはこの時間にしがみつくことしかできないんですよ」
「君はまだ若いんだから、もっと他にやることもあるでしょう」
「受験べんきょ、とかですか」
「お、意外に真面目」
「そうなんです、真面目なんです、僕はA大学をちゃんと目指さなければならなくなったんです」
「やる気スイッチ入ったのね」
「また先生に会いたいからです」
「え?」
「僕はもうすぐ遠くに引っ越します」
「……」
「A大学に入れば、この街に戻って来れます」
「……」
「先生、好きです、迎えに来てもいいですか?」
「……………」
「とゆーわけで、ここは真面目に家に帰って勉強します」
「……」
「さようなら」
「……大学」
「え?」
「入りなさいよ」