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空色に

名前呼ばれても、返事はしない。

だけど、遠慮なくヒロシ先輩は言葉を紡いでいく。


「ほら、俺は怒ってないから、おいで。な、桃。」


まるで、ワガママな妹を許してあげる寛容な俺、を演じるかのように。


なるほど。

主人公様は、攻略対象キャラクターである、私が離れるわけ無いと思っているんだ。

単なる妹キャラのワガママの一環だと。


違う、そうじゃない。

ちゃんと自分で物事を考えて、行動してるんだから。


と、言おうとしたところで。

ヒロシ先輩の後ろから、女子の声が聞こえた。

どうやら、女連れで来てたらしい。


「ヒロシくん?今日は私と帰るんでしょ?」


今日の担当、陸上部の…人。


そっと、その人の方を見てみたら。

すごい目で、睨みつけられた。


また、か。

あぁ、面倒だな…。

言葉が通じない人たちと、お話し合いをするのは、本当、疲れる。


「もちろん、陽菜とは一緒に帰るよ。でも、ね。桃も一緒でいいだろ?あいつ、寂しがりやだからさ。」


お姉さんみたいに、接してあげてくれないかな?


と、主人公さまは、仰る。

桃が、いつ、どこで、一緒に帰りたいと言ったのか。

そして、寂しがりやとか、本人も初耳の新要素を付属させてないで、頂きたい。


「え、でも…。折角のデートなのに…。」


最もな主張だが、愛しい男の前では、強く言えないのだろう。

ここで、嫌だ、などと言ってしまったら、心の狭い女となってしまうのを恐れているようだ。


再度、強く拒絶して。

別にハーレムを崩壊させる気はないと、彼女の憂いを晴らした方がいいのだろうが。

先ほどの副会長さまとのやり取りで使い果たしたのか、少々気力が足りなくて。

ため息しか出てこない。


折角、尚先輩の寝顔で癒されたのに…。


本当、面倒くさい。


だけど、ここではっきりさせないと。

桃の明るい学園生活がかかってるから。

渋々、口を開こうとしたら。

横から、尚先輩が、口を開いた。


「ヒロシ、悪い。桃ちゃんは、これから俺の用事に付き合って貰うから。」


だから、先にその子と先に帰ってて。

女の子、待たせちゃダメだろう?


そう言いながら、桃を庇うように前へ出た。


「…なんで、お前が桃と?」


訝しげに目を細め、尚先輩に詰め寄ろうとしていたけど。

尚先輩は、ニコニコと笑うだけで、ヒロシ先輩の質問には答えない。

そうこうしている内に、陸上部の陽菜さんが、ヒロシ先輩に、まとわりついて。


「早く行こう。寄りたいお店あるんだ。」

と、連れ出そうとしている。

散々悩んだ挙句、主人公さまは、陽菜さんとのデートを取ったようだ。


「桃!明日!!明日迎えに行くから。ちゃんと良い子で待っているんだぞ。」


ただ、やはりハーレム維持に未練があるらしく、訳のわからない言葉を残して、陽菜さんと一緒に、教室を出て行った。



もう、ヤダ。本当に疲れる。

再度、ため息をついて。

座り込みたいのを気力で抑えていると。


「大丈夫?もう少し、ここで休んでる?」


そう気遣う言葉が頭の上から降ってきて。

顔をあげたら、心配そうな、尚先輩の顔が見えたから。


「尚先輩が居てくれたから。」


大丈夫です。

でも、もう少し、ここに居て良いですか?


もうちょっとだけ。

空の色が茜色から闇に変わる前まででいいから。


少しだけ。


一緒にいてください。


いつもは、あざとくおねだりするところだけど。

今日はその元気も使い果たしちゃってるから。


ただ、素直に。

ちょっとだけ微笑んで、お願いした。


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