嵐の前の…
ほんわか回。
確信的なものは無かったけれど。
ひょっとしたら、と思って普段なら遠慮して押しかけていなかった、2年の教室に向かう。
ヤツに会いませんように、と祈りながら。
目的のクラスが見つかり、中をヒョイっと覗くと。
「尚先輩みーつけた♪」
窓際の1番後ろの席。
お目当の人が、頬杖ついて、座っていた。
ドアの近くに居た、知らない先輩が、入って良いよと言ってくれたので、お礼を言って遠慮なく尚先輩の所へ近づく。
「尚先輩、桃ですよー。もしもーし。」
小声で話しかけてみたけど、反応なし。
あらら、完全に寝てますな。
せっかくだから、寝顔でも堪能させて貰いましょうか。
尚先輩の正面の席を借りて向かい合って座って、顔を覗き込んだ。
顔にかかってた、ちょっと癖のあるふわふわの髪を避けて、今は閉じている目元を見つめる。
まつ毛長いなー。無駄じゃない?男子の長いまつ毛。
毎日、まつ毛美容液塗って、育毛に命をかけてる桃に分けて欲しい。
むしろ謝れ。
とか、
髪の毛ふわふわで良いなぁー。
桃、毛先カールしても、頑固なストレートだからすぐ戻るんだよねー。
羨ましい。
やっぱり桃に謝れ。
とか、どーでも良いことばかり思ってたけど。
最終的には、やっぱり好みだなぁ。
に、落ち着いた。
んー、顔にかかってる髪、邪魔だなぁ…。
あ、そうだ!!アレがあった。
自分のカバンの中のポーチをあさり、赤と青のカラーのヘアピンを取り出す。
もっと顔が見えるように、サイドの長めの髪をピンで、止める。
うん、可愛い♪
ふふふ、桃とお揃い。
自分の前髪に止まっている、ピンをそっと撫でた。
このまま、ずっと、ぼんやりと寝顔をみているのもいいけど、やっぱり目を開いて、桃を見て欲しい。
お話もしたい。
「ねぇーもう、いい加減起きようよー。眠れる森の王子なんですかー?起きないと、襲っちゃうぞー。性的な意味じゃなくて、物理で。」
ついでに、ツンツンほっぺをつつこうとしたら、急にパチリと目が開いた。
「なんか、今一瞬、寒気が…って、桃ちゃん?」
「おはよー、尚先輩。寝顔ご馳走様でした。」
写メ撮っておけば良かった。失敗。
「うたた寝ですか?風邪ひきますよー。もう、用事無いなら一緒に帰っても良いですか?」
本当は、門で待ち伏せしてバスケ部行きたかったんですけどね。
今日は野暮用で遅くなっちゃったし、また明日かな?
「あーうん、なんかぼんやりしてたら、寝ちゃったみたいだね。」
起こしてくれて、ありがと。
じゃ一緒に帰ろうか。
と、にっこり笑顔と共に尚先輩が言ってくれた。
そのとき、髪をかきあげようとして。
サイドに止めたピンに気付く。
「あれ、なんだこれ?」
「似合いますよ。桃と、お揃い。」
鏡を出して、見せると共に、自分の前髪のピンを指差した。
「あ、本当だ。今日はこれ借りてて、いいの?
髪邪魔だったから、嬉しいな。桃ちゃんと、お揃いだし。」
マジマジと、鏡を見つめた後、桃の前髪をみてから、不意打ち的に、そんな風に言ってくれるから。
思わず恥ずかしくなって。
多分、今、顔真っ赤で。
あぁ、なんか桃、めちゃくちゃこの人のこと、好きになりそうだなって予感がして。
そして、その時。
教室のドアが開いて。
ヒロシ先輩が、入ってきた。
「桃!!やっぱり、俺に会いに来てくれたんだね。」
…もう、幸せ気分が全部台無し…。
幸せそうに、寝顔眺めてる桃ちゃんをただ描きたかっただけの回。私に絵心あったらなぁ。
普通、髪の毛いじられたら、うたた寝位じゃ起きるでしょ?って思ったけど。
うん、ファンタジーってことでm(_ _)m