バグってるんじゃない?
店を出たら、雨は上がっていた。
送っていくよ と、言ったけど。
まだ時間も早いから大丈夫だと言われ、その場で別れた。
「また、ね。明日。」
指先だけ出した手を振りながら、口元に綺麗なアーチを描いて笑う桃ちゃんは、やっぱりあざといなぁと感じるけど、間違いなく可愛かった。
家に帰り、いつもより少しだけ距離をのばして走りこむ。
朝夕、走りこんでるから大丈夫とか言ったけど。
これだけだと、やはり体は鈍る一方だ。
少しだけのばした距離に、かなり息があがる。
バスケ部に、戻る…か。
無い、な。
ありえない。
あっさりと捨て去っていった、自分を許してくれるなんて、ありえない。
無理だよ、桃ちゃん。
君は大丈夫だなんて、言ったけど。
結果はわかってる。
でも、その言葉だけは、嬉しかったから。
…ありがとね。
息を落ち着かせてから、家に戻り、シャワーを浴びる。
ちょっと熱めのお湯で、汗をながして。
乱暴に髪をタオルで拭きながら、部屋に戻った。
ベッドに投げてあった、鞄を漁りスマホを取り出そうとしたら、一緒にヒロシから預かっていた、不思議スマホも出てきた。
あぁ、そう言えば返す機会無かったなぁ。
…。
これに、桃ちゃんの情報、入ってたよな?
確か前に見た時、俺の名前が記載されていたような…。
アプリを起動させ、確認すべく、女の子達の情報を出す。
桃ちゃんは…と。
あれ?
4人しか見れない。
桃ちゃんの情報、消えて…る?
名前がグレイアウトしていて、選べない。
何なんだ、これ?
バグったか?
再起動かけてみたりとかしたけど、桃ちゃんの情報は見れないままだった。
※※※※※
翌朝、教室に入るとそこには既にヒロシがきていた。
いつも駅で一緒になっていたのに、今日は居なかったから休みかと思ってた。
「はよー、昨日はどうした?大丈夫か?」
近づいて、声をかけた。
「あぁ、なんだ、尚也か。なぁ、それよりちょっとアプリで確認して欲しいんだけど。」
え?朝からいきなりそれかよ。
まぁ、別にいいけどさ。
「OK、誰だい?」
「桃ちゃん。…桃ちゃんの好感度みてくれ。」
あー…桃ちゃんね…。
ヤバいなぁ、やっぱりダメだ。
昨日から、グレイアウトしたままだ。
「ヒロシ、桃ちゃんの情報見れないぞ。グレイアウトしてる。」
選択不可だ。
「え?何でだよ?そんなはず、無いだろう?」
いや、睨みながらそう言われてもねぇ。
「マジで。桃ちゃん以外の4人しか、見れない。」
ちょっと貸してみろと言って、ヒロシが俺の手からスマホを乱暴に奪う。
「ちくしょう、なんで俺には操作出来ないんだよっ!意味ないだろ、尚也なんかが見れても!!」
そんな事言われても、俺にだってわからないし。
その後も、色々ブツブツ何か言いながら操作してたけど。
結局、ヒロシにはやっぱりアプリ情報は見れなかったし、俺にも、桃ちゃんの情報は見れないままだった。
一体、何が起きているのか、俺にはさっぱりわからないままだった。