そして、また、はじまる
あの事件?から1週間。
久しぶりに見かけたヒロシ先輩は、今までの彼が嘘みたいに、周囲に埋没していた。
ぶっちゃけ、オーラが消えて、モブになってた。
私が彼に夢中だった頃は、あれだけキラキラしてたのに。
特にイケメンって訳じゃなかったけど。
自信に満ち溢れてて、周囲を引きつけるオーラがあって。
何処にいても、すぐに見つけられた。
それが、先程の彼を見る限り、全くと言っていいほど、無くなってる。
「あれって、主人公補正がかかってたのか…。」
補正って、すごいなぁと、感心しながらも、私は先程まで見ていた場所に視線を戻す。
放課後の体育館。
私の視線の先は、尚先輩。
通いつめて、やっと戻れたって。
照れながらも、嬉しそうに報告してくれた。
ブランク長いから、カッコイイところ、見せられないけど。
それでも良かったら、応援して欲しいなって。
言ってくれたから。
練習の邪魔にならないように。
コッソリと、体育館の二階の観覧席から見ている。
バスケ部に戻ったばかりの尚先輩は。
まだ基礎練しかやらせてもらえてなくて。
それは、とても辛くて、苦しそうなのに。
それでも楽しそうで。
その姿はとっても、カッコよくて。
そのうち、ライバル増えるだろうなぁって思える程で。
現にもう、私以外でも、尚先輩を熱心に見ている人が、もう1人。
二階席から見ている私と違い、尚先輩の近くで見ている女の子。
サラサラの黒髪の。
ぱっと見平凡だけど、よく見ると可愛らしい清楚系。
そう、乙女ゲームの主人公みたいな。
つい最近、お友達から、聞いた噂。
今まで全然目立たなかった子が。
学校で人気のある人たちと、急速に仲良くなっているらしいって。
生徒会長とか、陸上部のエース君とか。
それを聞いた時、私は、あるアプリを思い出した。
1週間前、私がヒロシ先輩のスマホを踏みつけた後。
気付いたら、入れた覚えのないアプリが私のスマホに入ってた。
青いハートマークのアプリ。
嫌な予感がしたけど。
気になって、タップしたら。
ゲームのスタート画面。
直ぐに、画面が切り替わり、攻略対象者と書かれた人物の画像。
そこに載っていたメンバーは。
この学園の生徒会長。
図書委員長。
陸上部のエース。
…そして、尚先輩…。
あの、ギャルゲーの、ヒロインだった私たちが、まさに今、気になっている相手の人たち。
私は、直ぐにアンインストールした。
消えなかったら、スマホごと交換しようと思ってたけど。
すんなりと、消えたから安心してたのに。
どうやら、この世界はそう簡単にゲームからログアウトさせては、くれないらしい。
きっと、あの子は、あのアプリをスタートさせている。
この世界で、乙女ゲームを、はじめたんだ。
生徒会長、陸上部のエース君と順番に出会っていって。
次は尚先輩?
狙うは、逆ハールートかな?
ふぅん…。
元ギャルゲーヒロインvs現乙女ゲームヒロイン
って感じかな。
さしずめ、私たちが、恋のライバル役って、ところだよね。
どうやっても、ゲームから抜けられないなら。
ログアウトさせてくれないなら。
もう、受けて立ってみせるしかない。
平凡が売りで、プレイヤーに親近感わかせる容姿の乙女ゲームヒロインなんかに、男ウケ狙っているギャルゲーヒロインが負けるわけには、いかない。
今まで、邪魔しないように、コッソリとのぞいていたのがバカらしくなって。
「尚先輩、頑張ってー。カッコイイー大好きー♡」
大きな声で。
それでも、甘く。
大きく手を振りながら、とびきりの笑顔で。
そうしたら、ほら。
尚先輩が、気付いてくれて。
笑いながら、手を振り返してくれた。
乙女ゲームヒロインちゃんは、とっても悔しそうに。
こちらを睨んでいる。
わぁ、こわーい(笑)
ちょっと挑発するように。
首をすくめて、わざと怖がってから。
尚先輩に助けを求めるように、視線を送った。
案の定、尚先輩は私を睨みつけている彼女に気づき、怪訝そうな顔にかわる。
ふふふ。
まだ、私の方が一歩リードしてるかな?
でも、これからは、わからない。
ギャルゲーが開始された頃のように。
自分が経験したあの感覚。
夢の中の世界にいるように。
主人公しか、見れなくなってしまう可能性だってある…。
それでも、私は、負けない。
ギャルゲーの次は、乙女ゲームとか。
この世界は、本当にふざけているけど。
それでも、これを乗り越えないと、好きな人を手に入れられないと、いうのなら。
攻略するしか、ないじゃない?
元ギャルゲーヒロインですが、乙女ゲームのヒーローを攻略しても、いいですか?
今までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
これにて、完結です。
皆様のご期待に答えられた終わり方では、ないかもしれませんが、自分なりに最初から決めていたエンドまでたどり着くことができました。
皆様の応援のおかげで、楽しかったです♡




