友達の彼女を攻略してみていいですか
はじめて彼女を見たのは、ヒロシの横にちょこんと立って、本当に嬉しそうにヒロシに話しかけている姿だった。
その時は、あぁ、可愛い娘だな。と、それだけの感想。
それから、ヒロシに渡されたスマホのアプリに女の子の名前が増えていき、最後に追加された名前が彼女のものだと気付いたのは、いつだっけ?
可愛い、1つ年下の、友達の彼女のうちの、1人。
それだけだった。
それだけの筈だった。
ヒロシと一緒のところを見かけるだけだったし。
話したことも、ない。
目が合うと、会釈はしてくれるけど。
きっと、俺の名前なんて知らないし、興味はなかったのだろう。
俺も別に興味持って貰わなくても構わなかったし。
そんなものだろう?
人の彼女なんて。
それがいつからだろう。
彼女の事が気になってきたのは。
彼女が俺の名前を尋ねてきた時は、まだだったか?
いや、少し、本当に少しだけ、期待していたのかもしれない。
可愛い娘に興味持って貰えたかも?と。
そして、あの、雨の日。
傘を忘れた日。
彼女と、一緒に、帰った日。
ヒロシにではなく、俺に対して可愛らしく、笑ってた。
表情をくるくる変えて、俺の話を聞いてくれた。
諦めていたバスケ部のことを、大丈夫だよと、言ってくれた。
気休めでも、嬉しかった。
その後も。
寝ていた俺を、ニコニコしながら、見ていたと言って。
お揃いですよ、と俺の前髪にこっそりとヘアピンをつけて、嬉しそうに笑ってた。
そんな、彼女は、友達の彼女のうちの、1人。
…だった。
桃ちゃんは、もう、ヒロシの横には、並ばないと言う。
曜日替わりの彼女から、抜けたと言う。
いつも、笑顔で懐いてたヒロシに対して、疲れた顔で苦笑するだけになった。
ヒロシと、水曜日の彼女が詰め寄ったとき、困っていた桃ちゃんを見ていられなくなって。
余計なお世話かな?と思ったけど。
少しだけ、手助けになればと思って、口出しした日。
いつもの可愛らしい笑顔じゃなくて、頼りなさそうに、微笑んだ日。
いつもの元気いっぱいな桃ちゃんじゃなくて、ぼんやりと空の色を、眺めていた日。
一緒にいて欲しいと、言われて。
何を話すわけじゃなく。
2人でぼんやりと。
空色が変わるまで。
ほんの少しの時間だったけど。
あぁ、俺、桃ちゃんのこと、好きかもしれないなぁと、気付いた。
いつも元気な桃ちゃん。
いつもあざとい笑顔が可愛い桃ちゃん。
そして、ちょっとだけ、素の表情を見せてくれた桃ちゃん。
どの桃ちゃんも、可愛くて。
ヒロシの、その他大勢の、彼女のうちの1人には、勿体なくて。
本人はもう嫌だと言っているなら。
友達の元彼女を、俺が攻略してもいいですか?
ラストまで、もうちょい。




