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先生からおすすめの本を受け取って、それから個別自習室にこもって夜まで勉強する日々。四月からこのペースを崩してきたことはほとんどない。塩谷文香の1日は、模範的な受験生そのものだった。
今日もまたそんな感じで、昨日と同じ日常が終わろうとしていた。
「詩集かぁ……」
しんと静まり返ったリビングで今日の供を見つめながら、入れたてのアップルティーにサラサラと砂糖を注ぐ。図書室にある他の本と違って先生から受け取るものは新品ばかりだから、貸し出し本独特のあの湿っぽい匂いが一切ない。
昔からわたしにはそれがほんのすこしだけ、寂しく思えた。
いつもより妙な気分が混じったままパラパラとページをめくる。ページごとに可愛い挿絵が入っていてなんとも洒落た中身だけれど、いかにも難しそうな言い回し、遠い道のりに今から気が滅入りそうになる。
その時、わたしのもとに一通の奇妙が届いた。
「あれ?」
ふと、ページをめくる手を止めた。
何か、メモのような小さな紙がページとページの間に挟まっている。
それを手に取って、見て、読んで、はっとした。
息がつまるような何かを、どうしようもなく泣きたくなる何かを、今すぐ大声で叫んでこの狭苦しい部屋を飛び出したくなる何かを、頭のてっぺんからつま先まで感じた。
今思えば、それが運命というやつだったのかもしれない。
わたしの当たり前の日常は、この時に一瞬にして覆されたんだ。
砂糖はもうカップの奥底に沈んで、この夜をざらつかせていた。
新月の夜だった。