表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
nightmare  作者: やもりちとせ
わたしのこと
3/7

1-2


海とは高3からの付き合いで、千紗とは高1からの仲。二人は元々仲が良かったらしく、お互い顔見知りだった私たちが仲良くなることはごく自然の出来事で。二人ともそれなりの明るさと謙虚さを持ち合わせていて、一緒にいてとても居心地が良かった。派手なグループも地味なグループも苦手なわたしにとってはとてもありがたい存在だ。唯一不満があるとすれば、趣味や好きなことが全く被らないと言うことくらい。でもそんなのわかりきっていたし、高望みをするつもりはない。海は最近流行りの女性アイドルに夢中で、千紗は少年漫画オタク、わたしは自分でも少しひねくれてると思うけど、洋書とか洋画とか海外の作品を追いかけるのが好きだった。英語がずば抜けて得意なのもその影響。

だから受験勉強のために図書室に通っているというのも当たっていたのだけれど、うちの高校の図書館司書が洋書好きで、リクエストせずとも読みたい本がどんどん追加されていくというのも、理由だった。



教室の外はどこかひやりとしていて、やっと夏の終わりを感じさせた。

去年よりも少しおとなしい廊下を歩きながらわたしたちは話を続ける。


「ねぇねぇ!昨日のエムオンみた!?もうほんとみんな可愛かった〜」

「海はほんとアイドル好きだよね」


いつも通りの日常が、そこにあった。

他愛ない会話をして、ふざけあって、時には自分のことを話して、時には相談を聞いて、そうして日々が作られていく。

平和な青春が、目の前で瞬いていた。


「うん、ああやってキラキラしてステージに立ってる人見るとほんと励まされるよ〜千紗も見ようよ、エムオン! 」

「うーん、でもなぁ、あの番組アイドルしかでないでしょ?うちの家族みんなああいうの苦手だからお茶の間がどうなるか……」


それなのに、


「海はさぁ、」


わたしはなぜか気がつくと、口走っていた。


「自分もアイドルになりたいなー、とか、思わないの?」


「え?」


「自分もそっち側に行きたいなとか、そう考えたことないの?」

「うーん……」


わたしたちは足を止め、少しの沈黙が流れるのを聞く。しつけられた子供のように、ただじっと言葉を待った。

そして、やっぱり予想通りの答え。


「ないなぁ、一回も思ったことないや。わたしブスだしさぁ、絶対無理だって〜」

「別に海そんなことないじゃん、ワンチャンあるかもよ?」

「ないよぉ、千紗の方がスタイル良いし」

「そんなことないって〜」


わかっていた。


こんなもんだって、最初から期待なんかしていなかったけど。

しまいこんでいた、大事な大事な胸の奥の方がズキリと悲鳴をあげたのがわかった。


だから、


「ごめん、わたし図書館……」


わたしは逃げた。


「あ、そっか、じゃあここでお別れだね」

「ファイトー文香!ばいばい! 」


わかっていたから、わたしは二人と別れて足早に図書館へ逃げた。

また、逃げた。



そっと振り返って見た二人の背中は、どこか楽しそうで、大人びていて、無性にやるせなくなって、わたしはすぐに前を向きなおした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ