最終話 真実⑩
上木原町には雪が降っていた。
ゆらりゆらりと空から落ちて、地面に触れると、水となって溜まっていく。
その水たまりに僕の胴体が叩きつけられた。
二回ほどバウンドした体を右手一本で地面を押し、その反作用で体を高く浮かして、態勢を立て直す。
そして、すぐに地面を蹴り、反撃に向かう。
お姉ちゃんの胴に向かって、拳を放つがどうにも当たらない。
だいたいは避けられるし、捉えたと思っても手ではじかれてしまう。
彼女も負けじと、カウンターを繰り出す。
「くそッ!」
僕の目でも捉えるのがやっとの速さで繰り出される拳は、僕の体をかすっては服の表面を破っていった。
「ねえお姉ちゃん? お姉ちゃんは僕と初めて会ったときのこと覚えてる?」
お姉ちゃんは僕の連撃をギリギリで避ける。
「初めてっていつ? 記憶をなくす前? それとも後? 残念ながら前者のことなら知らないわ!」
お姉ちゃんは大きく回し蹴りをした。
その細い脚がしゃがんだ僕の頭上を通過する。
足を着地させ、一瞬、僕に背後を向けた隙に僕は彼女の脇から腕を通し固める。
「後者の方だよ。僕と孤児院で出会ったときのこと」
「ついさっきの出来事のように鮮明に覚えているわ。
こんなに可愛らしいお坊ちゃんに出会ったんだもの」
「褒めてくれてありがとう。ところでそこで言っていたことも覚えてる?」
「どれかしら?」
「僕のことを『好きな人』に似てるって言ったことだよ。その好きな人って誰のこと?」
「さあ、誰でしょう……ねッ!」
お姉ちゃんの後頭部が僕の鼻にぶつかる。
痛みでつい手を離してしまい、鼻を押さえる。
殺気を感じて目を開くと、彼女の手刀が繰り出されるのが見えた。
僕はその手を掴み、顔面すれすれのところで止めた。
「きっとはぐらかされると思ったよ。本当に昔から変わらないんだから……!」
やはり力が強い……。
僕が必死に掴んでいるのに、少しずつお姉ちゃんの手刀が僕に近づいてくる……!
「ねぇ、ちーちゃん? いいこと思いついたのだけれど聞いてもらえる?」
「聞かないと言っても、言うでしょ!?」
「私たちで、一から世界を作らない? ちーちゃんがアダムで私がイヴ。
人間を超えた生命体が暮らす理想郷を作るの」
僕は掴んでいた手刀を払う。
「くだらない理想だね!」
そして、空いた胴体に足の裏で蹴とばす。
「どうして? どうしてそう思うの? 私のこと好きなんでしょ?」
お姉ちゃんがお腹を押さえる。
たしかにお姉ちゃんのことは大好きだ。でも……。
「でも、僕にはもっと優先すべきことができたんだよ……!」
僕は地面を踏み出し、お姉ちゃんに追撃する。
さあ、さっきまでの反撃と行こうか……!




