表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/56

最終話 真実⑨

 案内されたのは院長室で、お姉ちゃんと僕は同じソファに座り、院長は机をはさんで向かいのソファに座った。


 親切にお茶を出してくださり、僕はそれで乾いた喉を潤す。


 僕は「コホン」と咳払いし、喉の調子を整える。


 それから十分程度で、お姉ちゃんについての説明をした。もちろん上手に嘘を織り交ぜて。


「なるほど、記憶喪失ですか……。それで今、あなたはどこで何を……?」


「この町にある学校に通学しています。身元を引き取ってくれる人が現れて、その人の援助もありこの町で一人暮らしをしています」


 お姉ちゃんは手元の茶碗の中を覗きながら、答える。


「身元保証人が見つかったのは良かったですね……。それにしてもよく弟さんに気づきましたね」


 たしかにそこは僕も疑問だった。お姉ちゃんが(言葉が適切かどうか分からないが)生き返ってから、僕が出会ったのは一度だけだ。それも特に印象に残るような出会いでもない。


 なのになんでお姉ちゃんは僕のことを……。


 お姉ちゃんは恥ずかしそうに唇を動かす。


「ええ、どこか私の好きな人に似ていたもので……」


 好きな人? その言葉が僕の耳の中で反響する。


 それは僕のことなのか? しかし、お姉ちゃんは一度死んで、その生前の記憶はないはず。


 つまり、お姉ちゃんの言う「好きな人」というのは……。


 僕は膝の上の拳を強く握りしめた。


「それで千明くんはどうするの? 離れ離れだった親族とこうして再会したわけだけど」


 急な質問に僕は我に返った。


「『どうする』というのは?」


「この孤児院の方針としては、一時的に子ども預からせてもらうけれども、身元を引き受ける人が現れたら、そこで新しい生活をして欲しいし、そういう人が現れなくても大人になったら巣立って欲しいの。


 今回みたいに親族と出会えるなんて、本当に珍しいわ。


 もし千明くんと彼女、めありさんに事情がなければ一緒に暮らした方がいいと思うの」


 僕はお姉ちゃんの顔を見た。お姉ちゃんは僕と目が合うとニコリと笑った。


 不意にお姉ちゃんとの記憶が走馬灯のように僕の心を駆け巡る。


 僕の想いなど決まっている。


「僕はお姉ちゃんと一緒に暮らしたい。いいかな?」


 たしかに僕の想いは決まっている。しかし、お姉ちゃんが同意するとは限らない。


 記憶喪失になった彼女に僕との記憶などない。


 僕が血縁者を名乗ったところで、嘘をついてると疑われるかもしれない。(現に、血縁者というのは、嘘だ)


 お姉ちゃんが同意してくれるように願いながら僕は彼女の顔を見つめた。


 彼女は少しの時間考えてから、結論を出した。


「もちろんです。たった二人の家族ですもの」


 僕を見つめるお姉ちゃんの顔には、あの余裕のある笑みが現れていた。


 その数日後に手続きを済ませ、僕はお姉ちゃんの家に住むこととなった。


 孤児院の職員や子どもたちに見送られながら、僕とお姉ちゃんは新居を目指す。


「ねぇ?」


 お姉ちゃんが僕に話しかける。


「どうしてあんな嘘ついたのですか?」


 心臓が止まるような錯覚が僕を襲った。


「嘘って?」


 僕は恐る恐る聞き返す。


 お姉ちゃんは気まずそうに口を開いた。


「私とあなたが姉弟なんて……。私は人造人間なのに……」


 なるほど、これは僕の誤算だった。


 自分という存在は忘れていなかったのか……。


「自分が人造人間なのは覚えてるんだ」


「千明くんも自分が人間であることは忘れないでしょ? それと同じです」


「……そうだね」


 僕は口裏を合わせた。


 自分がお姉ちゃんと同じ人造人間の一種であることを述べることに僕は抵抗を覚えたからだ。


 僕は自分が人間であることを忘れたいのだけれどね。


 お姉ちゃんに聞こえないように僕は心の中で呟いた。


「でも、私は本当にあなたと姉弟だった気がする……。または同じ家庭に暮らしてた気がする」


 気のせいだよ、お姉ちゃん。


 それを言うことも僕にはできなかった。


「本当は後者だよ。僕とお姉ちゃんは義理の姉弟なんだ」


 だって、お姉ちゃんと一緒にいたいという欲が僕を蝕んでいるのだから。


「そういうことだったのね」


 ごめんね。嘘ついて。


 たとえお姉ちゃんに僕との思い出が残ってなくても……。


 僕のこと好きじゃなくても……。


 嘘をついてでも……。


 僕はお姉ちゃんと一緒にいたいんだ。


「だから、僕はお姉ちゃんのこと家族だと思ってるし、一緒に住みたいと思うのは当然でしょ?」


「そうか……。じゃあ、千明くんよろしくね」


 そう微笑むお姉ちゃんから、僕は顔を向けることができなかった。


 それはずっと感じていたある違和感のせいであった。


「どうしたの?」


「お姉ちゃんが敬語で話しかけるのはおかしいと思うんだ。昔みたいにタメ口で話してほしい。


 それに、僕のこと、千明くんって呼ぶことは止めてくれる?」


「え? じゃあ、なんて呼べば……?」


 僕はお姉ちゃんの困った顔を見つめて、ニッコリと笑った。


「『ちーちゃん』って呼んで」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ