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第一話 怪物④

 日が沈みかけた頃に、部屋の電気をつけて、私は台所の前に立った。


 作るのはカレーライス。給食において圧倒的な人気を誇るメニューである。


 その人気は、小学生でカレーが嫌いという人を見つける方が難しいほどである。


 ちーちゃんもその例外ではなくカレーが大の好物なのだ。


 その香りにつられたのか、ちーちゃんが部屋から台所にやって来た。


「ねぇ? 今日もお仕事(、、、)?」


「そうだけど、なんで分かったの?」


 想定外の質問に驚いたが、冷静に返す。それより、なぜそれに気づいたのかに興味があったのだ。


「だって、カレーが出るとき、お姉ちゃんはいつもお仕事だもん」


 たしかに、私はちーちゃんと一緒にカレーを食べたのは何年前であろうか……?


 ふと思い出せないくらい昔ということは分かる。


 それにしてもなぜ私はお仕事(、、、)の日に、毎回カレーを出しているのだろうか?


 たぶん、それは、好きな食べ物を食べさせることで、一緒に食べることができないというマイナス点をゼロにしたかったのかもしれない。


 つまり、誤魔化したのだ。


 どこかで辻褄(つじつま)を合わせようとした、それも無意識に。


 それにしても、子どもの観察眼を舐めていた。無意識だから隠すつもりもなかっただろうが、こうも規則性に気づくとは。


 子どもはちゃんと大人の姿を見ているものだな。私は素直に感心した。


「ごめんね。


 一緒に、食べたかったけど、食べられないから、せめてちーちゃんの好きなものを食べさせてあげたいと思ったの。


 ごめんね」


 私は正直に言った。ちーちゃんの前では、嘘をつきたくなかったのだ。


 それに、無意識とはいえ誤魔化そうとした行為に後ろめたい気持ちがあった。


 それを聞いてちーちゃんは「いいよ。生活のためだもん」と言って、部屋に戻った。


 本当に良い子だ。これぐらい理解力があると、保護者として助かる。


 私は料理に戻り、完成したものをちーちゃんに与えた。


 彼は年相応の明るい顔で、目を光らせながら、スプーンを持った。


 ひとさじすくって、口に運ぶと、空腹も重なってか、カレーをより美味しそうに味わっていた。


「おいしい! 本当においしいよ!」


 その言葉を、ちーちゃんから言われると、何よりも嬉しかった。


 それに安心した私は、すぐに支度を始めた。


 まだ肌寒い季節だから、薄いコートを羽織り、マフラーを着けた。


 支度が終わったら、ちーちゃんに「いってきます」と言葉を残して、部屋を出た。


 後ろから聞こえる「いってらっしゃい」に押され、私は寒さ漂う外に出た。


▷▷▷▷


 ちーちゃんがカレーを食べ終え、台所でお皿を洗っていると、「ピンポン」とインターホンが鳴った。


 もしかしたら、お姉ちゃんが忘れ物をしたのかもしれない。少年はそんな妄想をしたが、結局、それは妄想であった。


 少年が台所を離れ、壁についているTV付きドアホンを見ると、外には、めありと同じ制服を着た女子高生の姿があった。


 ショートヘアとメガネが印象強く、まさに「優等」を擬人化したような人がそこに立っていた。


 よく考えたら、記憶力がいいめありが、忘れ物をした姿など、少年は見たことがなかった。


 ちーちゃんは、めありから、知らない人が来ても出てはダメと言われていた。しかし、その姿が安全信号を発しているように感じて、ちーちゃんは玄関に行き、ドアを開けた。


「こんばんは。夜遅くにすみません。私は……」


「委員長さん?」


 自己紹介もしていないのにも関わらず、少年が自分の役職兼あだ名を言い当てたことに、彼女は動揺した。


 否、動揺というよりむしろ自分を認識してくれたことに喜んだ。


「はい! そうです! よく分かりましたね?」


「お姉ちゃんがよく話しているからだよ。『低俗な輩にしては、マシな人材』ってね」


 委員長は、「めありさんらしいね」と笑い声を漏らした。彼女は軽く握った拳を口元に当てる。


「めありさんは今いらっしゃいますか?」


「お姉ちゃんは、さっき、お仕事(、、、)に行っちゃたんだ」


「そっかぁ……。いないのかぁ」


 委員長は、あからさまにがっかりした表情を見せて、肩を深く落とした。お姉ちゃんに直接用事があったのではないか、そう勘くぐったちーちゃんは、「お姉ちゃんに電話する?」と気を利かせた。

 

 返事より早く、ちーちゃんが家の固定電話に向かおうとすると……。


「いいよ、大丈夫! 仕事中に迷惑だよ!」


 と、委員長は慌てて静止させた。


「今日は残念だけど、また今度ということで」


 そう言ってから、彼女はきびすを返しその場から離れようとした。しかし、背後から声変わりのしてないアルトで「待って」と聞こえ、立ち止まった。


「お姉ちゃんは少ししたら帰ってくるから僕のうちで待ってようよ。僕も一人で寂しいから、遊び相手が欲しかったんだ」


 それを聞いたら、彼女の口元が緩んだ。


 委員長は迷うことなく「分かったわ。一緒に遊びましょ」と少年の提案に賛同した。


 少年の顔はパッと明るくなり、彼女の手を引いて、家の中に連れて行った。







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