最終話 真実⑤
「誰だッ!?」
つい声を漏らしてしまい、父親にバレてしまった。
僕は逃げることも隠れることもなく扉を開け、彼の前に姿を現す。
「千明か……。ここは立ち入り禁止のはずだぞ?」
諭すように正論を言う父親。これに関しては反論の仕様がない。
「すみません……。声が聞こえて、実験が成功してしまったと思い、つい気になってしまって……」
ここは謝るのが正しいだろう。「ここ」は……。
「そういうことか、なら見て行け! 世紀の大発明だぞ!」
そう言って父親は、彼女の後頭部を持ち、僕に彼女の顔を見せる。
間違いない。お姉ちゃんだ。寝顔でも分かる。
「わたしが作った人造人間だ! 圧倒的な頭脳と圧倒的な体力を身につけた完全なる人間、いや、人間以上かもしれない!」
「人造人間……、『フランケンシュタイン』の?」
数多くある人造人間が出てくる作品の中で、僕がすぐに思い浮かんだのはそれだった。
なぜなら、その本が他よりも妙に使い古されていたのが僕の中で印象深かったからだ。
「そうだ! よく分かったな!」
父親は機嫌よく高らかに笑う。
「わたしの尊敬するフランケンシュタイン博士が作り出した人造人間。それを作ることにこの人生を捧げてきた。そして、実現した。あの人造人間の欠点である容姿も美しくしてな……! 彼女にはその作品の著者の名前から借りて、『めあり』と名付けた。なあ? めあり?」
「そうなんだ……。ということは、この人造人間は死体から作ったってこと?」
「そうだ。臓器売買で手に入れたものもあるが、だいたいは死体を提供してもらって作った」
臓器売買とか死体提供とか、違法的なことはどうでもいい。
この人造人間は死体からできているということは……お姉ちゃんは死んでいたってことだ……。
「ねえ、お父さん……。その外見の部分はどこで手に入れたの?」
「これか? これはお前のお母さんが見事に見つけてくれてな……」
「それはいつの話……?」
「しっかり覚えていないが……たしか夏だったと記憶してる」
「その顔に見覚えない?」
「彼女の顔か? 全く?」
「そう……」
そうか、お手伝いの顔も覚えられないのか……。
「クソがッ!」
僕は、もう我慢ならなくなって、壁を殴った。すると、壁は脆く崩れ穴が開き地上への階段が見えた。
自分の怪力に自分で驚いてしまった。拳に痛みはなく、その感触は箸で豆腐を切ったときと同じだった。
「やはりプロトタイプとはいえ、中々の完成度だ」
「プロトタイプ……? 何の話?」
「昔、わたしは人造人間ではなく、実際に人間を超えた存在を人間から生み出そうと考えていたんだ。
そして、被験者として、自分の妻を選んだ。私と彼女の間でできた受精卵に人工的に手を加えたんだ……。
それで生まれたのがお前だよ、千明……」
……嘘だ。嘘だ、嘘だ、嘘だ!
周りに人があまりいなかったから、自分がどれだけ人間離れしているか分からなかった。
お姉ちゃんに指摘されても、彼女が言ってるほど差はないと思っていた。
お姉ちゃんがまた僕をからかうために大袈裟に言ってるものだと思い込んでいた。
そうか……僕は人間じゃなかったのか……。
そうか……僕は……化け物だったのか……。
もう自分の存在自体が腹立たしく感じてきた。
父親や母親だけでなく、彼らの関係するもの、彼らが生んだ僕自身すら憎いと思ってしまう。
僕は拳を強く握った。この怒りを目の前にいる元凶にぶつけたい。もう堪忍袋の緒が切れた。
拳を高く上げ、飛び跳ねて小さい体を浮かし、目の前の男性めがけて、放つ。
引きこもりの研究者では、この化け物の拳なんて見えるわけない。
そのままぶっ飛ばされて、彼は大けがを負うかもしれない。だが、それがどうした? 僕は怪物だ。もうそんな人間らしい躊躇なんて考える必要もない。
怒りに任せて放った拳が父親の顔面に近づいていく。愛でるように彼女を眺める顔。それがあと一秒もしないでぐちゃぐちゃに崩壊する。誰でもない僕の手で……。
だが、そうはならなかった。僕の拳は父親の顔面まで届かなかったのだ。
僕の腕は父親の顔面のすぐ近くで掴まれてしまったのだ。
その手は男性のゴツゴツとしたものではなく、女性の細く綺麗な手だった。
その手は僕の腕を払い、僕の身体ごと壁に吹き飛ばした。
父親はそれで僕が殴ろうとしていたことに気づき、腰を抜かす。
地面に背中から叩きつけられた僕は地面にうつ伏せで倒れこむ。
目を開けると、裸足がすぐそこにあり見上げると全裸の女性が僕を見下ろしていた。
「あなた、私のご主人様に何をなさるのですか?」
彼女は僕を見下ろしてきた。いや、見下したと言ったほうが正しいだろう。
僕を見る彼女の表情は、余裕のある妖艶の笑みではなく、卑下と軽蔑、そして鬱憤を含んだ「無」であった。
「ねえ、なんでそんな顔するの? なんでいつものように笑ってくれないの? なんで僕じゃなくてそんなやつの味方をするの?」
「あなたの言う『いつも』が私には分かりません。私はたった今生まれたばかりのアンドロイドです。
それに私を作ってくださったご主人様の味方をするのは当然であり、逆になぜあなたのような初対面の人の味方をしなければならないのですか?」
初対面? 何を言ってるの? 僕たちはずっと…………。
そうか……。そうなんだね……。
本当にお姉ちゃんは死んでしまったんだね……。




