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第四話 虚言⑥

「うっ、うっ……」


「あー、脅えさせてごめんごめん。


 別に怪しい者じゃないから気にしないでね~」


 そう笑顔を振りまくものの未だに彼女の顔は引きつったままだ。


 なんでだろう? オレは怪しくないのに?


「ここ暗いから明かりつけるよ」


 オレは扉のあたりにある部屋の明かりをつける。


 暗くて分からなかったが、この部屋は驚くほど散らかっていた。


 服や本で散らかっているのなら、オレの部屋と同じだから、大して反応してないだろう。


 しかし、この部屋に服や本はなかった。


 あるのは様々な機械だった。


「へー、この部屋にあるものって君が作ったの~?」


 オレは興味津々に機械を凝視する。


 どんなものがあるか知りたいという好奇心が働き、そこに近付こうとすると……。 


「み、見ないでッ!」


 少女がオレの動きを静止する。具体的に言うと、オレの腰に顔を埋めながら抱き着いている状態だ。


 か弱い女の子の力で精一杯とオレを抱きしめる。


 自分の行動を止められることは嫌いだが、この子の必死さに免じて歩くのを止めた。


 それにしてもなんでこんなに必死になっているのだろう?


「どうしたの? そんなにオレに見られたくないの……?」


 オレの質問にまた沈黙して首を縦に動かした。


 その子の顔を覗くと涙で眼鏡が曇っていた。


「わ、私の作るやつは……み、皆バカにするから……。


 だ、誰にも……み、見られたくない……」


 なるほど。自分に自信がないのね。


 クリエイターというのは皆の批判を受け入れる強いメンタルも求められるから大変だよね~。


 オレはメンタルが強いから気持ち分からないけど。


「大丈夫、大丈夫。オレは人のことバカにしないから」


「ほ、本当……?」


「本当、本当。だって、オレがバカなんだもん」


 オレの理屈に彼女は首を傾げた。でも、オレの言葉を信頼してくれたようで、オレの腰に巻いた腕を解く。


 オレの顔を覗く目は、涙が溜まっていて、その柔らかそうな頬に垂れようとしていた。


 その涙を自分の人差し指でぬぐう。


  「そんなに恥ずかしがることないよ。自分の作品には自信を持たないと、その作品が可哀相だからね~」


 オレがそう言うと女の子はニッコリと笑みを浮かべた。


「そ、そうですよね……。お、お母さんである私が……し、しっかりしないとダメですよね……!」


「そうそう」


 どうやら彼女に自信がついたようだ。オレはその姿を見て気分が上がる。


「じゃあ、聞いていい? これは……」


 オレが質問すると、彼女は、まだおどおどとしながらも答えてくれた。


 彼女の作る道具は主に人のコンプレックスを治すのを目的にしているらしい。


 目や鼻といった細かい部分でも顔や体型といった大きな部分でも治す、ホログラフィー技術を使った道具が多くあり、それ以外にも声にコンプレックスを持つ人のために声帯を操る道具があった。


 彼女に、なぜコンプレックスを治す道具を作るのか尋ねてみると「人を喜ばせたいから」と彼女は答えた。


「こ、この世の中には様々なコンプレックスを持った人がいて……そ、それによって彼ら彼女らは苦しめられているんです……。



 だ、だから……そ、そのコンプレックスを治せば……そ、その人たちも楽しい毎日を暮らせるんじゃないかと思いまして……」


 いいこと考えるなぁ。おじさん、感心しちゃったよ~。


 この子のように人間という利己的な生き物として生まれながら、利他的な行動をする子は好きだね。


 まあ、それは結局、他人をつけることで満足感を感じたいためという利己的な欲求に帰結するんだけれど。


「で、作ったものはどうしてるの?


 それを作ったところで、そのコンプレックスを持った人間に渡さないと、作った意味がないでしょ?」


「そ、それは……ネ、ネットを使って……」


 あー、そこであのサイトが出てくるのか。


 あのサイトで売られているのは彼女が作っていたのか……。


 つまり、最近の一連の事件の犯人は彼女?


 違うな。彼女にそういった意図はない。


 それにこれらの道具はきっかけになっただけで、事件を直接的に引き起こしたわけじゃない。


 おいしい料理を作ってもらうために切れ味の鋭い包丁を作った職人がいたとして、その包丁が殺人に使われたらその職人が悪いのか?


 いや、その職人に罪があるわけがない。


 でも、この一連の事件は全てこれらの道具がきっかけになっているし、ちーちゃんもこのサイトを作った人物は、怪異を引き起こすことを意図してサイトを運営していると考えている。


 でも、彼女は善意でこれらの道具を作っているわけで……。


 そうだ。しばらく考えて自分の考えの前提条件が間違っていることに気づいた。


 彼女は、自分が道具を作ってサイトに投稿していると言った。しかし、サイトを運営してる(・・・・・・・・・)とは一言も言っていない。


「そういえばそのサイトの運営は君がしているの?」


「い、いや……ち、違います……」


 ビンゴ! オレの予想が当たっていた。そのサイトを運営しているやつがこの子を利用しているというわけか。


「じゃあ、君はそのサイトを運営した人を知ってる?」


「は、はい……し、知ってます……」


「その人は誰?」


「そ、それは……」


「言う必要はない」


 低い男の声が背後から聞こえる。それと同時に後頭部に何か固いものが当たる。


 金属っぽいな。穴があるっぽいな。つまり、これって……銃だな。


「え!? じ、銃ッ!?」


 女の子の小さな悲鳴が聞こえた。


 状況が理解できないのか彼女の動きが固まった。


 ビンゴ……。二問連続正解だ。


 その賞品が天国への切符ってことか? サブすぎるネタだな、おい……。


「早川くん……そういうことを簡単に言ってはいけないんだよ? 何のためにこの学校に入学させて授業を受けさせていないか分からなくなるじゃないか……?」


 この子は早川と言うのか……。そういえば名前を聞いていなかったと今頃気づく。


「ねぇ、それってどういうこと~?」


「簡単な話だ。この学校の職員は評判のために早川を欲した。だから、彼女をこの教室に隔離すること、この教室に彼女とぼく以外の立ち入りを禁止すること、そしてぼくにこの教室を監視する権利を持たせることを条件に、彼女を入学させたんだ。


 ぼくの計画を実施するためにね……」


「へ~。で、そのお前の計画って何なの~?」


「お前に言うつもりはない」


「どうせ死ぬ身なんだから、冥土の土産ぐらいくれよ~」


「それもそうだな……」


 沈黙と緊張が支配する空間で冷静に彼は語り始めた。


 ここまでの経緯を、そして、彼の物語を……。






 


 











 


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