第四話 虚言⑤
「失礼します」
「はーい……。なんだまた君か、頼光君……」
ちーちゃんが保健室に入ると、雪宮先生はため息をついた。
「ため息なんてつかないでくださいよ。
僕は、今まで先生の話し合いだったれいか先輩がいなくなったから、その代理として来たんですよ?」
「あの子の代理なんてそう簡単に見つからないわ。
それにあの子は本物のれいかちゃんじゃないでしょ?」
「流石は雪宮先生。何でも知ってる」
「だからこそ君に疑われているんだけどね……」
雪宮はいつも来客にしているようにコーヒーを入れた。
ちーちゃんはそのコーヒーの入った可愛らしい雪だるまが描かれたマグカップを受け取る。
遠慮せずちーちゃんはそのマグカップに口をつける。
「うーん、上手いですね。雪宮先生の入れるコーヒーは」
「君の好みに合わせているからね」
「僕のことも知ってるってことですか……」
ちーちゃんはもう一口コーヒーを飲む。
その間に間接視野で雪宮の行動を捉えるが特に異様な動きはなかった。
人間というのは口より体が正直な生き物で、嘘をついていたり、メンタルが弱まっていたりすると、それが体の動きですぐ分かるものだ。
しかし、彼女にはそれがない。まるでロボットのように何を考えているのか分からないのだ。
だからこそ、ちーちゃんは彼女のことを疑っている。
「言っておくけど、私はこのサイトの事件の犯人ではないわ」
いきなりの先制攻撃にちーちゃんは動揺しなかった。
その言葉が嘘であるかどうかは分からないが、ちーちゃんはその言葉が本当であるように思えた。
それは論理的思考による結論ではなく、直感であった。
「でも、あなたはこの事件の真相を知っている……。主犯も知っている……。
そうですよね?」
「私を買い被ってくれてありがたいと思うけど、私はそこまでのことは知らないわ……」
ちーちゃんはコーヒーに口をつける。
そして。飲み干した。
「じゃあ、僕はここで帰ります」
ちーちゃんは椅子から立ち、保健室を出た。
結局、雪宮に保健室での男子学生衰弱事件を聞き出すことはできなかった。
彼女からは何も聞き出せないと思ったからだ。
今回の敵は手強い、今までちーちゃんが会った人の中で最強と言っていい。
そのちーちゃんは思った。人より数倍も頭脳のある人間がいるのかと……。
ちーちゃんが顔を上げると、髪の長い男が女の子を一人抱えて走っていた。
その男の目は血走っていた。その目にちーちゃんは狂気を感じざるをえなかった。
すると「待てッ!」とこの学校にいるはずのない知り合いの声が聞こえた。
その男の後を半袖短パンの見覚えのある青年が追っていたのだ。
「上木原さんは何してるんだ?」
だが、なんとなく察しはついた。
どうやら何か事件が起きたらしい。
これは追うべきだろうとちーちゃんはそう判断した。
恩人が追いかけていることもそう思った原因だが、ちーちゃんにはもう一つ気になったことがあった……。
「あの子、見たことあるな……」
何故、上木原が男を追っているのか?
そのきっかけが起こったのは一時間ほど前のことだった……。
▷▷▷▷
どうも、とりあえず学校の侵入に成功したオレである。
廊下を適当に歩いていると、先生が黒板に書いている文字を何十人もの子どもがノートに映していた。
こんなことが教育になるのかと思ったが、地頭の悪いオレが口をはさむことではないと考え直した。
人のたくさんいるところにはあの女子高生の姿が見当たらなかった。
どこに隠れているのだろう?
扉に空いた窓から中を覗くが、どの部屋にも彼女らしき人物はいない。
学校を探索していると、ある不気味な教室があった。
ご丁寧に「立ち入り禁止」と書いてある。
どれどれ~? ふむふむ。紙には片付けられていない薬品が多くあり危険であると書いてある。
部屋の上には「化学準備室」と書いてある。
ここにいるのかな? オレの勘がそう感じた。
オレはドアノブを捻り、扉を開ける。
中からは異臭がしていた。紙に書いてあった、片づけられていない薬品の臭いなのかな?
部屋はカーテンで外からの明かりを完全に遮断されていた。
だが、部屋は地面からの光で薄く照らされていて、視界に困ることはなかった。
待って? なんで地面から光が発せられてるの?
オレはその光のある地面の方を向く。
すると、そこにはパソコンがあった。
聞いたことはあるが本物は初めて見た。
ちーちゃんやさとし君は腕時計型端末を使ってるしね。
そのパソコンの前に正座している女の子がいた。あの女の子だ。
パソコンの画面に集中しているからか、彼女はオレが部屋に入ったことに気づいていなかった。
一体、何を見ているのだろう?
さとし君やエリちゃんは携帯型端末で無料動画サイトばかり見ているから、オレは彼女もそういったところに投稿されるおもしろ動画を鑑賞しているのかと思い込んでしまった。
だが、結論から言うとそれは間違っていた。
「何見てるの~?」
オレが陽気にパソコンの画面を覗く。
彼女はオレの存在に気づき、「あっ、あっ……」と声を震わせていた。
この子はオレに脅えすぎじゃないか?
彼女の反応を無視してそのサイトの内容をなめるように見る。
そのパソコンの画面にはこう書いてあった。
「あなたのコンプレックスをすべて治します」
あー、なるほど……。
これが噂のサイトか。




