第四話 虚言④
翌日。
ヤクザの頭領だが、特に仕事のないオレは朝早くから、散歩をしていた。
いやー、早起きは三文の徳とはよく言ったものだ。
日差しが温め始めたの空気はまだ冷たいが、冬のにおいは香ばしいから好きだ。
オレは気温を感じるのに鈍くて、年中半袖半ズボンを着ている。
もちろん今も着てるよ。
登校中の学生たちが異様な目で見てくるが無視無視!
人のセンスにいちゃもんつけることこそ、一番のナンセンスだ。
センスなんて人それぞれなんだから、他人の目なんて気にしちゃいけない。
折角の気持ちいい散歩を楽しまなきゃね~。
「あのー、上木原さん……。あんた何してるんですか?」
オレの左隣で歩くさとし君が問いかける。
オレの右隣のエリちゃんは顔を紅潮させて、俯いている。
「何って、散歩だけど?」
「なんでわざわざその散歩の時間を俺たちの登校時間にぶつけてくるんですか!? しかも方向一緒だし!!」
「学生気分を味わいたかったんだも~ん」
「あんたはもう学生じゃないんですよ……」
「その言葉に『もう』はいらないかな~」
オレの言葉にさとし君は首をかしげて、それ以上言及してこなかった。
「……もう恥ずかしい」
「どうしたの? エリちゃん?」
オレが質問しても「いい大人なんだから察してくださいよ……」と直接的な答えが返ってこなかった。
こんな雲一つない天気の日にこの二人は疲れたような顔をしているのだろう?
暗い表情の二人を引き連れて歩いていると、校門に見覚えのある女子高生が目に入った。
あれは昨日の交番にいた娘だよな?
どうやら今日は彼女一人ではないらしい。
隣にはスーツ姿の男性が立っていたのだ。
誰だろう?
「ねぇ、あの子知ってる?」
オレが彼女に指を指すと二人は「あー」と声を漏らした。
どうやら知っているようだ。
「あの子は特別推薦で入った子ですよ。理系分野において学があるらしくて、学校に多額の奨学金をもらってるらしいですよ。俺たちと同じクラスですけど、授業には参加しないんであまり関わったことありませんけどね……」
「じゃあ、隣の男の人は?」
「俺は知らないですね……」
「あれは彼女のお父さんですよ。あの手入れしてない長い髪が印象的なんであたし忘れられないんですよね……」
エリちゃんは両手で自分の身体を巻いた。
見ると鳥肌が立っていて、本当にあの男の人を嫌悪しているようだった。
そうか、お父さんか。全然親子で似てないな……。
じゃあ、お父さんなら昨日のことを謝っておいた方がいいな。
「ちょっと、上木原さん!」
さとし君の静止を無視して、オレは彼らのもとへ早歩きで近寄る。
オレに気づいた彼らは、オレの方に向く。
「どうも上木原組の頭領の上木原と言います。昨日はオレのところのチンピラが迷惑をかけて申し訳ありません!」
そうオレが頭を下げると彼女の方は「だ、……大丈夫です……」と小さく口にした。
一方、その父親の方は……。
「あ、そう」
その一言だけだった。
顔色は白く、無表情のままだった。
自分の娘がスリにあったんだから、もっと怒ってもいいと思うんだけどな~。
これが現代人かと思いながら、オレは特に気にしなかった。
「じゃあ、学校行ってこい」
父親の言葉にコクンと頷き、彼女は校庭を走り、昇降口に向かった。
なんとなくオレもその子の後を追い校門を通りぬけようとしたら……。
「何やってんですかッ!?」
「そうよ!? もういい加減にしてくれないッ!?」
オレはさとし君とエリちゃんにそれぞれ両腕を掴まれて止められた。
エリちゃんが敬語を使ってないということは怒っているということか。
ちーちゃんやさとし君にそう教えてもらったから察しがついた。
オレも学習するのだ。
二人はオレを引きずりながら、路地裏に連れ込んだ。
「あのですね……。学校に関係ない人が入るのは不法侵入ですよ!」
「どういうこと?」
「この学校に入れないということよッ! それくらい理解しなさいッ!」
二人とも鬼のような表情をしていて本当に怖いな~。
そうか、どうやらオレはこの中に入ってはいけないのか。
長年、生きてて初めて知った。
「とりあえず、家に帰っててください……。俺もエリもこれ以上怒りたくないんで……」
さとし君の言葉に「分かった」と言ってみた。
それを聞くと彼らは、オレを路地裏に置き去りにして、学校の中へ入っていった。
オレは彼らの後ろ姿が消えていくのを見届けた後立ち上がってホコリを払った。
一応言うが、オレは家に帰る気はさらさらない。
あの女子高生と父親のことを気になってしまった。もう少し彼らについて知りたい。
オレは学校に入ってはいけない?
そんなの誰が決めた?
上木原町でオレが入ってはいけないところなどないのだ。
こうしてオレは学校に不法侵入を試みるのであった。




